国内メーカーで目下、もっとも多くのAVセンターの製品ラインナップを有するのがデノンだ。それら製品群は、ここ数年で型番の下3桁が順次800番へと進化を遂げてきており、そのしんがりといっていいのが、この度発表されたAVC-X6800Hである。昨年発表され、本誌主催HiViグランプリにおいて〔ゴールド・アウォード〕を獲得したAVC-A1Hに次ぐポジションのトップエンド機が本機であり、2020年末にリリースされたAVC-X6700Hの正常進化版といってよい。そこには前述A1Hのエッセンスが注がれるとともに、コストパフォーマンスを重視した跡もうかがえる。今回はその量産前の個体を聴く機会を得たので、早速レポートしていきたい。

 

AV Center
DENON AVC-X6800H
¥528,000 税込

●型式 : 13.4chプロセッシング対応AVセンター
●定格出力 : 140W+140W(8Ω、20Hz〜20kHz、THD 0.05%、2ch駆動)
●搭載パワーアンプ数 : 11
●接続端子 : HDMI入力7系統(8K/60p、4K/120p対応)、HDMI出力3系統(eARC対応)、アナログ音声入力8系統(RCA×7、フォノ[MM]×1)、デジタル音声入力5系統(同軸×2、光×2、USB TypeA×1)、13.4chプリ出力1系統(RCA)、LAN1系統、ほか
●寸法/質量 : W434×H167×D389mm/15.6kg
●備考 : 2.4GHz/5GHz無線LAN対応(IEEE802.11a/b/g/n/ac準拠)、Bluetooth送受信対応(バージョン5.4、SBC対応)

●問合せ先 : デノン・マランツ・D&Mインポートオーディオ お客様相談センター TEL.0570(666)112

 

 

旗艦機A1Hのコンセプトを保ちつつ合理的な筐体設計を施した

 AVC-X6800Hの発表資料に目を通してイメージできることは、本機はA1Hのコンセプトとパフォーマンスを多くのAVファンに提供するべく、より合理的かつリーズナブルに全体像をバランスよくまとめたというものだ。

 その最大のトピックは、11chのパワーアンプを内蔵しながら、筐体サイズがAVR-X3800H/X4800Hとまったく同じという点。このコンパクトさは、上位機AVC-X8500H(同X8500HA)やA1Hの要素技術を継承したモノリス構造パワーアンプと、1mm厚の銅板と合わせた大型ヒートシンクの採用に負うところが大きい。ここに用いられた回路も上位機と同じシンプルな差動1段AB級のリニアパワーアンプである。位相回転が少なく、高い安定性と駆動力を発揮する点が特徴で、新規設計されたカスタムパワートランジスターやカスタムブロックコンデンサー等も使われ、さらに耐ノイズ性能を高めるべくプリ/パワーアンプ間を回路ごとに独立したシールド線で対処している。

 さらには電解コンデンサーを新たに設計し直して電流供給能力に余裕を持たせる一方で、ビデオ系回路を6層基板によって刷新し、アンプ系に充分なスペースが回せるよう配慮された(なお、内蔵パワーアンプは11chだが、13.4chのプロセッシングに対応している。接続可能なサブウーファーは最大4基)。

 

13.4ch対応のプリ出力や、MM対応フォノ入力のほか、コンポジットや色差などのアナログ映像入力端子も備わる。特にアナログ映像入力端子は上級機AVC-A1Hには搭載されていないので、レーザーディスクやアナログビデオデッキを愛用されている方にとっては貴重だ。なおアナログ映像は本機内でデジタル変換されHDMI出力する仕様だ

 

 

 

新開発パーツを多数投入。使いやすさの改善も図られた

 プリアンプ部を超低ノイズ可変ゲイン型とした点も上位機から引き継いだ要素技術であり、同社にとって今日使い慣れたメソッドのひとつといってよい。これは入力抵抗の熱雑音等が改善され、高S/Nにつながる。しかも今回はその前段に当たるD/A(デジタル/アナログ)変換部も一新。ジッターを減少させるジッターリデューサーも相まって、より理想的な動作となった。

 この他にも新たに開発されたパーツを投入。アナログ回路全体で150個以上の部品が交換されているという。そしてもちろんデノン(正確にはD&Mホールディングス)の自社工場、福島県白河市の白河オーディオワークス生産モデルである。

 本機ではユーザビリティも大幅に向上した。まずメニュー画面などが高解像度化され、たいへん見やすくわかりやすくなった。初期設定をサポートするセットアップアシスタント機能も今回試したが、わかりやすく便利だ。機能面ではプリアンプモードの搭載や、ドルビーアトモスとAuro-3Dの共存など、使い勝手の部分でより現実的な改良が加えられている(独自のネットワーク再生機能HEOSもいちだんと使いやすくなったが、そちらは下コラムを参照)。

 

新デザインとなったHEOS。操作しやすく反応も向上

2023年12月に新ファームウェアにアップデートされたHEOSは、画面デザインが新しくなって非常に見やすくなったこともあり、使い勝手が大幅に向上している。タブレットで使ってみた限りでは、ホーム画面からジャケットや音楽フォーマットのスペックなど、メタデータの情報が必要充分に表示されるうえ、サクサクと機敏に動く印象である。まどろっこしいところが一切なく、ネットワーク再生にキビキビと反応する感覚で操作フィーリングが真に素晴らしい。(小原)

iPhone、iPad、Android向けに提供されているHEOSアプリがアップデート。操作画面デザインが大幅に変更され、使いやすさが大きく向上した。レスポンスの改善も図られたようで、より簡単かつ直感的な操作の実現が図られた。写真はiPhoneでのHEOSアプリ操作画面

 

 

スピーカーをほどよく歌わせて満足度の高い2chステレオ再生

 まずは2ch、CDをアナログ接続で再生。ローエンドの安定感と駆動力の確かさに加え、ステレオイメージの立体感に長けているというのが第一印象。AVC-A1Hと比較すると、さすがに馬力や力強さではA1Hに軍配があがるが、S/Nの高さや繊細感ではむしろ本機が上回っているのではないかと感じる一面もある。

 マンハッタン・トランスファーのコーラスはきめ細かくて美しく、ハーモニーの余韻がていねいに再現された。ボブ・ジェームスのピアノトリオでは、ドラムのリムショットの抜けのよさ、ベースの膨らみ過ぎない量感がいい。もちろんピアノは燻し銀といっていいニュアンス豊かな質感再現。バルトークの管弦楽では雄大なスケール感と重厚な響きが表現され、満足度はとても高かった。以上はすべてピュアダイレクトモードでの印象だ。

 パナソニックDMR-ZR1からHDMI接続にて、同じくピュアダイレクトモードでCDを聴く。基本的な音調は変わらず、立体的で見晴らし良好な音場感だ。X6800Hはグイグイと駆動するのでなく、スピーカーをほどよくドライブして歌わせるような振る舞いに感じる。

 HEOSでは主にAmazon Music Unlimitedのロスレス/ハイレゾコンテンツを再生したが、ていねいな質感描写と立体的な奥行感が感じ取れた。チャーリー・ヘイデンとケニー・バロンのデュオ(44.1kHz/16ビット音源)では、ライヴ盤ならではの暗騒音とプレゼンス感があったし、上原ひろみのピアノトリオ(192kHz/24ビット音源)では、ハイレベルなテクニックの応酬の中で、スピード感とトランジェントの高さが明瞭に伝わってきた。文句ナシだ。

 

丸で囲んだ四角い黒色の3つの素子が電子ボリュウム。音量に合わせて、プリアンプ部のゲイン(増幅量)を可変させる可変ゲイン型プリアンプを採用。通常使われる音量では、プリアンプでは増幅させないことで、S/Nを改善させる。その肝になるのが電子ボリュウムの精度と基板のパターンニング。信号の流れがスムーズかつ最短距離での配線になるように工夫されている

 

旗艦機AVC-A1Hと同様に、チャンネルごとにコンパクトにまとめられた基板にパワートランジスターを実装、それを大型ヒートシンクに取り付けた「モノリス構造」を採用している。250W(※)の最大出力を11ch分も備えるパワーアンプ回路としては、異例なほどコンパクトだ(※出力は6Ω、1kHz、THD10%、1ch駆動時の値)

 

 

チャンネルごとの情報描写力が高く静けさの表現が素晴らしい

 次にサラウンド再生。スピーカーレイアウトは7.1.4にて、まずは映画『フォードvsフェラーリ』のチャプター17をドルビーアトモス視聴。テストコースを走るフォードGT40のエキゾーストノートが、フレームアウトの場面でもシームレスにつながって聴こえ、臨場感たっぷりだ。その間のシェルビーとフォード首脳陣の会話もくっきりと前にせり出している。各々のチャンネルの情報描写力はかなり高いとみた。

 『THE BATMAN-ザ・バットマン-』のチャプター9では、バットモービルのエンジン音が野太く、回転数が高まった時のブースト感が堪らない。また、車両の重さやエンジンの馬力の強大さも再生音から実感できる。カーチェイスのシーンでも、しつこく降る雨粒が鮮明に感じ取れるし、コンテナの落下やタンクローリーの横転の轟音にも凄まじさがあった。

 ここでスピーカーレイアウトを5.1.6.としてトップスピーカーを増やしてみた。するとどうだろう、雨の包囲感がいっそう濃密になり、没入感が高まった。クラッシュシーンで物が砕け散る様子も、こちらの方が迫力がある。

 同じセッティングで『デューン/砂の惑星』のチャプター6を視聴。実に精密な再生音だ。立体的な暗騒音の中にセリフが克明に浮かび上がり、静けさや気配感が素晴らしいのだ。音楽も重厚な雰囲気で、この映画のクールな世界観がリアルに浮かび上がった印象だ。

 最後にAuro-3Dにて、UHDブルーレイ『Feel Like Making Live!/ボブ・ジェームス・トリオ』のスタジオ・ライヴを視聴。ナチュラルな楽器の質感描写に加え、それぞれの楽器の定位が明瞭だ。ドラムのリムショットが適度な余韻とともに立ち上がり、ベースは前方のセンターにスマートに鎮座する。グランドピアノは左前方から左横にかけて明瞭に展開、定位する。スタジオ・ライヴならではのリッチなプレゼンス感が実感できた。

 こうしてAVC-X6800Hを聴いてみると、AVC-A1Hは高くて手が出ないから半ば妥協(我慢)して本機を、という感覚で捉える必要のないモデルということがはっきりとわかった。すなわち本機には本機のよさ、キャラクターがあり、デノンAVセンター・ラインナップの中でしっかりとヒエラルキーが形成されていることが確認できたからである。

 

本記事の掲載は『HiVi 2024年春号』