ドイツ北部のキール市を本拠とするエラックからSolano 280シリーズの最新モデルが日本上陸を果たした。2ウェイ・ブックシェル型のBS 283.2と2.5ウェイ・トールボーイ型のFS 287.2、それにセンター用横置き型2.5ウェイ機のCC 281.2である。2021年に発売された280シリーズの第2世代機ということになる。今回のマーク2化の最大の特長は、2023年に完成した最新ハイルドライバー型トゥイーター「JET6」の搭載。今回の「夏のベストバイ」選考時に聴いてその音の良さに大きな感銘を受けた上位VELAシリーズに続く、JET6搭載モデルになる。 ちなみにSolano(ソラノ)とはスペイン語で風。バルト海に面したキール市は、世界最大級のセーリング・イベントが開催されており、エラックのスピーカーは海を連想させる名前が付けられるケースが多いようだ。

Solano 280.2 シリーズのラインナップ

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最新世代ハイルドライバー「JET6」などVELA由来の技術が光る設計

 25mmドーム型トゥイーターの10倍(JET6の場合)の振動板面積を持つハイルドライバーは高いパワーハンドリングと高S/N、低歪みを特長とする。10年もの間、最新であり続けたJET5からJET6への進化ポイントを挙げると、まず振動板のカプトンにプリントされた導電アルミニウム・パターンの厚みに変化を持たせて振動板の質量分布に変化を与えたこと、カプトンの畳み幅を従来の2パターンから数種類の複雑な組合せにしたことの2点が大きい。結果、共振の低減と歪みの改善、周波数特性の平坦化に寄与したという。また、最新の音響解析によって設計された、理想に近い放射特性を持つウェーブ・ガイドが装着されている。

 ウーファー口径は3モデルともに15cmで、ドイツ・クルトミューラー製パルプコーンにアルミニウムを貼り合わせたエラック製品でお馴染みの手法が採られている。ちなみにVELAシリーズで採用されているコーンの強度を高める「クリスタル・ライン」と呼ばれる表面処理は採用されていないが、オリジナル機同様、共振を抑える堅固なアルミダイキャスト製フレーム・バスケットが用いられている。

 エンクロージャーは高密度MDF材で、アルミ製の堅牢なベース部にマウントされることで制振効果を上げ、低重心な音調を実現している。BS 283.2のグラスファイバー製フレア型バスレフポートは底面にあり、360度方向に音波を放射、壁面の影響を受けにくいように設計されている。FS 287.2はこのダウンファイヤリング型ポートの他に背面にもバスレフダクトが用意され、ダブルポートで低音の増強を図っているのも興味深い(センター用のCC 281.2はリアポートのみ)。

 クロスオーバーネットワークは、磁気歪みを排除するため空芯コイルが使われており、ウーファー用のローパスフィルター基板とトゥイーター用ハイパスフィルター基板は相互干渉を防ぐためにセパレートされている。内部配線材はヴァン・デン・ハル製、ウーファーからの逆起電力をキャンセルするのに有効なバイワイアリング接続に対応している。

 

エラックのスピーカーで大きな特徴となるハイルドライバー型トゥイーター「JET6」。前モデルのJET5に比べて材質にほとんど変更はないものの、振動板の折り畳み方を複雑にする等のブラッシュアップを経て、共振の低減やリニアリティの向上が図られた。振動板のほか、フロントプレートの開口部の大きさも改良を加えている

 

 

声の描写力、立体感は戦慄もの。バイアンプ駆動でさらなる実力を発揮する

 ではBS 283.2とFS 287.2、それぞれのスピーカーを2チャンネル再生で音の素性を探っていこう。SACD/CDプレーヤーはデノンDCD-SX1 LIMITED、AVセンターはデノンAVC-A1Hだ。

 まずBS 283.2から。前モデルに採用されていたJET5に比べて振動板面積が2割ほど大きくなったJET6を搭載した良さが瞬時にわかる、実在感に満ちた浸透力の高いサウンド。パワーリニアリティもきわめてよい。音量を上げていっても音が飽和せず、小音量でも音が痩せないで、芯のある音で音楽の姿かたちをしっかりと描写するのである。スペック表にある能率の表記は85dB/2.83V/mとかなり低いが、聴感上はもっと高感度なスピーカーに思える。

 サックス奏者ティム・リースのソロ・アルバムのSACD『ザ・ローリング・ストーンズ・プロジェクト』からノラ・ジョーンズがヴォーカルを取る「ワイルド・ホース」を聴く。彼女のややかすれた声がスピーカーにまとわりつかず、スッと抜けてじつに生々しい。ティム・リースが吹くソプラノ・サックスの音色も艶やかだ。それから音場表現も出色で、幅と高さと奥行を伴なったサウンドステージが出現し、その立体感のすばらしさに声を失った。

 15cmウーファーを2基用いてスタガー動作させた(下側は450Hz以下、上側は2.4kHz以下を受け持つ)FS 287.2は、低音再生に余裕を感じさせ、いっそうスケールの大きなサウンドを聴かせるが、エネルギーバランス、音色など音調そのものはBS 283.2とたいへんよく似ている。部屋の広さに応じてどちらを選ぶかを決めればよいのではないかと思う。

 本機のバイワイアリング対応のスピーカー端子を利用して、パッシブ・バイアンプ駆動(スピーカー内蔵のクロスオーバーネットワークを使いながらウーファー、トゥイーターそれぞれにパワーアンプをあてがう手法)を試してみた。

 ノラ・ジョーンズの歌う「ワイルド・ホース」でその効果を試してみたが、まず音像定位がぐんと安定することが実感できた。エネルギーバランスもいっそう中低域が充実して聴き応えが増すと同時に、ドラマーのブラッシュワークがより鮮明に浮き上がってくることがわかった。ウーファーの逆起電力の影響が抑えられることで、トゥイーターの振る舞いがいっそうスムーズになったからだろう。

 オノ セイゲンがリマスターし、コンパイルしたSACD『Jazz,Bossa and Reflections Vol.1』からオスカー・ピーターソン・トリオの「You Look Good To Me」を。パッシブ・バイアンプ駆動の効果もあるのだろうが、冒頭のベースのアルコ奏法(弓弾き)がぐんとフレームアップされ、じつに生々しい。低域の伸びと量感もBS 283.2をはるかに凌ぐ再生となった。サウンドステージの広がりもすばらしく、BS 283.2以上に音場に透明感がある。

 アンドレア・バッティストーニが東京フィルハーモニー交響楽団を指揮した伊福部昭の「シンフォニア・タプカーラ」の演奏もすばらしかった。キレのよいリズムで刻まれる低弦の厚み、ストレスなく朗々と鳴り響く管楽器、オーケストラ・サウンドの醍醐味を満喫した。やはりこのスケール感はダブルウーファー・システムならでは、だろう。小型2ウェイ機のBS 283.2との違いを実感させられた。

BS 283.2とFS 287.2のバスレフポートはダウンファイヤー型。トールボーイのFS 287.2はそれに加えて背面にもポートを設置している

 

スピーカーターミナルは3モデルともにバイワイアリング接続に対応

 

 

5.1ch再生の臨場感もたっぷり。L/C/Rのウーファーが揃うのも◎

 最後にスクリーン下にセンタースピーカーのCC 281.2を置き、フロントL/R用にFS 287.2、サラウンドL/R用にBS 283.2を、サブウーファーに本誌リファレンスのイクリプスTD725SWMK2を充てて5.1ch再生を試すことにした(UHDブルーレイはパナソニックDMR-ZR1で再生)。

 ここで重要なのが、センタースピーカーCC281.2のセッティングだ。音が下から聞こえる違和感を少なくするため、スクリーン下端ぎりぎりまでウッドブロックを用いてCC 281.2を持ち上げた。こうすることで、床の一時反射の悪影響を抑えることもできるわけだ。ちなみに輸入元では、本システムに組み合わせるサブウーファーとしてVARROシリーズのPS250、RS500を推奨している。

 この5.1チャンネル再生は、予想をはるかに上回るすばらしさだった。360度方向に広がる音場が緊密に、濃密に結合し、音に取り囲まれる悦楽に心地よく身を委ねる結果に。やはり、5チャンネルすべてのスピーカーのユニットが同一であるメリットが大きいのだろう。とくにフロントL/Rとセンターのウーファー口径が揃っている利点に注目したい。センタースピーカーがフロントL/Rよりも小口径の場合、いくらテストトーンで音圧を揃えたところでエネルギーバランスの不均衡が生じて、フロントチャンネルの音がうまく溶け合わないことが多いのである。これなら、センターレスの4.1ch再生のほうが良いという結果につながっていく。また、CC 281.2のヴォイシングもじつに丁寧。映画のダイアローグ、声の帯域のリニアリティが良好で、感情の起伏が手に取るようによくわかるのである。

 UHDブルーレイの『エルヴィス』のステージ・シーンは、客席を埋め尽くす女性たちの嬌声とバンド・サウンド、低音の不気味な効果音が加わった混沌とした音響設計の魅力が手に取るようにわかり、そのサラウンドサウンドの精緻さは最新の映画館以上だと確信した。同じくUHDブルーレイの『ソウルフル・ワールド』のジャズクラブの演奏シーンの臨場感の豊かさにも心が躍った。クラブを出て深夜の路上でかわされる会話、深い静寂の中ですっと声が浮き上がってくる本システムのトランジェントの良さにも驚かされた。
 エラックの最新Solano 280.2シリーズ、価格の枠を超える魅力を持ったスピーカー群であることを確信させられた今回のテストだった。

 

本記事の掲載は『HiVi 2024年夏号』