リビングルームのオーディオシステムの一員として、広く親しまれてきたプリメインアンプが、いま大きく変わり始めている。入力を選び、音量、音質を調整して、増幅するのがこれまでのスタイルだが、そこに多彩な音楽配信サービスやミュージックサーバーからの音源が楽しめる「ネットワークオーディオ機能」が加わり、さらにスマホの音源が手軽に楽しめるBluetoothへの対応、テレビとの接続を想定したHDMI ARC端子の装備と、各種メディアに対する守備範囲がにわかに拡大中だ。

 プリメインアンプが変革期を迎えているわけだが、昨今の音楽の聴き方、映画の楽しみ方を考えると、これは当然のことだ。私自身、リビングルームでは、日常的にSpotifyやAmazon Musicで音楽を聴いているし、映画やドラマの鑑賞も、テレビ放送やその録画再生あるいはネット動画サービスを利用することが多い。最先端のプリメインアンプであれば、これらのメディアをすべて受け止め、お気に入りのスピーカーシステムで楽しめるというわけだ。

 

Integrated Amplifier
MARANTZ MODEL M1
¥154,000 税込

● 型式:プリメインアンプ
● 出力:100W+100W(8Ω)
● 接続端子:デジタル音声入力3系統(光、USB Type A、HDMI eARC/ARC)、アナログ音声入力1系統(RCA)、サブウーファープリ出力1系統、LAN1系統
● 寸法/質量 : W217×H84×D239mm/2.2kg
● 問合せ先:デノン・マランツ・D&Mインポートオーディオお客様相談センター ☎︎ 0570(666)112

 

 

マランツの新世代アンプとしての妥協なしの音質と小型化を同時に図る

 ここで紹介するマランツのMODEL M1はまさにこうしたニーズにすべて対応できる極めて先進的なプリメインアンプである。まずこのデザインに注目していただきたい。マランツでは3年半ほど前に、各コンポーネンツの外装エクステリアを「ニューデザイン」へと全面刷新し、大きな成果をあげている。

 無駄な装飾を省いたシンプルなデザインは、明らかにミニマルな方向を目指しているが、これは周辺の環境に対して強く主張するのではなく、むしろオーディオ機器からユーザーやインテリアに調和していくというメッセージでもあった。

 手触りまでこだわったというソフトフィールフィニッシュが特徴的なMODEL M1のデザインも、明らかにその延長線上にある。同社の歴史の流れのなかで培われた伝統を継承しつつ、そこからさらに一歩踏み出し、近未来を感じさせるような仕上がりと言っていいかもしれない。

 本体は横幅217mm、高さ84mm、奥行239mmと非常にコンパクト。前面には音量増減、再生/一時停止を操作するタッチセンサーと、動作状況を知らせるステータスLEDしかないという簡潔さだ。

 小型のお洒落プリメインアンプであることは間違いないが、そこはマランツが手がける次世代のプレミアムモデル、随所にHi-Fiアンプの流儀が溢れている。

 まずシャーシ設計の考え方だが、前面、側面は様々な工夫、細工が施しやすい一体型の樹脂製とし、天板部分には複雑で、細かなうねりを伴なった網目状のステンレス製部品「ウェイブド・トップ・メッシュ」を開発、採用している。同社のプレミアムモデルではアルミニウム製天板を採用するケースがほとんどだが、MODEL M1ではそこからさらに一歩踏み込み、開口部が広く、放熱特性にも優れたメッシュ状の非磁性体の天板を採用した格好だ。同時に回路部分を支える底板部分には、放熱と高剛性化の両立のために4mm厚のアルミベースプレートを配置するというこだわりようだ。小型筐体でありながら、フルサイズコンポーネントに負けない雄大な空間表現と開放的なサウンドを実現するのが狙いだ。

 回路設計も実に先進的だ。まずアンプ部だがオランダのAxign社との共同開発によるPWM(パルス幅変調)方式のD級アンプを4チャンネル分搭載、BTL接続でステレオスピーカーを駆動する。スピーカー出力の直前からフィードバックをかけるポストフィードバック処理で、全周波数帯域において低歪み再生を目指す。

 デジタルフィルターは同社のSACD/CDプレーヤーで実績のあるMMDF(Marantz Musical Digital Filtering)を採用。D級アンプの音質を大きく左右するローパスフィルターについては、多くの候補から慎重に吟味した結果、16chパワーアンプAMP10で採用した高品質コイルがベストと判断。特性を合わせ、ダウンサイジングして組み込んでいる。ちなみに電源回路には高効率で、動作変動の少ないスイッチング電源を専用に開発している。

接続端子は吟味された必要最小限の搭載となるが、ストリーミング音楽再生やスマホなどのBluetooth再生、テレビなどとの連携は万全対応。リビングルームでのオーディオ再生が、いまどうあるべきかが徹底的に考え抜かれたことが反映されている格好だ

 

 

アンプとしての素性のよさを実感。駆動力の不安のない自然体の音

 視聴は山中湖ラボのシアタールームとリビングルーム、そしてHiVi視聴室の3箇所で行なっている。まず山中湖ラボのシアタールームでウエストレイクLc4.75スピーカーとの組合せで、そのサウンドを確認していこう。まずは内蔵のネットワークオーディオ機能HEOSでハイレゾ音楽配信サービス(Amazon MusicやTIDALなど)を試聴。なおMODEL M1には専用リモコンは付属しておらず、基本操作はHEOSアプリ、あるいは前面のタッチパネルで行なうことになる。

 「First We Take Manhattan/ジェニファー・ウォーンズ」、「Desperado/リンダ・ロンシュタット」など、女性ヴォーカルを中心に聴いたが、すぐに、音の静けさ、質感の滑らかさから、アンプとしての素姓のよさが感じ取れる。楽器の響きの細やかな質感、声の息づかい、ニュアンスの生々しさと、細かな描写が克明で、明瞭度が高い。アコースティックギターの響きの細かな揺らぎや、ヴォーカルのビブラートも鮮明に描き出し、輪郭の際立つような違和感もない。このあたりのニュートラルな表現力は、まさにマランツのプレミアムアンプの伝統を受け継ぐサウンドである。

 S/N感に不安がないだけでなく、デジタルアンプで時折、気になるカサつきや刺々しさは皆無。アナログ入力でCD再生も確認したが、音質傾向は変わらず、落ち着きのある自然体のサウンドという印象だ。

 Lc4.75は4インチウーファーを装備した小型ブックシェルフだが、まがりなりにもスタジオモニターの血統を受け継ぐウエストレイク製のスピーカーであり、その持ち味を引き出すのはそう簡単ではない。ところがMODEL M1との組合せでは、駆動力に不安はなく、音量を思い切って上げても、帯域バランスがくずれず、足元が揺るがない。この安定感は立派だ。

山中湖ラボのリビングルームでウエストレイクのスタジオモニタースピーカーLc4.75と組み合わせた。小型ではあるが業務用途にも使われるだけあって、高いアンプ駆動力を要求する難しいスピーカーなのだが、MODEL M1は朗々かつ闊達にドライブした

 

ちょうどレグザの動画チャンネル撮影のために仮設取材していた100インチ液晶テレビとの連携を試した。100インチの迫力画面にバランスするようなパワフルな音が引き出せ、オーディオビジュアルとは画面と音の掛け算だと再認識した

 

 

100インチ映像とのフィットする迫力のある正攻法の音づくりが魅力的

 このシステムをそのままリビングルームに移動して、レグザの100インチ液晶テレビ100Z970Mと組み合わせてみよう。MODEL M1は当然、HDMI ARC対応だが、加えてテレビリモコンのメモリー機能を備えている。このため光デジタル接続でも電源オン/オフ、入力切替え、音量調整など、テレビのリモコンがそのまま使用可能だ。HDMI接続のほかに光デジタル接続を実際に試してみたが、これがなかなか快適だ。テレビの電源を入れると、連動してMODEL M1の電源もオンに変わり、本機につないだウエストレイクスピーカーからテレビ放送の音声が出力される。音量もテレビ内蔵スピーカー感覚で調整が可能。光デジタル接続でこの快適さが得られるのは貴重だ。

 HiVi視聴室でのパナソニック・ビエラの65インチ有機ELテレビTH-65MZ2500との組合せでは、HDMI接続の連携動作を中心に試してみたが、電源オン/オフ、音量調整と反応は良好。安定した動作を確認することができた(スピーカーはモニターオーディオPL300Ⅱを用いた)。

 65インチ有機ELテレビ、さらには100インチの液晶テレビの巨大な映像と対等に渡り合うだけのサウンドが獲得できるだろうか。特に100インチ画面のスケールに見合ったサウンドとなると、相当ハードルはあがるが、これが予想以上にフィットする。過度な演出をしない正攻法の音づくりということもあるが、男性、女性を問わず、声、セリフの明瞭度が高く、その声からそれぞれの個性、キャラクターがしっかりと感じ取れる。まさに100インチ映像の楽しさを大きく押し上げてくれるサウンド。映像と音のバランスの重要性を再認識することができた。

 Apple TVデジタル購入版の映画『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』の再生でも、実在感に富んだセリフを中心に、効果音、音楽の拡がり、臨場感を盛り上げる。普段シアタールームで楽しんでいるアトモス再生とは異なり、2ch再生であることもあって、空間に包みこまれる感じがなく、また聴き始めはもう少し低音感が欲しい印象もあったが、時間の経過とともに、音離れの良さと、ほどよい量感が感じられるようになり、知らず知らずのうちに不満は解消されてしまった。

 奇をてらうことなく、あるがままに聴かせるという、生成りのサウンドはいかにも玄人好みだ。あくまでもHi-Fi調の音づくりに徹しているため、一聴して少し大人しい調子に感じられるかもしれないが、これは言わば、音を足すことなく、あるいは引くことない、本来あるべきサウンドの表現なのである。じっくり聴き込んでいくと、そこに様々な情報がしっかり折り込まれていることに気がつくに違いない。デザイン、機能性、そしてサウンドで、新世代のプリメインアンプの理想を追求した注目作。購入したその日から、一躍、リビングルームの主役に躍り出ることになるだろう。

小型サイズながら内部は高音質のための工夫が徹底的に盛り込まれている。4mm厚アルミニウム製ベースシャーシに電源やアンプ回路、デジタル処理回路などを高密度に組み込む。最上段にはメイン基板が通常とは反転するようなかたちで搭載。ファンレス構成でありながら、適切な放熱を実現しつつ小型化も同時に実現した

 

 

本記事の掲載は『HiVi 2024年夏号』