中国の深センに本拠を置く「Eversolo」(エヴァーソロ)は2017年に生まれた新しいブランドだ。その3年前に創業した「Zidoo」(ジドゥー)が母体となり、ZidooとEversoloふたつのブランドで産業用電子機器とオーディオ、ホームAV機器を幅広く展開する。約100名の社員の4割以上をソフトウェアとハードウェアのエンジニアが占めるというから、技術力で成長を遂げた企業なのだろう。そのEversoloのネットワークプレーヤー「DMP-A8」が日本市場に初めて導入されることになった。興味津々で一週間ほど使ってみたのだが、音質と機能どちらも期待を大きく上回るものだった。待望の大型新人の登場である。

ネットワークプレーヤー/プリアンプ:Eversolo DMP-A8 ¥330,000(税込)

●ディスプレイ:6インチ・タッチスクリーン
●内部メモリー:4GDDR4+64GeMMC
●DAC:AK4191EQ+AK4499EX
●オーディオプロセッサー:XMOS XU316
●オペアンプチップ:OPA1612
●SSDスロット:M.2 NVM2 3.0 2280サポート 4Tバイトまで
●対応フォーマット:最大768kHz/32ビット リニアPCM、DSD512
●対応ストリーミングサービス:Tidal、Qobuz、Highresaudio、Amazon Music、Deezer、RadioParadise、WebDAV、UPnP
●接続端子:デジタル音声入力4系統(光×2、同軸×2)、UBS Type-B、ARC対応HDMI端子、アナログ音声入力2系統(XLR、RCA)、HDMI IIS出力、USB Type-A×2、デジタル音声出力2系統(光、同軸)、アナログ音声出力2系統(XLR、RCA)、RJ-45(10/100/1000Mbps)
●寸法:W399×H90×D248mm

背面端子部。ARC対応HDMI端子やアナログバランス入出力も備え、プリアンプとしても使える

本体底面中央にスロットを備える。ここにM.2 NVMe2280 SSDを取り付ければストレージとして使用可能

 DMP-A8は同ブランドを代表する最上位機種で、他にD/Aコンバーターなども用意するが、まずはネットワークストリーマーが口火を切って導入された。コンパクトなボディに6インチのタッチスクリーンとボリュウムだけを配置したデザインはミニマムでシンプルだが、機能は驚くほど豊富でカスタマイズの余地が広いし、拡張性も高い。AK4499EXとAK4191EXのツインDAC構成のほか、セパレート型電源やフェムト秒クロックなど音を追い込む手法も本格派で、筐体の剛性確保や相互干渉を抑える回路構成など、機構面でも妥協のない作りが目を引く。

 DMP-A8最大のアドバンテージは、ネットワークストリーマーとしての対応力の広さにある。現在国内では複数のストリーミングがしのぎを削っているが、高音質と規模の大きさではApple MusicとAmazon Musicが二大勢力の位置付けだ。

 ところがこのふたつのサービスを一台でカバーするハイファイ製品はほぼ皆無で、ストリーミングをフル活用したい音楽ファンの間で不満が募っている。Apple MusicはAirPlayを使えば再生自体はできるのだが、AirPlayはサンプリング周波数の上限が48kHzに制約されるため、96kHzや192kHzで配信されているハイレゾ音源の真価を引き出すことができないもどかしさがある。

 一方、ここで紹介するDMP-A8は、Apple MusicとAmazon Musicどちらもハイレゾでの再生に対応している。これはハイファイグレードのストリーマーとしてひじょうに大きな強みであり、本機を選ぶ重要な理由になる。そのほか国内ではまだ始まっていないが、TIDALやQobuzなどオーディオグレードのストリーミングもサポートしているので、サービス開始後はすぐ使い始めることができる。

アプリを追加するだけで、多様なストリーミングサービスをハイレゾで楽しめる

DMP-A8は、アプリを追加することで様々なストリーミングサービスを楽しめるようになる。その操作はまず本体をネットワークにつなぎ、本体パネルの「Streaming」から「Music Apps」までスクロールして、使いたいアプリを選べばいい

「Music Apps」にはApple MusicやAmazon Musicも準備されており、これらをインストールすることで、192kHzなどのハイレゾで聴くことができた。ちなみに、Apple Musicにログインした状態であればApple Music Classicalのインストールが可能です

 複数のストリーミングに対応する柔軟な仕様は、AndroidOSを採用することによって実現している。アプリを追加インストールすれば、Apple Musicだけでなく、最新のApple Music Classicalも専用アプリ「Eversolo Control」(iOS/Android)から操作できるようになる。アプリを追加する手順はとてもわかりやすく、携帯端末のアプリからサインインできるため、登録に手間取ることもない。

 専用アプリはキューの表示方法やTIDALの基本メニューなどに独自の工夫を凝らしているので、各サービスの専用アプリや他社製アプリを使っている場合は多少の慣れが必要かもしれない。たとえば再生メディアを横断したキューの再生には対応していないが、メディアやサービスを切り替えた場合は再生履歴を直近の4種類まで選択できる。タブを切り替えればミュージックサーバーとストリーミングを横断して選曲できるので、うまく使えば自由度の高い選曲環境が手に入るはずだ。ちなみにミュージックサーバー(NAS)の選択は「ファイル管理」から行う必要がある。

 Android OSのサンプリング周波数変換回路をバイパスしてハイレゾ出力を直接取り出すために、独自設計のオーディオエンジン(EOS)を採用している点にも注目しておきたい。Android端末ではいまだに端末ごとの仕様に応じてハイレゾ再生に制約が課されるケースが多いが、DMP-A8にはその不安がなく、リスナーがAndroidの存在を意識する必要もない。スマホやタブレットの使い勝手とオーディオ機器ならではの高音質をここまでバランスよく両立させた製品はかなり珍しい存在だと思う。

<当日の主な試聴機器>
●SACD/CDプレーヤー:エソテリック Grandioso K1X(DACとして使用)
●クロックジェネレーター:エソテリック G-01X
●プリアンプ:アキュフェーズ C-2900
●パワーアンプ:アキュフェーズ A-75
●スピーカーシステム:ウィルソンオーディオ SOPHIA3

 ストリーミングの使い勝手の良さはDMP-A8の重要な長所だが、もちろん手持ちのミュージックサーバーなどローカル音源の再生にも対応するし、底面のM.2 NVMeスロットにSSD(最大4Tバイト)を追加すれば内蔵ストレージとして活用することもできる。さらにアナログ入力(XLR/RCA)またはデジタル入力にディスクプレーヤーなど外部ソース機器をつなぎ、本機をプリアンプとして使うこともできるので、単なるストリーマーにとどまらず、再生システムのコアとして活用する用途も視野に入る。R2Rラダー型の高精度なアナログボリュウム回路はこのクラスのネットワークオーディオ機器では珍しい装備といえる。

 なおDMP-A8は本来Wi-FiとBluetoothの接続機能を内蔵しているが、日本輸入モデルは当面有線接続に限定した仕様で販売される。今回の試聴もすべて有線LAN接続でストリーミングとミュージックサーバーの音源を再生した。

 アナログXLR出力の再生音は偏りのないフラットな周波数バランスを基本とし、音色もニュートラルで、エッジの強調や色付けもほぼ気にならないレベルに抑えている。Amazon Musicで再生したハイレゾ音源(96kHz〜192kHz/24ビット)は細部の情報量を素直に引き出しつつ、極端な高解像度志向の音とは一線を画すバランスの取れたサウンドという印象を受けた。

DMP-A8はUSB Type−B端子も備えており、これを外部DACにつなぐことでネットワークストリーマーとしても動作する。今回は内蔵DACを使った時と、外部DACをつないだ場合の音も聴き比べている

エソテリックのSACD/CDプレーヤー「Grandioso K1X」を外部DACとして使ってみた。Apple Musicを再生してみたら、きちんと192kHzで出力されているのが確認できた

 Apple Musicで同じ音源を聴くとヴォーカルや弦楽器にわずかだが瑞々しい感触が加わり、音の鮮度の高さを印象付ける。特にロックやポップス系の音源はApple Musicの方がリズムの動きに躍動感があるが、Amazon Musicでは音色のきめの細かさや声の微妙な表情の変化まで精度高く再現し、こちらもハイレゾ音源ならはでの豊かなニュアンスを聴き取ることができた。

 高音質ストリーミングのなかでも音源ごとに微妙な音の違いが存在するのだが、DMP-A8はそのわずかな違いをかなり明瞭に描き分けていると感じた。

 最大192kHz/24ビットで再生したTIDALの音源も音の途切れやノイズの発生は皆無で、安定した品質を確保していることを確認した。ノラ・ジョーンズのヴォーカルは息遣いまでリアルに再現しつつ声の質感がドライにならず、中低音域のボディ感や高音域のなめらかな発音を正確に描写。ベースは過剰に重くならず、声の帯域をマスクすることもない。ダイアナ・クラールやジェーン・モンハイトのヴォーカルも声に適度な潤いとウォームな温度感が感じられ、ピアノとの溶け合いの美しさなどハイレゾ音源ならではの長所も聴き取ることができた。

 本体ディスプレイに音楽信号と同期してVUメーターやスペアナなどのグラフィカルな表示を重ねる機能を内蔵する。これらの表示機能はいずれもその内容やオン・オフを設定メニューで切り替えることができるので、音質への影響を考えると、できるだけシンプルな表示を選ぶことをお薦めする。筆者のお薦めは一定時間の経過後に時計表示に切り替わるスクリーンセーバー表示だが、それも含めてすべての表示をオフに設定するのもありだと思う。

今回はDMP-A8を1週間ほどお預けし、NASの信号から各種ストリーミングサービスまで様々なソースをお聞きいただいた

 DMP-A8は音質を充分に吟味したDACとアナログオーディオ回路を内蔵しているが、現有のD/Aコンバーターとつないで音質のグレードアップを図る楽しみもある。

 筆者試聴室のリファレンスDACのひとつであるエソテリック「Grandioso K1X」にUSBで接続し、K1X内蔵のディスクリートDACでアナログ変換した音を聴いてみたところ、安定したエネルギーバランスを獲得すると同時に音色のグラデーションを豊かに再現するようになり、声やアコースティック楽器の質感表現にも余裕が生まれた。DMP-A8のXLR出力と基本的な音調自体は大きく変わらないが、質感やローエンドの深さなどに差が出るという印象を受けた。

 リッキー・リー・ジョーンズのヴォーカルなど、ミュージックサーバーから再生した音源ではK1Xの内蔵DACに切り替えた途端にハッとするようなリアリティが出てきた例もあったので、外部DACとの接続は試してみる価値があると思う。

 DMP-A8とともに過ごした一週間は新しい発見の連続で、ストリーミング再生の楽しさをたっぷり味わうことができた。導入のハードルが低く、操作インターフェイスも親しみやすくわかりやすい製品だが、その奥には紹介しきれないほど豊富な機能があり、膨大なカスタマイズのオプションが広がっている。使いこなし次第で大きく可能性が広がるネットワークプレーヤーだ。

専用アプリ「Eversolo Control」で、設定から音楽再生まで可能

「Eversolo Control」は、iOSやAndroidスマホ/タブレットで動作するアプリで、DMP-A8本体の設定から、ストリーミングやミュージックサーバーの音源再生まで可能だ(写真はシステム設定メニュー)

外部入力端子の選択や、出力をどの端子から行うかなどもアプリから設定できる。音声出力はデジタル、アナログなどからいずれかひとつを選択する

画面左のタブでTIDALやAmazon Musicなどのストリーミングサービスを選択し、右の画面でアーティストやプレイリストを選んで再生する

直近で再生したプレイリストが記憶されているので、気になったタイトルはここから呼び出し可能