プロレスが絡む映画というだけで嬉しくなってくるが、しかも内容が「エリック一家」の実話に基づくドラマなのだから、興奮が倍増する。父親は、ジャイアント馬場などと死闘を演じた“鉄の爪”フリッツ・フォン・エリック。相手のこめかみを巨大な握力で掴んで脳波を狂わせるという技「アイアンクロー」で歴史に名を残す人物だ。対エリック戦の決まった馬場が、エリックにアイアンクローをかけられても耐えられるように、どこかの砂漠に埋まって横になり、顔の上をジープで轢かせながら頭蓋骨を鍛える――という描写が確か「ジャイアント台風」というマンガに出てきた。

 そのエリックには子供たちがいて、次男のケビン、三男のデビッド、四男のケリーがプロレス界に入った。が、いまも健在なのはケビンのみ。つまりこの作品は若き日のケビンが体験したプロレス界、およびエリック一家の肖像である。ケビン役はザック・エフロン、デビッド役はハリス・ディキンソン、ケリー役はジェレミー・アレン・ホワイト。皆、「プロレスラーの体」になっており、当然ながらプロレスをするシーンもリアリティたっぷりだ。レスリング・コーディネーターは、チャボ・ゲレロ・ジュニア。そう、藤波辰爾と凄まじい対戦を残した“小さな巨人”チャボ・ゲレロの、愛息である。

 監督のショーン・ダーキンもプロレスの大ファンであるとのことで、「細かな描写へのこだわり」にはプロレス愛を持つ者ならではの印象を受けた。リック・フレアー、ブルーザー・ブロディなどもしっかり(俳優が扮した形で)登場、とくにフレアーの口調やジェスチャーにはニンマリさせられる。もちろんプロレスファンではない方であっても、この映画は「真の強さとは何か?」を内省するうえでまたとない機会を与えてくれるに違いない。

映画『アイアンクロー』

4月5日(金)TOHOシネマズ 日比谷ほか全国ロードショー

監督・脚本:ショーン・ダーキン
出演:ザック・エフロン、ジェレミー・アレン・ホワイト、ハリス・ディキンソン、モーラ・ティアニー、スタンリー・シモンズ、ホルト・マッキャラニー、リリー・ジェームズ
2023年/アメリカ/英語/132分/カラー・モノクロ/ビスタ/原題:THE IRON CLAW/字幕翻訳:稲田嵯裕里/G
提供:木下グループ 配給:キノフィルムズ
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