『マタンゴ』、『大怪獣ガメラ』、『仮面ライダー』、岡本太郎「太陽の塔」内部の「生命の樹」などに携わった現在90歳の造形作家、村瀬継蔵が総監督を務めた一作。1970年代に香港・ショウブラザーズ(中平康の名前を思い出す方もいらっしゃるだろう)のプロデューサーに依頼され、書き留めたプロットを基に、いま現在の息吹を加えたファンタジー作品だ。

 ストーリーの軸となるのは、「今は亡き特殊美術造形家の時宮健三」、「その孫娘だが、健三の仕事の尊さをよくわかっていない朱莉」、「朱莉の同級生で、大の特撮ファン。もちろん健三のことを大リスペクトしている卓也」の存在か。やがて朱莉と卓也は、「健三が映画を作ろうとしていたこと」を知る。もっともそれが実現するための時間はこの老巨匠になかったわけが、いつしか若者ふたりは、作られなかったはずの映画『神の筆』の世界に迷い込むことになる。

 現実離れしているけれど(だからこそファンタジーなのかもしれないが)、私にはひどく身近に感じられる個所もあった。おそらく世間的に「マニアックなもの」とされる物事に熱中するひとほど、「ああなるほど、わかるよ」とうなずきながら見てしまうのではなかろうか。いかに健三が素晴らしい才能の持ち主であったかを力説する卓也と同じ時間を過ごしていくうちに、朱莉の心が得たのは「理解」というカギだ。そして、祖父の仕事に対する見解をどんどん変えていく。良い人との出会いは、そのひとの感性をポジティブにする。卓也の「オタク心」が、朱莉の視野を広げたのである。脚本・中沢健、出演・鈴木梨央、楢原嵩琉、釈由美子、斎藤工、佐野史郎ほか。

映画『カミノフデ ~怪獣たちのいる島~』

7月26日からTOHOシネマズ日比谷ほかにて全国公開
配給・宣伝:ユナイテッドエンタテインメント
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