ストリーミング音楽サービスを始めとする音楽コンテンツを優れた音質で楽しめるミュージックストリーマー。しかし、現状は身近な価格のエントリーモデルと、音質の点では抜群に優れるが超高価格な高級モデルに二極化する傾向になってきており、エントリークラスからのステップアップが難しい状況になっていた。

鳥居さんの自宅視聴室に「DMP-A6 Master Edition」と「DMP-A8」を持ち込み、様々な音楽&動画ストリーミングサービスを体験していただいた、オーディオ再生は2chで行っている

 そこに登場したのがEversoloの「DMP-A8」(¥330,000、税込)だ。Eversolo Audioは、中国のZidoo Technologyのオーディオブランドで、ハイファイオーディオ業界で製品開発やマネジメントを担当してきたメンバーが中心となって創設された。日本で販売されているのはミュージックストリーマーやDAC内蔵ヘッドホンアンプだが、それ以外の製品も幅広く開発をしているという。

 DMP-A8はAndroid OSを採用したことが特長で、TIDALやQobuz、Amazon MusicやApple Musicなど幅広いサービスに対応する。DACやプリアンプ機能も備え、HDMI ARC対応でテレビにもつながるなど、高機能で使いやすい内容が注目を集めた。

 音質もなかなかのもので、日本に導入されるやいなやそのクォリティが話題となった。前述した通り30万円前後の価格帯で優れた実力を持つモデルがほとんどなかったこともあり、「季刊HiVi」の「夏のベストバイ2024」でも、ネットワークプレーヤー部門1(100万円未満)で第1位に輝いている。

 そんなDMP-A8だが、実は弟機の「DMP-A6 Master Edition」も大きな注目を集めているという。AndroidOS採用で機能的には大きな差はなく、価格は¥176,000(税込)ということで、こちらも気になるモデルだ。そんなDMP-A6 Master EditionとDMP-A8を自宅で使用し、いろいろと試してみようというのが今回の趣旨だ。

ミュージックストリーマー/プリアンプ:「DMP-A6 Master Edition」 ¥176,000(税込)

●ディスプレイ:6インチ・タッチスクリーン●内部メモリー:4GDDR4+32GeMMC●DAC:ES9038Q2M×2●オーディオプロセッサー:XMOS XU316●オペアンプチップ:OPA1612●SSDスロット:M.2 NVME 3.0 2280サポート 4Tバイトまで●接続端子:デジタル音声入力2系統(光、同軸)、UBS Type-C/A、HDMI(AUDIOOUT)、USB Type-A×2(OTG、AUDIO OUT)、デジタル音声出力2系統(光、同軸)、アナログ音声出力2系統(XLR、RCA)、LAN●対応フォーマット:最大768kHz/32ビット リニアPCM、DSD512●対応音楽ストリーミングサービス:Tidal、Qobuz、Highresaudio、Amazon Music、Deezer、RadioParadise、WebDAV、UPnP、他●寸法/質量:W270×H90×D187mm/3.9kg

DMP-A6 Master Editionは、横幅270mmとコンパクトな本体にストリーミング再生やUSB DACなど様々な機能を内蔵する。無線LANやBluetooth機能は日本国内では使えないので、有線LANをつなぐこと

ESS9038Q2Mをデュアルで搭載。豊富なデジタル入力も備えた「DMP-A6 Master Edition」

 まずはDMP-A6 Master Editionの概要を紹介しよう。Android OS採用ではあるが、自社開発の「EOS(Eversoloオリジナルサンプリングレートエンジン」を採用しており、あらゆる音源はオリジナルのサンプリングレートのまま出力が可能となる。Android OS採用機はOSの仕様でデジタル出力が48kHzに制限されてしまうが、本機ではその制限は完全にバイパスできるようになっており、ハイレゾ音源を含めて、オリジナルのサンプリングレートのまま出力が可能だ。

 扱えるデジタル音源についても、FLACやWAVといったフォーマットへの対応はもちろん、PCMで最大768kHz/32ビット、DSD最大22.4MHzのハイレゾ音源に対応。第3世代XMOS316オーディオプロセッサーを搭載して高速処理を実現しているなど、このあたりはDMP-A8とほぼ同じだ。

 デジタル入力端子は、同軸・光デジタル、USB Type-C/Aで、デジタル出力端子が同軸・光デジタル、USB Type-A、HDMIオーディオとなる。なおHDMI端子は、マルチチャンネル信号(最大で192kHz PCMやDSD64)の再生にも対応している。アナログ出力はバランス(XLR)とアンバランス(RCA)を備える。

 オーディオ回路には、高精度水晶発振器を44.1kHz系と48kHz系のふたつ備え、低ジッターの高精度デュアルクロックとしている。アナログ回路もフルバランス設計とし、ノイズの影響の少ない高品質を実現した。ESSのES9038Q2Mを2基使用したダブルディファレンシャル構成のDAC回路と併せて、音質にも妥協のない設計を採用している。税別16万円という価格を考えると、お買い得とさえ感じてしまう力の入った内容だ。

フロントパネルのタッチスクリーンから各種設定や操作が可能。専用アプリ「EversoloControl」でも同様のことができるので、使いやすい方を選べばいい

 この他フロントパネルにタッチ操作が可能な6インチ・フルカラーディスプレイを採用し、音源などを保存するストレージ用として、M.2 NVME3.0 SSDスロット(最大4Tバイトまで増設可能)も装備している。外付けCDドライブを装着することでCDリッピングも可能だ。さらにスマホ/タブレット用アプリ「EversoloControl」も用意しており、ここから手軽に設定・操作もできる。

 DMP-A6 Master Editionの取材機をわが家の試聴室に設置してみたが、横幅は270mmとコンパクトで、デスクトップに置いて直接タッチスクリーンで操作しながら使うにも適していると感じた。WiFiとBluetoothには非対応なので、ネットワーク接続は有線で行い、アナログバランス出力をベンチマークのプリアンプ「HPA4」に接続、パワーアンプ「AHB2」を介して、B&Wのスピーカー「Matrix801 S3」を鳴らしている。

 プリインストールされているApple Musicアプリからいくつか楽曲を聴いてみたが、色づけの少ない音調で、情報量豊かな音が楽しめた。比較するまでもないが、スマホのApple Musicアプリでの再生などとは基本的な情報量や音楽としての充実度に大きな差がある。

 続いてAmazon Musicアプリで宇多田ヒカルの「Science Fiction」を聴いてみた。HD音質に対応していて声の質感もよく出るし、伴奏のビートの効いたリズムも豊かに再現される。Amazon Musicがこれだけの音質で楽しめることに感心したし、楽曲の充実度を含めて満足度は高い。

 映画『グレイテスト・ショーマン』のサントラも、冒頭のささやくような歌声の鮮明な再現やサーカス団員による無数の足音の迫力、個々の音のきめ細かな再現もしっかりと聴き取れ、映画のワンシーンを思い出させてくれる臨場感豊かなサウンドを楽しめた。

実は動画も楽しめる!? ネット動画コンテンツとは思えない音に驚く

「EversoloControl」をインストールしたiPhoneにLightning-HDMI変換アダプターを装着し、そのHDMI出力をプロジェクター「DLA-V90R」につないでみた。アプリの操作画面が120インチスクリーンに再生され、ここからPrime VideoやYouTubeの動画を楽しむことができた

<当日の主な試聴機器>
●アンプ:ベンチマーク HPA4AHB2
●スピーカーシステム:B&W Matrix801 S3
●プロジェクター:ビクター DLA-V90R
●有機ELテレビ:レグザ 55X9900L

 先行発売されたDMP-A8では、ユーザーからの要望としてストリーミングの動画サービスも視聴できないのかという問い合わせが多く来ているそうだ。Android OS対応機ならアプリさえインストールできればいいわけで、実際DMP-A8、DMP-A6 Master Editionとも動画再生も不可能ではない。

 ただし、動画サービス用アプリはプリインストールされてはおらず、自前でアプリ用のプログラムを入手し、USBメモリー経由でインストールする必要がある(詳しくは販売店にお問い合わせください)。現在のところ動作が確認できているのはAmazon Prime Videoで、この他、ブラウザアプリをインストールすればYouTubeの再生もできた。

 再生アプリをインストールしたら、本体ディスプレイやスマホからの操作により動画コンテンツの表示と鑑賞が可能だ(映像は前面パネルのディスプレイ、またはスマホ画面に表示)。YouTubeでは『THE FIRST TAKE』をいくつか見てみたが、音質については驚くほど優秀。手近な比較対象で言うと、Apple TV 4Kを使ってAVアンプ経由で再生するのとは、ヴォーカルの声の抑揚や質感、伴奏の楽器の音色の生々しさなどでかなりの違いを感じた。

 ハイファイオーディオ用の機器ならではというか、ノイズ感の少なさで音の粒立ちや分離もいいことがわかるし、色づけの少ないニュートラルな音調でストレートに美しい歌声が再現された。これならばYouTubeの様々な音楽コンテンツで、品位の高いオーディオ鑑賞が楽しめるはずだ。

 物足りないのは、映像が6インチのディスプレイということ。そこでスマホ用アプリ「EversoloControl」を使って、スマホ画面をもっと大きな画面に写してみることにした。

専用アプリ「EversoloControl」からは、入力ソースや出力ポートの選択といった基本操作に加え、同一ネットワークにつないだNASなどを呼び出し、そこに格納した音楽ファイルの再生なども行える

「EversoloControl」のメイン画面から「同画面」→「アプリ」を選ぶと、インストールした各種サービスのアプリが表示される。ここでアプリを選ぶと各種サービスが楽しめる仕組み

 具体的には、iPhoneに市販のLightning-HDMI変換アダプターをつなぎ、そのHDMI出力を薄型テレビやプロジェクターに接続して大画面に表示してみようという狙いだ。Apple純正品の販売が終了してしまったので、今回はサードパーティーのLightning-HDMI変換アダプターを使って試したが、きちんとプロジェクターの120インチ大画面に表示することができた。解像度は水平1920×垂直1080画素のフルHDだ。

 ただし、スマホアプリ画面をそのまま拡大しているので、動画だけの全画面表示ができず、本編映像の周囲に操作のためのアイコン表示スペースが残ってしまう。また解像度はフルHDから変更はできないなど、多少物足りない面もある。このあたりは、アプリのアップデートに期待したいところだ。Zidoo Technology自体は薄型テレビ用の動画ストリーミング用TV BOXを発売しているので、技術的には対応は不可能ではないだろう。

 この状態で、Prime Videoで数本の映画を見てみた。音声はステレオになってしまうものの、音質自体はかなり優秀。『2001年宇宙の旅』で「美しく青きドナウ」が流れるシャトルと宇宙ステーションのランデブーの場面を見たが、美しいワルツの調べと、踊るように宇宙に浮かぶシャトルのロマンチックなシーンを楽しめた。音質がいいので、現在からするとやや古い録音のニュアンスが忠実に再現されていることも含めて、何十年も前に見てほれぼれとした感覚が蘇ってくるし、そうした質感がしっかりと再現される情報量の豊かさに改めて感心した。

 このほか最新映画も見てみたが、音はステレオ再生であっても、なかなかの立体感で充分な迫力を感じたし、爆発音やエネルギー、情感のこもったセリフの表現など、かなり魅力的だ。

 アプリのインストールやHDMI変換アダプターなど多少手間はかかるし、4K解像度の映画もすべてフルHDになってしまうので、画質的には物足りなさもあるが、音質としてはかなりレベルの高いものになった。音楽ライブや音楽を題材にした映画など、音が重要な作品を見るならば、こうした構成で楽しむのも充分にアリだと思う。

動画ストリーミングの映像はスマホ/タブレットからテレビにつないで再生する

 DMP-A6 Master EditionやDMP-A8に搭載されているHDMI端子はオーディオ用で、この端子をテレビにつないでも映像信号は出力されない。そのため動画ストリーミングの映像をテレビ等に写したい場合には、アダプターを使ってミラーリングする必要がある。今回はiPhoneやiPadを使って動画ストリーミングを再生し、その映像をアダプター経由でテレビに表示した。

鳥居邸での取材時は、iPhoneにインストールした「EversoloControl」でPrime Videoを再生し、サードパーティ製のLightning-HDMI変換アダプター(左写真)を使ってテレビやプロジェクターに映像を表示した。2K映像からのアップコンバートのため、120インチでは少々絵が甘く見えるところもあるが、55インチ薄型テレビ等なら普通に楽しめるクォリティが実現できていた

iPad Airでの再生も試してみた。USB C-HDMI変換アダプターを使って薄型テレビにつないでみたが、iPadの画面がアスペクト比1.4:1のため、映像の表示されるサイズがiPhoneよりも小さくなってしまった。Eversoloとの組み合わせで動画ストリーミングを楽しむ場合は、iPhoneの方がお薦めだ

 インターネットのストリーミング音楽サービスがここまで充実してくると、音質に優れたミュージックストリーマーの存在価値はますます大きくなる。DMP-A6 Master Editionならば比較的現実的な価格だし、今まではAVアンプなどに内蔵されている音楽配信機能で代用していた人がグレードアップするならば、DMP-A8も大きな満足を味わえるに違いない。そして、ひと手間かければ動画サービスも楽しめるのだから、活躍の幅はきわめて大きい。音楽ストリーミングサービスを日常的に楽しんでいる人ならば、ぜひとも導入を検討して欲しいモデルだ。

さらに磨きをかけた高音質に感激。「DMP-A8」で音楽や映画を楽しんでみた

 せっかくなので、DMP-A8も同じ環境で視聴してみた。こちらは横幅399mmとフルサイズに近い大きさとなる(ディスプレイ部は同じ6インチ)。両者の違いは主にオーディオ回路で、フルバランス構成は同じだが、電源部はDMP-A8ではオーディオ回路用のリニア電源とデジタル部のためのスイッチング電源のツイン仕様になっている(DMP-A6 Master Editionはスイッチング電源のみ)。

 さらにDMP-A8では、DACチップがAKM製のAK4499EX/AK4191EQによるセパレートDAC採用となり、ボリュウム回路に高精度の抵抗器とリレーで構成されるR2R音量制御回路を採用している。このあたり、オーディオ回路にコストをかけて音質を練り上げたモデルと考えていいだろう。機能的にはDMP-A6 Master Editionとほぼ同じだが、上記の通りHDMI ARCに対応しており、薄型テレビなどと組み合わせてテレビの音声を再生可能という点は異なる。

ミュージックストリーマー/プリアンプ:「DMP-A8」 ¥330,000(税込)

 DMP-A6 Master Editionの上位機となるDMP-A8は、ストリーミング再生(音楽、動画)やハイレゾ対応といった基本仕様は同様だ。大きな違いはDACチップにAKMのAK4191EQ+AK4499EXを搭載し、電源部も強化されている点があげられる。つまり音作りもそれぞれで異なっているわけで、どちらが好みかで使い分けることができる製品ということになる。

DMP-A8はARC対応HDMI端子やアナログ入力端子も備え、プリアンプとしての機能も充実している

 Apple MusicやAmazon Musicで音楽を聴いてみると、音のS/Nや音場の広がりがさらに向上し、立体的なステージが再現される。音質もニュートラルで色づけがない点は共通しているが、DMP-A6 Master Editionが高精細でキメ細かい音を再現するのに対して、DMP-A8は高精細ながらも感触としては滑らかで、音の質感が豊かになったように感じる。声の再現もより厚みがあって肉感的になるし、密度の高い生の声に近い感触となる。DAC部の違いが大きいが、電源部などを含めてトータルで実力が向上している印象だ。

 DMP-A8では、Amazon Musicでこれだけの音質が楽しめる価値が大きいと感じた。筆者はアニメ好きなので、現在放送中のアニメの主題歌やサントラなどをすばやく高品質に楽しめるのも大きな魅力だ。

 続いてDMP-A8と有機ELテレビのレグザ「55X9900L」をHDMIARCで接続し、Prime Videoも見てみた。動画ストリーミングの映画としては、音質はかなり優秀なのだが、DMP-A8の持ち味が活かし切れていないようにも感じた。DMP-A6 Master Editionで動画を表示したときの方が音はいい。

 画質的にはテレビ内蔵アプリで再生したほうが4Kで表示できるので、その差は比較するまでもないのだが、テレビ内蔵アプリを経由するためなのか、あるいはテレビのオーディオ回路の問題か、音質的には不充分。これは薄型テレビ側の問題なので現時点では仕方ないのかもしれないが、DMP-A8のような優れた機器でテレビの音が楽しめるようになってきたのだから、薄型テレビも“音”に力を入れるべきだろう。

 そこでDMP-A8にPrime Videoアプリをインストールし、スマホ画面をLightning-HDMI変換アダプター経由でテレビに表示、音はDMP-A8のアナログ出力を使ってスピーカーから出してみたが、こちらの音質にはやはり惚れ惚れとさせられた。声の質感や表情の変化、音としての充実度がまるで違ってくる。

 DMP-A6 Master Editionとの違いとしては、セリフの情感や感情の変化がよりはっきりと出るし、足音や物音などのリアリティがさらに高まってくるので、緊迫感のあるシーンの没入度が変わる。音楽映画もいいが、ホラー映画などの音響演出に優れた作品などはかなり楽しめるだろう。