6月4日に公開した、中国香港のオーディオショップ「オーディオ・エキゾティクス」探訪記の前編( https://online.stereosound.co.jp/_ct/17702835 )に続き、ショップユーザーのリスリングルームなどを訪れた後編をお届けします。 

都市部の居住空間に寄り添い、より現実的な試聴空間を完備する創業の地、上環の店舗

 オーディオ・エキゾティクスの基準システムを構築したディヴィン・ラボでの取材を終えたあと、同社誕生の地である上環のショップを訪ねた。こちらは商業地域の中心部ということもあり、ディヴィン・ラボほどスペースは広くないのだが、日本の都市部と同様に住宅環境の制約が大きい中国香港のオーディオファンにとっては現実的な空間と感じられるはずだ。LPレコードの展示スペースを含め、空間自体にはゆとりがあるが、試聴スペースの広さは一般的なリビングルームに近く、距離も近めだ。

Sheung Wan 上環

Audio Exotics創業の地、上環にかまえる店舗のショウルーム(試聴室)に設置されているスピーカーシステムは、Leung氏がドイツのCessaro Horn Acousticsに特注した「乾隆(Qian Long)」と米国PerListenのサブウーファー「D12s」。これらをドライブするアンプは、フランスのJMF Audio製で、プリが「PRS 1.5」でパワーが「HQS6002」だ。アナログプレーヤーはアメリカ・Grand Prix Audio「Monaco 3.0」とスイス・DaVinciAudio Labs「Equilibrium AE Special Edition」の2製品を使い分ける。

 この部屋ではウェルフロートのバベルでメカニカルノイズ対策の効果を確認した。LPレコードで聴いたリッキー・リー・ジョーンズのヴォーカルは特に効果が大きく、バベルの使用の前後で声の実体感や表情の振れ幅の大きさに重要な違いを聴き取ることができた。「メカニカルノイズの制御は6種類のノイズのなかでもっとも難しいので、耳を頼りに慎重にチューニングします。ユーザーのリスニングルームでも私が効果を確認しながら最適な調整をすることを心がけています」(Chris)。

ユーザー宅で目の当たりにしたチューニング技術

 オーディオ・エキゾティクスを取材した翌日、Chrisのチューニング術を目の当たりに体験する機会があった。同ショップでシステムを揃えた顧客の一人であるAlbert To(アルバート・トウ)さんのリスニングルームを訪ねたのだ。香港島東部の高層マンションの一室にハイエンドグレードの製品群を揃え、音楽をじっくり楽しむ環境を整えている。部屋の広さは日本の都市部とほぼ同じで、特別な遮音もしていない。ごく普通のリスニング環境でどこまで音を追い込むことができるのか、実に興味深い。

Audio Exotics ユーザー Albert To さん

 ロバートコーダのプリアンプやCessaro Horn Acousticsのホーンスピーカーなど、メインのコンポーネントだけでなく、Tripointのグラウンドノイズフィルターやウェルフロートのインシュレーターなど、ノイズ対策アイテムの大半もオーディオ・エキゾティクスが推奨する製品を揃えている。「ショップのショウルームで聴いた素晴らしいサウンドを自宅でも体験したくて、Chrisさんに相談しながらシステムを選びました。普段はネットワークオーディオが中心ですが、アナログのLPレコードもよく聴きます」(Albertさん)。

 室内で見かけた音響チューニングアイテムは日本音響のAGSぐらいで、他の対策は特に導入していないようだが、LPレコードで再生したモーツァルトのアリアやヴァイオリンソナタは自然なステージが展開し、声やソロ楽器のにじみのない音像が浮かぶ。2本のサブウーファーを組み合せているので、低音のエネルギーが過剰になるのではと不安を感じたのだが、実際に聴いた再生音のバランスはごく自然なもので、低音域がふくらんだり、余分な響きが残るなどの副作用はまったく感じられなかった。Arya Audio LabsのAirBladeはこの部屋では正面に向けて設置しており、奥行きのあるステージ再現に少なからず貢献しているようだが、単独ではなくサブウーファーと連携して一体感のある音場を生み出していると感じた。特にサブウーファーのクロスオーバーやレベルの設定が絶妙なのか、良い意味で大口径ウーファーの存在感が消えている。低音はとても開放的で自然な伸びやかさがあり、旋律楽器の表情が自然に浮かび上がってくる。リスニング距離は近めだがダイレクト感の強い音にはならず、むしろリラックスして音楽に浸ることができたのが印象的だった。

 「普段よく聴く音楽を聴かせてください」という私の希望に応えてAlbertさんが取り出したのは中森明菜『歌姫』や1984年の五輪真弓のライヴ盤など、私たちにおなじみのLPレコードであった。中国香港に邦楽ファンが少なくないことは聞いていたが、Albertさんも愛聴盤としてよく聴いているとのこと。どちらのレコードからも陰影の深い表情を引き出しているが、五輪真弓のライヴはヴォーカルが少し遠いように感じた。私がそのことを指摘すると、同席していたChrisがすかさずアンプの設定を変更。ちょうどよい距離感で声が自然に定位するようになり、その場にいた全員が納得した。その鮮やかなチューニング術を目の当たりに体験し、オーディオ・エキゾティクスが耳の肥えた音楽ファンに支持されている理由がよくわかった。

Albert Toさんのお宅で聴かせていただいたのはいずれもアナログLPレコード。『モーツァルト:ヴァイオリン・ソナタ第40番&第42番/アルテュール・グリュミオー(vn)、クララ・ハスキル(p)』『モーツァルト:オペラ・フェスティバル/イシュトヴァン・ケルテス指揮ウィーン・ハイドン管弦楽団、他』といったクラシックや、『歌姫 -Stereo Sound Selection-/中森明菜』『1984五輪真弓ライブ 熱いさよなら』などの日本のポップスまで、ジャンルにとらわれず、様々な音楽を楽しまれているご様子だ。