Lumina(ルミナ)シリーズはソナス・ファベールのブランド名が音楽ファンにも広く浸透するきっかけとなった立役者だ。日本ではコンパクトなLumina Ⅰとフロアー型のLumina IIIは、どちらもヒット作となり、いまも人気にかげりは見えない。発売からまだ3年強しか経っていないのに、いまや同ブランドのラインナップのなかで重要な位置を占めるまでの成長を遂げている。

Amatorの名を冠した特別仕様のルミナシリーズ

 そのルミナシリーズに新製品としてブックシェルフ型のLumina II Amatorとフロアー型のLumina Ⅴ Amatorの2機種が追加された。サイズの選択肢が増える意味も重要だが、ソナス・ファベールのファンにはなじみのあるAmatorの名が示唆する特別感にも注目したい。上位機種の技術や意匠を受け継ぐ特別バージョンを意味し、今回はAmati G5などHomage(オマージュ)コレクションのノウハウを投入して内容に磨きをかけている。

 45度に配置した木目と艷やかな光沢仕上げが生む美しい外観はAmati G5のトップパネルと共通の意匠で、上位機種と間違えそうな高級感がある。側面と同様にブラックレザーで仕上げた天板上には「Amator」の銘板を取り付けて、既存のLuminaシリーズとの違いを控えめに主張する。

 Lumina Ⅴ Amatorは3ウェイ4スピーカー構成の本格派。デュアル構成のウーファーは165mm口径でLumina IIIよりも振動板面積が大きく、剛性を高めたリアのバスケットなど堅固な作りは上位機種譲り。ミッドレンジはセルロース混合ペーパーコーンを導入した150mm口径、位相の暴れを抑えるDAD(Damped Apex Dome)構造のトゥイーターは29mm口径だ。

 キャビネットはミッドレンジとトゥイーター用にリュート型の専用チェンバーを持つ二重構造を新たに導入し、ウーファーの音圧が中高域に影響を及ぼさないように工夫を凝らした。Homageシリーズで成果を挙げた技術だが、普及クラスのスピーカーでは専用チェンバーを導入する例は多くない。中高域の純度を上げる確実な効果が期待できるし、キャビネットの剛性も上がる。バスレフポート開口部は下向きかつ全方向に放射する構造。背後の壁面からの影響を受けにくく、設置条件次第では背面ポートに比べて澄んだ低音を得やすいメリットがある。

 ブックシェルフ型のLumina II Amatorはシンプルな2ウェイスピーカーで、ウーファーが120mm口径のコンパクトなLumina Ⅰに比べると普通の小型スピーカーに見える。ウーファーは150mmに拡大し、トゥイーター専用バッフルとの外観上のバランスも良くなった。このスピーカーもダウンファイアリング方式だが、バスレフポートの開口部は前面に配置。巧みなデザイン処理でポートが目立ちすぎないように工夫している。エントリークラスのモデルとはいえ、デザインと仕上げの一貫性を重視し、細部まで妥協しないのはさすがだ。Luminaシリーズが人気を博しているのはこのあたりにも理由がありそうだ。

 

Luminia Ⅴ Amator
表情豊かに歌う魅力を継承しつつ力強いリズムが躍動する

Speaker System
Sonus faber
Lumina Ⅴ Amator
¥638,000 (ペア) 税込

●型式 : 3ウェイ4スピーカー・バスレフ型
●使用ユニット : 29mmソフトドーム型トゥイーター、150mmコーン型ミッドレンジ、165mmコーン型ウーファー×2
●クロスオーバー周波数 : 260Hz、2.85kHz
●出力音圧レベル : 89dB/2.83V/m
●インピーダンス : 4Ω
●寸法/質量 : W280×H1,049×D373mm/22.5kg
●カラリング : レッド、ウォールナット、ウェンゲ

スクエアなスタイルながらソナス・ファベールらしさに満ちたデザインテイストが特徴。日本では未導入だったLuminia Ⅴ(ならびにLumina II)をベースに、美しいキャビネットの仕上げを施すとともに、ユニット、ネットワークにチューニングが加えられたモデルがこの2機種の「Amator」だ。仕上げはレッド/ウォールナット/ウェンゲの3色

 

●問合せ先 : (株)ノア TEL. 03(6902)0941

 

 表情豊かによく歌うというソナス・ファベールの長所はLuminaの新世代モデルにも確実に受け継がれている。強弱や緩急に起伏があり、音色のベクトルは明るい方向を向いているが潤いや瑞々しさももらさず引き出す。

 Lumina Ⅴ Amatorで聴いたヴォーカルは乾いた声にならず、温度感は高めで音圧も強め。低めの音域ではボディ感が豊かで、良い意味で丸さもある。クールでスタティック(静的)な音とは対極のウォームかつアグレッシブな声がスピーカーの手前に浮かび、息遣いがわかる距離の近さがなんとも心地良い。リズムを刻むベースとピアノは低音でも音が沈まず、活発に動き回る。

 室内楽のヴァイオリンとピアノ(SACD『ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第5番/フランク・ピーター・ツィンマーマン[vn]、マルティン・ヘルムヒェン[pf]』)はどちらも芯のある高密度な音だが、その芯が硬すぎず適度な弾力があることが好ましい。カチッとしたタイトな音というより、たっぷり響かせた低音に艶のある旋律を乗せるような鳴り方で、ツィンマーマンとヘルムヒェンの演奏の長所が素直に浮かび上がってきたように思う。ヴァイオリンの中高音が澄み切っているのは、リュート型チャンバーでミッドレンジとトゥイーターを独立させたことの成果だろう。にじみも少ない。

 ボブ・ジェームスの新譜『ジャズ・ハンズ』は各楽器のリズムが立体的に交錯する面白さが聴きどころだ。高解像度な音を求めるならほかにも選択肢があるが、ベースやシンセサイザーから弾むような動きを引き出すスピーカーはそんなに多くない。ピアノはダイナミックに動くベースに旋律がマスクされず、クリアーな音をキープし、リズムとの対比が鮮やかだ。

 ラフマニノフの交響曲第3番(ジョン・ウィルソン指揮シンフォニア・オブ・ロンドン)も各パートの位置関係を立体的に再現し、舞台の奥行や左右への広がりもスケールが大きい。手前に展開するヴァイオリンは強い浸透力で旋律を濃密に歌い上げる。低弦の厚みと力感はキャビネットの余裕によるもので、Lumina IIIを確実に上回る。

 映像パッケージも聴いてみよう。映画『ミッション:インポッシブル/デッドレコニングPART ONE』の蒸気機関車が暴走する場面、金属の摩擦音や機関車の蒸気圧の強さをリアルに再現し、ステレオ再生なのに65インチ有機ELテレビの映像と緻密にリンクして立体的な動きを実感できる。音楽は低重心、煽るようなリズムが力強いが、台詞も芯があるので効果音に埋もれず、切迫感を見事に再現した。

 

Lumina Ⅴ Amatorで中域ユニットに使われる15cmドライバー。天然繊維系振動板を採用していることはLumina II Amatorのウーファーと同一だが、センターキャップやマグネットの設計などが最適化されている

 

本機で2基搭載されている16.5cm口径のウーファーユニット。こちらも天然繊維系の振動板素材を用いている。高耐入力を意識した設計が施されており、映画のような強烈な低音再生でも高い再現性を実現したとしている

 

 

Luminia II Amator
明るく見通しの良い音場。反応の良い低音も実に魅力的

Speaker System
Sonus faber
Lumina II Amator
¥272,800 (ペア) 税込

●型式 : 2ウェイ2スピーカー・バスレフ型
●使用ユニット : 29mmソフトドーム型トゥイーター、150mmコーン型ウーファー
●クロスオーバー周波数 : 2.6kHz 
●出力音圧レベル : 86dB/2.83V/m
●インピーダンス : 4Ω
●寸法/質量 : W180×H304×D263mm/5.8kg
●カラリング : レッド、ウォールナット、ウェンゲ

日本でも特大ヒットを遂げたLumina Ⅰは12cmウーファーを搭載していたが、本機では15cmに拡大。それに合わせてエンクロージャーもひと回りサイズが大きくなった。専用スピーカースタンドは用意されないが、本機のポテンシャルを引き出すにはしっかりとしたスタンドの使用が必須だろう

 

 

 ソロ楽器やヴォーカルの旋律が密度の高い音色で浸透するのはLumina II Amatorも同じだ。室内楽はヴァイオリンの高音域に光沢感が乗り、力強く明るい音色で知られるストラディヴァリウスの鳴りの良さを忠実に再現。平行弦ピアノの澄んだ響きとあいまって、見通しの良さは格別だ。

 『ニューイヤー・コンサート2024』は弦楽器の鮮明な発音と短い音符の切れの良さが際立ち、ワルツとポルカのリズムの特徴をわかりやすく鳴らし分ける。発音に勢いを感じるのは金管や木管も同じで、全員が一体となって瞬発力のある音楽を作っていることがわかる。余韻の透明感が高く、明るく見通しの良い音場が広がることにも好感をもった。

 『It's Like This』で聴くリッキー・リー・ジョーンズのヴォーカルは小さめのイメージで浮かび、パーカッションやベースもスピーカーに張り付かず前後に音像が展開。ステージの描写力はLumina Ⅴ Amatorより一枚上手かもしれない。ベースはややドライな感触があり、最低音域のエネルギーはやや薄め。とはいえLumina Ⅰでは希薄だったボディの鳴りがこのスピーカーでははっきりと聴き取れる。

 ボブ・ジェームスは抜けの良いドラムと軽快な動きのベースがテンポの速さを際立たせる。重厚さより反応の良い低音を好む聴き手には、このスピーカーの魅力がストレートに伝わるのではないか。ピアノの粒立ちの良さなど、明るさ志向の特長もプラスにはたらく。

 ペトレンコ指揮ベルリン・フィルのブルーレイで鑑賞したショスタコーヴィチの交響曲第8番でもリズムの躍動感を前面に引き出し、演奏のダイナミックな側面が浮かび上がる。立ち上がりが速いだけでなく、音が消えるときに余分な音を残さず、瞬時に減衰することでリズム感の良さが実感できるのだ。ショスタコーヴィチを演奏するときは切れの良いリズムが不可欠で、オケのメンバー全員がそれを意識して演奏していることは映像でも一目瞭然だ。映像の動きと音の特徴が正確に揃うと実に気持ちがいい。

 

Luminaシリーズに共通して使われている29mmソフトドーム型トゥイーター。ドームの頂点をダンピングすることで、ボイスコイルの逆相動作を抑え、音場の広がり、音の透明度を高めるというアローポイントDADテクノロジーを採用している

 

セルロースペーパーや天然繊維を自然乾燥させたナチュラルファブリックを振動板として採用した15cmウーファー。高剛性を誇るカスタムバスケット(フレーム)にも注目したい。フロント前面下部にポートをもたせたバスレフ型エンクロージャーとの連携で、小型モデルながら55Hzに達する低域再生能力を備える

 

 

 既存の2機種とセンター用のLumina Cに今回の2モデルが加わり、Luminaシリーズは計5機種の充実したラインナップに成長した。新機種の追加で隙間を埋めるというより、サイズも含めて既存モデルの兄貴分が後から誕生した印象。特にLumina Ⅴ Amatorは上のグレードへの移行を果たした感がある。

 

本記事の掲載は『HiVi 2024年春号』