S/N感抜群のLP、音像輪郭の生々しいSACDとCD。素直で丁寧な世界観に彩られた時代を飾った名アルバムを満喫

 『愛人』のオリジナル発売はCDの加速度的な立ち上がりに沸いていた1985年。しかし発売当時のメディアはLPとカセットテープのみで、CDは生産されていない。当時のテレサ・テンの人気からすれば意外に思う。とは言うものの、僕はテレサ・テンのLPやCDは一枚も買っていない……。

Stereo Sound REFERENCE RECORD
LP 33 1/3回転&SACD+CD 2枚組シングルレイヤー『愛人/テレサ・テン』

(ユニバーサル ミュージック/ステレオサウンド)
LP SSAR-080 ¥8,800 税込
(ユニバーサル ミュージック/ステレオサウンド)
SACD+CD SSMS-062〜063 ¥4,950 税込

DISC 1
[SIDE A]
1.愛人
2.雨に濡れて
3.ノスタルジア
4.驛舎(ステーション)
5.I LOVE YOU
[SIDE B]
1.乱されて
2.ミッドナイト・レクイエム
3.愛は砂のように
4.夕凪
5.今でも……
※SACD+CD盤は全10曲、同曲収録

●マスタリング/カッティングエンジニア:武沢茂(日本コロムビア株式会社)
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 ところが、今回の『愛人』を聴いてみると、妙にしっくりとくる。なぜだろうか……と考えれば、とりわけ「愛人」は時代を飾った大ヒット曲で、脳の奥にしっかり刻まれていたからに違いない。そして決定打は、丁寧な一語一語の発声である。そこが、まさに聴きどころであろう。この本作、何とSACDとCDの2枚組セットに、別途LPもリリースという豪華体制である。まずはLPに針を乗せた。

 すると、“歌”は独特な説得力を放つ。慌てて普段用のMM型カートリッジを勝負用のMC型に変更し聴き直すと、静かなる説得力が鮮明化する。収録の全10曲は、急速テンポを避けて、一語一語を着実に紡ぐスタイル。こぶしもシャウトもない、素直で丁寧な独自世界だ。

 解説書によれば、アナログマスターはドルビーAノイズリダクションを含め当時の標準的な仕様で特別ではない。しかし本LPは抜群にS/N感に富む。ビニール原料が特別なのか、重量盤だからか……と考えるが分かるはずもない。ただ注目は、アナログのマスターを一度デジタル化して、デジタル上で微妙な音の調整を行ない、再びアナログに戻している点。そこに、制作陣の音に対する強い意志を想うのである。

 一方、こだわりのシングルレイヤーSACDは、調整等が容易なPCMに変換することなく、DSDのまま(これは大拍手)である。もちろんCDはPCMのまま我々の手に届く。さて両者を聴いてみると、SACDの音は、これまでのハイブリッド盤で体験してきたイメージと違って、スムーズな音像輪郭の生々しさを誇って好ましい。

 とは言うも、パフォーマンスの本筋に大差があるわけではない。両規格の器を最大限活かした音の仕上がりは意外にも近寄ってくる、という印象なのだ。皆さんのプレーヤーはどうですか?