「車」や「オーディオ&ホームシアター」は、昭和の時代から “男の子の夢” として絶大な人気を誇ってきた。最近はそれら趣味の世界でも “お手軽なシステム” が注目を集めているが、そんな中でも自分の夢に正面から取り組んでいる熱心な男の子(の気持ちを持ち続けているユーザー)は多い。今回は、そんな “夢の空間” が出来上がるまでに密着取材できたので、詳しく紹介したい。(取材・文:泉 哲也、撮影:相澤利一)

ガレージシアターを手に入れた、櫻井 崇さん

 アニメーション・実写映像等の企画制作を手掛ける颱風(タイフーン)グラフィックスの代表取締役を勤める櫻井 崇さんは、この夏、群馬県内に新たに制作スタジオを開設した。それに関連し、群馬での仕事の際に宿泊する拠点を作ることになったそうだ(普段は東京在住)。そしてそのスペースに、以前から気になっていたシアタールームを作ることを決意する。

 「弊社はテレビアニメーション作品の制作元請(撮影、3DCG,色彩設計、編集など)や実写映像作品の編集といった業務を行っています。僕が群馬出身という縁もあって、今回街興しの一環としてアニメーション制作スタジオを前橋駅近くに開くことになったんです。最近はデジタル制作ですから、東京から離れた場所にスタジオを作ることも増えています。

 その準備もあってほぼ毎週、東京から群馬に通う必要がでてきたので、こちらにも生活の拠点を設けることにしました。ちょうど高崎駅近くにいい物件があったので、そこを借りることにしました」(櫻井さん)

 その物件は、1Fがガレージ、2Fがリビング、3Fが寝室というメゾネットタイプのガレージハウスで、車好きの櫻井さんには確かにぴったりだ。よくこんな物件がありましたね?

賃貸ガレージハウスにシアタールームを作ろう!

 櫻井さんが入居したDG-BASE YATIYOは、高崎駅から車で5分ほどにあるガレージハウスだ。1Fのガレージには最大で車とバイクが1台駐車可能。シンクや高さを自由に変更可能な専用棚も準備されているので、思う存分洗車やチューニングもできるだろう。

 今回シアターを構築した2Fのリビングスペースは広さが約20平方メートルで、天井高も2.5m以上(一部は吹き抜け)というゆとりのある空間だ。本文にある通り、室内は鉄筋とプレートで構築されており、今回はその梁(H鋼)を活かして、駆体に傷をつけることなくスクリーンやプロジェクターを設置できている。

 もちろんDG-BASE YATIYOはある意味特別な物件ではあるが、賃貸でも色々な工夫次第でホームシアターの構築は可能だ。読者諸氏の中には賃貸だからと諦めている方もいるかもしれないが、ぜひ一度インストーラーさんに相談していただきたい。アイデア次第で、案外すんなり夢が実現できることもあるのです。

 「車も大好きで、自分でタイヤ交換くらいはできるようになりたいと思っていました。それもあって、前々から一度ガレージハウスに住んでみたかったんです。今回入居したのはDG-BASE YATIYOという物件ですが、建物の造りも独得で、面白いんですよ」(櫻井さん)

 という言葉の通り、DG-BASE YATIYOの建物は鉄筋とアングルで骨組みを構成し、そこにパネル式の壁や床を張り込むという形で造られている。室内は鉄筋がむき出しで、それらを含めて黒をベースにした内装に仕上げられている。

 「今回は視聴室としても使えるシアタールームにしたいと思っていました。もともと子供の頃から映画が好きで、以前エプソンのプロジェクターと5.1chセットで80インチ環境を作ったことはあったんですが、リビングだったので本格的なシアター環境というわけにはいきませんでした。

 その後、仕事仲間の音響監督がシアタールームを作って、その様子がStereoSound ONLINEで紹介されたんです。それを見て、羨ましい気持ちと同時に、スタッフにも自分たちの作品を確認してもらうためにもぴったりだと思ったんです。社員が勉強するための視聴室としても、こんな部屋があったらいいなぁと」(櫻井さん)

まずは下準備からスタート。ケーブル配線や金具を目立たないようにセットする

5.1.4システムを構築するためには9本のスピーカーケーブルが必要。まずはそれらのケーブルを壁や天井の鉄骨に沿って通線し、両面テープとインシュロックで固定していく。その細かい作業は、今回の機材を手配してくれたAUDIO SPOTカマニの粟野雅文さんが担当してくれました

AVアンプ側のケーブルにはバナナプラグを取り付けた。各チャンネルがひと目で分かるようにタグも準備

鉄筋にネジなどを使いたくないという櫻井さんの希望を受け、写真の形鋼用金具を活用した設置方法を吉澤さんが工夫してくれた

 こうしてガレージハウスに視聴室 兼 シアタールームの導入を決断した櫻井さんだが、具体的な機器選びはどうしたらいいのか、また賃貸物件にシアターシステムを設置できるのかといった点についてはまったくわからなかった。そこで、知り合いからクレアツィオネ・ワークスの小野裕史さんを紹介してもらい、具体的なプランニングをスタートしたという。その経緯を小野さんに聞いた。

 「最初に櫻井さんの物件のお話をうかがった時から、ぜひ担当したい! と思っていました。だってガレージシアターって、男の子の夢そのものですよね。僕も車とオーディオが大好きですから、これは形にしないわけにはいかない、と」(小野さん)

 車好き、シアター愛好家という同好の士としてすぐに打ち解けたおふたりは、そこから部屋の仕様や施工条件、オーディオビジュアル機器に求める条件や予算について打ち合わせを繰り返し、最終的に小野さんから以下のシステムが提案されたそうだ。

<櫻井邸のシアターシステム>
●プロジェクター:ビクターDLA-V800R
●プロジェクター取付金具:キクチSPCMシリーズ特注品
●スクリーン:キクチSGKP-120HDBM(ソルベティグラス、120インチ/16:9)
●ユニバーサルUHDプレーヤー:マグネターUDP800
●ストリーミングプレーヤー:Apple TV 4K
●レコードプレーヤー:ヤマハTT-S303
●AVアンプ:デノンAVR-X3800H
●スピーカーシステム:KEF Q950(フロント)、Q650c(センター)、Q750(サラウンド)、T101(トップフロント、トップリア)、Kube 10MIE(サブウーファー)
●HDMIケーブル:KORDS PRS4シリーズ

 「櫻井さんのお仕事柄、映像は高品質でなくてはならないと思いました。予算的にも新製品のDLA-V800Rがぴったりでしたので、シアターの中核機器としてお勧めしました。スクリーンは、部屋のサイズから逆算してぎりぎり120インチなら入りそうでした。またスクリーンは出しっぱなしでいいということだったので、平面性が確保できるパネル型を選んでいます」(小野さん)

 リビングルームの広さは短辺3.6m✕長辺5.5mほど。打ち合わせの結果、短辺側壁面に幅2.85mの120インチ・パネル型スクリーンをセットし、その両脇にフロントL/Rを、センタースピーカーやサブウーファー、AVラックはスクリーン下側に配置することになったそうだ。投写距離については、DLA-V800Rの場合120インチ/16:9時は3.81mで、本体奥行50.5cmを加えても充分余裕がある。

 では賃貸、しかも先述のように鉄筋むき出しの物件に、どのようにしてスクリーンやプロジェクターを取り付けたのだろう? もちろん櫻井さんからは、駆体部分に釘などは使わないで欲しいという希望があったことは言うまでもない。

この迫力は凄い! 120インチ張り込みスクリーンが綺麗に取り付けられた

吉澤さんは、Cクランプ(写真右側の鉄骨についている万力状の金具)とL字アングルを組み合わせて、スクリーンを取り付ける土台も独自に工夫してくれた

キクチの張り込みスクリーンは、横幅2,85mというサイズ。今回は5人かかりで組み立てている

膜面は、フレームに小型スプリングで取り付ける仕組み。膜面は気温等によってわずかに伸び縮みするが、この構造なら常に平面性が保てるわけだ

見事に120インチスクリーンの設置が完了。レーザー水準器を使い、水平はもちろん、膜面が垂直になっているかも確認しながら作業をおこなっています

 「この物件では、むき出しの鉄骨(H鋼)を活かした設置ができたので、逆に助かりました。お世話になっている工務店の吉澤さんに相談したら、市販のCクランプ(シャコ万力)を改造してスクリーンやプロジェクターを取り付ける金具を作ってくれたんです。Cクランプを鉄骨に固定するだけなので、駆体を傷つける心配はありませんでした」(小野さん)

 今回、設置工事に立ち会わせてもらったが、万力状の金具を鉄骨の柱に固定し、そこにL字のアングルを組み合わせることで、綺麗にスクリーンが取り付けられていった。

 プロジェクターについては天井中央に設置されたH鋼に形鋼用金具を取り付けて、さらにその金具にベース板をビスで留め、最後にベース板にプロジェクターの天吊用金具を取り付けている。こうすることでH鋼の任意の位置にプロジェクターを天吊りでき、最適な投写距離にDLA-V800Rを取り付けられるというわけだ。

プロジェクターを理想的な位置にセットして、夢の大画面を実現

H鋼に形鋼用金具を取り付けてプロジェクター用のベース板を作成

ベース板にプロジェクターの天吊金具を取り付ければ、プロジェクター設置の準備が完了

吉澤さんと小野さんのふたりでDLA-V800Rを天吊り金具に取り付けました

テスト信号を出しながら、小野さんが画面の水平や歪みを調整していった。物理的な設置がしっかりできていたので、必要最小限の調整で終わったとのこと

 「再生ソースはUHDブルーレイやCDといったパッケージソフトと配信、アナログレコードで、それぞれの再生機をAVアンプにつないでいます。櫻井さんから、放送録画はしないので、高品質で操作感のいい再生専用機が欲しいというお話がありました。その意味で、新製品のマグネターUDP800は本当にぴったりでした。

 UDP800と、櫻井さんがお持ちだったApple TV 4K、ヤマハのレコードプレーヤーは、AVアンプのデノンAVR-X3800Hと一緒にスクリーン下のAVラックに収納しています。

 サラウンドは、今なら3Dオーディオ対応はマストですと提案し、5.1.4システムに決定しました。スピーカーは、KEFの製品が気になっているということでしたので、一緒に試聴に出かけて選んでいただきました。最初はフロントQ750、サラウンドQ550の予定だったんですが、音を聴いてもらったら、フロントがQ950、サラウンドはQ750にグレードアップしちゃったんです」(小野さん)

 「女性ヴォーカルがまったく違ったんです。これを聴いてしまったらもう戻れませんよね。スピーカーってこんなに違いがあるんだ! と驚きました」(櫻井さん)

イマーシブオーディオに欠かせない、トップスピーカーも綺麗に取り付けた

トップスピーカーが目立たないように、KEFの薄型モデルT101をチョイス。写真左は付属の壁掛け金具

プロジェクターと同様に、H鋼に形鋼用金具を取り付けることでトップスピーカー用ベースを設置し、そのベースに付属金具を取り付けている。落下防止の側板とワイヤーも取り付け済みです

合計4台のトップスピーカーが付いているとは思えないほどすっきりと設置できた。もともと天井が黒いこともあり、プロジェクターもほとんど気になりません

 こうしてご本人の意向を踏まえてサラウンドシステムの選定も進んでいき、残る問題はトップスピーカーをどうするかになった。

 「トップスピーカーは、天井に取り付けた時に圧迫感がなく、かつフロアースピーカーと音色が揃う製品ということで、KEFの薄型スピーカーからT101を選びました。これならプロジェクターと同じ方法で天井のH鋼に取り付けられるだろうと考えて、吉澤さんにお願いして台座を工夫してもらったんです」(小野さん)

 そんな小野さんの無茶振りに吉澤さんも見事に応え、T101と同じサイズで、天井のH鋼に形鋼用金具で固定するスピーカー用ベース板を制作してくれた。その出来栄えも見事なもので、一見しただけでは4台のトップスピーカーが取り付けてあるとは気が付かないほど。櫻井さんも「まったく天井スピーカーの存在が気になりません!」と驚いていた。

 こうして2日間をかけてシアターシステムの設置が完了。“男の子の夢の空間” と呼ぶに相応しい、隠れ家感のある視聴室に仕上がっている。後編ではその全貌と、キーとなる再生機の使いこなしについて紹介したい。

※27日公開の後編に続く

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