6月4日発売『ステレオサウンド No.231』の特集は、毎年冬号恒例「ベストバイコンポーネント」で上位に選出された製品の魅力を探る「ベストセラーモデル 選ばれる理由」です。ステレオサウンドオンラインでは、本特集の内容を順次公開してまいります。今回は、DELAのミュージックサーバー 『N1-S38-J』の人気の理由を探求します。(ステレオサウンド編集部)

DELA N1-S38-J ¥1,320,000(税込)
● 型式:ミュージックサーバー
● 入出力端子:イーサネット3系統(RJ45×2、SFP×1)、USB 5系統(3.0×4・Aタイプ、2.0×1・Aタイプ)
● 内蔵ストレージ:SSD・3.8TB
● クロック入力:同軸1系統(BNC、10MHz)
● 寸法/重量:W440×H82×D353mm/14kg
● 備考:写真の仕上げ・価格はシルバー、他にブラック(N1-S38B-J ¥1,430,000・税込)あり
● 問合せ先:(株)バッファローサポートセンター ☎ 0570(086)086
● 発売:2022年 
● 試聴記掲載:225号

試聴記ステレオサウンド 225号掲載

 

オーディオ機器に仕上げる経験がフル投入された最高峰ミュージックライブラリー

 ネットワークオーディオの世界を開拓したLINNプロダクツの「DS」製品をわたしが使い始めたのは、2009年冬のことだった。DS製品の日本での発表/販売開始から1年半ほど経ってのことだ。

 最上級機のクライマックスDSの出力はアナログのみだったので、デジタル出力のあるアキュレートDSを選んだ。D/Aコンバーターには音を知っている既存の製品を接続して使いたかったからだった。そのくらい慎重になっていた。DS製品、ひいてはネットワークオーディオという世界が、登場したばかりでわたしにとって未知の製品であり世界であったからだった。

 2009年冬から3年後にはアキュレートDSから進化したアキュレートDS/Kへ交換したのだが、やはりそのデジタル出力から、勝手知ったるD/AコンバーターへS/PDIF接続していた。

 わたしのオーディオの部屋では、当時からインターネットで調べものをしたりメールの送受信のために、ネット環境があった。

 DS機器の2台目、アキュレートDS/Kを使い始めてから数年後に「NAS」(Network Attached Storage)をQNAPの汎用型TS119P Ⅱに買い換えた。それ以前に使っていたNASは手のひらに乗ってしまうほど小型のポータブル機であり、わたしとしては初めて使ったNASであった。ポータブル機に対してQNAPのTS119P Ⅱは頼もしく見えた。NASを使う以前は、コンピューターに内蔵されたストレージのHDDか外部に加えたHDDを使っていた。

 QNAPのTS119P Ⅱを購入するとき内蔵させるHDD(Hard Disk Drive)には1TB容量のものを入れたかったが、タイ・バンコックのHDD工場で洪水被害があって世界的に品薄となった時期だったので、内蔵HDDにはあまり容量がない500GBしか選べなかった。

 

DELA以前とDELA以降に分けることのできるファイル再生の世界

 やがてオーディオ用に考慮されたスイッチングハブを使うようになり、ネットワーク機器の電源部も強化するなどして、ネットワーク環境をオーディオ的に整備したが、これらはグンと効いた。

 ネットワーク環境整備の直前にDELAに出会う。

 2015年夏にDELAのオーディオ用NASのN1AとN1Zがわたしのオーディオ部屋に持ち込まれた。DELAとしては第一世代の機器だ。

 内蔵ストレージは、N1Aが1TBのHDD×2、N1Zが512GBのSSD×2だった。当時のSSDはまだ容量が小さく高価だったのだ。容量的にも価格的にもわたしの興味はN1Aに集中した。N1Aは、USB‐DACと接続するとOpenHomeで操作できて、DLNA(Digital Living Network Alliance)とは一線を画す使いやすさであった。

 QNAPのTS119P ⅡとDELAのN1Aとの聴き比べは、1曲目のイントロが鳴った途端に決着が付いた。DELAのN1Aでは、S/N感が高まり、空気感が綺麗に晴れわたってきたのだ。だいいち音の彫りが深いので、音が音楽が生き生きとしている。明らかに「いっぱい音が聴こえてくる」傾向にある。いったんN1Aを聴いてしまうと、TS119P Ⅱは曇り空のように籠もった音であり、音楽が退屈に聴こえてしまうほどだった。残念ながらN1Aを聴いた後ではもうTS119P Ⅱは聴けたものではなかった。

 その後に登場したDELAのHA-N1AH40-BK(内蔵ストレージが2TBのHDD×2)を購入した。

ミュージックライブラリー
N1A/2(左)/N1Z/2(写真右)

DELAは「N1A」(記録容量HDD・2TB/HDD・4TBの2種)と「N1Z」(記録容量SSD・1TB)で、2014年にデビューを飾った。オーディオ用途に特化して開発・吟味された電源部や筐体構造、内蔵ストレージを持つだけでなく、内蔵するサーバーソフトウェアにもカスタマイズを施して、独自の楽曲表示方法で使い勝手を向上させていたり、楽曲配信サイトからの自動ダウンロードが可能であったりと、音質と利便性の双方に優れるオーディオ用NASであった。また、デジタルファイルトランスポートとしても使用することができ、PCを介さずにUSB-DAC等と接続して音楽が再生可能なことも、これまでの汎用NASとの決定的な違いと言えた。2016年には、フットの改良、電源部に大型のコンデンサーバンクを搭載するなど細部をブラシュアップした第2世代モデルの「N1A/2」(写真左)、「N1Z/2」(写真右)が登場し、「N1Z/2」がその年のベストバイコンポーネントの2位を受賞するなど、両機ともに多くのオーディオファイルから高い支持を得て、ミュージックライブラリーと呼ばれる製品ジャンルの立役者となった。

 

 DELAのHA-N1AH40-BKのおかげで音がよくなったものだから、Hi-Res音源のダウンロード購入やCDのリッピングにうんとやり甲斐がでてきた。初めのうちは面倒だったが音楽ファイルが溜まってきて、カバーアート(ジャケ写)がズラリとディスプレイに並ぶようになるのは、わくわくとして嬉しいものだ。

 HA-N1AH40-BKを使って実感したのは、1台だけで機能/操作が完結することだ。フロントパネルに並んだ4個のスイッチの操作とディスプレイ部の表示だけで操作できる。設定/操作にコンピューターは不要なのである。加えてUSB出力がある。急激に増えたUSB入力端子があるD/Aコンバーターへ接続すれば、コンピューターは不要だ。HA-N1AH40-BKを使い始めてからというもの、ノートPC(MacBook)からUSBでD/Aコンバーターへ音楽を送って再生するといかに音が劣化しているのか、よくわかってしまった。

 そもそも汎用NASとは、一家に一台の機器である。家庭内のLAN環境に接続して、父親は仕事の書類を記録したり家族の写真/ビデオ、そして音楽を管理する、母親は家計簿をつけ、子供たちは写真やビデオ、勉強の資料を記録する、などなど……、のように幅広く使われる多機能型である。

 しかしDELAは、音楽のストレージ専用として使用目的を限ったのだった。同時に使用する部品—―電源部やクロックやHDDやSSDなどなど――を吟味した。言い換えれば、音楽ストレージによって音質が異なることを証明してみせたのだった。

 音質のよさと操作性のよさとによって、DELA製品の登場はデジタルファイル再生の世界で大きな金字塔となった。DELA以前とDELA以降とが比較されるほどの偉業となったのだ。オーディオ用NASとかネットワークオーディオトランスポートと呼ばれていたDELA製品だったのが、「ミュージックライブラリー」と呼称されるようになったのだった。

 なお、DELA製品はミュージックライブラリーに限らない。スイッチングハブ(S100/2)やリッピング用のディスクドライブ(D100)、外付けHDD(E100・製造終了)、ケーブル類などがあり、ネットワークオーディオの関連機器のラインナップが揃っているのだ。しかもそれらの関連機器は、オーディオ機器として音質が検討された製品群である。

 

スイッチングハブ
S100/2-C-J ¥168,000(税込)

ネットワークオーディオ再生の音質を高めるためには、周辺機器にもオーディオ機器と同様の音質追求が必須と考えたDELAは、ミュージックライブラリーの開発で積み重ねたノウハウを投入して、2019年にオーディオグレードのスイッチングハブ「S100」を発売。現行モデルはそのマーク2機であり、オリジナル機からは電源部のリファイン、4個であった1000Mbpsポートを6個に増やすなどの変更が行なわれている。光ファイバー等に対応したSFPポートを2個搭載しているのも音質追求に余念がないDELAならではと言えよう。

 

 

音楽の表現に深みが増し、S/N感がいっそう高まった「N1」

 現在DELAの最高峰ミュージックライブラリーはN1-S38J(N1)だ。

 2022年に登場し、その年のステレオサウンドグランプリを受賞、ベストバイコンポーネントでは、2022年度と23年度とで2年連続して1位に輝いているN1がわたしのオーディオ部屋に持ち込まれた時、わたしにとって2台目のDELAであるN10を使用していた。N10はDELA製品として初めてリニア電源を搭載していた。ファームウエアが2019年秋に4.0へ一変するなど、高音質を追求してDELAの製品群は確実に進化していたのだ。

 2020年1月からそれまでのHA-N1AH40-BKと取って代わって使い始めたN10だったが、最新のN1との比較では敵わなかった。音楽の表現に深みが増して、上質な聴き心地となったのだった。S/N感がいっそう高まって音場空間の見晴らしのよさが増したのだ。その背景にはN1が、電源部に物量投入をし、シャーシの作りを堅牢にして、クロックをウルトラ低ジッター化し、大容量SSD(3.8TB)をカスタム化、使用部品はコネクターまで吟味する、などなど、しっかりと進化のメスが入れられていた。加えて、電源に余裕を持たせ、内蔵プロセッサーに負担がかかる、複数のストレージへの分散記録(Raid)を止めてストレージを1台に限るなど、ミュージックライブラリーを仕上げる経験を積み重ねていたのだった。

 N1はDELAのミュージックライブラリー製品で唯一外部クロック入力を備える。また、搭載しているSFPポートへ光トランシーバーを使うのではなくメタルケーブルによるSFP接続を提案するなど、DELAのミュージックライブラリーでの音質追求は留まることをしらない。

 

N1の兄弟モデル

N5-H50-J ¥880,000(税込)
「N1」の発売から1年後に登場した「N5」は、内蔵ストレージを5TBのHDDとして、N1の技術の多くを踏襲しながら開発された弟モデル。10MHzクロック入力こそ装備しないものの、ベースシャーシに3mm厚の鋼板を採用し、トロイダルトランスによるリニア電源、NDK製ロージッタークロックの採用など、オーディオ的に音質を追求したパーツが惜しみなく投入されている。

 

 

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本記事は『ステレオサウンド No.231』
特集「ベストバイコンポーネント注目の製品 選ばれるその理由」より転載