AV Center
MARANTZ CINEMA 30
¥770,000 税込
●型式 : 13.4ch プロセッシング対応AVセンター
●定格出力 : 140W+140W(8Ω、20Hz〜20kHz、THD0.05%、2ch駆動)
●搭載パワーアンプ数 : 11
●接続端子 : HDMI入力7系統(8K/60p、4K/120p対応)、HDMI出力3系統(eARC対応)、アナログ音声入力8系統(RCA×7、フォノ[MM]×1)、デジタル音声入力5系統(同軸×2、光×2、USB TypeA×1)、13.4chプリ出力1系統(RCA)、LAN1系統、ほか
●寸法/質量 : W442×H189×D457mm/19.4kg
●備考 : 2.4GHz/5GHz無線LAN対応(IEEE802.11 a/b/g/n/ac準拠)、Bluetooth送受信対応(バージョン5.4、SBC対応)
●問合せ先 : デノン・マランツ・D&M インポートオーディオお客様相談センター TEL. 0570(666)112
目指したのは一体型AVセンターの最高峰
麻倉 CINEMA 30は、素晴らしい音でした。コンテンツが持つ質感を素直に増幅していますね。まさにハイファイなAVセンターです。この刮目の音はどのように誕生したのかをお訊きしたいと思います。まず、アナログ変換を含むデジタル信号処理、アナログの小レベル信号を担当された飯原弘樹さんにお話しをうかがいます。
飯原弘樹さん(以下、飯原) 私は2023年にリリースしたマランツのトップエンドのコントロールAVセンターAV10も担当しました。その流れで、「次のAVセンターは一体型モデルの最高峰」を作るとのテーマを与えられました。その具体化のため個人的なテーマとしたのは「音の分離を徹底的に追求する」こと。一般的なAVセンターでは音が団子になることがとても多いと思います。CINEMA 30も一体機ですが、セパレート機AV10+AMP10で実現したようなレベルでの「音の分離」を目指しました。
麻倉 なるほど。音の分離を徹底した結果、音の定位もしっかりとしてきた印象がありますね。具体的にはどのように実現したのでしょうか。
飯原 音の分離以前に、デジタルノイズの干渉を抑え、アナログ信号のS/Nを底上げするために、まずデジタル基板を作り込みました。AV10の時にいろいろと部品の配置を変えて何回も試作したノウハウを活かして、CINEMA 30でもデジタル基板自体の大きさ、部品の最適なレイアウト、インピーダンス制御……など細かな工夫を盛り込みました。DACチップに入る信号ラインは短くするのは鉄則なのですが、この送り出しには、PLD(Programmable Logic Device/プログラム可能なデバイス)を使い、信号ラインを最短化しつつ、この素子から送り出す電流値も細かく制御し、ノイズを出しにくいところに追い込みました。
DAC素子が実装された、CINEMA 30のDAC基板。基板中央付近の正方形の黒い2つの素子(白囲みの部分)がDACチップ。基板自体は、一体型AVセンターとしてはかなり大規模で、高品位なパーツが林立している
デバイス配置の工夫で、顕著な音質向上
飯原 また、本機では、8chDACチップを2基用いていますが、DACチップにて変換されたアナログ信号は、たいへんセンシティブで、敏感に影響し合います。ですので、DAC内でのチャンネル配置には非常に気を配っています。デバイスレベルでもっとも干渉が大きいのは1kHz以上の高い周波数となります。ここでの干渉が大きいと、分離が悪く、まるで団子のような音となってしまうんです。こうした干渉を避けるためデバイス内部のチャンネル配置の工夫を行ないました。「頻繁に電流が流れているチャンネル」の横には「あまり電流が流れていないチャンネル」を配置したのです。
麻倉 具体的にいうと?
飯原 フロントL/Rチャンネルは常に使いますね。でもハイトチャンネルは常時鳴ることはありませんし、サブウーファーは250Hz以上の帯域は取り扱いません。そこでフロントL/Rのそれぞれの隣にはサブウーファーのチャンネルを、サラウンドとサラウンドバックの隣には、ハイトチャンネルを配置することで、隣接したチャンネルからの影響、干渉を抑え、結果として音の分離を高めています。
麻倉 それは賢い手法ですね。
飯原 信号処理でのチャンネル配列の工夫で、音の分離は劇的に変わるのは、DAC内部だけでなく、電子ボリュウムでも同様で、ここでもチャンネル配列を、先ほどと同じ発想で配置しました。
マランツ独自のHDAM(高速アンプモジュール)では、信号ラインを最短化するため、17個を千鳥状の配置としました。碁盤の目状の配置が一見美しいのですが、信号ラインの流れに着目すると、どうしてもデバイスを迂回するための余計な流れができます。千鳥状ならストレートなラインが描けるのです。これらの工夫の積み重ねの結果、音の分離が追求できたと自負しています。
麻倉 HDMI入力の音が良いのにも驚きました。
飯原 ありがとうございます。それもAV10の設計で学んだことのひとつです。HDMIは音が悪いというのは、換言すると、HDMIの音をきちんと設計していないからです。細かな工夫はたくさんありますが、たとえばHDMIレシーバー素子には、もともとジッターを削減する仕組みが組み込まれています。一般的なAVセンターで使われているHDMIレシーバーでは、デジタル信号をロックする範囲(ロックレンジ)に標準パラメーターが用いられ、ジッター削減効果はあまり高くありません。われわれは、徹底的にロックレンジの調整を試みました。レンジが狭いとジッターは効果的に取れますが、一方で音飛びが発生しやすくなります。逆にロックレンジを広くすると音質が劣化するという関係があって、実際のコンテンツを使って、何度も何度もロックレンジ幅を試して、音がよくて、しかも音飛びしない、最良のスイートスポットを発見し、CINEMA 30に採用しました。
麻倉 なるほど。HDMIで聴いた音の解像度が高かったのも道理ですね。
麻倉 パワーアンプ担当の渡邉敬太さんにお聞きします。どのような工夫をされたのですか?
渡邉敬太さん(以下、渡邉) 私はトップエンドの16chパワーアンプAMP10を担当しました。一体型としてAMP10のパフォーマンスに近づけるための最大のトピックが、パワートランジスターをCINEMA 30用に新調したことです。メーカーと協力して、内部のハンダ、リードフレーム、樹脂などさまざまな材質、パターンを比べ、音を聴いてベストなものを選びました。このトランジスターこそ、われわれの音の基礎であり、CINEMA 30のスピーカー駆動力のベースになっています。
麻倉 開発の期間も長かったでしょう。
渡邉 新開発したトランジスターの最初のテストサンプル品ができたのが2019年ですから、数年掛かりですね。最終的には従来品よりサイズの大きなパッケージを採用し、安定した大電力の供給を実現しました。トランジスターの配置もプリアンプでのHDAM同様に、千鳥配列にして、チャンネル間の干渉を低減し、熱を分散させています。さらにパワーアンプの回路でも歪みやノイズの低減を目指し、時間を掛けて最適な抵抗値やコンデンサーを選びました。電源もマランツのAVセンター史上最大のトロイダルコアトランスを搭載しました。
麻倉 トロイダルコアトランスは漏れ磁束が少なく、ノイズも極小ですね。
渡邉 パワーアンプのブロックコンデンサーも22,000μFと非常に大容量で、マルチチャンネル音源を大音量再生しても、電源の変動は小さく安定した動作が可能です。
麻倉 なるほど。CINEMA 30のハイパフォーマンスはプリもパワーも徹底的に質にこだわったこその、当然の結果だとよく分かりました。ありがとうございました。
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本記事の掲載は『HiVi 2024年春号』