6月4日発売『ステレオサウンド No.231』の特集は、毎年冬号恒例「ベストバイコンポーネント」で上位に選出された製品の魅力を探る「ベストセラーモデル 選ばれる理由」です。ステレオサウンドオンラインでは、本特集の内容を順次公開してまいります。今回は、スフォルツァートのデジタルファイルプレーヤー 『DSP-Columba』の人気の理由を探求します。(ステレオサウンド編集部)

スフォルツァート DSP-Columba ¥1,500,000(税抜)
トランスポート部
● 対応ファイル形式:DFF、DSF、AIFF、ALAC、FLAC、WAV他
● 対応サンプリング周波数:PCM・~768kHz/32ビット、DSD・~22.5MHz
● デジタル入力:イーサネット1系統(SFP)、USB 1系統(Bタイプ)
● デジタル出力:ZERO LINK 1系統(DVI)
● 寸法/重量:W390×H85×D327mm/9.8kg DAC部
● デジタル入力:ZERO LINK 1系統(DVI)
● クロック入力:同軸1系統(BNC・10MHz)
● アナログ出力:アンバランス1系統(RCA)、バランス1系統(XLR)
● 寸法/重量:W390×H103×D327mm/11.8kg
● 備考:外部クロック付属。2024年7月1日より180万円に価格改定
● 問合せ先:(株)リジェール ☎ 03(6240)1965
● 発売:2023年

試聴記ステレオサウンド 228号掲載

 

ZERO LINK接続による明らかな音質向上。スフォルツァートの画期的な第3世代モデル

 東京都日野市に本拠を構えるスフォルツァートは、日本を代表するネットワークオーディオのトップランナーだ。社名のスフォルツァートは音楽用語で「他の音より強く」を意味しており、音楽記号のs f zをあしらったロゴタイプが誇らしげに描かれている。

 驚くべきことに、スフォルツァートは設計者の小俣恭一氏による、ワンマンカンパニーなのである。取引先や協力企業に恵まれているから成立しているのだろうが、開発から音決めまで一人称で完結しているのが製品の特徴だ。求める音の方向性にブレがなく、意思決定の速さは言わずもがな。昨年の秋からは、国内販売を株式会社リジェールが担当するようになった。販売業務から離れた小俣氏は、研究開発と音質追求に余念がない。

 私はスフォルツァート製品の愛用者である。今から15年前の2009年に創業した同社は、同年10月のオーディオショウでデビュー。その会場でDST01のプロトタイプを見かけた私は、ネットワーク接続のデジタルトランスポートという、DAC回路を持たないスタイルに興味を抱いた。そして、DST01の完成を待って、私は自宅のオーディオシステムに導入。dCSのスカルラッティDACと組み合せることで、私の本格的なネットワークオーディオが始まっている。

 DST01に惹かれたのは、ワードクロック入出力とデュアルAES出力を標準装備していたからだ。dCSとの組合せは理想的だった。アルミニウムの切削加工による堅牢な本体と、別筐体のアナログ電源部という構成も気に入った。当初はPCMのファイル再生に限られていたが、ファームウェアを改めてDSDファイルの再生にも対応。個人的に強く希望していた、10MHzのマスタークロック入力もできるようになった。

 

設計者の設計思想が色濃く反映された製品群

 本誌の人気コンテンツだった「つくりては語る」(2019年秋号)で、小俣氏は「英国リンのDSを聴いて、未来のオーディオはこれだ、と思った」と語っている。また、製品開発においては筐体が高剛性であることに加えて、クロック精度と電源が大切だとも述べていた。私もまったく同感である。スフォルツァートの製品群は、小俣氏によるハイエンドのスピリットに基づいてデザインされている。

 デビュー作のDST01は好意的に受け入れられ、スフォルツァートはDAC回路を搭載するネットワークプレーヤーの開発に乗り出した。そして、DSP03やDSP05、後にはフラグシップのDSP01を発売。これらは、スフォルツァートの第1世代ネットワークプレーヤーである。

 私がいま使っているのは、DSP-Vela。電源部が別筐体の第2世代ネットワークプレーヤーだ。DAC素子には音質に定評があるESSテクノロジーのES9038PROを採用。8回路のDAC素子をモノーラル動作させている、左右合計2基の贅沢な布陣である。10MHzマスタークロック入力の装備はDST01譲りだが、DSP01からは本体にクロック回路を持たず、外部からのマスタークロック供給が必須条件になっている。これは、クロックの相互干渉による音質の悪化を避けるため。かなり思い切った施策だと思ってしまうが、小俣氏は理想を追求したまでなのだろう。DAC機能に特化したDSCシリーズも加わり、マスタークロックのPMCシリーズも充実していった。

 現在のスフォルツァート製品は、PCMの上限が768kHz/32ビットでDSDでは22・5MHzまで再生できるハイスペック仕様に進化している。私の所有機はヴァージョンアップを経て現行機と同等性能になっており、ネットワーク接続にはSFP端子を使う。USB入力を装備しているのも便利だ。

 そんな私が大いに注目しているのが、最新ネットワークプレーヤーのDSP-Columba。DSP-Velaと比べて80万円も安価な設定になっているけれど、音質的に上回っているハイエンド機なのだ。DSP-Columbaは、本誌2023年のグランプリを受賞し、ベストバイでも2位を獲得している。

 

「DSP-Columba」のリア。本機は同社従来のセパレート型の「プレーヤー+電源部」という構成とは異なり、各筐体に電源部を搭載した「トランスポート部+D/Aコンバーター部」という方式を採用している。両機の接続はDVI端子を用いるZERO LINKである。トランスポート部の入力はSFP端子によるLANと、USB-B端子。DAC部の入力はZERO LINKのみである。なお、本機はクロック非内蔵であり、動作用の簡易型10MHz外部クロックが付属する。

 

 同じ2筐体でも、DSP-Velaがネットワークプレーヤー+電源部の構成となっているのに対して、DSP-Columbaはトランスポート+DACの構成。それぞれに余裕を与えた容量のアナログ電源部を内蔵させており、トランスポート~DAC間を、話題のZERO LINK接続にしたのが特徴だ。DAC側がクロックマスターとなって高次のクロック信号をトランスポート側に送り込み、デジタル伝送における非同期動作を完全に排除するというのが、ZERO LINKの画期的な取組みである。そのせいなのだろうか、DSP-Columbaでは、外部供給される10MHzマスタークロックの質的な違いもこれまで以上に感じ取れるようになった。私の手元にあるDSP-Velaは、ZERO LINKが開発される以前の製品である。

 DSP-ColumbaのDAC回路は基本的にDSP-Velaと共通しているが、ファインチューニングが施されている。Roon ReadyなのとDirettaへの対応も継承しており、それも大きな魅力に数えられる。

 

従来機の躍動感に優れる音をそのまま受け継ぎつつさらに緻密な描写を獲得

 エネルギーバランスだけを比べるなら、DSP-Columbaと、私が愛用しているDSP-Velaはそれほど変らない。電流出力DAC素子のES9038PROらしい、躍動感に優れて色彩的にも豊かな音が特徴である。一音一音が鮮明で、瞬発力に優れ積極的な音も私は好きだ。奥行きの深い音場空間の表現を得意としていることも、両機の長所として挙げておきたい。

 しかしながら、音の緻密な描写ではDSP-Columbaのほうが明らかに上回っている。DSP-Velaを愛用している私は、このアドヴァンテージはZERO LINK伝送によるものと確信している。両機共に外部からの10MHzマスタークロックを基に、高性能なクロック・シンセサイザー素子が再生音源に応じた動作クロックを発生させているのだが……。

 スフォルツァートの現行製品(ネットワーク接続機器)は、インターフェイス社の基幹モジュールを採用した。これにより、専用アプリのTaktina(タクティナ)を使った操作ができる。TaktinaではDELAやfidataなどのミュージックサーバーだけでなく、音楽ストリーミング再生ができるのが嬉しい。なかでも画期的なのは、アマゾンミュージックへの対応。日本未導入のTIDAL(タイダル)や、導入計画のあるQobuz(コバズ)も用意されているが、アマゾンミュージックは日本人アーティスト(邦楽)を多く網羅している。DSP-Velaを使っている私も、アプリのTaktinaを利用し始めた。気に入った作品をアマゾンミュージックで見つけたら、そのハイレゾ音源を探すのが楽しみになっている。

クロックジェネレーター

PMC-Delphinus ¥650,000(税抜) (写真上/2024年7月1日より税抜78万円に価格改定)
PMC-Cetus ¥1,500,000 (税抜)(写真下/2024年7月1日より税抜180万円に価格改定)

同社はデジタルファイル再生の要はクロックの精度にあるという考えから、クロックジェネレーターを2機種ラインナップしている。写真は2023年に登場した、OCXO(恒温槽付水晶発振器)クロックを搭載する「PMC-Delphinus」と「PMC-Cetus」。

 

DSP-Columbaの兄弟モデル

DSP-Corvus ¥780,000(税抜)(2024年7月1日より税抜95万円に価格改定)

昨年、「DSP-Columba」と同時に発表された、弟モデルとなる一体型デジタルファイルプレーヤー「DSP-Corvus」。本機は一体型でありながらも、「DSP-Columba」と同様にトランスポート部とD/Aコンバーター部は内部でZERO LINK接続されている。なお、本機もクロックは内蔵しておらず、外部から供給する。

 

株式会社スフォルツァートのWebサイトはこちら

株式会社リジェールのWebサイトはこちら

 

本記事は『ステレオサウンド No.231』
特集「ベストバイコンポーネント注目の製品 選ばれるその理由」より転載