パナソニックは15日に、同社デジタルカメラ、LUMIX(ルミックス)のフルサイズレンズに関するセミナーを開催した。カメラ本体に関する発表会はしばしば開催されているが、レンズについてはボディに関連した紹介がほとんどのため、今回はルミックス純正レンズの魅力についてきちんと紹介したいという狙いだそうだ。

 ルミックスは、映像文化の担い手であるクリエイターに寄り添い、静止画・動画を問わず創造性を発揮できるブランドを目指してきた。「写真も映像も、想いのままに。」という願いが込められている。

 製品としては、1978年にナショナルブランドで発売されたラジオ一体型カメラ「CR1」を筆頭に、1997年には初のデジタルカメラを3モデルリリース。2001年にルミックスブランドが誕生し、その後も世界初のミラーレス一眼カメラ「G1」や、フルサイズミラーレス一眼「S1」「S1R」も2019年に登場している。

 レンズについては、2000年にライカレンズを搭載したDVカメラ「NV-MX3000」を発売、翌年にはライカDCレンズを搭載したデジタルスチルカメラ「LC5」「F7」も登場している。2006年以降は交換式レンズもフォーサーズ用、マイクロフォーサーズ用などをリリース、2019年にはLマウント用をラインナップした。

 この交換レンズについても、色や空気感まで含めてありのままを捉える「質感描写」を追求してきた。現在は、フルサイズの参入に際して交換レンズのフィロソフィーを再定義し、「印象的な立体再現と美しいボケ味」を目指しているそうだ。

 セミナー会場にはルミックスレンズの開発を担当しているメンバーが集まり、製品に込めた想いについての濃いトークが展開された。

 光学技術を担当する栗岡善昭さんは、レンズの仕様について説明してくれた。一般的にレンズの “仕様” というと、焦点距離や画角、F値といったものと考えられがちだが、レンズの開発時には、目に見えない仕様もあるという。

 それは例えば解像力、歪み率、フォーカス、手ブレといったもので、ルミックスの光学設計では、これらを解析可能な数値に落とし込む方法を探っていくのだそうだ。こうすることでレンズにまつわる定性的な “仕様” を定量的な “値” に変えることができ、それがレンズの “味” につながっていくというわけだ。

 風景などの平面的な被写体と、人物などの立体的な被写体でも違いがあり、前者では解像感やコントラスト、抜けのよさ、歪み率が “仕様” として求められるが、後者ではさらに立体感、ボケ具合なども重要になる。ルミックスではこの立体被写体を重視した設計も行われている。

 そのために被写体を細かく分類し、立体被写体についてはこれまでピントが合っている面(被写体の位置)の奥はすべてボケ領域として処理していたものを、ピントの合っている部分とその近傍、被写体に近い小ボケ領域(手前と奥)、大ボケ領域(被写体の奥)と細分化して、それぞれに最適な処理内容を適応している。

 こうした分類を行うことで、ピント面では描写性能を上げ、小ボケ領域なら二線ボケの輪郭を滑らかにする、大ボケ領域では輪線が目立たず、円形が歪まない(口径食が小さい)といった具合に、技術者が対策を立てやすくなるのだそうだ。

 続いて機構設計については、吉川直樹さんが紹介してくれた。機構設計では光学設計を具現化する作業を担当、具体的には手ブレ補正やオートフォーカスなどのメカの仕組みをどうするかに取り組んでいる。ここはミクロンオーダーの精度が求められる世界だという。

 実際の製品では、調心(レンズの位置を調整して中心に固定する)と、調整(鏡筒の中でレンズ群を最適な位置に動かして固定する)というふたつの調整が必要で、製品1本1本すべてのレンズでこの作業を行っているとのことだった。

 他にもトラッキング(ズームの途中でフォーカスがぼける現象)をいかに抑えるかも重要で、そのためにフォーカス用アクチュエーター(駆動装置)にリニアモーターを搭載するなどの配慮を行っている。しかも一般的なリニアモーターでは反応スピードは早い代わりに重たいものを動かすのが苦手なので、デュアルフェイズリニアモーターにすることで推力をアップ、重たいレンズの駆動を可能にした。

 それらの性能を引き出すには、細かな制御が不可欠であり、この点については制御技術・AFを担当する岸田直高さんが解説してくれた。カメラのAF(オートフォーカス)はボディ側で被写体位置の検出やピント位置の測定などを行うが、それを高速・高精度で実現するにはレンズ側の性能も求められる。

 しかもレンズ側の制御マイコンとボディ側との通信速度が遅いと反応が悪くなってしまうため、ルミックスでは1秒間に480回の通信を行い、カメラ全体のパフォーマンスを向上させている(フルサイズセンサー搭載Sシリーズの場合)。この結果、マイクロフォーサーズの3倍の速度のAF制御を実現しているとのことだ。

 またカメラのレンズは小型・軽量化も避けられないテーマだ。ルミックスではこちらにも取り組んでおり、4月28日に発売される「S-R28200」は、28-200mmという高倍率ながら、全長約93.4mm、重さ約413gという世界最小・最軽量を実現している。

 また、「LUMIX S 100mm F2.8 MACRO」では、2群に分けたレンズを搭載、レンズの軽量化とともにAF時間と精度の向上を図った。レンズの片方には高速のデュアルフェイズリニアモーターを、もう片方には通常速度のステッピングモーターを組み合わせている。

 先述したトラッキングについては、ズームリング操作時には1秒間に240回レンズのズーム位置を検出し、フォーカスがずれないような補正も行っている。この点についても、生産工場で実画像を測定しながら1本ずつ調整も行っている。

 最後にカメラ撮影でもっとも問題になりやすい手ブレ補正について、大原正満さんが解説してくれた。同社では動画カメラ「ブレンビー」の時代からこの問題に取り組んでおり、手ブレ補正の最高性能を目指してプロジェクトを推進しているそうだ。

 まず手ブレ補正動作を再現するシミュレーターを開発し、発生要因の特定や補正段数の高精度な予測を可能にした。こうして手ブレ量検出の精度向上を実現、さらに設計に落とし込む段階でジャイロセンサーの検出精度とアクチュエーターの改善も行ってトップクラスの補正性能を実現しているそうだ。

 またひと言で手ぶれ補正といっても、静止画と動画では考え方が異なる。静止画はシャッターが開いてから閉じるまでの時間に手ブレをゼロにすればいいので、精度重視の調整となる。これに対し動画では常に映像を記録しているので、コマの間が滑らかにつながる品位優先の動作となるそうだ。ルミックスではこれらの撮影方式に合わせて最適化を行っている。

 ちなみにボディとレンズを連動させて6軸で手ブレを補正するDual I.S. システムを搭載したのはルミックスが初めてで(2015年のGX8)、同社ではフルサイズのレンズにはO.I.S.(Optical Image Stabilizer)とB.I.S.(Body Image Stabilizer)のデュアルISが必要と考えているそうだ。なおDual I.S.システムが有効になるのはボディとレンズがルミックス製品同士の場合のみとかで、このあたりはぜひ純正の組み合わせで活用して欲しいという思いの現れなのだろう。(取材・文:泉 哲也)

セミナー終了後には、ルミックスレンズを使ったモデル撮影会も準備されていた

※ルミックス技術陣のこだわりを紹介した「こちら、光学設計部」もスタート!