東京・目黒の老舗オーディオショップ、ホーム商会で16日、「世界47か国を魅了するAir Tightの実力を知る」試聴会が開催され、お馴染み潮晴男さんも登場し、エイ・アンド・エム株式会社の三浦 裕社長と有限会社フューレンコーディネートの北村浩志社長も交え、2時間に渡ってその魅力が披露された。

左から、エイ・アンド・エム株式会社の三浦 裕さん、潮 晴男さん、有限会社フューレンコーディネートの北村浩志さん

 Air Tightは、エイ・アンド・エムのオーディオブランドで、1986年の創業以来、数々の真空管を搭載した製品を送り出してきた。現在は日本国内だけでなく、イベントタイトルの通り全世界47ヵ国で販売され、高い人気を集めている。

 もともと先代社長の三浦 篤さんと、設計者である石黒正美さんの二人によって創業され、そのイニシャルから「A&M」と命名されたという。現在も社員数13名という少数精鋭での物作りを続けており、年間の生産数も300台前後という驚きの情報が明かされた。

 今回はそんなAir Tight製品でピエガの最新スピーカー「COAX811」をドライブ、潮さんが選んだアナログレコードを楽しもうという趣旨となる。この組み合わせでの試聴会はホーム商会はもちろん日本でも初めてではないかとのことだ(潮さん談)。その主なシステムは以下の通り。

●コントロールアンプ:エアータイト ATC-7
●フォノイコライザー:エアータイト ATE-3011
●211シングルモノーラル・パワーアンプ:エアータイト ATM-2211J×2
●ステレオ・パワーアンプ:エアータイト ATM-12024EDITION(参考出品)
●MCカートリッジ昇圧トランス:エアータイト ATH-3 s
●アナログプレーヤー:トランスローター ZET-3TMD
●トーンアーム:トランスローター TRA 9
●MCカートリッジ:マイソニック Signature Platinum
●スピーカーシステム:ピエガ COAX811
●オーディオラック:クァドラスパイア

 まず、シェルビー・リン『JUST A LITTE LOVIN’』から「I Only Want to Bewith You」(二人だけのデート)を再生。「この曲は ダスティ・スプリングフィールドのソロ・デビュー曲で、日本ではベイ・シティ・ローラーズがカバーして有名になりました。このレコードは2008年の発売ですが、録音も素晴らしいし、シェルビー・リンの声がとても伸びやかで心地良いですね」という潮さんの解説に、参加者もみんなうなずいていた。

 そこから話は脱線(?)し、Air Tightのパワーアンプ「ATM-300R」の受注が終了したことが紹介された。同社では、自社製品について1〜2年分のパーツを確保して製造が継続できるようにしているそうだが、ATM-300Rに採用している海外製コンデンサーの入庫が大幅に遅れているそうだ。

 もちろん同社では現在流通しているパーツはすべて確保したとのことだが、現在の受注分でそれもなくなってしまう見込みだそうだ。それもあり、次回入荷するまで、ATM-300Rの注文を断らざるを得ないかもしれません、と三浦さんも残念そうに話していた。

 さらにパワーアンプの「ATM-2211J」にも話が及んだが、こちらは三極管の「211」を使ったシングル構成となる。エイ・アンド・エムでは先代社長の時代から、トランスドライブは採用しておらず、ATM-2211Jでもめいっぱい増幅して約975Vのプレート電圧をかけ、32Wの出力を確保しているのが最大の特長だという。

 そこから試聴再開となり、潮さんチョイスのドリー・バートン、リンダ・ロンシュタット&エミルー・ハリス『トリオ』や、五輪真弓「少女」、福山雅治『魂リク』から「心の旅」が順番に再生された。

 このうち「少女」ではキャロル・キングがバックのピアノを弾いているとかで、その演奏の素晴らしさが、「心の旅」ではラジオ局のブースで収録された音源(ギター1本のオンマイク)にも関わらずひじょうに伸びやかなヴォーカルが再現されることが確認できた。潮さんのレコードに関する蘊蓄と、今日のシステムが奏でる情報量の多さ、音そのものの心地よさに参加者全員、音楽に浸っている様子が伝わってきた。

 前半パートの最後は、ハインツ・ホリガーの『Famous Oboe Concertos』を再生。このLPは三浦さんのお気に入りとかで、ホーム商会のお客さんはクラシック愛好家も多いということで、Air Tight+ピエガのシステムで体験してもらいたいと思って持参してくれたそうだ。

 後半では、コーヒーブレイクを挟んで、再び潮さんのコレクションからムーティー指揮の『バレエ組曲「火の鳥」』や、メータ指揮『惑星』といった名盤を再生している。前者はDAMの会員向けに作られた非売品で、メタルマスターから直接プレスしたものという。その鮮度感が再現できるかがポイントだそうで、こちらも来場者は息をひそめて音に聴き入っていた。

 そこからサイモン&ガーファンクルの「サウンド・オブ・サイレンス」の最初のレコーディング音源を収めたLPが登場。潮さんによるとこの曲はフォークとして収録されたそうだが、それでは地味だと判断したプロデューサーが後からエレキギターやベースをオーバーダビングしたのだという。それ故に注意して聴くとテンポにずれがあるそうで、今回はそこに気がつくかも試聴のテーマになっていた。

COAX811の同軸リボンユニットのサンプルを持つ潮さん

 続いて、そのサウンドを再生してくれたピエガのCOAX811についての説明が行われた。COAX811は昨年末に発売されたばかりの製品で、新開発された同軸リボンユニット「C212+」を搭載している。今回は北村さんが準備してくれた同軸リボンユニットの振動板やアルミエンクロージャーのサンプルを示しながら、その特長が紹介されている。

 「COAX811は同軸リボンユニットの優れた高域に加えて、低音もしっかり再現できるようになったのが大きな魅力ですね。じゃあそれを体験できるレコードを聴いてもらいましょう」と言って潮さんが取り出したのは、ベンチャーズ『KNOCK ME OUT!』。

 「オーディオイベントでまずかかることがない一枚ですよ(笑)。元々はミュージカルの楽曲ですが、こんな風にアレンジできる能力も凄いし、ベンチャーズって他人の曲をオリジナルよりも上手に演奏しちゃうから面白いですよね。そのあたりもお楽しみ下さい」ということで、キレのいいビートと演奏テクニックの妙が披露された。

 また潮さんが共同代表を務めるウルトラアートレコードから情家みえ『エトレーヌ』と小川理子『バルーション』も再生され、これらを使ってパワーアンプの聴き比べも行なわれた。ここまでは先述した通り、ATM-2211Jを2台使ってCOAX811をドライブしていたが、それに変えて「ATM-1 2024EDITION」を使っている。

三浦さんは、ATM-1 2024EDITIONに関する細かな質問にもていねいに答えていた

 ATM-1は1986年に発売された同ブランド初のモデルで、その後もブラッシュアップモデルの「ATM-1S」も発売されている。ATM-1 2024EDITIONは原点回帰として、昨年の東京インターナショナルオーディオショウでお披露目されたものとなる。今回も参考展示ながら、そのサウンドを体験できることになったわけだ。

 「ふたつのパワーアンプで音はかなり違いましたね。アンプとしては211のシングル構成か、EL34のプッシュプル駆動かという点が一番の違いですが、それぞれの持ち味が音にしっかり反映されていました」という潮さんの感想を受け、三浦さんは「ATM-1 2024EDITIONはどちらかというと音楽のエモーションをダイナミックに再現しようという製品で、ATM-2211Jは切れ味がよく、サウンドステージが広くて繊細な音も表現できることを目指しています。どちらがいいということではなく、お好みで選んでいただきたいですね」と話してくれた。

 最後はドアーズ『WATCHING FOR THE SUN』から「Hello, I Love you」と、エリー・グリーンウィッチ『Let it be written, Let it be Sung…』「BE My Baby」が再生されて試聴会は終了となった。

 最後に潮さんから、「真空管はとっても面白いですね。真空管は実はトランジスターよりも電子のスピードが早いんですが、外から熱を加えないといけないなど、とても面倒くさい。でもこれだけオーディオに向いているデバイスはないと僕は思っています」と、真空管の魅力も改めて紹介された。

プリアンプ「ATC-7」やパワーアンプ「ATM-2211J」は3月いっぱいホーム商会で試聴可能

 なお本イベントは3月17日16:00まで開催されており、上記のシステムでレコードの音(ご自身の愛聴盤を持参してもOK)を確認できる。会場には三浦さん、北村さんも居るそうなので、製品について気になることを聞いてみるのもいいだろう。

 さらにコントロールアンプの「ATC-7」とパワーアンプ「ATM-2211J」については3月いっぱいホーム商会に設置され、B&Wの「801D4」との組み合わせでそのパフォーマンスを楽しめるそうだ。事前の試聴予約もできるそうなので、今回のイベントには参加できなかった方は同店まで問い合わせてみてはいかがだろう。(取材・文:泉 哲也)