スピーカーとはまた別の魅力があるヘッドホン。現代では住宅事情や近隣への迷惑を気にせずじっくりと音楽に集中できることで、さらに人気が高まっている。ヘッドホン特有の頭内定位は好き嫌いも分かれるが、それゆえに頭の中に空間が出現する感覚は没入感に通じるし、サラウンドの包囲感や空間感さえ味わえる面白さがある。映画の再生にもぴったりだ。

 

Headphone
ZMF
Aeolus LTD
¥341,000 税込

●型式:開放型ダイナミック型ヘッドホン
●使用ユニット:ダイナミック型
●本体質量:約445g
●ラインナップ:Aeolus STD(¥237,600税込)、Aeolus LTD(¥264,000税込)
●オプション仕様:スタビライズ仕様(¥77,000税込・追加)、レジン仕様(¥121,000税込・追加)

D/A Converter+Headphone Amplifier
SOtM
sHP-100
¥81,400 税込

●型式:D/Aコンバーター内蔵プリアンプ、ヘッドホンアンプ
●接続端子:デジタル音声入力3系統(同軸、光、USB Type B)、アナログ音声入力1系統(3.5mmミニフォーン)、アナログ音声出力1系統(アンバランス)、ヘッドホン出力1系統(6.3mm標準フォーン)、LAN端子1系統
●寸法/質量:W106×H53×D175mm/1kg

●問合せ先:(株)ブライトーン TEL. 050(6877)6043

 

フィット感良好で音にも開放感あり。臨場感豊かな再現は迫力たっぷり

 ここではZMFのAeolus(アイオロス)のLTD(リミテッド)をベースに、染料で色を付けたスタビライズ仕様を試してみた。TPE(熱可塑性エラストマー)振動板を使ったドライバーをオープン型のウッド製ハウジングに搭載したモデルの映画再生的適性を探っていきたい。ウッドハウジングはギター製作から学んだ技術やノウハウが組み込まれているという。

 ヘッドフォンアンプには、SOtMのsHP-100を使用。DACチップにはシーラス・ロジック製CS4398、オペアンプはテキサスインスツルメンツLME49720としている。小型でありながら優れた駆動力を備え、低ノイズ設計の電源部をアナログ/デジタル系の両方に採用するなど、音質を追求している。取材ではテレビ放送も同じシステムで使うことを意識して、パナソニックの4KレコーダーDMR-ZR1をレグザの有機ELテレビ48X9400SにいったんHDMI接続、そこからの光デジタル出力をsHP-100につなぎ、Aeolusにアンバランス接続して聴いている(接続図参照)。

 

接続図

Aeolus LTD駆動用アンプとして、ソムの小型機sHP-100を用いた。パナソニックの4KレコーダーDMR-ZR1から、直接sHP-100に同軸や光デジタルで接続する方法も考えられるが、ここでは、テレビ放送の音声も接続替えせずにZMFで再生できる利点を視野に入れ、ZR1から48X9400SにHDMI接続、そこから光デジタルでsHP-100につないだ

 

 

 木製ハウジングの重厚な作りで重さも445gあるが、ホールド感に優れており、いったん装着してしまえば、重さはあまり感じない。ラムスキンのイヤーパッドも感触がよくフィット感も良好。2時間ほどの映画を見ていて肩が凝ってしまうようなことはなさそうだ。

 まず『DUNE/デューン 砂の惑星』を見た。オープン型のためか、音にも開放感があり、見渡す限り広がる砂の惑星の空間の様子もよく伝わる。ダウンミックス2ch再生ではあるが、巨大な宇宙船が海中から浮上するときに水が滴る様子や上空の圧迫感など、方向感や空間感もよく伝わってくる。

 そして、領主レト・アトレイデス公爵が暗殺されるシーン。広い部屋での空間の響き、レトの苦しげな声なども生々しい。音色としては、「黄金の中庸バランス」とでもいいたい、精密な鳴り方だが、ウッドハウジングの響きが温かみを感じさせ、情感をたっぷり伝えてくれる。『DUNE〜』のような壮大にして重厚なスペースオペラにふさわしい。スピーカーでの再生ではないため、低音で身体を震わせるようなことはないが、ローエンドまでしっかりと描く。そのため首都で繰り広げられる戦闘も迫力はたっぷり。空から襲来する艦隊による砲撃やそれを迎え撃つ地上からの攻撃の、移動感や空間感が明確に出るし、臨場感豊かな再現だ。

 

視聴した映画

UHDブルーレイ『DUNE/デューン 砂の惑星』
BD『シカゴ』

 

 

映像に思わず引き込まれる音!映画の世界を描き切っている

 続いてBD『シカゴ』から「セルブロック・タンゴ」のシーンを見た。冒頭の水滴音や看守の足音の響きをきめ細やかに描く。ゴツい足音の感触を伝えながら、微小な水滴のしたたる音の響きまでを鮮やかに再現するのだ。この両者の絡みは次第にリズムに変化していくのだが、水適音が鳴った瞬間からすでに音楽的な表情を醸し出す。女囚たちの歌声は情感たっぷりで、それぞれが恨みや憎しみと悲しみを痛切に歌い上げる。激しくも艶めかしいダンスの動作音がリアルで、女囚たちによる群舞になるとそのエネルギーが満ちてくる。こうした情感の表現が見事であり、頭の中で音が鳴っているというより、テレビ画面の映像にぐいぐいと引き込まれ、思わずその世界に没入してしまう。

 熱気たっぷりのエネルギー豊かな音と精密ともいえる描写力は、映画の音としても満足度が高く、これはなかなかの映画体験だと感じいった。AVセンターなどが備えるヘッドホン向けのバーチャルサラウンド機能を使う方法もあるが、2chダウンミックス再生でも十分に映画の世界を描き切っているのだ。

 場所をとらずにどこでも楽しめるヘッドホン再生では、映像表示もスマホやノートパソコンなどのコンパクトな機器で充分かと思いがちだが、このクラスの音であれば、大画面が欲しくなる。48インチテレビどころか100インチ級のスクリーンで見たいと思わせる迫力とスケールがあったのである。この没入感は新鮮であり、普段はスピーカーによるサラウンドで楽しんでいる人にも積極的におすすめしたい方法であり、システムであった。

 

本記事の掲載は『HiVi 2024年春号』