なるせゆうせいが贈る、社会派青春映画の第3弾となる『威風堂々～奨学金って言い方やめてもらっていいですか？～』が、いよいよ8月30日(金)より上映となる。今を生きる大学生にスポットを当て、その生態をダークさも交えてリアルに映像化した注目作だ。主演は、映画『17歳は止まらない』で話題を集めた池田朱那が務め、本作のテーマとなっている“奨学金”に翻弄される唯野空を等身大に演じている。ここではその池田にインタビューした。
――よろしくお願いします。今回は2度目の主演作が完成しました。まずは出演してみての感想をお願いします。
ありがとうございます。2度目の主演作ができて、本当にありがたいです。奨学金というテーマを扱っていることで、少し重たい作品に思われるかもしれませんけど、結局は、いま自分が置かれている現状とどう向き合っていくのかがこの作品の大事なポイントになっています。作品自体は割とポップな感じで、若い人が観ても最後まで楽しめると思うので、なるせ監督らしい、すごく面白くて、お茶目な映画をお楽しみください。
――舞台出身の方らしい、小ネタもたくさんありました。
そうなんですよ！ だから私（唯野空）が見せる顔芸も、おそらくなるせさんの色なんだろうと思っています。
――その顔芸のことは、台本には書いてあるのですか？
ないです、ないです。現場で突然それが入ってくるんです。「ここで、白目向いてみようか」「はい、分かりました」っていう感じです。もう、全力でやらせてもらいました（笑）。
――ある意味アドリブだと思いますが、すぐに対応できるものですか？
難しかったですね。今まで、そのシーン（セリフ）の先をアドリブで演じるという経験はありましたけど、いきなり変顔してみようかとか、変なことしてみようかっていうのは初めてで戸惑いました。けど、なるせ監督はすごく柔らかくて温かい雰囲気のある方なので、何やっても許してくれるだろうと思って、全力で（変顔を）頑張りました（笑）。
――一方で、唯野空ってこんな子だったっけ？ という疑問もありました。
そうなんです。空ってそんなに変顔をする女の子ではないはずなんですけど、キャラがブレないかなって、私も不安になるぐらいでした。だけど、なるせ監督がそう言うなら信じてついて行こうと思いました。
――少し戻りまして、出演が決まった経緯を教えてください。
今回は、オーディションで選んでいただきました。台本を読んだ時に「絶対にやりたい！」と思って、一所懸命準備してオーディションに臨んだのですが、当日は、私の前にも後にも、たくさんの参加者（応募者）がいて……。それに気圧されたわけではありませんが、準備したものの半分も出せないまま終わってしまって。私自身、まったく手応えがなかったんです。
不思議なことなんですけど、今まで出演が決まった作品では、オーディションとか打ち合わせの時に、割と確信があったんです。『17歳は止まらない』の時もそうでした。でも今回は……。
なのでもう、悔しくて悔しくて、この作品（オーディション）のことは忘れようと思って帰りました。それもあってか、後日、受かったよって連絡をいただいた時に、一瞬、あれ何のことだろうって思うぐらい、記憶からは消えていたんです。でも、やはり合格できたのは嬉しかったです。
――記憶からは消えていたわけですが、最初に台本を読んだ時の感情は戻ってきた？
もちろんです。最初に台本を読んだ時に、その内容に衝撃を受けて、これはやりたいし、伝えなくちゃいけないって思った感情はすぐに蘇ってきました。加えて主演ですから、さらに気持ちを入れて役作りを始めました。
――演じられた唯野空の役作りについてお願いします。
まず、空は等身大でいなくてはいけないと考えました。やはり、いまの高校生・大学生の日常、実際にあることを観ていただく方にリアルに感じてもらうためには、私自身が等身大の高校生・大学生である必要があると思ったんです。何かを誇張したり、気負いすぎると、リアルさから外れてしまうので、等身大の女の子であること、そこは一番意識しました。
――その等身大はどこから持ってきたのでしょう。
一番は、私そのものを出すようにしていましたけど、今まで関わってきた人たちの平均をとることは意識しました。静かすぎることもないし、明るすぎもしない、と。
――そんな空は、吉田凜音さん演じる九頭竜レイと初めて会った時は、人が変わったようにグイグイいきました。
そうですね。奨学金の仲間を見つけたっていうことで、初めて会ったレイに、グワッて（奨学金のことで）詰め寄る。自ら人見知りであることを忘れてしまうぐらい、奨学金のことで追い込まれていたんだろうと思います。親にも何も言えないし、相談できる友達もいない。そのシーンでは、空の（追い込まれていた）心境を感じ取ってもらいたいですね。
ただ、空はそんなに異性と仲良くするのが得意ではない設定でしたので、そんな女の子がパパ活をして、おじさんと食事をして、頑張ってお金を稼いでくというギャップが、私は面白いなって思いました。
――一方で、お父さんには冷たいというか、よくあれだけ悪口がスラスラと出てきますね。
正直、キルポイントが少し早いなと思いましたけど、まあ、受験生のピリピリ感を、表現できたシーンになったと感じています。
あまり自分の感情を出す子ではないですから、いろいろなものが溜まっていって、鬱憤になって、それが怒りに変わってきて、それをお父さんにぶつけてしまったんだろうなと。受験生でなければ（お父さんに）八つ当たりはしなかったと思うので、少しお父さんはかわいそうでした。
――中盤では、彼氏（蛭間拓人：簡秀吉）にも同じ調子で切れていました。
そこは、私も大好きなシーンなんです。「メントスコーラとか、誰でもやってるから」っていうセリフが好きで、台本を何回も読んでいたのでもう、バア～って（セリフが）出てきちゃいました。まあ、空からすれば、それまでずっと我慢してきたのに、相手は何も感じていない……。だから爆発してしまったんですよ。
――さきほどお話にあったパパ活ですが、当初は躊躇していましたが、後半にはのめり込んでいきます。
そうですね。一気にいろいろなことが重なって、社会の厳しさを一瞬にして気づいてしまったので、もう曖昧な気持ちではやっていけない、振り切ってやるしかなかない、というところまで追い詰められたのだろうと思います。
――ただ、映像はポップでした。
やはり学生に観てほしい作品なので、明るく描くことで、若い人にも観やすくしているのだと思います。
――本作では、テーマでもある奨学金とあわせて、最近の学生の様相も描かれています。
私は奨学金を借りたことはないので、返済の苦労という経験はありませんけど、返済のために汲々としている姿は、リアルに描かれていると思います。
でも、それを致し方のないことで済ませるのではなく、誰でも生活できる家があって、きちんとご飯を食べて、温かいお布団で寝られる。そういう社会になってほしいです。なるせ監督には、もっともっといろいろなことを深く掘ってほしいですし、もう少し優しい世の中になってほしいと思います。
――ちなみに、奨学金って知っていましたか？
はい。ただ、これは私の捉え方なのかもしれませんけど、返済しなくていいものだと思っていたんです。そうしたら、卒業後には返済が待っている。ある意味、借金ですよね。だから、それを聞いた時には、それこそ、この映画のタイトルにもなっている“奨学金って言い方やめてもらっていいですか？”って強く感じました。
――今回、空の対になる九頭竜レイについての感想をお願いします。
レイという役は、クールで落ち着いていて、まさに空との対比で考えると、すごく面白い存在ですよね。空は（奨学金を）返すことに対して、どうしよう、どうしようって常に悩んでいる。けど、レイはこうして（パパ活して）返せばいいじゃん、誰かに払ってもらえばいいじゃんって（クラファンして）、明確に考えている。その対比が面白いですね。レイはレイで、すごく立派なキャラクターだと思います。
――それでは読者へのメッセージをお願いします。
サブタイトルにある奨学金について考えを深める作品になっていますので、今返済している方、その親御さんに観ていただいて、実態を知ってほしいです。加えて、空と家族とのつながりというのも、私は感動できるポイントだと感じています。家族との関係性や友達との付き合い方、それぞれの方の人生への向き合い方を観ていただきたいです。
――話は変わりまして、最後に、今後やってみたい役や設定があれば教えてください。
やってみたい設定ですか、うーん、多重人格をやりたいですね。シチュエーションによって人って変わると思うので、いろいろな役を演じて、いろいろ顔を見せていきたいです。多重人格なら、一つの作品でいろいろな顔を見せられるので、お得ですよね（笑）。
映画『威風堂々～奨学金って言い方やめてもらっていいですか？～』
8月30日（金）池袋HUMAXシネマズ、ヒューマントラストシネマ渋谷 ほか全国順次公開
＜キャスト）
池田朱那、吉田凜音、簡秀吉、田淵累生、小野匠、光徳瞬、高木ひとみ〇、あまりかなり、是近敦之、遠山景織子、近江谷太朗 他
＜スタッフ＞
監督・脚本：なるせゆうせい
企画・製作：株式会社オフィス・インベーダー
製作協力：株式会社らくがきエンターテイメント
制作：パーフェクトワールド株式会社
配給・劇場営業：株式会社トリプルアップ
（C）映画「威風堂々」製作委員会
●池田朱那（イケダ アカナ）SNS
ヘアメイク：稲富愛
スタイリスト：RYUSEI MORI