U-NEXTでは今年1月から、『宝塚歌劇 星組公演 1789 -バスティーユの恋人たち- タカラヅカ・レビュー・シネマ版』の独占配信をスタートしている。本作は昨年ドルビーシネマで劇場公開されており、今回もHDR映像のドルビービジョンと立体音響のドルビーアトモスが採用されている。宝塚作品はこれまでもNHK BS8Kでもオンエアされるなど、高品質コンテンツとして注目を集めてきた。今回の配信はどれほどの完成度なのか、株式会社U-NEXT 取締役COOの本多利彦さんと、事業企画 担当部長の柿元崇利さんを麻倉さんの視聴室にお招きして、一緒に体験してみることにした。(StereoSound ONLINE編集部)

麻倉さんのホームシアターで、宝塚歌劇星組公演『1789 -バスティーユの恋人たち-』を再生。140インチ画面とドルビーアトモスによる没入感は感動的です

——今日は、U-NEXTで独占配信がスタートした宝塚歌劇星組公演『1789 -バスティーユの恋人たち-』を麻倉さんの視聴室で体験させてもらいました。本作はドルビービジョン&アトモスを採用しているとのことで、その画質・音質をチェックしてみようという狙いです。株式会社U-NEXTの本多利彦さんと柿元崇利さんにも同席いただいています。

麻倉 ご無沙汰しました。おふたりには以前もU-NEXTさんが『40th Anniversary Seiko Matsuda 2020 "Romantic Studio Live"』の配信を行った際にインタビューにご協力いただきました。まずは、U-NEXTで本作を配信することになったそもそもの経緯からお教えください。

本多 その節はお世話になりました。今回はいよいよ宝塚歌劇作品をドルビービジョン&アトモスで配信できるとのことで、弊社としても嬉しく思っています。本作は昨年、ドルビーシネマで劇場上映されたコンテンツで、今回はその素材を活かしての配信が実現できました。宝塚作品としても、このふたつを使って配信をするのは今回が初めてになります。

麻倉 それは素晴らしいですね。U-NEXTでは以前から宝塚作品の配信を行っていたんですか?

柿元 宝塚さんはブルーレイなどのパッケージや劇場でのライブビューイングはありましたが、個人向けの配信はごく限られた環境だけでした。しかしコロナ禍の2020年に、劇場に来られないお客様のために宝塚さんのライブ配信を始めることになったのです。

本多 その後コロナ禍が落ち着いてお客様が劇場に戻った後も、遠方で劇場に来られない方とか、チケットが取れない人のために、ライブ配信と劇場のハイブリッドという形で続けていらっしゃいます。

ストリーミングの再生はアマゾンFire TV cubeを使用。ネットワークには有線接続し、HDMI出力はマランツのAVアンプに送っている

柿元 現在は弊社と楽天TVさん、ドコモさんのLeminoの3社で宝塚作品の配信を行っています。U-NEXTとしては高音質・高画質というところを推していますので、以前からHDRやイマーシブフォーマットでの配信をやりませんかと、宝塚さんやドルビーさんに相談していました。

本多 今回、その願いが叶って星組公演『1789 -バスティーユの恋人たち-』のドルビーシネマ版を、U-NEXT独占で配信することがでたわけです。この4年間に宝塚歌劇との間で生まれたU-NEXTの技術に対する信頼関係や、Dolby JapanとU-NEXTとの技術的なパートナーシップが長年あったからこそ実現できたと思っています。

麻倉 きちんと信頼関係を構築してきた成果なんですね。しかも本作はU-NEXTの独占配信だと。

本多 このドルビーシネマ版についてはU-NEXT独占配信になります。

麻倉 独占配信は今年1月からスタートしたんですよね?

本多 はい、おかげさまで1月19日のスタート以来ご好評をいただいています。もともとこの作品は2015年に月組が初演したもので、今回は星組での8年ぶりの再演を配信しています。演出は『エリザベート』など数多くのヒット作品を手掛けた小池修一郎さんで、舞台も本当に華やかです。こういった作品でドルビーシネマの技術を活用できたのは素晴らしいことですが、実際の収録や配信でそれを活かしていくのはひじょうに難しい面もありました。

麻倉 宝塚は日本が誇る、最高級の舞台コンテンツですからね。ライティングや音場の構築など、映画とは違う部分も多いでしょうし、ドルビーとしても技術的に貴重な経験だったのではないでしょうか。ちなみに今回は2K画質での配信ですか?

本多 ドルビーシネマは4K上映でしたが、配信は2Kで行っています。弊社では4Kでの配信も可能ですから、いつかは4K/HDRとドルビーアトモスで配信したいですね。

プロジェクターで入力信号を確認した。DLA-Z1はドルビービジョンには非対応なので、HDR10信号が出力されている

——今回は再生デバイスにアマゾンの「Fire TV Cube」を使いました。まず大画面視聴用に、Fire TV CubeのHDMI出力をマランツのAVアンプ「AV10」に入力し、その映像出力をプロジェクターのビクター「DLA-Z1」につないでいます。この状態で、148インチ大画面とドルビーアトモスのサラウンドで『1789 -バスティーユの恋人たち-』をご覧いただきました。

麻倉 最初に言っておきますが、うちで使っているDLA-Z1を含めて、現行のほとんどのプロジェクターはドルビービジョンには対応していません。そのため映像はHDR10で視聴していますが、そのHDR10映像も素晴らしかったですね。私は有楽町のドルビーシネマで本作を見ましたが、今日の配信もそれに負けない満足度がありました。

 映画館はすごく広いし、スクリーンまでにそれなりに距離があります。そのため、ちょっと遠くにある大画面を見ている印象になりがちなんだけど、ホームシアターでは5〜6mの近距離で148インチ画面を見ているので、本当に劇場に出かけて舞台を見ているような臨場感がありました。

 舞台全体を捉えているカメラの視野が、まさに宝塚劇場の後ろ側の席に座っているようで、しかもカメラマークがすごくいいんです。地デジ放送みたいな頻繁なスイッチングではなく、役者さんをアップにして欲しい時はちゃんと寄ってくれるなど、コンテンツを知り尽くしたカメラマンが撮った作品だと感じました。

本多 そうですね。撮影は宝塚側のスタッフによるものですので、作品や脚本、演者に対する理解がしっかり反映されていると思います。

麻倉 もうひとつ感じたのは、総合的なところで画質がいいんです。これはちょっとびっくりしました。2K画質での配信とのことですが、2Kそのものの画質がいいので、プロジェクター側で4Kアップコンバートしたら、色や階調のディテイルまでよく出てきました。

 特にアップは、劇場でもここまでは見えないだろうと思うくらいのリアリティです。しかも画質がいいので、衣装にしてもメイクにしても、細かいところまで気を遣って作っているということがとてもよくわかりました。

ドルビーアトモス音声は、ドルビーデジタル プラスの圧縮フォーマットを使っている模様

本多 宝塚側からすると、舞台が見えすぎるとお客様がどんな風に感じるんだろうという心配もあったようです。

麻倉 いや、それは杞憂でしょう。これだけしっかり情報が再現できれば、臨場感も増してきますから、舞台の疑似体験が可能になっています。

 音もよかったですよ。今回は配信用にドルビーデジタルプラスでの圧縮とのことですが、ドルビーアトモスとしても、オーケストラの出方も生々しいし、音楽の細かい再現までちゃんと聴き取れました。音楽があって、ソロや合唱があって、さらに台詞まである、ひじょうに要素の多いコンテンツですが、そのバランスが絶妙だと思いました。

 そもそもミキサー卓から直接音を録っているので、オケの音自体が高品質で、オーバーチュアが始まった時にゾクッとしました。合唱の声もすごくよくて、一人一人の声がちゃんとフィーチャーされて聴き取りやすかったんです。もちろんソロもすごくクリアーで、前に出てきました。でありながら、ハイライトの大合唱シーンでも、まったく不安定にならないのは立派です。画質・音質がハイレベルで一致しているのが凄いなぁと感じました。

柿元 『1789 -バスティーユの恋人たち-』自体が群像劇で、コーラスのユニゾンが素晴らしい作品です。今回は、そこに対してドルビーアトモスのイマーシブ再現がぴったりはまったように感じています。

麻倉 宝塚劇場の空気感は独得で、舞台からはもちろん、客席からの熱気みたいなものも感じられるんです。それが今日のドルビーアトモスでちゃんと再現できていたと思います。

 重要なのは、画質・音質・音場のバランスです。『1789 -バスティーユの恋人たち-』はその3要素がすべて高い次元で揃っているのが素晴らしいですね。

シャープの8Kテレビ内蔵アプリでU-NEXTに接続し、該当作品を再生した。こちらはドルビービジョンとして再生されている(画像は「Stage Pick Up」より)

——ドルビービジョンの品質も確認いただくために、麻倉さんが書斎でお使いのシャープ「8T-C85DX1」を使って『1789 -バスティーユの恋人たち-』を再生しました。こちらの感想もお話しいただけますか。

麻倉 8T-C85DX1は、MiniLEDバックライトを搭載した8K液晶テレビで、もちろんドルビービジョンにも対応しています。今回はテレビ内蔵アプリを使ってU-NEXTを再生しました。

 テレビ側で2K→8K解像度変換をするわけですが、ドルビービジョン信号はそのまま再生されます。この映像も凄かったですね。両者を見比べると、プロジェクターのHDR10再生は落ち着いた感じで、バランス重視の映像という感じがしました。

 これに対し8T-C85DX1でのドルビービジョン再生は、色・輝き・明るさの魅力全開で、宝塚とドルビービジョンの相性のよさを実感したんです。宝塚のメイクや衣装といった記号性と、ドルビービジョンが見せてくれる精細感、色や輝度の再現が見事に一致していて、まさに宝塚のためにドルビービジョンがあって、ドルビービジョンのために宝塚があると言いたい。宝塚を見るのに一番相応しいのはドルビービジョンだと断言しましょう。

柿元 それは凄い、最高の褒め言葉をいただきました。

麻倉 そもそも舞台は照明が強烈なので、撮影すると白が飛んでしまうことが多いんです。でも本作は白の階調もしっかり確認できるし、同時に暗いところも潰れずに再現できています。今後舞台を撮影する時には、HDR撮影が必須になるでしょう。

本多 おっしゃる通りだと思います。今回はドルビービジョンで撮影したことで白飛びが抑えられ、衣装などが本物のように再現できています。U-NEXTでハリウッドの4K/HDR作品の本格的ラインナップの配信を始めて4年ほどになるんですが、映画ではない舞台作品でもこれだけの違いがあるんだと、改めて驚きました。

コンテンツの楽しさで盛り上がる皆さん。写真右から株式会社U-NEXT 取締役COOの本多利彦さん、事業企画 担当部長の柿元崇利さん、麻倉さん

麻倉 ところで、U-NEXTとして宝塚作品の今後の配信予定はどうなっているのでしょう?

本多 麻倉さんの視聴室でドルビービジョン&ドルビーアトモスを体験させていただき、自社コンテンツながら改めて感動しました。この感動をより多くの方に体験していただけるよう、宝塚歌劇とドルビーとのコラボレーションをもっともっと推し進めて、実現していきたいと思います。

 また今回はドルビーシネマの素材を使いましたが、我々としては配信先行にもチャレンジしていきたいです。将来的にはそれが当たり前のフォーマットになっていって欲しいですね。また、映像の4K化にもチャレンジしたいと思っています。

麻倉 ホームシアターで舞台作品を見るという体験は、映画とも違います。特に舞台作品はどこまでその場にいるような臨場感を得られるかが大事だということが、今回の取材で確認できました。これはまさに舞台作品ならではで、そのためにはドルビービジョンやドルビーアトモスが大きな意味を持ってきます。

 特に宝塚は、チケットが簡単には取れない。でも配信ならチケットの売り切れもないし、ある意味舞台よりはるかに細かい所、宝塚らしいこだわりまで堪能できる映像と音声が手に入ります。これは本当に素晴らしいことです。

 今回のU-NEXT、宝塚、ドルビーの取り組みは、宝塚ファンだけでなく、演劇ファンにとっても、重要な意味を持ってくるでしょう。劇場とも違う見え方が楽しめますので、劇場に足を運んだ方にも、ぜひ配信を体験していただきたいと思います。