ファン待望の『トゥルーライズ』と『タイタニック』UHDブルーレイの実力検証

AV再生はついにここまで来た!
LD時代の大傑作から新たな感動を実感

麻倉怜士 × 潮 晴男(取材)
伊藤隆剛(構成)

── ここではジェームズ・キャメロン監督の『トゥルーライズ』と『タイタニック』のUHDブルーレイを、それぞれ旧盤と比較しながら視聴したいと思います。『トゥルーライズ』の国内盤はLD以降は、DVDビデオが発売されたのみでBD化されず(編註:スペイン盤BDは発売されている)、『タイタニック』は意外にも今回が初のUHDブルーレイ化です。ドルビービジョン/4K & HDR、ドルビーアトモスという、現在考えられるトップクラスのスペックで鑑賞するに相応しい2作品ですから、今日は再生機器もハイエンド志向の組合せで考えてみました。

麻倉怜士(以下、麻倉) ジェームズ・キャメロンといえば、私はやはり『タイタニック』です。LD、BDの2D版と、ブルーレイ3Dと観てきて、豊かな構想力と実行力、そして様々な最新技術を誰よりも早くやってやろうという革新力に常々感心してきました。

潮晴男(以下、潮) 私が一番好きなキャメロン作品は『ターミネーター2』ですが、もちろん今日視聴する2作品も大好きです。以前、麻倉さんと一緒にロサンゼルスのPace(ペース)という3Dカメラメーカーを訪問したことがあります。キャメロン監督はそこで細かな意見交換や指示をしながら『アバター』などの3D作品を作り上げたそうです。もちろん音にも並々ならないこだわりがあり、映像と音の総合力で映画づくりに取り組んできた、現代を代表するフィルムメイカーのひとりだと思います。

麻倉 HiVi読者も折に触れて観てきた2作品だと思いますので、今回のUHDブルーレイも気になっている方が多いのではないでしょうか。ご自身の視聴環境で再生する際のヒントにしていただければと思います。

 

4K映像そしてアトモス音声で没入度が大幅上昇した『トゥルーライズ』

── まずは接続①のシステムにより『トゥルーライズ』の既発DVDビデオと最新のUHDブルーレイを観てみました。再生したのは、橋の上をクルマで走るテロリストの集団にハリアー戦闘機によるミサイル攻撃が指示されるチャプター32です。DVDビデオは4:3フォーマットにスクイーズ収録されたSD映像を、パナソニックDMR-ZR1側で4Kアップコンバートしています。音声はドルビーデジタル5.1chを再生しました。

接続①

AVセンターはセパレート仕様のマランツAV10+AMP10を用いた。接続①ではAMP10の16chアンプのうち、6ch分をフロントL/C/RにBTL駆動で用い、残りの10ch分をサラウンドL/R、サラウンドバックL/R、オーバーヘッド×6本の駆動に充てた

麻倉 『トゥルーライズ』は1994年作品ですから、ちょうど30年前の作品となるわけですが、このシークエンスのアクションはまるで古さを感じさせません。観る者を単純に喜ばせるのではなく、いろんな意味でのアップ&ダウンを繰り返しながらピークに向かって盛り上げていく。そんなキャメロンのドラマツルギーが際立っています。空と陸の同時進行であり、陸ではテロリスト集団のバンと主人公の妻が誘拐されているリムジン、空にはハリアーとヘリが飛び交うという入り組んだシチュエーションですが、それぞれの要素をしっかり見せながらエンタテインメントとして成立させているのが凄いですね。

 壮絶な攻防が繰り広げられますが、根底にユーモアのあるシークエンスです。

麻倉 4Kアップコンバートの効果もあり、DVDビデオはこの画面サイズで観ても思ったより好印象でした。ディテイルや階調の点など細かくいえば「ああ、SD映像だな」とは思いましたけれども。思い起こすと、本作は、LD時代からよくリファレンスに使ったものです。この映画が公開された1994年というと、ちょうど私がバルコの三管式プロジェクターを導入した時期にあたります。

 UHDブルーレイでは、ぐっとディテイル感が出てきました。登場人物の表情から海上の波のテクスチャーまでよく再現されていた。35mmフィルムで撮られた作品ですが、オリジナルのフィルムにはこれだけの情報が詰まっていたんだなと思わせる情報量の多さです。音については、サウンドエフェクトとダイアローグがともに存在感を増していました。特にダイアローグでは、シーンごとの空間表現がていねいなので、作品への没入度が確実に上がりました。

麻倉 階調の表現性が格段に上がりましたね。DVDビデオは、ハイコントラストなややビデオルックな映像のタッチだったけれども、こちらは総じてフィルム的。そして、暗部も明部もグラデーションがとても滑らか。また、表現力が全体的に向上したことにより、女性どうしが壮絶な格闘を繰り広げるリムジンの車内と車外の合成感など、逆に作品の裏側までよく見えるようになりました。ドルビーアトモスの効果も絶大でしたね。ハリアー戦闘機やヘリが頭上を飛ぶ様子などが明確に表現されていました。潮さんも指摘されたダイアローグの再現性の高さは、主人公のハリーがヘリの足にぶら下がり、妻のヘレンをリムジンから引き上げるシーンが印象的でした。様々なサウンドエフェクトが飛び交う開放的な音場のなかで、ハリーの“Come on, baby.”というひと言をぐっと集中して聴かせている。

 特にこのシークエンスは高さ方向の演出が重要ですから、キャメロンにとってはドルビーアトモスによってようやく本来の意図が実現できたという思いがあるのではないかと思います。ハリアーの移動感やミサイルの軌跡まで指差し確認できるほど緻密なサウンドデザインが施されていますね。

── スピーカーシステムはB&Wの800 D4シリーズを中心とした構成です。アンプはマランツAMP10で、L/C/Rは6ch分を使ったBTL駆動、これにLS/RS/LSB/RSBの4chとオーバーヘッドの6chを加えた全16ch再生としました。

 ダイアローグの表現力の高さに関しては、センターのHTM81 D4の能力によるところが大きかった印象ですね。また、中低域の充実ぶりにはフロントL/Rの803 D4の貢献を強く感じました。

麻倉 力強さとナチュラルさが同居しており、それがダイアローグの表現力やサウンドエフェクトのバランス、音楽のバランスに表れていたと思います。AMP10は私も自宅で使用していますが、16chを過不足なく鳴らすパワーに改めて感心しました。

 それにしても800 D4シリーズで組んだ今日のサラウンドシステムは、モニタースピーカー的な音の細やかさと同時に、映画のパッションを伝える熱量も兼ね備えていますね。800 D4シリーズは素晴らしい音楽再生を行なうスピーカーだという認識でしたが、サラウンドシステムを組んでの映画再生でも実に見事な再現をすると感心しました。

Speaker System
Bowers & Wilkins
800 D4 Series

805 D4
¥1,480,600(ペア)税込 LSB/RSB
● ローズカット仕上げ
● 寸法/質量:W240×H440×D373mm/15.55kg
● スタンド:FS-805 D4(¥184,800ペア 税込)

HTM81 D4
¥1,361,800(本)税込 C
● 寸法/質量:W847×H334×D371mm/32.2kg

804 D4
¥2,618,000(ペア)税込 LS/RS
● グロスブラック仕上げ
● 寸法/質量:W306×H1,071×D391mm/36.85kg

803 D4
¥4,400,000(ペア)税込 L/R
● ローズナット仕上げ
● 寸法/質量:W357×H1,165×D511mm/62.15kg

※備考:サブウーファーとオーバヘッドスピーカーは視聴室リファレンスであるイクリプスTD725SWMK2ならびにイクリプスTD508MK3×6を用いた

● 問合せ先:デノン・マランツ・D&Mインポートオーディオお客様相談センター ☎︎0 570(666)112

 

 

『タイタニック』はBDも見事な出来だがUHDブルーレイの素晴らしさには唖然

── 続きまして、『タイタニック』の既発BDとUHDブルーレイの比較です。視聴したのは、ジャックとローズがタイタニック号の舳先に立って夕焼けのなか愛を語らう有名なチャプター24です。BDの収録音声はDTS-HDMA5.1chですが、DTS-HDMA5.1chを7.1chで再生するAV10の「DTS-HD」モードを使用しました。UHDブルーレイはドルビーアトモスを7.1.6 システムで再生しています。

麻倉 BDでもすでに充分なクォリティです。映像はディテイルや階調感が豊かで、音もきわめてクリアー。音楽の再生も申し分なく、チャプター24でのハミングと楽器の溶け合いが見事です。とはいえ、直後にUHDブルーレイを観てしまうと、それは明らかに違うパフォーマンスに唖然となりました。映像にも音にもUHDブルーレイならではの上位フォーマットのアドバンテージを感じました。映像なら夕景のグラデーションの滑らかさや肌の質感表現。ジャックの髪のオイリーな感じやローズの化粧の粉っぽさが対照的に描かれていますし、音なら視聴室全体を覆うような包囲感が圧巻でした。ハーフドーム状の音場で情感が高まっていきます。分析的にいえば、BDのDTS-HD音声はやや楽器が混濁していましたが、UHDブルーレイのドルビーアトモス音声は、しっかりと分離しながら、アンサンブルとしてまとまっているように感じました。

 確かにアップコンバートされたBDの映像はなかなか綺麗でしたね。背景のノイズ感が少なく、ディテイルもよく出ている。しかしコントラストレンジの広さ、暗部の階調感など、細かいところでは当然かもしれませんが、UHDブルーレイの大きな優位性を感じました。特にHDRの効果が大きいですね。夕陽を受けたジャックとローズの顔のアップでは、ハイライトの部分に細やかな階調が表現されていました。沈没前のタイタニックから沈没後のタイタニックへ、若いローズから現在の年老いたローズへ切り替わる際の色味の対比も、演出の巧みさを鮮明に描きます。音では、やはりUHDブルーレイはダイアローグ、声の再現が素晴らしい。とにかくすべての声に実体感があるので、セリフだけでなく劇伴のコーラスにも魂が宿っていました。

16chパワーアンプ
マランツ
AMP 10
¥1,100,000 税込
● 出力:200W×2(8Ω、1kHz、THD 0,05%、ノーマル・バイアンプ接続時)、400W×2(8Ω、1kHz、THD 0,05%、BTL接続時)
● 寸法/質量:W442×H189×D488mm/19.8kg
● 問合せ先:デノン・マランツ・D&Mインポートオーディオお客様相談センター ☎︎ 0570(666)112

15.4chコントロールAVセンター
マランツ
AV 10
¥1,100,000 税込
● 寸法/質量:W442×H189×D503mm/16.8kg

4Kレコーダー
パナソニック
DMR-ZR1
オープン価格(実勢価格36万円前後)
● 寸法/質量:W430×H87×D300mm/13.6kg
● 問合せ先:パナソニックお客様ご相談センター DIGA・オーディオご相談窓口 TEL.0120-878-982

 

8Kプロジェクター
ビクター
DLA-V90R
¥2,882,000 税込
● 寸法/質量:W500×H234×D528mm/25.3kg
● 問合せ先:JVCケンウッド カスタマーサポートセンター TEL.0120-2727-87
※スクリーンはキクチ グレースマット100(120インチ/16:9)を用いた

 

 

マークレビンソンのパワーアンプを2台追加。800 D4シリーズの潜在能力を垣間見た

── ここで接続②を試してみました。アンプにマークレビンソンのステレオパワーアンプNo5302を2台追加。1台をL/Rのステレオ駆動に、もう1台をCのブリッジ駆動に使用しています。マランツAMP10は、LS/RS/LSB/RSBの4chのBTL駆動(使用するアンプは8ch分)とオーバーヘッドの6chを加えた14ch再生用としました。視聴したのは、嫉妬に狂ったローズのフィアンセが沈みゆくタイタニック号の船内でジャックとローズに発砲するチャプター52です。いかがでしたでしょうか。

接続②

B&W 800 D4シリーズの潜在能力を引き出すために、マークレビンソンのステレオパワーアンプNo5302を2台追加、1台をフロントL/Rに、もう1台をセンターにBTL駆動で割り当てた。残りのスピーカーについては、AMP10の8ch分のアンプを、サラウンドL/RとサラウンドバックL/RにBTL接続で用い、オーバーヘッドスピーカー6本はシングル駆動とし、2ch分を余らせている格好だ

 センタースピーカーのためにNo5302をブリッジ駆動させるという贅沢な組合せですが、その効果は音を聴いても明らかでした。全体的にクォリティレベルが上がっており、接続①で聴いた音とは次元が異なりました。もちろんAMP10だけでも上質な音を聴くことができていたのですが、パワーアンプの追加でここまで印象が変わるとは驚きです。とにかく音の実体感が増し、しっかりとした重さのある音が聴けました。それは人の声だけでなく、風の音や船体の軋む音にも感じられ、船が沈むという絶望感や恐ろしさがよりリアルに伝わってきた。

麻倉 先ほどまでも相当に素晴らしい音でしたので、正直言ってここまで明確に変わるとは思いませんでした。銃声は重くなり、同時に敏捷性やキレ味も増している。いっぽうで、水圧に耐えきれなくなってきた船体がミシミシと軋んでいる音もより恐ろしく感じられます。船内の緊迫した状況が音だけでも伝わってくる。ローズのフィアンセの捨てゼリフの響きも広がりが増しており、センタースピーカーが強化されたことが音に表れていました。

 音のダイナミクスが全体的に高まり、響きにも熱さが加わったようです。

麻倉 そうですね。私は音場の体積が大きくなったようにも感じました。映像と音が相乗効果で高め合っているというか。

 センタースピーカーHTM81 D4のためにNo5302を1台あてがいブリッジ駆動する。そんな贅沢な使い方をしただけの成果がありましたね。やはり物量が込められたコンテンツにはそれ相応の情報量が備わっているものです。その情報量を、情感の伴なった音でしっかり再現していたと思います。800 D4シリーズのサラウンドシステムが秘めたポテンシャルの一端が引き出されていたのではないでしょうか。

パワーアンプ
マークレビンソン
No5302
¥1,320,000 税込 ※1台の価格
●出力:135W+135W(8Ω)、270W+270W(4Ω)、275W(8Ω、ブリッジ接続時)、550W(4Ω、ブリッジ接続時)
●寸法/質量:W438×H145×D527mm/31.7kg
●問合せ先:ハーマンインターナショナル(株)☎︎ 0570(550)465

 

 

大画面かつ高品位な音響で再生すべき、価値あるUHDブルーレイの登場だ!

── 今日は、同じジェームズ・キャメロン監督作品でもまるで方向性の異なる2作品、スパイコメディ大作の『トゥルーライズ』とラブロマンス&スペクタル大作の『タイタニック』を新旧盤で比較視聴してみましたが、いかがだったでしょうか。

麻倉 旧盤をリマスターして新しいフォーマットで出すこと自体はそれほど珍しくありませんが、ここまで価値のあるリマスターとなるとそう多くないと思います。特に『タイタニック』のUHDブルーレイは、新しい体験と言っていいほどたくさんの気づきを与えてくれる盤に仕上がっています。映画史上もっとも多くの人に観られた作品のひとつでもありますから、たくさんの方がこのUHDブルーレイ盤を手に取ってほしいと思います。

 旧盤と比較すると、新盤の2枚は、AVもここまで来たか、という感慨を抱きました。HiVi読者なら何度も観返してきた2作品だと思いますが、今回のUHDブルーレイ盤は過去の感動を軽々と超える仕上がりになっています。視聴環境はみなさんそれぞれ異なるでしょうが、どちらもできるだけ大きな画面で、しっかりとした音響システムで楽しみたい作品であることは間違いありません。今日のようなハイエンド志向の組合せで心ゆくまで堪能できるクォリティを担保した、ジェームズ・キャメロンの映画に対する熱い想いを改めて実感できるパッケージになっています。ぜひ手に入れてほしいと思います。

 

本記事の掲載は『HiVi 2024年夏号』