「君は人のために死ねるか」という歌があったが、この映画で描かれているのはさしずめ「命がけで人の命を救った人物の一生」だ。主人公は、ドイツ系ユダヤ人二世として英国に生まれたニコラス・ウィントン。第二次世界大戦直前、ナチズムから逃れるためにチェコ・プラハにやってきた大量のユダヤ人難民が、悲惨そのものの毎日を送っているところを彼は見た。そこで考えたのは、子供を列車に乗せて、イギリスに避難させること。なぜポーランドに赴いたのか、活動家とどんなコネクションを持っていたのかも映画本編に描かれているが、とにかく、彼とその仲間たちは、一大プロジェクトを遂行した。イギリスの偉い人への説得、パスポートの発給、里親探し、その他、煩雑な作業を、驚くほどの集中力と「気」でこなした。

 観ながら何度、ハラハラしたことだろう。「お願いだから英国に到達してくれ」、「列車の中にナチスが入り込まないでくれ」、「パスポートが無事に審査を通過してくれ」などなど。だが容赦なく「開戦の日」は来て、一大プロジェクトは断ち切られる。間に合わなかった子供たちはアウシュヴィッツに強制的に送られたという。

 全員を助けることができなかったという後悔は、その後50年ものあいだ、ニコラスの中に残った。が、助かった人たち――当時の子供たち――は中年や老年になってもなお、人道を基本とする青年ニコラスを心に住まわせていた。

 もうちょっと人間社会に希望を持ってみようか、という気分にさせる一作。老境に入ったニコラスには2度のアカデミー賞に輝くアンソニー・ホプキンス(『羊たちの沈黙』『ハンニバル』など)、若き日の姿にはジョニー・フリンが扮する。映画には「助けられた子供たち」の親族も多数登場しているという。監督はジェームズ・ホーズ、脚本はルシンダ・コクソン。

映画『ONE LIFE 奇跡が繋いだ6000の命』

6月21日(金)新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町、Bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下ほかにて全国ロードショー

監督:ジェームズ・ホーズ 脚本:ルシンダ・コクソン ニック・ドレイク
出演:アンソニー・ホプキンス ジョニー・フリン レナ・オリン ロモーラ・ガライ アレックス・シャープ マルト・ケラー ジョナサン・プライス ヘレナ・ボナム=カーター
2023年/イギリス/英語/109分/カラー/ビスタ/原題:ONE LIFE/字幕翻訳:岩辺いずみ/G
提供:木下グループ 配給:キノフィルムズ
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