TADスピーカーの真骨頂は、中域/高域再生を担う「CST(コヒーレント・ソース・トランスデューサー)」にあるといって過言でない。2つのドライバーユニットを同軸構造で配置し、TAD-GE1は250Hz〜100kHzという実に8.5オクターブの広帯域をひとつのドライバーが受け持っていると見做せる点音源同軸ユニットである。

Speaker System
TAD
TAD-GE1 (写真左)
¥5,500,000(ペア)税込
●型式:3ウェイ3スピーカー・バスレフ型
●使用ユニット:35mmドーム型トゥイーター/140mmミッドレンジ・同軸、180mmコーン型ウーファー×2
●クロスオーバー周波数:250Hz、1.8kHz
●出力音圧レベル:88dB/2.83V/m
●インピーダンス:4Ω
●寸法/質量:W394×H1,240(スパイク付き)×D547mm/64kg

 

TAD-ME1 (写真右)
¥1,386,000(ペア)税込
●型式:3ウェイ2スピーカー・バスレフ型
●使用ユニット:25mmドーム型トゥイーター/90mmミッドレンジ・同軸、160mmコーン型ウーファー
●クロスオーバー周波数:420Hz、2.5kHz
●出力音圧レベル:85dB/2.83V/m
●インピーダンス:4Ω
●寸法/質量:W251×H411×D402mm/20kg
●備考:専用スタンド(TAD-ST3¥264,000ペア税込)あり
●カラリング:ピアノブラック(写真)、チタニウムシルバー

 

●問合せ先:パイオニアカスタマーサポートセンター(TAD相談窓口)0120-995-823

 

 

TADの代名詞CSTドライバーが映画適性に優れている理由とは

 CSTドライバーは世代によって使われている金属素材や口径が異なるが、高域を担うドーム型トゥイーターには必ずベリリウムが採用されている。ダイヤモンドに次いで振動伝播速度に優れるこの素材を、TAD-GE1は真空蒸着という手法でドーム型にしたものを採用している。固まりの状態からプレスする一般的な圧延式に比べ、結晶方向が垂直方向となる真空蒸着式は、適度な内部損失があるうえにしなりにくく、高い剛性を維持しやすい。これが100kHzにおよぶ超高域再生に一役買っているのである。

 加えて、CSTドライバーは映画適性がすこぶる優秀というのが私の持論であり、それが本記事の重要な骨子だ。第1に、同軸ドライバーユニットなので音像定位に長けている。声のフォルム、実在感が素晴らしいのだ。第2に、ドライバー間の位相管理が厳密なので、効果音などの忠実な再現が期待できる。

 以上述べたCSTの真価を含め、同社が誇るテクノロジーの最新の成果が凝縮されているのが、昨年発表されたダブルウーファー仕様のTAD-GE1である。本機に採用されたCSTドライバーは、35mm口径ベリリウムトゥイーターと、14cmマグネシウム製コーン型ミッドレンジの組合せ。ちなみにウーファーは18cm口径のセンターキャップ一体コーン型で、軽量かつ剛性の高いアラミド繊維ラミネート構造振動板を採用している。

 CSTドライバー以外のトピックとしては、エンクロージャーとそのバスレフ構造に注目したい。内部各所にブレーシング処理が施されたエンクロージャーは、主にバーチ合板を採用して骨格を組み立て、外装パネルには高内部損失のMDFを採用。フロントバッフルは40mm厚の積層MDF製で、その内部には、一種の消音/共鳴吸収器として作用する「A-FAST」機構を、形状や取付け位置に工夫しながら配置した。

 バスレフ構造は、開口部をホーン形状としたことで前後にスムーズなエネルギー放出を実現した独自の「Bi-Directional ADPシステム」で、15mm厚アルミベースプレートと相まって安定した設置を可能としている。

 

理想を追求したCSTドライバー
ワイドレンジかつ点音源の両立。このスピーカーユニットとしての理想を追求したTAD独自のCSTドライバーを中/高域ユニットとして搭載した。高域はTADの代名詞ともいえる蒸着ベリリウム。軽量かつ剛性に優れた本素材を、コンピューター解析を駆使したHSDOM形状として、分割振動とピストニックモーションの最適バランスを図っている。ミッドレンジはマグネシム振動板で、単体ドライバーとして驚異の8.5オクターブの超広帯域再生を実現した

高品位な端子と独特のバスレフポート
バスレフポートは、エンクロージャー底部の前後にホーン形状をもたせたアルミニウムフレアを配置して構成。ポートノイズを低減しつつ、力強い低域を目指した。エンクロージャーから音響的に独立してクロスオーバーが配置され、低域のエネルギーからの影響を最小限に留める工夫がなされている。スピーカー端子は非常に大型のターミナルが用いられている。本体は前方2点、後方1点による3点支持仕様だが、音響的な影響がない状態で、転倒防止のピンを装着することで不測の事態への対応が図られている

 

 

GE1+ME1で4.0chシステムを構築。生々しさと緊張感に圧倒された

 今回のテストでは、このTAD-GE1をフロントスピーカーとし、リアスピーカーに同社のTAD-ME1を組み合わせた4.0chサラウンドを組んだ。TAD-ME1は25mmベリリウムトゥイーター+マグネシウム製9cmミッドレンジを組み合わせたCSTドライバーに、16cmアラミド織布のコーン型ウーファーを合わせたブックシェルフ型3ウェイである。AVセンターはデノンのAVC-A1H。それ以外の機種は別掲の一覧を参照いただきたい。

 まず始めにCDでステレオ再生を行ない、デノンAVC-A1HでもTAD-GE1を充分にドライブできるかを確認したが、まったく危なげないパフォーマンスであった。パトリシア・バーバーの歌声は克明な音像定位に加え、しっとりとした色艶の再現と細やかなニュアンス描写がわかる。その音像フォルムがピタッと微動だにせず、左右のスピーカー間にきれいに浮かび上がった。その後ろに伴奏のガットギターは定位し、これもまたピンポイントで指の動きさえよく「見える」音。ネックをすべる指、弦を爪弾く様子が詳らかなのだ。ステレオイメージの見通しのよさも格別である。

 

TAD-GE1

PROFILE
1975年のプロフェッショナル向けスピーカー開発プロジェクトからスタートしたTADは、2003年に家庭用向けのTAD-M1で、今に続く画期的な同軸ドライバーCSTを開発。以後、さまざまな製品にCSTを搭載し、日本有数のスピーカーメーカーとして名高い(優れたエレクトロニクス機器も多数リリースしている)。TAD-GE1は、聴く楽しみを実現したエボリューションシリーズの最高峰モデルとして昨2023年に登場。「一切の妥協を許さず、TADの技術を惜しみなく凝縮」したモデルとして開発された。今回は小原さんのリクエストでTAD-GE1と、TADの中では比較的小型のTAD-ME1を組み合わせて、最小限のサラウンドシステムである4.0ch構成で用いた

 

TAD-ME1

サラウンドに組み合わせたTAD-ME1。TAD最小機ながら同社の高い技術やこだわりの設計は同一。今回は専用スタンドのTAD-ST-3を使用した。TAD-GE1とは口径は異なるものの、同一思想で作られたCSTドライバーを搭載しているためか、音のつながりが際立って優れている印象だった

 

 

 UHDブルーレイの映画『フォードvsフェラーリ』のチャプター12、フォード・ムスタングの発表会シーンでは、来場者の喋り声を含めた暗騒音が立体的に広がり、センターレスにも関わらず、フォード副社長とケンとの会話が克明かつ実体的に醸し出される。特に副社長は、胸板の厚さを彷彿させる肉厚な声質がわかる。一方でシェルビーが操縦する飛行機は、旋回するシーンでエンジン音の変化が如実に現われ、機体の重さや速度がサラウンドで実感できた。着陸・停止前のドリフト時のタイヤのスリップ音さえ生々しい。

 GT40のテスト走行シーンでは、リアに同じCSTドライバーのME1を使っていることもあって、周回する走行音のつながりがシームレス。真横を猛スピードで通過する音は、一体感もあってすこぶるスピーディーだ。チャプター30では、バリバリというフェラリーのエキゾーストノートが甲高く響く。タイヤ交換時のハンマーの音、ガソリンホースのチャッキングの音など、細かな効果音が逐一生々しい。記者席のタイプライターや電話のベルなども、なかなかにリアルだった。

 UHDブルーレイはもう1枚『シンドラーのリスト』を観た。そのチャプター14、ナチス軍によるゲットー襲撃のシーンは、軍人等の叫び声や怒声、吠える犬など、屋外の暗騒音が凄まじい緊張感を醸し出す。一方でユダヤ人が暮らす室内シーンの緊張感は、声を圧し殺した緊張感(緊迫感)が先のそれとは異なり、緊張感の対比が見事に再現された。階段や廊下を走るブーツの靴音は乾いており、そこに乾いた銃声がさらにこだまする立体感が実に冷酷な雰囲気をはびこらせる。病院では患者に劇薬を飲ませるのだが、それを注ぐ小さなガラス製コップが互いに当たる音が悲しいほど生々しい。すべてを悟った患者の穏やかな笑顔がやるせなく、背中に戦慄を感じずには入られないシーンであった。

 

視聴した映画
UHDブルーレイ

『フォード vs フェラーリ 4K UHD』
(ディズニーVWBS7005)¥6,600税込
© 2020 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved.

『シンドラーのリスト 製作25周年 アニバーサリー・エディション 4K ULTRA HD+Blu-ray + ボーナスBlu-rayセット』
(NBCユニバーサル GNXF-2429)¥6,589 税込

 

 

バイアンプ駆動で鳴らすTAD4.0chでCSTの秘めた実力が眼前に出現

 ここまでの試聴では、AVC-A1Hを普通にシングル接続としていたが、内蔵パワーアンプは使っていないチャンネルがまだあるので、TADのスピーカー4本すべてをバイアンプ接続としてみた。設定はGUIにてオンスクリーン で表示されるのでわかりやすい(接続すべきスピーカー端子が表示される)。

 『フォードvsフェラーリ』のチャプター12では、プロペラ機のエンジン音がひときわ力強く、旋回時には機体の重みがぐっと増す。ムスタング発表時も拍手の数が多く聴こえるし、セリフの張り出し具合もさらに克明だ。チャプター17のGT40テスト走行シーンでは、エキゾーストノートにはいちだんと馬力の強さを感じる。しかも回転数の変化がより顕著に現われるのだ。チャプター30ではクラッシュの音がいっそう細かく、砕け散る破片の様子も生々しい。雷鳴はさらに低く、太い響き。濡れた路面の雨水をタイヤが巻き上げる音の様子もたいそうリアリスティックだ。

 こうしてバイアンプ接続としたことの効果は、スピーカーからの逆起電力の影響が少なくなり、情報量が上がるとともに、ローエンドの厚み、力感が増した印象に現われた。CSTドライバーの本領が発揮されるようだ。

 『シンドラーのリスト』でも迫真性がいちだんと高まり、シーン全体のテンションがさらに濃密になった。犬が吠える場面では、近い吠え声と遠いそれの距離感がはっきりとし、拡声器でのアナウンスがシーンにいちだんと緊張感を植え付けている。笛の音や銃声はトランジェントが高まったのか、空間を切り裂くように立ち上がりが機敏。しかも銃声にもいろいろな種類の音があり、その違いがさらにはっきりとした。転がり落ちる薬莢の音さえリアルで、そうした暗騒音の中に浮かび上がる軍人の怒声とユダヤ人の怯えたセリフの差異、場面終盤で流れてくる淋しげな合唱の音楽が悲し過ぎていっそう胸に迫る。このサラウンドサウンドはもはや“直視できない恐怖感”といってよい。

 バイアンプ接続にて、改めてAVC-A1Hの駆動力とそのポテンシャルの高さを実感したが、冒頭述べたCSTドライバーの秘めた底力が遂に眼前に現われたことを痛感した次第。役者が揃うと、かくも凄い世界が堪能できるものかと驚かされた視聴でもあった。

 

アンプは今回デノンの一体型AVセンターのフラッグシップAVC-A1Hを使用。いったんシングル接続で視聴したのち、スピーカーレイアウトにて「7.1ch Full Bi-Amp」を選択、各スピーカーに2chずつアンプをあてがう4.0chバイアンプ駆動を試した。画面は、スピーカー端子の接続ガイドとなる。TADおよびAVC-A1H以外はパナソニックDMR-ZR1(4Kレコーダー)、JVC DLA-V9R(プロジェクター)、キクチ グレースマット100(スクリーン)を用いた

 

 

本記事の掲載は『HiVi 2024年春号』