リン・サラウンド体験記 愛知県・多田純二さん
多種多彩な発想でオーディオ、オーディオビジュアル再生を楽しまれている方々を紹介している連載企画『リン・サラウンド体験記』。第11回は、ミントコンディションの名車を収納したガレージと一体化した、夢のようなホームシアターを作り上げた、愛知県名古屋市の多田純二さん宅を訪れた。  取材・構成/本誌(季刊HiVi)・辻

 映画『フォードvsフェラーリ』で描かれたル・マン24時間耐久レースは、1周14kmに達するフランス、サルテ・サーキットで、市販車(もしくは市販車ベースの車両)を用いた世界最高のレースだ。映画は1966年のレースでの、フォードGT40とファラーリ330P3との戦いを中心に描写され、そのスリリングさ、過酷さが迫力の映像と音響で描かれた。

 100周年記念の2023年には、本大会とは別に「Le Mans Classic 2023」という、かつてル・マンで活躍した実際のマシンが多数集結し、レーシングスピードで競争するクラシックカーイベントも開催された。

 そこに1964年のル・マンで活躍したポルシェ904で参加したのが、今回のシアタールームのオーナーである多田さんだ。

 挨拶もそこそこ、さっそく多田さんのシアタールームに足を踏み入れると、そこには1955年式のポルシェ550スパイダーと、1975年式のドカティ750SSが鎮座していた……。聞けば、両車ともレプリカではなくフルオリジナルの貴重な個体。スクリーンを巻き上げた状態では、ガラス窓の奥のガレージに、ル・マンで疾走したポルシェ904の姿も見える。

 シアタールームのガレージとホームシアターを同一スペースで愉しまれているケースはなくはないが、本物のクラシックカー/バイクと共存しているとは……。

 「ガレージとシアタールームが繋がっているので、クルマが入れられるんですよ。取材の邪魔になりそうなので、動かしますね」と多田さん。エンジンをかけずに手押しで550スパイダーをガレージエリアへとゆっくりと移動した。ガレージとシアタールームはガラス扉で仕切られているが、事実上同一スペースといえる巧みな空間設計が施され、まさに多田さんの趣味が全開といった趣だ。

クルマ。家具。そしてオーディオ。本物を愛し、飾るのではなく、心を込めて使い続けるのが、多田さんの流儀だという

フロントスピーカー以外の機材関係は、サラウンドスピーカーも含めて、リスニングポイント後方にまとめられている

主な使用機器

●プロジェクター : ソニーVPL-XW5000
●スクリーン : キクチ シャンティホワイト(150インチ/16:9)
●ストリーミング端末 : アップルApple TV 4K
●ネットワークプレーヤー内蔵プリメインアンプ : リンSELEKT DSM-KA(追加モジュール:HDMI Switching module、STANDARD DAC module、Power Out module)
●アナログレコードプレーヤー : リンSONDEK LP12
●サブウーファー音声出力ユニット : リンEXAKTBOX SUB
●スピーカーシステム : ソナス・ファベールElecta Amator(L/R)、Minima Amator(LS/RS)、Gravis Domus(LFE)

 

リン製品には華美な要素を削ぎ落とし必然のフォルムが感じられます

 多田さんは昨年2023年に現在のお住いが完成。貴重なクラシックカーを動態保存する1階ガレージに隣接するシアタースペースを併設、150インチスクリーンとソナス・ファベールElecta Amator(エレクタ・アマトール)を核としたサラウンドシステムを導入された。

 「ポルシェやドゥカティのような、職人、技術者たちが作り上げた<本物>には、それでしか得られない魅力があります。走行性能はもちろん、性能を徹底して追求した結果としてのフォルムも、機能的でありつつ実にオーガニックで素晴らしい。デザインありき、デザインのためのフォルムとはまったく異なります。

 僕は、オーディオ製品や家具調度品にもそうしたニュアンスが込められた<本物>を、どうしても求めてしまいます。Electa Amatorにも、そういうテイストを感じましたし、リンの製品も同様です。

 ここで使っているリンのアンプ(SELEKT DSM)やアナログプレーヤー(Sondek LP12)でも感じますが、華美な要素を削ぎ落とした、必然のカタチですし、一つ一つのディテイルが見事。工業製品としてカッコいいし、強く共感できます。性能を追求した結果のデザインであり、磨き抜かれたフォルムともいえて、わざとらしさがまったくありません。

 ここにある550スパイダーは、ポルシェがはじめて作った純粋なレーシングカー。当時の最新技術で風洞実験などを駆使してできたもので、この優美なカーブは実は必然のカタチなんです。僕はそれと同じテイストを、リンの製品デザインにも感じるんです」

 ところでElecta Amatorは現行製品(Electa AmatorⅢ)があるが、このシアターではオリジナルモデルをお使いだ。この個体との馴れ初めをうかがった。

 「Electa Amatorは、家の近所にあるミュージックバーで使われていた個体を譲り受けました。そこは、オーディオ再生装置をいろいろこだわっている素敵なお店で、このオーディオ、シアターシステムの面倒を見てくださっているNEXTの勝野(陽介)さんともそこで出会ったんです。そこのオーナーさんに相談し、他のスピーカーも聞かせてもらったうえで、このオリジナル仕様のElecta Amatorを譲り受けたんです」

 このシアタールームでは、Electa Amatorのほかに、Minima Amator(ミニマ・アマトール)、そしてサブウーファーのGravis Domus(グラヴィス・ドムス)を組み合わせて、センターレスの4.1chシステムを組んでいる。

 その4.1chシステムを鳴らすのが、リンのSELEKT DSMだ。モジュール式の構造を採用したマルチパーパスモデルで、多田さんはSELEKT DSM-KAという、KATALYST(カタリスト)グレードのDACとパワーアンプを内蔵した仕様をベースにして、フロントバイアンプ駆動用ならびにサラウンドスピーカー用のSTANDARD DAC+パワーアンプが各2つ、さらにHDMI入出力用の、5つのモジュールを追加、HDMI入力対応の4chサラウンド対応アンプとして使っている。

 「150インチスクリーンと、この4.1chサラウンドシステムで映画を観ると本当に迫力満点。音は分厚くて太い感じが気に入っています。映画の声とか、エキゾーストノートの厚みに満足しています。Electa AmatorとMinima Amatorは小型サイズのスピーカーですから、150インチの大画面に見合う音がでるのか、少々心配していたんですが、杞憂でした。結構な大音量で再生しても、不安感はまったくないし、後方に置いたサブウーファーの重低音も凄い。4Kの大画面映像にマッチする迫力の音でこのスペースを満たします。

 Netflixなどで新作を見たりするんですが、このシアターが完成してから、以前見た映画を見直すことも楽しいですね。最近では『トップガン マーヴェリック』を見直して、音の良さに感心しました。そうそう『インターステラー』の低音の迫力にもびっくりしました。ここまでの低音が入っていたんだと。

 ホラー映画もとても怖くて驚きました。子どもとここでホラー映画を見たんですが、本当に怖かった(笑)。

 あとクルマ好きの仲間たちとガレージで過ごす機会も多くて、大画面でYouTubeも楽しんでいます。先ほど話題になったル・マン クラシック2023の様子をビデオクリップ的に編集した動画がYouTubeに上がっているのですが、そうしたものを仲間たちとワイワイ観るのも楽しいですね」

写真右がSELEKT DSM。2018年に登場したアルミニウム素材を用いたモデルで、現在は、Classic Hubと呼ばれる製品となる。フロントバイアンプ用の4chとサラウンド用の2chの、6ch分のDAC+パワーアンプ回路とHDMI入出力端子をモジュールの形で組み込んでいる個体だ。電源はUTOPIK(ユートピック)と呼ばれる最新仕様が組み込まれている。写真左はLP12用の単体電源LINGO(旧バージョン)だ

SELEKT DSMは、アンプ単体で、4.1ch再生を行なうため、スピーカーケーブルはバナナプラグを用いて接続されている。HDMIケーブルはエイム製光タイプが使われている

音楽再生は、音楽配信サービスとアナログレコードの2種類で楽しんでいる。アナログプレーヤーは、リンのSONDEK LP12で、スリット入りのプリンス(木枠)に、AKITO(トーンアーム)とKOIL(MCカートリッジ)を組み込んだ仕様となっている

 

 

小型筐体でありながら力強さが際立つSELEKT DSM

 取材陣に『フォードvsフェラーリ』を披露してもらったが、映画の舞台となる1960年代のレーシングカーの咆哮が実にリアルで驚いた。中域が充実したダイナミックな音で空間を埋め尽くす。スピーカー自体のポテンシャル自体は高いことが根本にあるが、その性能をしっかり引き出すリンのSELEKT DSM内蔵アンプのドライブ力の高さも見逃せない。

 SELEKT DSMは、35cm四方とLPジャケットを少し大きくした程度のサイズとなる小型筐体のコンポーネント。多田さんが使っているのは、前述の通り4.1chスピーカーシステムを駆動する4chアンプを内蔵した仕様だ。ワンボディながら、ここまでのパワフルさで、不安気な様子など微塵も感じさせず、軽々としかもホットなテイストで4.1chスピーカーを鳴らす。その駆動力の高さに舌を巻いた。

 このスペースではリンのアナログレコードプレーヤーLP12もお使いで、レコードも聴かせてくださったが、こちらも中域が充実したグッドサウンドという雰囲気で、生き生きとした音楽を描き出した。

ソナス・ファベールの2ウェイブックシェルフスピーカーElecta Amator。1988年登場のオリジナルモデルを多田さんはお使いだ。本体ウッド部分やスタンド底面大理石部分などの外装などをリフレッシュさせ、新品と見紛うような美しさをキープ。多田さんからクラシックカーと同じ愛情が注がれている

プロジェクターはソニーVPL-XW5000。4K解像度のSXRDパネルを搭載したHDR対応モデルだ。キクチ製の取り付け金具にセットされている

サラウンドスピーカーは、フロントと同じソナス・ファベールのヴィンテージモデルMinima Amator 。サブウーファーも同社製のGravis Domus。SELEKT DSMとExaktLink接続されるEXAKTBOX SUBを介して繋がれている

 

 

 多田さんは、本物のクラシックカーをサーキットでレーシングスピードで走らせることも多いそうだ。貴重な個体だからといって、ガレージで愛でるだけでなく、その実力が鮮やかに輝く現場=サーキットで味わい尽くす。

 オーディオ、ホームシアター製品も「使ってこそ」という同じ流儀で接する姿に、趣味人としての理想を多田さんに見い出した取材となった。

 

 

本記事の掲載は『HiVi 2024年秋号』