一度聴いたら忘れられないリズム・パターンとメロディ、反復の面白さ……。モーリス・ラヴェルの名や「ボレロ」という表題を知らなくても、この曲を聞いたことがある人は世界中にあふれているはずだ。個人的には、ジョージ・ガーシュウィンの「ラプソディ・イン・ブルー」と共に、クラシック音楽とジャズの間に橋を架けた楽曲という印象も持つ。この映画は、作曲家ラヴェル(発音は、「ヴェ」にアクセントがつく)が「ボレロ」を制作していく過程と、当時の評判、そして晩年の姿にスポットを当てた劇映画である。

 ラヴェルは1875年生まれ、「亡き王女のためのパヴァーヌ」、「水の戯れ」、「マ・メール・ロワ」、「夜のガスパール」などは前半の35年間に書かれている。以降は、創作のペースが落ちた。第一次世界大戦への従軍も、心にしんどさを残した。晩年のラヴェルが、「スペイン人役のためのバレエ曲」の楽曲依頼を受けたのは1928年のこと。彼はその直前まで、4か月ほどアメリカを巡業し、ニューヨークではジャズを聴いて感銘を受けていた(この映画での該当シーンでは、ベース奏者のフェリペ・カブレラなど現役ミュージシャンが、ガーシュウィン作「ザ・マン・アイ・ラヴ」を演奏する)。そして、いわゆるポピュラー・ソングにも偏見を持つことはなかった。「ボレロ」が、ジャズや、1920年代最大のヒット・ソングのひとつである“パソドブレ”の「ヴァレンシア」に触発されていることも、映画の中で示されている。

 「ボレロ」はダンス・ミュージックとして依頼されたのだが、当のラヴェルにとってダンスは身近なものではなかった。そのあたりの葛藤も生々しく描かれる。原作マルセル・マルナ、「ココ・アヴァン・シャネル」のアンヌ・フォンテーヌが監督を地務め、ラヴェル役は「黒いスーツを着た男」のラファエル・ペルソナが担当。ブリュッセル・フィルハーモニー管弦楽団や、ピアニストのアレクサンドル・タローの演奏も聞き逃せない。

映画『ボレロ 永遠の旋律』

8月9日(金)よりTOHOシネマズ シャンテほか全国公開

<キャスト>
ラファエル・ペルソナ、ドリヤ・ティリエ、ジャンヌ・バリバール、エマニュエル・ドゥヴォス、ヴァンサン・ペレーズ

<スタッフ>
監督:アンヌ・フォンテーヌ
BOLERO/121分/フランス/カラー/シネスコ/5.1chデジタル/字幕翻訳:松岡葉子
配給:ギャガ
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