4月某日、クレアツィオーネ・ワークスの小野裕史さんから、「角野卓造さんのホームシアターに、ビクター『DLA-V90R』とキクチ『Dressty 4K/G2』を導入してもらうことになりました」という電話をもらった。小野さんは弊社がホームシアター専門誌「Foyer」を刊行していた頃からお世話になっているインストーラー氏で、角野さんのシアタールームも長年お手伝いをしている。「設置したら、両社の担当者と角野さんのシアターにうかがって、チューニングをすることになったんですが、話を聞きに来きませんか?」という小野さんからのお誘いに、喜んでご一緒させてもらうことにした。(StereoSound ONLINE・泉 哲也)

 4月下旬、小野さんとJVCケンウッド メディア事業部 商品企画部3G 那須洋人さん、キクチ科学研究所 ビジュアルソリューション本部 営業部 営業課 課長代理 上野健一さんと一緒に角野邸にうかがうと、「みなさん、わざわざありがとうございます」とご本人がにこやかに迎えてくれた。

 僕が角野さんのお宅に初めてうかがったのは、26年前のこと。「月刊HiVi」1998年5月号(当時)の「潮晴男のAVルーム・クリーニング大作戦」でサラウンドの調整にお邪魔して以来、折々に連絡を取らせていただいている。ホームシアターを拝見するのは十数年ぶりで、さっそく今回のリニューアルの狙いをうかがってみた。

インストーラーさんを信じて、4Kプロジェクターの「DLA-V90R」を導入

 角野さんは、付き合いの長いインストーラーの小野さんからの推薦で、初の4Kプロジェクターにビクター「DLA-V90R」を選んだ。劇場用の4K画質を備えたD-ILA(反射型液晶パネル)を3枚搭載し、独自の画素ずらし技術である8K/e-shiftXによりスクリーン上で8K相当の映像を再現する、近年のホームシアター用最高峰モデルと言っていいだろう。HDR信号を映像投写に最適なダイナミックレンジに自動調整するFrame Adapt HDRも第二世代を搭載する。

ビクター DLA-V90R ¥2,882,000(税込)
●表示デバイス:0.69型ネイティブ4K D-ILAデバイス×3
●画素数:水平4096×垂直2160画素
●表示解像度:水平8192×垂直4320画素(8K/e-shiftX、4方向シフト)
●明るさ:3,000ルーメン
●ネイティブコントラスト:100,000対1
●接続端子:HDMI入力2系統(48Gbps、HDCP2.3、CEC対応なし)、トリガー端子、LAN端子(制御用)、他
●寸法/質量:W500×H234×D528mm(脚部含む)/25.3kg

 「今まで2Kプロジェクターのビクター『DLA-X9』を使っていたんですが、そろそろ4K対応にしませんかと小野さんから提案されていました。ちょうどランプ交換の時期が来ていて、既に2回交換していたので、このタイミングで本体も入れ替えましょうということになりました。

 小野さんからはDLA-V90Rがお薦めで、哲さんも自宅でDLA-V90Rを使っていますよという話があったんです。しかも小野さんが那須さんにお願いして、チューニングもしてもらえそうだと言うじゃないですか。那須さんはモンキー・パンチさんの別冊やHiViの誌面でビクターの高画質について紹介していた人ですよ。そんな人に調整をお願いできるならぜひ、ということになりました」(角野さん)

 こうした小野さんの猛プッシュ(?)によって、角野シアターの映像システムはDLA-V90RとDressty 4K/G2(110インチ/16:9、ケースはStylistのブラック)にリニューアルされたとのこと。ちなみにDLA-V90Rは視聴位置後方の棚に天吊設置され、Dressty 4K/G2は反対側の壁面に取り付けられている。

これはまさに“作品”ですね。職人の業で仕上げられた最新スクリーンを導入

 熟練の職人が一枚一枚手塗りで仕上げる、Recodisシリーズの最新モデル。昨今のHDR映像等の登場を見据えて、初代モデル「Dressty 4K」をリニューアル。表面の塗布素材や塗り方も新たに工夫し、ゲインも1.25まで向上させている。受注生産品で、100/110/120インチの3サイズをラインナップする。

キクチ Dressty 4K/G2 ¥425,000(110インチ/16:9、税別)
●ピークゲイン:1.25(±5%)
●半値角:水平75度±5度
●ベース生地:ホワイトマットアドバンス
●素材:軟質塩化ビニール、グラスファイバー、特殊拡散材

 「Dressty 4Kは弊社のホワイトマットをベースに、熟練した職人が手作業で吹き付け塗装を行って仕上げるシリーズで、G2はその第二世代です。今回は塗料を改良して、ゲイン(幕面の明るさ)を1.25まで上げました。最近はHDRコンテンツを上映されることも増えていますので、それに合わせてスクリーン側も高輝度化しようということで企画しました。

 従来は3回塗りで仕上げていたのですが、Dressty 4K/G2では二層構造を採用し、まず下塗りを2回行って、それが乾いたら仕上げ塗装を2回という、合計4回手塗りしています。塗料の素材は企業秘密ですが、様々な高輝材を混ぜるといった工夫を行なっています。

 家庭用モデルではなかなかこういった作り方はできないんですが、弊社には映画館などのスクリーンを塗っていた職人がいますので、実現できました。その価値を分かっていただける、インストーラーさんに向けた製品として展開していく予定です」と上野さんが説明してくれた。

 「それは手間がかかっていますね。すごく貴重な “製品” 、いや “作品” ですね。嬉しい限りです」と角野さんも感心することしきり。なお上野さんによると、角野邸がDressty 4K/G2のユーザー宅導入第一号だそうだ。

 さっそくDLA-V90Rで調整用テストパターンを表示すると、照明を残した状態でもフォーカス合わせができるほどの明るさを備えている。くっきりした映像で色も綺麗なので、これなら何も手を加える必要はなさそうだが、那須さんと上野さんはさらに細かい調整を始めた。

画素調整を施して、よりクリーンで抜けのいい画面を手に入れる

 角野邸に設置されたDLA-V90RとDressty 4K/G2は、そのままでも充分満足できる映像を再現していた。だが那須さんと上野さんは、さらに上を目指して画素調整に取り掛かった。DLA-V90Rのメニュー画面から「設置設定モード」を呼び出し、「画素調整」を選ぶことで細かい調整メニューに入れる

 「かなりいい仕上がりだと思います。でもDLA-V90RとDressty 4K/G2ならもうちょっと追い込めると思います」と那須さん。いったいどんな調整をしようというのだろう?

 「画素調整から始めたいと思います。フォーカスも素性がいいのでこのままでも不満はないと思いますが、RGB画素の位置合わせをもう少し追い込めば、画面全体の抜けがもっとよくなるはずです」という。

 3チップ方式の投写型プロジェクターの場合、画素調整は効果的だ。DAL-V90RもRGBの3枚のデバイス(D-ILA)で反射した映像信号を合成・投写しているが、スクリーン上でのRGB画素の位置合わせを追い込むことで、画面全体のクリアネスが向上するという。

 「DLA-V90Rでは、『全エリア』と『ゾーン』の2種類で画素の位置を調整できます。G(緑)を規準に、R(赤)とB(青)をそれぞれ合わせていきますが、『全エリア』では画面全体を上下左右に1画素単位で動かせます。さらに『ファイン』モールドでは、電気的な補正で8分の1画素単位での調整も可能になります。

 今回も『全エリア』の調整で画面の中央はほぼ合ってきましたが、周辺部ではRGBがちょっとずれているところがありました。そこは『ゾーン』モードで調整しました。『ゾーン』モードでは画面を縦横10分割したポイントごとに画素調整ができます」と那須さん。

 ここで、「最初に『全エリア』、次に『ゾーン』という順番で調整するのは何故でしょう?」と質問してみた。

角野さんがよく見るコンテンツの内容や種類をうかがって、それに適した『画質モード』を設定することにした

 これについては、「『ゾーン』ではどうしても画面の一部を注視してしまうので、画面全体のバランスを見失うことがあります。まず『全エリア』で画面全体を整えて、どうしても気になる部分があったら『ゾーン』で調整するといいでしょう。なお『ファイン』は電気的な補正になりますので、使い方によってはフォーカスがぼけて見えることもあります。『ファイン』はあくまでも微調整用として使ってください」とのことだった。

 こうして那須さん&上野さんのタッグで画素調整を追い込んでもらうと、当初よりも画面全体がすっきりしてきた。フォーカス調整は行っていないにも関わらず、よりピントが合って、背景まで抜けがよくなったように思える。

 さらに輪郭が整ってきた効果か、字幕も読みやすくなっている。これは映画作品を見ることの多い人にはありたがい。「洋画ブルーレイなどの字幕は画面の下側に表示されますので、そのあたりは『ゾーン』機能を使って仕上げました」と那須さんが細かい気遣いを語る。

 「ただ設置するだけじゃなく、その後にも製品の実力を引き出す調整が必要ということですね」と改めてDLA-V90Rの使いこなしを那須さんに確認すると、「弊社製品に限らず、プロジェクターは設置の際にレンゾシフトを使うことも多いのですが、それも画素ズレの一因になることがあります。また一度調整しても、時間が経つとズレてくる場合もありますので、画素調整は定期的に行ってもらいたいですね」という返事が戻ってきた。

 確かにプロジェクターは一回設置するとそのまま使いがちで、改めてフォーカスや画素調整を行う事は少ない。しかし愛機の実力を引き出すためには、こまめなメインテナンスも心がけた方がいいということだ。角野さんもこの変化を目の当たりにし、改めて機器の基本を整えることの大切さを確認しているようだった。

DLA-V90Rのメニュー画面。左が「画素調整」を呼び出した状態で、右は「画質モード」の「その他設定」を開いたところ。「LDパワー」や「アパーチャー」はここで設定する

 続いて那須さんから、「角野さんは、ホームシアターではどんな作品をご覧になるんですか?」という質問があった。

 これに対しては、「今回DLA-V90Rの導入に合わせてUHDブルーレイも購入しましたし、4Kや2Kの放送も見ます。あと最近は、ケーブルテレビのチューナーで動画配信やYouTubeを見ることもあります。YouTubeは画質云々というよりは昔の風景などを思い出させてくれるコンテンツがあって、面白いんですよね」と、幅広いソースを楽しんでいることが明かされた。

 つまり、角野さんの視聴ソースには映画、ドラマといった色々なジャンルがあるし、HDR/SDR、4K/2Kなどのフォーマットも混在しているわけだ。DLA-V90Rは複数の『映像モード』をメモリーできるので、今回は映画用とビデオ用(放送やYouTubeなど)を作って、使い分けてもらうことにした。

 その前段としてもうひとつ、DLA-V90Rの使いこなしで重要なポイントも紹介された。DLA-V90Rはレーザー光源搭載で、3000ルーメンの明るさを備えている。それもあり、ゲイン1.25のDressty 4K/G2との組み合わせでは110インチというサイズでも充分な輝度を実現できている。

 「DLA-V90Rの工場出荷時は、レーザー光源の出力を示す『LDパワー』が最大の『100』にセットされています。しかし角野さんのお宅のように遮光、反射光対策がきちんとできている環境であれば、ここをもっと抑えた方がいいと思います。試しに『45』まで下げてみましたが、明るさは充分取れています」(那須さん)

 「なるほど、確かに初期値のままだと2時間の映画を見たら疲れそうな気もします。明るいところが光りすぎているのかな。映像を見る場合はスクリーン周りのカーテンも閉めますので、壁の反射はもっと抑えられます」という角野さんの返事を聞いて那須さんは、「であれば、『LDパワー』は『30』くらいまで下げてもいいかもしれません。あるいはもう少し上げて、『アパーチャー』を絞ってコントラスト改善を狙うという手もあります」と、さらにマニアック(?)な使い方まで提案してくれた。

 こうして決めた映像調整値は以下の通り。なお今回は、HDR用とSDR用を含めて合計4種類をメモリーしている。

「FrameAdapt HDR1」……UHDブルーレイ/配信サービスなどのHDRコンテンツ用(主に映画)
「FrameAdapt HDR2」……4K放送やYouTubeなどのHDRコンテンツ用
「シネマ」……ブルーレイなどのSDRコンテンツ用(主に映画)
「ナチュラル」……放送などのSDRコンテンツ用

 HDRコンテンツで映画用とビデオ用を分けているのは、ソースのフレームレートを考えてのこと。24pで収録された映画作品を再生する場合は『Clear Motion Drive』を『オフ』にし、30pや60pソースでは『高』にしたほうがなめらかな絵に感じられるので、それぞれ最適と思われる設定を選んでいる。

 「YouTubeなどは30p素材が多いので『Clear Motion Drive』は『高』の方がなめらかに見えますが、映画ではヌルヌルしすぎるという声もあります。ここについては、ご覧になるソフトに応じて切り替えていただければと思います」と那須さんが説明してくれた。

 なおこれらの調整値は『画質モード』ごとにメモリーされるので、一度設定しておけば、後はソースに応じて各モードを呼び出すだけでいい。

 すると角野さんから、「『画質モード』の切替えはどうしたらいいのでしょう?」という質問が。那須さんは、「リモコン中央左側にある『PICTURE MODE』を押すと『画質モード』の選択メニューが表示されますので、そこで使いたいモードを選んでください。HDRとSDRは入力信号に応じて自動的に判別されますので、気にしないでかまいません」と操作方法を提案してくれた。

 なおここで編集部からの提案で、4Kレコーダーのパナソニック「DMR-ZR1」の設定を変更してもらった。BS4K放送ではHDR規格としてHLG(ハイブリッドログガンマ)が使われているが、DLA-V90RにHLG信号で入力すると「Frame Adapt HDR」が動作しない。これではもったいないので、DMR-ZR1でHLGをPQ(HDR10)に変換出力するようにセットしたのだ。こうすることでパッケージや放送といった再生ソースを気にすることなく楽しんでもらえるはずだ。

パナソニックの4Kレコーダー「DMR-ZR1」の設定メニュー。DLA-V90Rとの組み合わせということで、4K放送のHLG信号はPQ信号に変換している。「HDRディスプレイタイプ」は「高輝度のプロジェクター」を選択した

 設定が一段落したところで、パッケージソフトを再生してみる。「この作品はMOVIX京都のドルビーシネマで見たんです」と角野さんが取り出してきたのが、『トップガン・マーヴェリック』のUHDブルーレイ。冒頭から、トム・クルーズがバイクでダークスターの格納庫に到着するまでを再生する。

 その絵を見て、「シアタールームとしては完璧、ひじょうにすばらしい環境だと思います。映像もとてもいい感じですね」と那須さんも驚いている。ここで『画質モード』をビデオソース用の『FramaAdapt HDR2』に切り替えると、「なるほど、ビデオ撮り作品ぽいとはこういうことなんですね。これをヌルヌルと呼んでいたんだ」(角野さん)と印象の違いをおわかりいただけたようだ。

 続いてブルーレイでのお気に入りから、『男と女』を『シネマ』モードで再生。「この作品は映画館で10回以上見ています。僕が学生時代だから50年以上前の作品で、大人の純愛映画だと思いますよ。でも映画館を含めて、今日の絵が今まで見た中で一番綺麗だなぁ」と角野さんが嬉しそうに感想を述べてくれた。

 「見慣れた作品だと、いかにプロジェクターやスクリーンが進化しているかをお分かりいただけますからね。そんなコメントをいただけると、本当に嬉しいです」と、上野さんも那須さんもにこにこ顔だ。

DLA-V90Rのリモコンから、『画質モード』を簡単に切り替え可能。左はHDR信号が入力された時で、右はSDR信号入力時のもの

 さらに那須さんが、「今は『シネマ』モードですが、これを『FILMMAKER MODE』に切り替えると、映画の作り手の意図に忠実なモードでお楽しみいただくこともできます。この作品だと『FILMMAKER MODE』の方が合うかもしれません」と『画質モード』を切り替えた。

 「画面全体が落ち着きますね。少年が着けているマフラーのブルーなど、こっちの方が馴染んでいるというか、フィルムっぽい。これもリモコンで簡単に切り替えられますか?」と角野さんもDLA-V90Rの使いこなしに意欲的になってきたようだ。

 「テレビ番組は『シネマ』、映画ソフトは『FILMMAKER MODE』の相性がよさそうですね。ぜひそのあたりを試してみてください」と小野さんが提案して今回のチューンナップは終了となった。

 「今日はありがとうございました。プロジェクターの細かいチューニング術まで教えていただいて、恐縮至極です。私のホームシアターも仕上がってきたつもりではあるんですが、まだ色々使いこなしの余地があるとわかって驚きました。小野さんのおかげで本当に楽しい経験をさせていただきました」と角野さんにもご満足いただけたようで、一同胸をなでおろして帰途についたのであった。

角野邸のチューンナップを成し遂げた面々。左からクレアツィオーネ・ワークスの小野裕史さん、角野さん、キクチ科学研究所 ビジュアルソリューション本部 営業部 営業課 課長代理 上野健一さん、JVCケンウッド メディア事業部 商品企画部3G 那須洋人さん