藤原陽祐 × 山本浩司

強烈にダイナミックな音響をほぼ完璧に再生した800 D4シリーズ

── ここでは、2021年の『DUNE/デューン 砂の惑星』と、その続編で今年3月に公開された『デューン 砂の惑星 PART2』を視聴したいと思います。ビクターDLA-V900Rを中心とした映像システムと、Bowers & Wilkins(以下B&W)800 D4シリーズを中心としたサウンドシステムを用意しました。

 

Speaker System
Bowers & Wilkins

802 D4
(L/R、¥5,522,000/ペア 税込[グロス・ブラック])

HTM81 D4
(C、¥1,361,800/台 税込[グロス・ブラック])

DB1D
(LFE ¥682,000 税込[グロス・ブラック])

805 D4
(LS/RS/LSB/RSB、¥1,480,600/ペア 税込[ローズナット]、¥1,535,600/ペア 税込[グロス・ブラック])

※オーバーヘッドスピーカーは、イクリプスTD508MK3(生産完了)×6本を使用

 

 

山本浩司(以下、山本) この2作に限らず、ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督は、映像や音に並外れたこだわりを持つクリエイターです。特に低音の再生には明らかにこの人ならではの個性がある。そのあたりがどう再生されるか楽しみです。

藤原陽祐(以下、藤原) 『ブレードランナー2049』、『メッセージ』、それに『ボーダーライン』。どの作品でも全編にわたって緊張感のある低域を聴くことができますね。ビクターDLA-V900RとB&W 800 D4シリーズ、いずれも家庭用としては最高峰の製品ですから、ホームシアターならではの楽しみを改めて味わいたいと思います。

 

UHDブルーレイ
『デューン 砂の惑星PART2<4K ULTRA HD&ブルーレイセット>』

(NBCユニバーサル/ワーナー1000837227)¥8,580 税込
●2枚組(UHDブルーレイ+BD)
●2023年米
●本編約166分、特典約64分
●片面3層100GB
●映像:2160p/16:9/シネスコ/HEVC/ドルビービジョン
●音声:英語ドルビーアトモス、ドルビーデジタル5.1ch、日本語ドルビーデジタル5.1ch
スタッフ
●監督:ドゥニ・ヴィルヌーヴ
●撮影:グレイグ・フレイザー
キャスト
●ティモシー・シャラメ、ゼンデイヤ、レベッカ・ファーガソン、ジョシュ・ブローリン、オースティン・バトラー、フローレンス・ピュー、デイヴ・バウティスタ、クリストファー・ウォーケン、レア・セドゥ、ステラン・スカルスガルド、シャーロット・ランプリング、ハビエル・バルデム

©2024 Warner Bros. Entertainment Inc. and Legendary. All rights reserved.

 

 

── まず1作目『DUNE/デューン 砂の惑星』のUHDブルーレイから視聴を始めます。おふたりが様々な機会でリファレンスとして使われていたチャプター(以下、Ch)4、ティモシー・シャラメ演じる主人公のポール・アトレイデスが、シャーロット・ランプリング演じるベネ・ゲセリットの教母から試験を受けるシーン。そしてCh8、メランジと呼ばれる香料(スパイス)採掘現場で巨大なサンドワーム(砂虫)に遭遇する場面を再生しました。

山本 驚きました。いきなりすごいクォリティですね。この映画は全体的にダイアローグのレベルがとても低い一方でサウンドエフェクトのレベルが極めて高く、再生が難しい映画の一つです。このCh4は、いろいろな視聴システムで鳴らしてきましたが、B&W 802 D4を中心とするこのシステムは、この映画の豊かなダイナミックレンジをほぼ完璧に鳴らしていました。ローレベルのダイアローグも生々しく、このような音はなかなか聴けません。

 今回の視聴にあたっては、フロントスピーカーに802 D4を使ってはどうかという提案をぼくからHiVi編集部にしました。当初はフロントL/Rスピーカーは803 D4が候補だったのですが、センタースピーカーにHTM81 D4を使うのなら、ウーファー口径が同じ20cmの802 D4のほうがいいだろうと提案したわけです。過去の経験上、いかにL/C/Rのレベルをテストトーンで揃えても、ウーファー口径の違いによるエネルギーバランスの違いは聴感上明らかです。

藤原 その成果は確かに感じられましたね。スクリーンから面で音が湧き上がるようなイメージがありました。L/C/Rのウーファー口径を揃えることは、ハイファイ映画再生において極めて重要な指摘というか、使いこなしのコツだと私も思いますし、今日も実感できました。

山本 もうひとつ、このセンタースピーカーは中高域ユニットがL/Rスピーカー同様、インライン(直線上)配置になっています。センタースピーカーが2つのウーファーでトゥイーターを挟み込む仮想同軸2ウェイモデルの場合、放射特性はフロントL/Rスピーカーと90度の向きが変わるパターンになります。つまり横向き配置ですから、水平方向の広がりが制限されて垂直方向に広がるような放射パターンになって、いかにも「ここで音が鳴っている」という音に感じられやすい。本機のように3ウェイスピーカーの中域と高域ユニットを垂直方向にインライン配置している場合は、L/Rスピーカーと中高域の放射パターンが共通することになって、結果、スクリーンチャンネル(L/C/R)の音の溶け合いがとてもよくなります。今回はセンタースピーカーの高さをスクリーン下端ギリギリまで持ち上げたセッティングもあって、画面下で鳴っている感じが少ない、見事な再生でした。

藤原 画面と音のイメージが見事に一致した再生で「そこで音が鳴っている」という違和感はありませんでした。今回はL/C/Rのスピーカーが、ウーファーだけでなく、ミッドレンジとトゥイーターも同じサイズ、同じユニットで揃えた環境でしたから、非常に自然なムービーサウンドを体験することができました。

山本 恐ろしい雰囲気の教母を演じるシャーロット・ランプリングの声もよかった。彼女の厳しさ、怖さがとてもよく出ていたと思います。

藤原 確かに怖い(笑)。浸透力のある、彼女の芯の通った声が、とてもリアルに表現されていました。800 D4シリーズの長所、具体的には音離れのよさや雑味の少なさ、細密な音の粒子感も印象的でした。ディスクに入っている音すべてを描き出すような、極端にいうと「ここまで出すか」と言いたくなるほどの鳴り方でした。

 ビクターDLA-V900Rの画質も素晴らしかった。特に暗部での教母の顔の描写。今日の取材の予習として改めて本作を自宅のDLA-Z1プロジェクターでも確認してきましたが、肌の陰影はやや曖昧で、ここまでは描き分けていなかったと思います。今日組み合わせたキクチDressty 4K/G2スクリーンとの相性が絶妙で、HDRらしい表現が特に印象的でした。

山本 ぼくはこの映画を公開時に池袋のグランドシネマサンシャインのIMAX GTレーザースクリーンで観ましたが、そのときは再生音圧レベルがとにかく高くて閉口しました。劇場を出てくる頃にはヘトヘトでした(笑)。その点、ホームシアターは自分の好きな音量で楽しむことができます。声の生々しさや色気、艶っぽさは、ある程度再生レベルとのバランスで決まるところがある。音量が大きすぎると、そういった機微が削がれますから。その点に関しては、ホームシアターの優位性があると思います。

藤原 確かに、好みの音量で楽しめるのはいいですね。劇場は数百人にサービスを提供する場であり、個人や家族だけを対象とするホームシアターとはそもそもの成り立ちが異なりますが、特に声のニュアンスや浸透力に関してはホームシアターのほうが圧倒的に優位だと思います。ゾッとするような静けさの表現も、劇場ではなかなか味わえませんね。

 ところで、私がCh8を観て強く印象に残ったのは、重低音の鳴り方です。ホームシアターでは、どうしても床面近くにサブウーファーを設置するケースがほとんどですから、足元からLFEの低音、つまり重低音を感じることが多いのですが、しかしこのシステムでは、サンドワーム出現シーンの重低音を含む全帯域が画面から鳴っているように感じられました。スパイスを大量に吸ったポールが覚醒する瞬間の「静寂さ」という音の表現にもハッとしました。一瞬にして空間をつくり変えるだけの表現力があるんですね。

山本 この映画は、静寂から大音量までのダイナミックレンジがとてつもなく広い。だから、これを自宅のホームシアターで理想的な音響で体験するのは物理的に厳しいのでは思っていましたが、ところがこのシステムは、この映画の音のダイナミズムをほとんど完璧に再現していた。本作ではLFEを巧みに使った心理描写が全編にわたって続くのですが、それも文句なし。「負けたな」と片膝をつきました(笑)。

●4Kレコーダー
パナソニック DMR-ZR1 オープン価格

●ストリーミング端末
アップル Apple TV 4K(Wi-Fi +Ethernet) ¥23,800 税込

●プロジェクター
ビクター DLA-V900R ¥2,970,000 税込

●スクリーン
キクチ Dressty 4K/G2 ¥495,000 税込(電動巻き上げ式:120インチ/16:9)

●AVセンター
デノン AVC-A1H ¥990,000 税込(10月1日より¥1,210,000 税込に価格改定)

●パワーアンプ
オクターブ MRE220 SE(KT120) ¥5,940,000(ペア、税込、L/R駆動用)、MRE220(生産完了/C駆動用)

 

 

デジタル配信の品位は見事だがディスク品位はそれを遥かに凌駕

── それでは『デューン 砂の惑星 PART2』の視聴に移りたいと思います。まずは冒頭のタイトルバックから、ポールと、レベッカ・ファーガソン演じる彼の母ジェシカが敵兵と戦うシーンを、Apple TVのデジタル配信版と米国盤UHDブルーレイで比較しました(編註:取材タイミングの関係で米国盤で視聴した)。

山本 配信版は、想像を遥かに上回るクォリティでした。これだけ観ていれば何の不満もありませんね。でもUHDブルーレイを観比べてしまうと、やはり大きな違いが感じられました。冒頭のフローレンス・ピュー扮するイルーラン姫のダイアローグは、配信版では少し硬めでした。映像もUHDブルーレイでは自然なパースペクティブや光の柔らかさがあって配信版は硬い印象でした。でも、そうした違いをしっかり描き分ける今日のシステムの高い表現力があってこそだとも思いました。液晶テレビでその内蔵スピーカーで見ていたら、これほど明瞭な違いは出ないでしょう。

藤原 その通りだと思います。逆に言えば、テレビで観るなら配信版で充分満足できるでしょう。山本さんは配信版は音も絵も「硬い」とおっしゃったけれども、映像面に関しては精細感が結構違うと思いました。精細になればなるほど、映像はふわっと柔らかくなるんです。逆光ぎみで撮られた夕日のショットなどの難しい描写では明らかにUHDブルーレイの方がいい。配信版のようなクッキリ系の映像の方が、パッと見での画質がいいと感じる人もいるかもしれませんが、じっくり観ればエッジの滑らかさやグラデーションの緻密さなど、UHDブルーレイの表現力が明確に異なります。音は映像以上に違っていて、音離れのよさや空間の広がり感、低音の粘りなどにディスクメディアのメリットがよく表れていました。

山本 そうですね。打楽器が力強く鳴るところでは、アタックと余韻のバランスが違って、配信版では余韻のグラデーションがUHDブルーレイほど出ていませんでした。

プロジェクターはビクターの最新鋭機DLA-V900R。最新のレーザー光源「BLU-Escent Laser」で3,300ルーメンの光出力と2万時間の長寿命を両立。ネイティブコントラストは15万:1と、家庭用モデルで空前のスペックを誇る。今回は主に「Frame Adapt HDRモード」で再生した

 

 

オクターブのパワーアンプを追加。濃厚さが加わった見事な音に変化

── 作品終盤の、ポールとオースティン・バトラー演じるフェイド=ラウザとの決闘シーンをUHDブルーレイで観ました。いったんこれまで通り、つまり全チャンネルをデノンのAVセンターAVC-A1Hで駆動した状態で視聴し、次にフロントL/C/Rにオクターブのパワーアンプを追加した状態で聴きました。フロントL/RにはMRE220SEを、センターにはMRE220を接続しました。AVC-A1HのL/R/Cはプリアウトモードに設定し、バランスアウトで鳴らしました。

山本 ここまでAVC-A1Hが素晴らしい音を聴かせてくれたので、オクターブのアンプを加えても、これ以上の音で鳴るのかと訝しみながら聴いたのですが、さにあらず。オクターブらしい濃厚さが音にしっかり加わっていて見事な音でした。オクターブは、現社長のアンドレアス・ホフマンの父上が創立したトランス製造会社をベースにスタートしたメーカーです。真空管アンプの音質を決定づけるトランスのよさがオクターブ・アンプの魅力の源泉だと思います。ぼくは長くオクターブのパワーアンプを使っていますが、美味しい音を凝縮して引き出してくれるPMZ型トランスの美点が、緊迫感のある会話のシーンなどに表れていました。圧倒的にS/Nがいいことも特徴のひとつです。

藤原 AVC-A1Hは、男性の低い声でもこもった感じになることなく明瞭に再生してくれました。これがまさにA1Hの美点だと常々感じていますが、その魅力は今回もよく出ていました。そこにオクターブのパワーアンプが加わると、このブランド独特の色気、芯が通っているけれども肌合いのいい音色を存分に楽しむことができるようになる。これはオクターブならではの音の質感ですね。ずっとこの音を聴いていたいと思えるような、登場人物の魂のこもった声を聴かせてくれました。空間の広がりにも余裕が感じられました。

山本 感情の起伏から喉の湿り気の様子まで、そういったものがしっかり音に表れていました。KT120真空管を4本使ったパラレルプッシュプル接続で、4Ω負荷で200W、8Ω負荷で100Wという、真空管アンプとしては破格のハイパワーとなります。ドイツでアンドレアス・ホフマンに取材した際、オペラファンの彼は「低域のしなやかさと声の生々しさを出すために真空管アンプにこだわり続けている」と語っていました。その一方で、彼はEDMのような現代的な音楽もガンガンかけるんです。

藤原 音を出した瞬間にキラっとした輝きが感じられるようなところがありましたね。ポールが教母に「黙れ」と〈ボイス〉で命じるシーンでエフェクティブな音が鳴りますが、そこでもオクターブは余裕綽々で再生していました。この声は実に魅力です。

ストリーミングプレーヤーはApple TV 4Kを、ディスクプレーヤーにはパナソニックのDMR-ZR1をそれぞれ使用した。AVセンターはデノンのAVC-A1Hで、いずれもHiVi視聴室のリファレンス機器となる

フロントL/C/Rスピーカーの駆動力強化としてオクターブの高出力モノーラル真空管アンプMRE 220を3台用意した。本機は最近、SE仕様に進化しているが、機材の都合でオリジナル仕様1台(写真左)とSE仕様2台(写真中央/右)との混成となった

 

 

AVの音を緻密かつ正確に描き出した800 D4シリーズでのサラウンド再生

── 最後に総括をお願いします。

山本 B&Wの800 D4シリーズは、ワイドレンジでフラットレスポンス、立体的なソニックステージを実現する、といった評価を受けています。確かにその通りです。しかしその一方では「もう少し色気がほしい」などという声を聞くことも少なくありませんでしたし、ぼくもそう思うことが少なからずあったのですが、今日の音はそんなクールさは微塵もなく、エモーショナルで素晴らしい音でした。とことん性能を磨き上げることで到達できる情感の世界が、オーディオのみならずAVの世界でも存在すると感じました。

藤原 情報量が一定のレベルを超えることで得られる“感動量”があるのかもしれませんね。映画の音で重要なのは、突き詰めていえばダイアローグと空間をどう再現するか、でしょう。空間の伸縮や奥行の再現力はスピーカーの位相特性に拠ることが多いと思いますが、AV再生では、そうした位相特性や音色をマルチチャンネルで揃えることが要求される。AVの音を緻密かつ正確に描き出すのは、本当に難しいことなのです。今日聴いた800 D4シリーズでのサラウンド再生は、そういった特性がぴたりと揃っている印象でした。

山本 その通りです。オクターブのパワーアンプをプリアンプとしてドライブしたAVC-A1Hも、さすがHiViグランプリ〔ゴールド・アウォード〕受賞製品だと思います。もちろん、ビクターDLA-V900Rの映像も素晴らしかった。今日は映画館とは違った、ホームシアターならではの素晴らしい価値を改めて認識しました。

藤原 私も山本さんの意見に同感です。今日は家庭用システムとしては、映像も音も、最高峰の組合せの一つといってよい構成で視聴したわけですが、ホームシアターはいまや映画館を追いかけるものではなく、別のフェイズに到達したことを実感できました。劇場のスケール感や迫力とはまた違う、別の感動が得られる場所として、映画館のミニチュアを再現するという矮小した世界は過ぎ去り、独自の世界に到達したことを確信しました。

山本 配信が普及して、単に映画のストーリーを追うだけならスマホやタブレットで十分という時代になりました。でも、それで「映画を観た」ことになるのか? とも思うわけです。とかく“コスパ”や“タイパ”ばかりが求められる時代ですが、これだけのクォリティを見せつけられたら多くの人がAVに釘づけになるんじゃないかなと。ホームシアターの貴重さ、素晴らしさを改めて感じさせられる視聴でした。(本文構成:伊藤隆剛)

 

今日のシステムでホームシアターが独自の世界に到達したことを確信した
── 藤原陽祐

性能を磨き上げることで到達できる情感の世界がAVの世界にも存在する
── 山本浩司

 

 

本記事の掲載は『HiVi 2024年秋号』