6月4日発売『ステレオサウンド No.231』の特集は、毎年冬号恒例「ベストバイコンポーネント」で上位に選出された製品の魅力を探る「ベストセラーモデル 選ばれる理由」です。ステレオサウンドオンラインでは、本特集の内容を順次公開してまいります。今回は、ソウルノートのプリメインアンプ『A3』の人気の理由を探求します。(ステレオサウンド編集部)

ソウルノート A3 ¥1,680,000(税抜)
● 最大出力:120W+120W(4Ω)
● 入力感度/インピーダンス:480mV/5kΩ(アンバランス)、480mV/10kΩ(バランス)
● 寸法/重量:W454×H184×D407mm/31kg
● 備考:写真の仕上げはプレミアム・シルバー、他にプレミアム・ブラックあり。写真のボード付属
● 問合せ先:(株)SOULNOTE 営業部 ☎ 042(703)5100
● 発売:2023年

試聴記ステレオサウンド 228号掲載

 

音で泣ける、心が震える。官能的な音があふれ出る

 2023年に、ソウルノートから満を持して発売されたプリメインアンプA3。先行してデビューしたプリアンプのP3とパワーアンプのM3のセパレートアンプのペアが、共に国内外で絶賛されていたことは読者の皆さんもよくご存じのとおりだ。そのP3とM3の高性能をひとつのボディに合体させたプリメインアンプの登場が、ソウルノート・ファンに期待されていて、ソウルノート製品を愛好するユーザーであり大ファンの一人である私も、大いなる期待を抱いて首を長くして待っていた。やがて完成したA3は見事にステレオサウンドグランプリ2023を受賞。さらにはベストバイコンポーネントで、プリメインアンプ80万円以上の部門(上限なしの最上級部門)で第1位に輝いた。ソウルノートの全製品を設計する加藤秀樹氏は、この快挙に喜んだとは思うものの、特に驚いた様子ではなかった。A3は余程の自信作であったに違いない。

 

セパレート型で追求した高性能さを一つの筐体にまとめ上げたA3

 さて、オーディオファイルの皆さんは、このところ国内と海外のブランドを問わず、特に、国内ブランドのプリメインアンプのリリースが、たいそう盛況であると感じられているのではないだろうか。国内の多くのアンプメーカーがプリメインアンプのジャンルでしのぎを削っており、群雄割拠の様相を呈している。その中で、ベストバイコンポーネントにおいて、プリメインアンプの最高価格帯のカテゴリーで第1位に輝いたことは、やはりスゴイことだ。セパレートタイプに劣らない高性能を、手頃なサイズの筐体に凝縮したプリメインアンプは、当然ながらスペースファクターに優れる。高級セパレート型で追求した高性能を、妥協なく一つの筐体にまとめ上げた製品であれば、結果として価格も比較的にではあるが安価となり、当然ながらこれもたいそう喜ばしい。念のために最初に記しておくと、A3は、最近多いハイパワーを誇るプリメインアンプではない。それでも、最大出力は、120W+120W(4Ω)と充分で、かなり特殊なスピーカーシステムでない限り、パワー不足という心配は無用であろう。

 筆者は、日常的に、ソウルノートのP3とM3のペアを使用しているが、昨年秋に自宅のリスニングルームで、A3を1ヵ月ほどかけてじっくり聴く機会に恵まれ、その魅力を堪能させてもらった。スピーカーシステムは愛用のYGアコースティクス/ヘイリー2・2。それまでヘイリー2・2を駆動していたパワーアンプM3と比べて、パワー不足という感じは微塵も感じられなかった。見た感じは標準サイズのA3であるが、設計者、加藤秀樹氏が「プリアンプP3とパワーアンプM3をワンボディに妥協なく凝縮したモデル」と胸を張るA3は、国内やヨーロッパにおいて、同ブランドの大ヒットモデルとなったプリメインアンプA2の上位モデルとして、より一層の高音質を実現させている。パワーアンプのM3は本誌の2023年ベストバイコンポーネントのパワーアンプ200万円以上(上限なし)の価格帯で堂々の1位を獲得。プリアンプのP3も130万円以上(上限なし)の価格帯で2位に選出されている。言わば国内最高峰にあるプリアンプとパワーアンプがワンボディに妥協なく凝縮されたA3は、願ってもない朗報であると同時に、安穏としてはいられない製品なのだ。

 オーディオコンポーネントのサイズが大き過ぎないということはスペースファクターに優れることであり、オーディオシステムのセッティングの自由度が大きくなることで、スピーカーの周囲に空間をたっぷり確保できる。そして、トランスペアレンシーに優れた空間感が無限大に感じられるようになると、高さや奥行きまでを含めた広大で開放的な音場に展開されるステレオイメージを、眼前にリアルに現出させることにつながる。たかが、サイズが大きい小さいと言うなかれ。大きくないことのほうが良いことだって大いにあるのが、現代ハイエンドオーディオなのである。「どうだまいったか」と、見た目の堂々たる感じを喜んでいるうちはまだまだで、小さなボディを選んで真のオーディオクォリティを追求すべきではないか。豪華で大きくて重くて、高価なのに音が悪いというハイエンドオーディオは、過去の栄光として葬り去っても誰も文句は言わないと思う。

本機は電源トランスから左右チャンネルの増幅回路を完全に独立させた構成。増幅回路の電源トランスは、チタンワッシャーを介して左右それぞれのサイドパネル(GNDアンカーと呼ばれる)に固定されている。このサイドパネルは、他のシャーシとはセラミックワッシャーで絶縁されているため、電源部のグラウンドとしても機能する。フロントパネルに取り付けられた電源トランスはコントロール回路用だ。

 

入力端子やスピーカー端子も左右チャンネルを独立させた端子板に配置。この端子板はリアパネルに対して無固定であり、電気的にリアパネルとの導通がない。入力切替はリレーで行なうが、信号のマイナス側(バランスではグラウンド側)まで切り替えて完全に遮断することにより、接続される機器間の干渉を防いでいる。無固定構造はこの端子板のほか、ACインレット、トップパネル、ボトムパネルなどにも採用する。

 

 

左右チャンネルとコントロール系、三つのGNDを完全分離させたソウルノートらしい感嘆する特徴

 プリメインアンプA3にはいかにもソウルノートと言える感嘆する特徴がいくつもある。TO3メタルキャンタイプ・バイポーラトランジスターによるシングルプッシュプル構成の出力段、銅製ヒートシンクを出力段の給電バスバーとしても使うというM3譲りの独創的構造、この出力段のドライバーおよびプリドライバー部に超強力なTO3Pタイプのトランジスターを採用していること、など挙げ始めるとキリがないが、筆者が特に驚いたのは、プリアンプP3で達成した、左右チャンネルGND(グラウンド)完全分離のテクノロジーを、プリとパワーを一体化したプリメインアンプである本機においても応用して採用していることだ。加藤氏は、大電流を扱うパワーアンプ部のGNDをどのように筐体に接地させるかは設計の要であり、GNDの非接地の前例はないと言う。だが、A3では、回路構成、シャーシ(筐体)構造に独創的手法を多数投入し、シャーシから絶縁されたGNDアンカー(サイドパネル兼用)にGNDをつなぐことにより、パワーアンプ部の筐体非接地を実現させ、左右チャンネルのGNDとコントロール系のGNDという、三つのGNDを完全分離させた。

 加藤氏は、「GNDを完全分離する」ことで、音場空間が三次元的に広がり、すべての音が有機的に歌い始めると言う。筆者もまったくもって同感であり、音楽がいっそう視覚的に眼前に展開するようになることは、現代ハイエンドオーディオでは極めて重要なポイントであると思う。

 A3を通して聴く音は、ヴォーカルでも器楽曲でも、魂のレベルで音の純度が高められていることが実感できる。「何を大袈裟な」と思われるかもしれないが、女性ジャズ・ヴォーカルの、セシル・マクロリン・サルヴァントの『Mélusine(メリュジーヌ)』や、セラ・ウナ・ノーチェの新作を聴いて、私には涙が溢れる瞬間があった。ヴォーカリストの体の温もり、色香、濃密な気配に圧倒された。ソウルノート製品の生命線と言える、微少時間軸精度を極限まで追求した成果が如実に音に表われている。私が現代ハイエンドオーディオに求めるものは、何よりも、有りや無しやの幽けきニュアンス、そして、気配までもリアルに感じられること。A3にはそれがあり、その上に独特の味わいがある。それは、ミュージシャンのエモーションがよりいっそう精細に緻密に溢れ出すことだ。愛聴するアルバムをA3で聴くと、よりいっそう泣ける、心が震える。A3は聴き手の感情を大きく揺さぶる力があるのである。

 オーディオの醍醐味は、なんと言っても聴き手を圧倒する力感とスケール感に満ちていることであると考える人は少なくない。面で押し寄せる迫力の魅力に比べたら、それ以外のオーディオは、僕の友人に言わせれば「栄養失調オーディオ」と取り合ってくれない。気配やニュアンスなんてものは、霞を喰って生きている仙人じゃないのだから、と。まあ、それも理解できなくはないが、細部に宿る魂を、私は何よりも大切にしたい。A3を返却する際に、加藤氏に感想を求められて、私は、「A3をすぐにでも買いたい」と答えて、彼をいささか狼狽えさせることになった。あれほど官能的な音を聴くことができるのは凄い、と付け加えたが、その言葉に嘘偽りはない。私は音で泣きたいのである。

 

P3 ¥1,680,000(税抜) 
2020年にソウルノート初のプリアンプとして登場した「P3」は、入出力端子基板、回路基板、電源回路、電源トランス等、左右チャンネル用にまったく同じものを2つ使用する、ツイン・モノーラル・コンストラクションを採用した最上位機。左右チャンネルとコントロール系の3つの系のGND(グラウンド)を完全分離しているのがその大きな特徴でもある。ラインアンプ部にはディスクリートで組まれた無帰還バランス回路「Type-Rサーキット」が採用され、音量調整機構は超高精度ネイキッドフォイル抵抗や超低損失カスタムリレーなどで構成される、固定抵抗切替式(0.5ステップ/140段階)となっている。

 

M3 ¥3,160,000(ペア・税抜) 
「P3」とペアを組むべく、2022年に開発されたソウルノート初のモノーラル・パワーアンプで、4Ω負荷時の出力は160W。回路構成、筐体構成など随所にソウルノートならではの独自のアイデアがふんだんに盛り込まれた、完全無帰還シングル・プッシュプル構成機である。出力素子に用いられたのはTO3メタルキャンタイプのトランジスター2基で、同社プリメインアンプ「A2」では出力段に使われている大電流型トランジスターをそのドライバー段に採用する。電源トランスを取り付けた「アウターシャーシ」と、回路基板を搭載する「アンプコンテナ」が完全に独立した筐体構造となっているのも特徴のひとつである。

 

 

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本記事は『ステレオサウンド No.231』
特集「ベストバイコンポーネント注目の製品 選ばれるその理由」より転載