ジェームズ・マンゴールド監督『フォードvsフェラーリ』は1966年の物語だったが、こちらのマイケル・マン監督作品は1957年に的を絞っている。この57年、自動車メーカー「フェラーリ」も創立者エンツォ・フェラーリもスランプにあった。経営は悪化し、息子の死もあってかエンツォと妻の関係は冷え冷えとしたものになり、愛人との関係は悪くなかったものの、彼女との間に生まれた男児の認知はかなわない。そのなかでイタリア1000マイルを走るロードレース“ミッレミリア”(この年の開催が最後となった)に取り組んでいく、エンツォの姿が描かれる。

 私の強い関心は「1957年当時のロードレースとは、どんなものか」にあった。観てみると、ものすごく素朴なセッティングである。シートベルトはなく、ちょっとした衝撃が即、死につながっていく感じだ。カメラのアングルは限りなく低くセッティングされていたり、おそらくはレーサーと同じ目線であったり、こちらに不気味な迫力を与えて迫ってくるし、当然ながら凄惨な事故シーンも出てくる。ここから本当にいろんなものが人命のために改良され、今のレース状況に至っているのだなと思うと、相当な感慨がこみあげてくる。

 エンツォはもちろんイタリア人だが、アメリカ映画ということもあってか英語のセリフが実に多い。出演はアダム・ドライバー、ペネロペ・クルス、シャイリーン・ウッドリー、パトリック・デンプシー等。ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督が“現代最高の映画監督の一人”と讃えるマイケル・マンの力作である。

映画『フェラーリ』

7月5日(金)TOHOシネマズ 日比谷ほか全国ロードショー

監督:マイケル・マン
脚本:トロイ・ケネディ・マーティン
原作:ブロック・イェイツ著「エンツォ・フェラーリ 跳ね馬の肖像」
出演:アダム・ドライバー、ペネロペ・クルス、シャイリーン・ウッドリー、パトリック・デンプシー
2023年|アメリカ|英語・イタリア語|カラー・モノクロ|スコープサイズ|原題:FERRARI|字幕翻訳:松崎広幸|PG12
配給:キノフィルムズ
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