500枚の注文が集まればディスク化が実現する。いまSNSを中心としてパッケージファンの注目を集めているユニークな企画がNBCユニバーサルから飛び出した。晴れてディスク化されるかどうかは誰にもわからない。500枚の注文が満たされなければブルーレイは発売されないので、もしかしたらこれがパッケージになる最後のチャンスとなるのかもしれない。今回のディスク化の立案をしたのはNBCユニバーサル/マーケティング部の百瀬 潤さんだ。ある意味では今日的でもあり、とてもチャレンジングなテーマだ。その詳細をご本人に直撃した。

レンタルビデオ 黄金時代が甦る!<あなたのリクエストで 初ディスク化>

 今回の企画は、ユニバーサル映画のカタログライブラリーから、主に80年代から90年代にVHSで発売されながら、DVD/ブルーレイで再発売されていない “本邦 未DVD&未Blu-ray(未ディスク化)”10作品のブルーレイ商品について、Amazon.co.jpで8月31日(土) 23:59までに、500枚以上の予約注文が入れば 商品化されるという「条件付き予約受注販売」だ。候補10作品は以下の通りなので、“これは!”と思うタイトルをぜひご予約いただきたい。価格は各¥4,980(税込)。

『デビルゾーン』(1983年/1984年公開/1984年ビデオリリース)
『スティング2』(1983年/未公開/1989年ビデオリリース)
『ビデオゲームを探せ!』(1984年/未公開/1986年ビデオリリース)
『ハード・ツー・ホールド』(1984年/同年公開/1985年ビデオリリース)
『タイムリミットは午後3時』(1987年/未公開/1989年ビデオリリース)
『ノース・ショア』(1987年/同年公開/1989年ビデオリリース)
『バイオニック・ウォーズ/帰ってきたバイオニック・ジェミー&600万ドルの男』(1989年/未公開/1992年ビデオリリース)
『クール・アズ・アイス』(1991年/同年公開/1993年ビデオリリース)
『ボーデロ・オブ・ブラッド/血まみれの売春宿』(1996年/未公開/1997年ビデオリリース)
『FM』(1978年/未公開/未VHS)

気になるタイトルの予約はこちら ↓ ↓

百瀬 昨今のパッケージメディアのマーケット縮小と共に、カタログ作品(旧作品)をリリースすることが悲しいかな年々、難しくなってきています。短期〜中期的に考えると、制作費が回収出来ない作品が増えてきているのが現状です。メジャースタジオの場合だと、そもそもマーケットが縮小しているのならば、パッケージを出さないほうがいいだろう、という判断にもなりがちです。

 しかし、わたし自身も映画が大好きですし、パッケージで出したい、出してみたかった作品がユニバーサルのカタログのなかにも多々あります。そこで今回、Amazon.co.jpさんと一緒に、映画ファンやパッケージファンの皆様に、“その作品のディスクが欲しいかどうか?!” を直接問う投票制=リクエスト制で実施してみようと考えました。この方式だと目標数に届いたタイトルは制作費が調達できます。クラウドファンディングのような考えに近いかもしれません。

 クラウドファンディングと言えば、最近では押井守監督の『紅い眼鏡』のディスク化も話題を呼んでいる。ディスクで手元に欲しい作品はパッケージファンが自主的に製品化を支持する。いまやそういう時代になっているのだ。ユニバーサルの10作品のラインナップの場合、タイトルを選ぶうえでの基準はなんだったのだろう?

百瀬 昔、レンタルビデオで見たんだけど、もう一度見てみたい。あるいは、映画レビューで評価が高いのに、まったく見る術がないし、デジタル配信にもラインナップされていない。日本ではVHSリリース止まりの未ディスク化作品を “蔵出し” したいと考えました。

 かつて、レンタルビデオショップでビデオを借りることが日常だった昭和後半から平成前半のレンタルビデオ全盛期、CICビクター・ビデオ株式会社時代にリリースされていた作品群です。ひとつのテーマに偏らせず、ホラー、サスペンス、続編もの、青春ドラマ、音楽ドラマなど様々なジャンルを揃えてみました。

『デビルゾーン』より

 「1980年代から90年代のレンタルビデオ黄金時代」。筆者も80年代は大阪や東京のレンタルビデオ店で長らくアルバイトをしていたことがある。好きな映画、お薦めしたい作品の名場面集を自分で編集して店内で流したり、そんな時代が懐かしい。『デビルゾーン』のジャケットなどは今でも記憶に残っている。

 もちろん百瀬さんも根っからのパッケージファン。これまでにもレアなTV吹替版を収録した「思い出の復刻版」シリーズや、日本劇場公開時のキーアートをフィーチャーしたスチールブックなど、パッケージファンには人気の高いディスクを次々と企画、リリースされてきた。

百瀬 どの作品もお薦めなのですが、なかでも大プッシュしたいのは、『タイムリミットは午後3時』『スティング2』『バイオニック・ウォーズ/帰ってきたバイオニック・ジェミー&600万ドルの男』です。

 『タイムリミットは午後3時』はいわゆる “80年代青春映画” で、スティーブン・スピルバーグ監督が製作にかかわっていた作品です。冴えないごく普通の高校生が、誤解が重なり、他校で問題を起こし転校してきたワルと決闘するドタバタの1日を描いた作品で、展開もテンポも最高なんです。『バック・トゥ・ザ・フューチャー』『フェリスはある朝突然に』『桐島、部活やめるってよ』が好きな方には絶対見て欲しい快作です。

 『スティング2』は、名作の誉れ高い前作と脚本家が同じ続編です。キャストは違いますが、二転三転して先が読めない展開、大どんでん返しも、前作同様。世界観も踏襲されていますので、前作のファンには気に入っていただけること間違いなしです。

 『バイオニック・ウォーズ/帰ってきたバイオニック・ジェミー&600万ドルの男』は、テレビでの放送時に日本でも大人気だった米ドラマシリーズ『600万ドルの男』のスティーヴ(リー・メジャース)と『バイオニック・ジェミー』のジェミー(リンゼイ・ワグナー)が共演する、同窓会的な面白さもあるテレビ・スペシャルです。新しいバイオニック・ヒューマン役として、あのサンドラ・ブロックが出演しています。『600万ドルの男』『バイオニック・ジェミー』ファンはもちろん、知らない方でも充分に楽しめる作品に仕上がっています。

『スティング2』より

 『FM』だけは他の作品とは違い、日本では劇場公開されなかった未公開作品。当時、オリジナルサントラ盤のレコードは当たり前のように聴いていたのに “よく考えたら観ていなかった” タイトルだ。ビリー・ジョエルやドゥービー・ブラザーズ、AORファンにはお馴染みのアーティストだけでなく、サントラ盤にはクイーンの「ウイ・ウィル・ロック・ユー」も収録されている(が、映画のなかでそれぞれの曲がどのように登場するのかはまったく知らない)。80年代を目前に控えた、洋楽の美味しい時代。個人的には是非この機会に観てみたいと切望している。同じ思いの音楽ファンの方も少なくないだろう。

百瀬 わたし自身も音楽映画作品が好きで、それまで未ディスク化だったロバート・ゼメキス監督の『抱きしめたい』(1978年)を2018年に初ブルーレイ&DVDでリリースしました。実売の数字も良く、たいへん好評をいただきました。

 次のリリース候補作品として、同じく未ディスク化だった『FM』(1978年)を推していたのですが、日本では劇場未公開で、かつテレビ放送も無く、映画のサントラ盤だけが売れているという、言わば幻の作品です。パッケージでリリースするためには、日本語字幕を新たに制作する必要もあり、ディスク化はずっと保留となっていました。

 しかし今回の方式であれば、この作品のニーズがファンの方々にも問えるということで、例外的に加えました。1970年代終わりのFM局を舞台にした “ギョーカイ” ドラマです。本編バックに流れる音楽も名曲だらけ。スティーリー・ダンの主題歌のほかにもリンダ・ロンシュタットのライブシーンも登場します。あの時代の洋楽ファン、ラジオファンにはとても楽しいドラマです。

『FM』より

 ディスク化が決まれば、各作品ともにブルーレイのマスターにはUS本社が所有するHD素材が使用されるとのこと。日本語字幕はVHS用の字幕の流用となる(本邦初パッケージ化の『FM』は新規に日本語字幕を作成)。ジャケットデザインもUSで使われているオリジナルのキーアートではなく、日本のVHSのデザインがそのまま活用される予定だ。『思い出の復刻版』シリーズのジャケットと同様に 「“当時の記憶” を大事にしたいんです」と熱く語る百瀬さん。

 映画本編だけでなく、特典映像や日本語吹替も収録して欲しいという声も上がりそうだが、本来ならディスク化が予定されていなかった作品たち。いかに制作費と価格を抑えながら、商品化するか。そういう意味でも、“パッケージが売れない” 現在ならではのアプローチのひとつだろうと思う。最後にずばり、各作品の現在の受注状況を訊いてみた。

百瀬 8月4日の時点では、『デビルゾーン』『タイムリミットは午後3時』『ビデオゲームを探せ!』『ボーデロ・オブ・ブラッド/血まみれの売春宿』が特にご好評いただいています。しかしまだディスク化が決まっているわけではありません。改めて“500” という数字はハードルが高いなと感じつつも、もう少しで達成するタイトルが出てきているのも事実です!8月31日までの予約受付となりますので、ぜひ応援(リクエスト)をよろしくお願いします。

 パッケージやデジタル配信。どのような形であっても、これまでと同様に家庭で様々な作品を楽しめる機会は失いたくないと映画ファンの誰もが思っている。我々のように長らくパッケージにこだわってきたメディアも、より多くの映画ファンやパッケージファンにこの取り組みが広く周知されることを願ってやまない。

 今回のディスク化が一枚でも多く成立し、作品のファンが晴れて手にすることが出来るよう、また、このような企画が他のメジャースタジオにも波及し、少しでも多くの作品がディスクとしてライブラリー化できる機会が増えることになれば、これほど嬉しいことはない。さて10作品のうち、どのタイトルがパッケージとなるか。オーダーの締め切りは8月31日(土)だ。