エラックのVELAシリーズが最新のJET6トゥイーターを搭載した新モデル「VELA 400.2シリーズ」となった。評価の高いシリーズだっただけに進化が気になる人も多いだろう。ぼくもその一人だ。JETトゥイーターならではのスムーズな空間再現性と、充実した低域再現性を確保しながらもホームシアターで使いやすいサイズを実現しているVELAシリーズの最新製品群を用いて、いかに「映画の音」から感動を引き出せるかを確認していきたい。

 

ELAC VELA 400.2 Series

PROFILE
アナログレコード関係機器からオーディオ機器づくりに携わっているドイツ・エラック。1998年にJETというAMT(エアー・モーション・トランスデューサー)型ドライバーを搭載したCL310JETで日本でも大ブレイク。一躍人気スピーカーブランドとして定着した。VELA400シリーズはエラックの中でのミドルクラス製品群で、本格の音を使いやすいサイズにまとめたラインナップとして日本でも高い評価を受けている。本VELA 400.2シリーズは、新世代の「JET6」へと換装された最新製品群だ。今回はセンタースピーカーも含めたシリーズの全製品を用意したうえで、新型サブウーファー2製品を組み合わせて、2つのサラウンドシステムを試した

 

 

基本性能を2ch音源で確認。いずれも確かな進化を実感

 新型のJET6トゥイーターは、JETユニットとしては、およそ10年ぶりとなる進化で、主な改良点は振動板となるカプトン素材にプリントされた導電アルミニウム・パターンの厚みに変化をもたせたこと。加えて、振動板をアコーディオンのように折り畳むときの「畳み幅」を2パターンから数種類のパターンの組合せに変更している。これらの改善により2kHzと12kHz付近にあった共振と高調波歪みを抑えた。また30kHz付近にあった音圧レベルの落ち込みもなくなり、低歪みと高域特性の向上が得られたという。

 

エラックのアイデンティティJETの新型
エラック製スピーカーの最大の特徴といえるのがJETトゥイーター。カーテンのひだのように折りたたまれた振動板を高速で圧縮伸張動作させることで、ひだの間の空気を高速で放出する仕組みとなり、一般的なダイナミック型ドライバーと比較して優れた応答特性を備えている。最新のJET6ではひだの畳み幅のパターンを従来の2つから数種類へと複雑化させつつ、振動板のカプトン素材に印刷された電極パターンの厚みを変化をもたせて、リニアリティの向上と超高域帯域にあったピークの削減を実現した。写真のようにミッドレンジやウーファーの振動板は細かな折り目がついているが、これはクリスタルラインという手法で、前世代から継承された技術だ

 

 

 VELAの「400.2」の変化は、JET6に換装したことがほとんどで、そのほかは事実上変わっていないそう。そのため、外観もJET以外はそのままだ。ここではトールボーイ型のFS409.2、FS407.2、ブックシェルフのBS403.2をそれぞれステレオ再生で聴き、さらにセンタースピーカーのCC401.2やサブウーファーの新モデルであるVARRO RS500、同DS1000を加えた5.1chシステムで映画の音の実力を試してみたい。

 15cm口径ウーファー搭載2ウェイ機のVELA BS403.2は、もともとブックシェルフ型とは思えない堂々とした鳴りっぷりが魅力だったが、そこに音場の広がりと見通しの良さが際立ち、いっそうの表現力の高まりを感じさせてくれた。テレビアニメ『葬送のフリーレン』サントラ盤ハイレゾ音源は、各種の楽器の音色を美しく描き分け、コーラスの歌声も鮮明に再現する。鮮度が高くエネルギーも増しているが、それでいて強調感のようなものはなく自然な感触だ。低音感も不満はなくリズムが力強くスケールが雄大。中低域には、小型スピーカー特有の張り出しを感じなくはないが、不鮮明になることもなく、ボディ感のある重厚な音になる。

 『one/サラ・オレイン』から「ボヘミアン・ラプソディ」を聴くと、バックのコーラスが明瞭に定位し、そこに実体感豊かなヴォーカルが現れる。この音の定位の前後感は見事だ。サウンドステージもこぢんまりとしたものにならず、等身大の音像がシャープに出現し、厚みのある声で歌い上げる。JET6への変更だけでなく、ウーファーもずいぶんとチューニングを変えたのかと思ったほどのバランスの良さに正直思った。

 15cmウーファーが2基となり、2.5ウェイ構成となるVELA FS407.2は、トールボーイ型としては比較的小型でスリムな印象の製品で、リビングなどに置きやすいサイズだ。VELA BS403.2に比べると低音がフラットに伸びている印象で、音場やステージ感もより自然なバランスに近づく。

 『葬送のフリーレン』の古楽器を加えたオーケストラの演奏は、楽器の配置やそれぞれの音像のサイズ感も含めて自然なたたずまい。低域のパンチ力ではBS403.2のほうが力強い印象だが、FS407.2はローエンド付近までスムーズに伸びて、打楽器の連打のようなもたつきやすい音もよりはっきりと描くなど、きめ細かな再現に優れている。サラ・オレインは、声の質感やデリケートな歌唱のニュアンスは同等だが、ボディ感やコーラスとの距離感が自然。元気の良さではBS403.2だが、バランスとステージの自然な見通しの良さではFS407.2が優れている印象だ。

 15cmミッドレンジと18cmウーファー×2の3ウェイとなるFS409.2は、FS407.2に比べてかなり大型化し、サイズは一回り以上拡大。それだけに音のスケールも大きくなるが、決して大味な鳴り方になるのではなく、むしろ緻密さを増す。

 『葬送のフリーレン』ではスケールも大きくなるし、低音域もローエンドまでしっかりと伸びるのでより重厚になるが、それでいて低音域が過剰になることはなく、打楽器の種類や低音楽器の音色の違いなどより解像度の高い再現になる。弦楽器の爪弾きや胴鳴りなど、本物の感触がある鳴り方だ。

 サラ・オレインのヴォーカルのリアルな音像には、ほれぼれとさせられた。低域は力強いが、不要な音を出さず、むしろ静かになったとさえ感じるし、吐息やかすかなリップノイズもしっかりと聴こえる緻密な描写は女性ヴォーカル好きにはたまらない。

 シリーズ全体に共通して感じたのが、低域から高域まであらゆる面で表現力が高まっていること。もともと評価の高いVELAシリーズの持ち味がさらに磨き上げられた印象だ。JET6トゥイーターの変更だけで、低域まで含めてここまで向上するのかと思うと不思議なくらいだ。

 

Speaker System
VELA BS403.2
¥462,000(ペア)税込
ブラック/ホワイト

●型式:2ウェイ2スピーカー・バスレフ型
●使用ユニット:JET型トゥイーター、150mmコーン型ウーファー
●クロスオーバー周波数:2.4kHz
●出力音圧レベル:86dB/2.83V/m
●インピーダンス:4Ω
●寸法/質量:W191×H362×D240mm/7.1kg
●カラリング:ブラック、ホワイト(写真)、ウォールナット(¥495,000ペア税込)
●専用スタンド(LS60 ¥104,500ペア税込)あり

 

Speaker System
VELA FS407.2
¥935,000(ペア)税込 
ブラック/ホワイト

●型式:2.5ウェイ3スピーカー・バスレフ型
●使用ユニット:JET型トゥイーター、150mmコーン型ウーファー×2
●クロスオーバー周波数:450Hz、2.4kHz
●出力音圧レベル:88dB/2.83V/m
●インピーダンス:4Ω
●寸法/質量:W229×H1,000×D266mm/19.1kg
●カラリング:ブラック(写真)、ホワイト、ウォールナット(¥979,000ペア税込)

 

Speaker System
VELA FS409.2
¥1,485,000(ペア)税込 ウォールナット

●型式:3.5ウェイ4スピーカー・バスレフ型
●使用ユニット:JET型トゥイーター、150mmコーン型ミッドレンジ、180mmコーン型ウーファー×2
●クロスオーバー周波数:140Hz、360Hz、2.7kHz
●出力音圧レベル:89dB/2.83V/m
●インピーダンス:4Ω
●寸法/質量:W276×H1,307×D332mm/32.1kg
●カラリング:ブラック、ホワイト(以上、¥1,430,000ペア税込)、ウォールナット(写真)

 

VELA CC401.2
¥418,000/本 税込(ブラック/ホワイト)、¥440,000/本 税込(ウォールナット)

VARRO RS500
¥264,000 税込

 

VARRO DS1000
¥616,000 税込

 

 

完成度の高い映画音響を実感させるFS407.2を核にした5.1.6再生

 ではいよいよ「映画の音」だ。まずはFS407.2をフロントとし、センターはCC401.2、サラウンドはBS403.2、サブウーファーはRS500。AVセンターはデノンAVC-A1H、オーバーヘッドスピーカーはHiVi視聴室のリファレンス・イクリプスTD508MK3を6本使用して5.1.6システムで聴いている。地をはうような低音を十全に活かした音楽と音響で架空の未来社会をリアルに描いた『ブレードランナー2049』のUHDブルーレイを見た。音声はドルビーアトモス。

 冒頭タイトルバックと、それに続く農夫として働く脱走レプリカントと、ライアン・ゴズリング演じる主人公のレプリカントKによる尋問、そしてバトルの場面。音楽の重厚な響きもさることながら、風の重みや足音などの生活音が実に生々しい。サブウーファーの低音もしっかりと量感を出しつつ、解像度が高い。サブウーファーだけでなく、各チャンネルのスピーカーがいずれもしっかりと低音が鳴り、空間に配置された細かな効果音の実体感を高めている。すべてJET6搭載スピーカーでサラウンドを組んだこともあり、センターやサラウンドを含めた音場全体のつながりが良好で、壁を打ち壊す格闘場面での、部屋全体に響くズシンとした音の広がりも実にスムーズ。シームレスな空間感は素晴らしい。

 クライマックスでの海上での死闘から雪の降る地上での場面。Kが海に沈められたときの高域がマスクされた感じや大量の海水にのまれたときの重量感というか、息苦しさまでリアルに伝わってくる。轟音でありながらむしろ静かだとさえ感じる印象だ。ドゥニ・ヴィルヌーブの作品に相応しく苛烈な音と、その音の間にある静寂が奥深く広がる、完成度のかなり高いムービーサウンドといった趣だ。サイズ的にも大きすぎず、リビングなどでのシアター構築には最適なシステム構成だろう。

 

視聴したシステム

今回はふたつのシステムで視聴した。接続①は、VELA FS407.2を核にした5.1.6スピーカーシステムで、サブウーファーにはエラックの最新VARROシリーズのVARRO RS500を用いている。接続②はVELA FS409.2とVARRO DS1000を使ったシステム。いずれもセンターにはJET6搭載の最新機VELA CC401.2を、サラウンドにはVELA BS403.2、オーバーヘッドスピーカーには視聴室常設のイクリプスTD508MK3を使っている。なお、サブウーファーはアプリによる自動イコライザー機能が備わるが、それを事前に設定した状態でのチェックだ

 

 

視聴した映画

UHDブルーレイ
『ブレードランナー 2049 4K ULTRA HD & ブルーレイセット』
(ソニー・ピクチャーズUHB-81243) ¥7,480 税込

 

 

FS409.2中心の5.1.6再生は豪快さと繊細さに圧倒された

 センターやサラウンド、オーバーヘッドスピーカーはそのままに、フロントスピーカーをFS409.2、サブウーファーをDS1000に交換してみる。冒頭の場面はスケールが大きくなるだけでなく、音の密度も増したような凝縮感のある空間再現になる。どちらもボソボソとしゃべるレプリカント同士との会話も明瞭で、それぞれの思惑や感情が伝わる。バトルとなれば低音はさらにパワフルになり、まさしく轟音が鳴り響くが、音が飽和して聴きにくくなるようなことはない。音圧感と情報量のギリギリのバランスがとれ、迫真性が否応なく高まる。音楽もかなり雄大なスケールで鳴るが、スピナーの飛行音や車内計器類の音まできめ細かく再現する繊細さを合わせ持つ。

 廃棄物処理場の捜索に続くスピナーの墜落シーンでは、車外の雨音や浮浪者たちが窓を壊そうとする音、爆発のような轟音はもちろん、細かな音の緻密さが高まり、圧倒させられた。雪が降り積もるラストシーンでも、美しく音楽が流れるなか、限りなく無音に近いが広い空間を感じさせる静寂をしっかり描き見事だ。

 解像度が高く、表現力が素晴らしいことがベースではあるが、こと「映画の音」に焦点をあてると、なにより「静寂」と「轟音」を両立していることこそがVELA 400.2シリーズの大きな魅力だと取材を通じて感じた。シリーズでの音の親和性やシステムとしての完成度の高さなど、ホームシアターシステムとして現在一番の注目株となるに違いない。

 

エラックからサブウーファー向けのワイヤレス接続用トランスミッターAirX2(¥33,000税込)が登場。最大約7.6mまで対応サブウーファーへ信号送信が可能だ。対応モデルはVARROシリーズ(PS250を除く)のほかSUB3070などとなる

 

 

本記事の掲載は『HiVi 2024年春号』