6月4日発売『ステレオサウンド No.231』の特集は、毎年冬号恒例「ベストバイコンポーネント」で上位に選出された製品の魅力を探る「ベストセラーモデル 選ばれる理由」です。ステレオサウンドオンラインでは、本特集の内容を順次公開してまいります。今回は、オーラのプリメインアンプ『VA40 rebirth』の人気の理由を探求します。(ステレオサウンド編集部)

 

オーラ VA40 rebirth ¥250,000(税抜)
● 出力:50W+50W(8Ω)
● 入力感度/インピーダンス:3mV/47kΩ(フォノ・MM)、200mV/100kΩ(ライン)
● 寸法/重量:W430×H76×D350mm/7.4kg
● 備考:2024年7月22日より税抜30万円に価格改定
● 問合せ先:(株)ユキム ☎ 03(5743)6202
● 発売:2023年

試聴記ステレオサウンド 228号掲載

 

邪心のない、躍動感あふれる音。生活空間に溶け込むシンプルさとサイズ感で、豊かで上質な音楽生活を実現する

 ある事象を俯瞰するテーマを与えられたときや比較試聴のようなケースを除き、私は基本的には、文章の対象としているブランド以外の製品について言及することは少ない。他者を絡めて論ずることは、対象物の在り方を明らかにするうえで極めて効果的であり、よりわかりやすくなる場合もあることは承知しているけれども、その場合、他者との比較になりやすく、単純な比較論に陥ることを避けたいという思いがあるからだ。

 比較するということは、優劣をつけることに簡単につながる。でも、そんなに簡単にオーディオ機器の優劣を判定していいのだろうかと私はたびたび悩む。悩んだところで、どこかでいつか、何らかの形でそれを判断せざるを得ないのが私の仕事なのかもしれないが、それはそれとして、比較しなければわからない程度の違いならば大勢に影響はない。比較という作業が楽しく、時にとても重要な結果をもたらすことも知っているけれど。

 本稿はオーラのVA40リバースがテーマであるが、その前に他社製品について少し触れる。それは比較や優劣のためではなく、オーラ(旧オーラデザイン)の製品の、私の中での位置付けを明らかにする上で必要なことのように思えたからだ。

 

生活空間で楽しむオーディオの嚆矢にして理想形だったデビュー作VA40

 1985年にイギリスのミュージカルフィデリティ社から、薄型のシンプルなプリメインアンプA1が発売された(日本への紹介はその翌年)。純A級動作で出力は20ワットという小ささだった。あのころのオーディオ界は、ハイエンドの名のもとにアンプは大規模化し、鳴らし難い低能率ワイドレンジスピーカーを如何に制御するのかに腐心していた。A1はそんな時期に現われて、ドライブ能力に限界はあったけれど、ベテランのオーディオファイルをも魅了する、優れた音質で大きな評判となった。痛快であった。シンプルで小型であることは、生活空間に溶け込みやすく、音楽を身近にしてくれる。それはとても大切なオーディオの在り方であるのに、ハイエンドオーディオ界はそれを忘れていたように感じていたからである。

 A1に共感した私は、ロジャースのLS3/5AスピーカーとマランツのCDプレーヤーをセットにして、音楽好きだった私の母にプレゼントした。それは母にとって生まれて初めてのステレオ装置だった。35年にわたり愛用されたアンプは一度も壊れることなく、音楽を奏で続けた。生前の母はよく「暮らしに音楽があって本当に良かった」と私に話してくれたものだった。

 オーラデザインは、1989年に英国で創立された。創立者はマイケル・トゥ氏。そのデビュー作となったのは創立者自らが設計したVA40。B&W社に見出されたオーラデザインは、高名なインダストリアルデザイナーであるケネス・グランジ氏の協力を得て、VA40には素晴らしい意匠が与えられた。ステンレススチールを磨き上げて仕上げた一点の曇りもない鏡面のフロントパネルに、ブラックのノブが2つ配されたデザインは、見る者の心を惹きつけ、一度見たら忘れられないほどの強い印象を与えた。前述のA1とVA40には直接のつながりはない。けれどどちらも、生活空間で楽しむオーディオの、ひとつの理想形を叶えるアンプの嚆矢にして代表格であり、私の中で両者は分かち難くつながっているのだ。

 

ルーツとなったモデル

VA40
VA40 rebirthのルーツにあたる、1989年に発売されたプリメインアンプVA40。鏡面仕上げのフロントパネルに電源スイッチ、ヘッドフォン端子、入力セレクターとボリュウムノブを配し、薄型の筐体にまとめ上げたシンプルな意匠はVA40 rebirthへと受け継がれている。

 

Kenneth Grange
イギリス出身のインダストリアル・デザイナー。世界的なデザイン事務所である「ペンタグラム」設立者の一人でもあり、パーカーの万年筆、ウィルキンソンの剃刀、コダックのインスタマチックカメラ、アングルポイズのデスクライトからインターシティ125(鉄道車両)まで、幅広いデザインを手掛けている。オーディオファイルには、B&W「Matrix 800」「Signature Diamond」などのデザインを行なったことで知られていることだろう。

 

 VA40は、MOS-FETのシングルプッシュプルによるAB級の出力段によって、40ワット×2という使いやすいパワーを備えていた。音質は衒いのない素直なもので、ビギナーからベテランまで幅広い層の支持を得て、世界中で愛されるモデルとなった。

 

質の高いサウンドとデザインで音楽の価値を高めたチャーミングなノート

 1991年には、出力を強化したVA50が登場、以降、オーラデザインはセパレートアンプやCDプレーヤーまでラインナップを拡充、幅広い要求に応えていった。いずれのモデルも特徴的な鏡面パネルを備え、大げさにならないサイズにまとめられ、同社のアイデンティティを大切にしたモノづくりが実施されていた。だが1997年、オーラデザインはイギリスでの製品開発および製造をストップ。短い歴史に幕が下ろされたのだった。その詳細を私は知らない。ビジネスの世界ではさまざまなことが起こるが、それは私の領分ではない。

 オーラデザインははじめ、トーマスという輸入商社によって日本に紹介された。すぐに輸入元はユキムとなり、同社はオーラデザインというブランドを日本市場で大切に育てていった。ユキムはオーラデザインジャパンを設立し、ブランドを存続させていくのである。

 ユキムが製品企画にも関与したノート(note。2006年)は、CDプレーヤーとプリメインアンプを一体化したチャーミングなモデルで、デザインはこれもケネス・グランジ氏によるもの。ノートのオールインワン(スピーカー以外、ひとつの筐体で完結する)の思想は、これもまたオーディオのひとつの大切な在り方を示すものだ。もちろん、他ブランドでも同様のコンセプトの製品はあるし、さらにはスピーカーまで統合した製品だってある。しかし、ノートがそれら凡百の製品と異なるのは、質の高いサウンドとデザインを備えていたことだった。どんなに小さくて利便性が高くとも質が低ければ音楽の価値は下がるばかりである。

note
CDプレーヤー、プリメインアンプ、FM/AMチューナーの機能をひとつの筐体にまとめたオールインワンシステム。1996年にデザインまで完成していたが、製品化に至る前にオーラデザインがイギリスでの業務を終了(1997年)。「Aura」ブランドが日本に移管されたのち、2006年にオーラデザインジャパンによってようやく製品化された。惜しまれつつも現在は生産を終了している。


 

原点回帰のVA40リバース。音楽をこれほど楽しく聴かせるアンプは稀である

 昨年(2023年)、オーラは原点回帰の製品を発表した。その名もVA40リバース。日本で組み立てられる本機は、基本のデザインはブランドデビュー作を踏襲し、出力段がMOS-FETなのも同じだが、その素子はエキシコン製に変更、パワーは50ワット×2となった。その他のパーツも高品位なものを数多く投入。特徴的なフロントパネルなどの金属部品は新潟県の燕三条で加工され、惚れ惚れとする品位の高さを見せる。仕上げの質感の高さは、記憶の中にあるオリジナル機を凌駕しているほどだ。

 デジタル音源対応がトレンドの現在において、本機はアナログ入力オンリーであることも大きな特徴。もし(同じコストで)音質を最優先するならば、こちらが有利なのは明らかであり、この点も私は高く評価している。

 昨年初めて本機の音に接した私は、その邪心のない、躍動感あふれる音に感激した。音楽を聴いていてこれほど楽しい思いをさせてくれるアンプは稀である。最新の生産モデルでは安定性を重視した音質傾向になっていたが、いずれにしても現在のオーディオ界での本機の存在意義はズバ抜けている。

 ハイエンドと呼ばれるアンプは40年前よりももっと巨大化し、さらにべらぼうに高額化が進んだ。本機はそんな中における一服の清涼剤であり、豊かで質の高い(普通の)音楽生活を実現する大切なモデルなのだ。

 

VA40 rebirthの内部。出力素子であるエキシコン製MOS-FETの放熱は、筐体内右側の大部分を占めるヒートシンクを介して行なわれる方式のため、天板と底板には空気循環用のスリットが設けられている。ビシェイ製金属皮膜抵抗やニチコン製MUSEシリーズのコンデンサーなど高品位パーツが投入されたメイン基板は主なパーツ装着面を下向きにして、支柱で持ち上げるスタイルで底板に固定。左側には200VAの容量を持つトロイダル型電源トランスを配置する。

 

 

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本記事は『ステレオサウンド No.231』
特集「ベストバイコンポーネント注目の製品 選ばれるその理由」より転載