マランツの新型プリメインアンプMODEL M1の評判がすこぶるいいようだ。コンパクトなサイズに、オーディオ機器然としていないデザイン、クラスDアンプによる高効率と高いスピーカー駆動力、そして省エネ/省スペースと、まさに次世代オーディオシステムの理想形を体言したコンポーネントといってよい。

 本機はAVとの親和性も高く、HDMI eARC準拠によってテレビとの連携性がよい。音量調整等がテレビのリモコンで行なえるので、ステレオ再生での高品位な映像鑑賞スタイルが叶う。他方、本体には音楽ストリーミング再生機能を内蔵し、D&Mグループが提唱する「HEOS」アプリによる音楽再生が可能。この辺りの機能性も、現在のオーディオアンプに求められる要件をきっちり満たしている。

「小型でありながら、性能には妥協しない」というコンセプトで作られた新鋭アンプ。駆動力に優れたクラスDアンプを搭載し、外観からは想像できないパワフルさが魅力だ

INTEGRATED AMPLIFIER
MARANTZ MODEL M1
¥154,000 税込

●定格出力 : 100W+100W(8Ω、20Hz〜20kHz、THD 0.05%)、125W+125W(4Ω、1kHz、THD 0.05%)
●接続端子 : アナログ音声入力1系統(RCA)、デジタル音声入力2系統(光、HDMI[eARC])、サブウーファー出力1系統(RCA)、LAN端子ほか
●寸法/質量 : W217×H84×D239mm/2.2kg
●問合せ先 : デノン・マランツ・D&Mインポートオーディオお客様相談センター ☎︎ 0570(666)112

 

ハイエンドスピーカーと大型テレビをつなぐMODEL M1

 そんなMODEL M1を使い、今回はハイエンドスピーカーと大型テレビを組み合わせて本格的なリビングルームAVシステムを試そうというのが今回の企画だ。

 テレビはパナソニック・ビエラのTV-65Z95A。今春発表された同社の有機ELディスプレイの最上位モデルである。最新のマイクロレンズ有機ELパネルの搭載によって圧倒的な高コントラスト映像を実現した注目作で、MODEL M1の相手にとって不足はない。

 一方で肝心のスピーカーは、ハイエンドスピーカーで私が今最も気になっているソナス・ファベールのGuarneri(ガルネリ)G5を準備した。定価15万4000円のプリメインアンプに、ペア300万超のスピーカーを充てるとは、いささかアンバランス過ぎないかという声が聞こえてきそうだが、MODEL M1を初めてマランツがデモしたときに使われたスピーカーは、Bowers & Wilkinsの最上位機801 D4。あの気難しいスピーカーの、あの重たいウーファーを事も無げにドライブした大したヤツ、それがMODEL M1なのだ。そうしたこともあって、801 D4とは正反対のキャラクターといってもよいGuarneri G5をどう歌わせるのか、ぜひとも試してみたかったのである。

 Guarneri G5は、同社のラインナップ「HOMAGE(オマージュ)コレクション」に属し、同社ブックシェルフ型の最高峰に位置付けられるモデル。厚みの異なる8種類の木材を積層させたプライウッド構造を採るキャビネットには、28mm径アローポイントDAD(Damped Apex Dome)搭載のシルクドーム型トゥイーターと、150mm径ペーパーコーンウーファーという、ソナスファベールならではの仕様の2つのドライバーを搭載。キャビネット上下をCNC加工アルミニウムプレートで挟み込むことで制振性をコントロールしている点も興味深い。今回は専用スタンドを用意し、そうした設計ポリシーが十二分に活かせる環境を整えた。

イタリアの名門、ソナス・ファベールは「オマージュコレクション」と銘打って、同社の名作を現代技術で蘇らせている。本機は、1993年登場の「Guarneri Homage」を始祖とする第5世代機となる

SPEAKER SYSTEM
Sonus faber Guarneri G5
¥3,245,000 (ペア) 税込

●型式 : 2ウェイ2スピーカー・バスレフ型
●使用ユニット : 28mmドーム型トゥイーター、150mmコーン型ウーファー
●クロスオーバー周波数 : 2.2kHz
●出力音圧レベル : 86dB/2.83V/m
●インピーダンス : 4Ω
●寸法/質量 : W300×H1,139×D390mm/27.6kg(専用スタンド装着時)
●備考 : 専用スタンド付属
●カラリング : ウェンゲ(写真)、レッド、グラファイト
●問合せ先 : (株)ノア ☎︎ 03(6902)0941

4K OLED DISPLAY
PANASONIC VIERA TV-Z95A

4K RECORDER
PANASONIC DIGA DMR-ZR1

INTEGRATED AMPLIFIER
MARANTZ MODEL M1

SPEAKER SYSTEM
Sonus faber Guarneri G5

 

実に好ましい質感のファイル再生。柔軟性を持ってGuarneri G5を駆動

 まずはデラのミュージックサーバーに音源を格納し、ネットワーク経由でのファイル再生を試した。

 ドリー・パートンがポリスのヒット曲をカバーした「見つめていたい」では、やや擦れていながらも78歳とは信じがたいパートンのチャーミングな声がくっきりとスピーカー間に浮かび上がる。野太いベースのビートもどっしりと構えた感じだし、甲高いピッチのスネアドラムの音も乾いた質感が実に好ましい。Guarneri G5はこうしたドライな質感のトーンも忠実に再現してくれる。音に色艶を乗せるのがソナス・ファベールと認識している一般ユーザーが今でも相当数いるようだが、近年の同社モデルは、よりヴァーサタイルな表現や忠実性があるように私は思う。

 そして何より、MODEL M1のドライブ力の按配がいい。ねじ伏せるという振る舞いでなく、手綱はしっかり握っているが、ただ引き締めるのでなく、状況に応じてそれを少し緩めたりもしているのだ。言い換えれば、<柔軟性>があるのである。

 上原ひろみの新プロジェクト「Hiromi's Sonicwonder」のアルバム『Sonicwonderland』の「Go Go」では、素早くて細かいベースのフィンガリング/トーンがくっきりと迫り出した。そのトランジェントのよさは、MODEL M1とGuarneri G5のコンビネーションの賜物かもしれない。エフェクトのかかったトランペットやドラムが音場の少し後方にいて、その手前にピアノやシンセサイザーが重厚かつスケール感豊かに立体的に広がった。ピアノのタッチの明晰さもクリアーに聴き取れる。

 同じピアノでも、ユジャ・ワンの独奏によるグスターボ・ドゥダメル指揮L.A.フィルの「ラフマニノフ:パガニーニの主題による狂詩曲」でのピアノの音像は大きめで、ホールの残響を伴なった柔らかなオーバートーンが印象的。オーケストラのアンサンブルには雄大さが感じられ、弦の合奏が醸し出すリッチなハーモニーが重なる様には奥行を感じる。ユジャ・ワンのダイナミックな表現とその豊かさも素晴らしい。

 HEOSアプリを使ったストリーミング再生でも『Sonicwonderland』とユジャ・ワンの演奏(いずれも96kHz/24ビット/FLAC音源)を聴いてみたが、濃密さとスムーズさがたいへん印象的。上原ひろみの演奏ではベースラインの太さが一段と逞しく、エフェクトがかかったトランペットの立体感は広々と感じられた。ユジャ・ワンではエネルギーバランスがどっしりとして重心が低く、ピアノの旋律がよりダイナミック。目を閉じて聴いていると、もっと大きなスピーカーが鳴っているようなリアリティと雄大さを感じた次第だ。

MODEL M1は、HEOS(ヒオス)というネットワークオーディオ&ストリーミングオーディオ再生機能に対応。iPhone/iPad/Androidなどのスマホ/タブレットから音楽再生操作が可能だ。またHEOSアプリでは、MODEL M1本体の各種設定も可能だ

 

 

スピーカーの存在が消えた!映像作品との相性も抜群だ

 続いて映像作品を鑑賞。UHDブルーレイ『ジョーカー』チャプター4、地下鉄での銃撃から公衆便所でのダンスまでのおなじみのシーンを観た。ステレオ再生であってもゴッサムシティの猥雑さと喧騒が暗騒音の中からクリアーに浮かんできた。と同時に、主人公アーサーの孤立感、絶望感もじんわりと染み出てきて場面に見入った。

 たとえば乗客の女性をからかうサラリーマン3人を捉えたカメラアングルにて、アーサーの持病である失笑恐怖症の笑い声がフレーム外の左後ろから聞こえてくるし、列車の軋み音も鋭くつんざくように響くのがわかる。一方で殴打や銃声については、サブウーファー等を併用した方が臨場感はより強力なのかもしれないが、シーンの緊張感はステレオ再生でも充分に伝わってくる。アーサーの荒れた息、独奏チェロによる哀切に満ちたメロディでは画面と音が一体となり、スピーカーの存在が消えた。

 懐具合と生活環境にもう少し余裕があれば、私はこのシステムをそっくりそのまま自宅のリビングルームに組みたいと心底感じた。それほど聴き入ってしまったのだ。

 それは大貫妙子と坂本龍一の2010年のツアーを収めた『UTAU LIVE IN TOKYO 2010 A PROJECT OF TAEKO ONUKI & RYUICHI SAKAMOTO』のBDを観たことで一層強固になった。大貫の歌がそっと寄り添うような坂本の伴奏を伴ない、まさしく歌とピアノのソナタの様相を呈する。大貫の声がスーッとスピーカー間に浮かび、その背後から坂本のピアノが包み込む。東京国際フォーラムのナチュラルなアンビエントも奏効し、凛とした美しい空気感で張り巡らされたステレオ音場が現われた。坂本のピアノは特にソロ演奏のトラックで変幻自在の動きを見せ、それをGuarneri G5が鋭く突き抜けたり、繊細に描写したりして、ダイナミックな表情を見せた。生演奏を聴いているような錯覚を私は何度も味わっていた。

MODEL M1の背面接続部。外部入力はHDMI、光デジタル、USB Type A、RCAアンバランス音声を装備。サブウーファー出力も備わっている。2.4GHz&5GHz帯対応802.11 a/b/g/n/ac準拠の無線LANのほか、SBC対応のBluetooth接続もサポートしている

 

 

映画の真髄を見事に引き出したMODEL M1の柔軟性と潜在能力

 これまで私は本誌(季刊HiVi)において、現代の映画コンテンツの真髄を味わうのであれば、たとえ小規模でも構わないので(センタースピーカー必須の)サラウンドシステムで観るべきと提唱してきた。その考えはいまもって変わらないが、ある条件下であれば今回組んだMODEL M1とGuarneri G5のようなステレオシステムでも十二分に楽しく、作品に没入できることを再認識した。その条件とは、スピーカーと正面向きのセンターで対峙できる視聴スタイルが確保でき、それが充分に高いクォリティとポテンシャルを持つ本格的なシステム構成であることだ。

 今回のシステムはそうした要求に見合うもので、改めてMODEL M1の柔軟性と潜在能力に感服したのであった。

 

本記事の掲載は『HiVi 2024年秋号』