アナログレコードの再生方法としての光電式カートリッジ(光カートリッジ)にフォーカスし、その技術的、音質的な魅力を、実際の音を聴きながら語り合ってもらう企画の第二弾をお届けします。前編では上杉研究所の藤原伸夫さんのオーディルームにお邪魔し、そのサウンドに全員うちのめられました。後編ではDVAS(ディーヴァス)を主催する桑原光孝さんの試聴室にうかがい、さらに深い光カートリッジの世界を探訪します。(StereoSound ONLINE編集部)
●参加メンバー:藤原伸夫さん、桑原光孝さん、青栁哲秋さん、山本浩司さん

●光カートリッジ専用フォノアンプ:DVAS Model 1B ¥1,320,000(税込、受注生産)

SPECIFICATION
●形式:光カートリッジ専用フォノアンプ
●接続端子:光カートリッジ専用フォノ入力1系統(RCA)、アナログ出力2系統(RCA、XLR)
●定格入力:40mV●定格出力:0.5V(RCA)、1.0V(XLR)●再生イコライザーカーブ:RIAA
●寸法/質量:W430×H112×D330mm/16.5kg

 同ブランドのデビュー作である光カートリッジ専用フォノイコライザー「Model1」を、さらに優れた音質にすべく、多くのアドバンスポイントを盛り込んだグレードアップモデル。

 信号経路の挿入損失を低減するため、信号系機内配線をPTFE被膜純銀単線とし、従来の真鍮、リン青銅素材だった入出力端子をテルル銅、純銅素材に変更。さらに電源ケーブルも導体抵抗の低いPc-Triple C導体の高品位なものに変更している。

 Model1以上の少ないRIAA偏差を実現するため、 シミュレーションとヒアリングを繰り返し、イコライザー定数のさらなる最適化を実施。20Hz~20KHzのRIAA偏差±0.3dB以内という高精度を実現した。

 またModel1ではアナログ音声出力はXLRバランスのみだったが、Model1BではRCAアンバランス端子も追加、RCA入力のみ搭載した製品との組み合わせでも高品質な再生を楽しめるようになっている。なお、Model1ユーザーに向けて、Model1Bへのアップデートにも対応する。

 建国記念日の翌日、埼玉県深谷市の閑静な住宅街にあるDVAS代表、桑原光孝さんのお宅に集合する。上杉研究所の藤原伸夫さんに加えてDSオーディオを主宰する青柳哲秋さんも光専用フォノアンプの最新モデル「DSMaster3イコライザー」を持って参加してくださった。はい、そうです、今日はDVASの「Model1B」との聴き比べができるわけです。

 桑原さんのリスニングルームは、約30年前に建てたという戸建て住宅の2階、約18帖+6帖の空間で、リビングダイニングとしても機能する。本格的な防音/調音仕様の部屋ではないというが、天井は米松で、壁は構造用合板を裏に入れた石膏ボードのペイント仕上げ。以前住んでいた借家の壁はビニールクロスが貼られていたそうだが、響きが最悪で、家を建てるときは絶対ビニールクロスはやめようと考えていたそうだ。また四方の壁裏には吸音材(グラスウール)が入っているという。

 ぼくが初めて桑原邸を訪ねたのは20年くらい前かな、そのときのメインスピーカーはATC「SCM100」だった。現在はJBLの銘ユニットを使った3ウェイのマルチアンプ・システムなのだが、正確に言うと、ファウンテック社のリボン型スーパートゥイーター(ハイパスフィルターの設定は13kHz)とヤマハのアクティブ・サブウーファー(ローパスフィルターの設定は30Hz)を2基足した実質5ウェイ・システムとして稼働させている。

 オリンパス仕様のキャビネットには15インチのLE15ウーファーと同口径のパッシブラジエーターが収められており、キャビネット上部にハチの巣ホーンと組み合わせたコンプレッションドライバー375と砲金ホーンに換装されたトィーターの075が載せられている。「はい、憧れの菅野沖彦先生のマネです、サブウーファーの使用を含めて」と桑原さん。

桑原さんのオーディオルームで、それぞれにお持ちいただいたレコードを順番に再生しました

 チャンネルデバイダーはソニー製のアナログタイプ「TA-D900」で、クロスオーバー周波数は500Hzと8kHzに設定。3ウェイのレベル合わせとハイパス、ローパスの遮断特性は聴感だけでなく、シビアに測定して決めているそうだ。さらにウーファーにはパラメトリック・イコライザー(PEQ)をかましてピーク、ディップを均しているという。

 パワーアンプはオール・マークレビンソン。ウーファーがモノブロックの「No.20.5L」、ミッドとトゥイーターはステレオ機の「No.27L」で、L/Rに分けて使っているそうだ。プリアンプもマークレビンソンの「LNP-2L」である。

 メインのレコードプレーヤーはリード「Muse3C」。ほかにも「EMT930st」をお持ちだが、当日はフォノイコの試聴のため、定位置から床上に避難していた。リードMuse3Cはアイドラードライブとベルトドライブの切替えが可能だが、ベルトだと音が優しくなりすぎるので、アイドラードライブで使用しているという。タンジェンシャル・トーンアーム「Reed5A」にはDSオーディオの「DS-W3」が取り付けられている。

 では、光専用フォノアンプの最新モデル、Model1Bについて聞いてみよう。オリジナル機との違いを教えてください。

 「いくつかありますが、いちばん大きいのは音楽信号の挿入損失を極力少なくするために内部配線材を純銀の単線にしたことですかね。また、RCA端子とXLR端子の素材を従来の真鍮、リン青銅から導電率が圧倒的に優れるテルル銅と純銅製に変更しています。さらに挿入損失の観点から、電源ケーブルもPc-Triple C導体仕様の高品位なものに変更しています。

試聴したDS Audioの光カートリッジと対応フォノイコライザー

レコードプレーヤーのリード「Muse3C」にタンジェンシャル・トーンアーム「Reed5A」+DSオーディオの光カートリッジ「DS-W3」という組み合わせで試聴した

 桑原邸では、DSオーディオの光カートリッジ「DS-W3」をリファレンスとして使用している。DS-W3は同ブランドの新たなリファレンスと位置づけられるモデルで、内部のLED及びPD(フォトディテクター)を左右のチャンネル各々独立に設置することで光学系の位置を最適化、カートリッジの出力を大きく増加させている。ノイズ量が変わらないまま出力が増加したことでカートリッジのS/N比が大きく向上したという。

 また左右独立LEDになったことで光学系の位置が最適化され、遮光板のサイズが減少、純度99.9%の無垢ベリリウムに変更されたことで50%以上の軽量化に成功したという。さらにボロンカンチレバー&ラインコンタクト針という組み合わせで、カートリッジベース部はアルミニウム合金(A5052)を一体加工することで剛性をアップ、1.6倍太い線材で配線することでインピーダンスを低減させている。

DS Master3 イコライザー

 「DS Master3 イコライザー」は、前モデルの「DS-W2イコライザー」から基板の厚みを1.6mm→2.0mmに変更、銅箔の厚みは35μから70μに変更されたことで、より深みのあり落ち着いた音に仕上がっている。さらに低域のカットオフ周波数を4種類から選択でき、出力端子もバランス/アンバランスから選べるなど、オーディオファンには嬉しい配慮も施されている。

DS-W3 カートリッジ ¥450,000(税別)
●発電方式:光電型●チャンネルセパレーション:27db以上(1kHz)●質量:7.9g
●出力電圧:500mV以上(イコイライザー出力)●カンチレバー:ボロン
●ボディ素材:アルミ削り出し●針圧:1.85g-2.05g(推奨1.95g)●針先:ラインコンタクト

DS Master3 イコライザー ¥1,800,000(税別)
●定格出力電圧:700mV(Grand Masterカートリッジ接続時)
●出力インピーダンス:120Ω(RCA)、120Ω(ΧLR)
●プリアンプインプットインピーダンス:10kΩ以上●入力端子:RCA端子
●出力端子:RCA端子×3、XLR端子×3、カットオフ切り替えスイッチ×1
●寸法/質量:W45.2cm×H15.3cm×D48.4cm/23kg

 それからオリジナル機はXLRのバランス出力のみだったのですが、Model1BにはアンバランスのRCA出力をつけました。買ってくださった方を調べてみると、XLR→RCA変換ケーブルを使ってプリアンプにアンバランスでつないでいる人がすごく多いことがわかったんです。こりゃRCA出力をつけるしかないなと。回路面ではRIAAイコライザーの定数を徹底的に見直して、偏差を極小化するように試みました。また、メイン基板へのレギュレーターも無帰還の定電圧電源に変更しています」

 まあいずれにしてもブランドのデビューが光専用フォノアンプというニッチなモデル。地味過ぎません? あまり売れるとも思えないのに……。なぜですか?

 「あら、失礼な(笑)、自分が欲しかったからですよ。DVASのポリシーは設計者のぼくが欲しいものをつくる、なんです。もちろん光カートリッジに大きな可能性を感じていたので、自分なりにとことんこだわったものを開発したかった。電磁型に比べれば、光カートリッジ用フォノアンプはまだまだ様々な工夫で音質を向上させられるという予感がありましたし」

 では、光カートリッジの魅力とは。

 「昨日も申し上げましたが、鮮度感の高さでしょうか。昔の録音が昨日録ったかのようなフレッシュな音で甦る。従来のアナログ再生でもCD再生でもない、レコードという媒体を超えた音が聞こえるんです。マスターテープにもっとも近づくことができるのが、光カートリッジだと思います。

 MCやMMの電磁型カートリッジはコイルの音を聴いていたのかなと今になって思います。磁石とコイルによって発生する力場(りきば)、光カートリッジはその反作用がないゆえ針先が自在に動く。音溝の細かな変化にすばやく対応できる良さが光カートリッジの最大の魅力です。実効質量も軽いし。

 ただし出力インピーダンスが高いので、出力ケーブルは低容量のものを使うべきで、DVASではそんな出力ケーブルも用意しています」

株式会社デジタルストリーム 取締役の青栁哲秋さん。光カートリッジに込めた思いを語っていただきました

 なるほどなるほど。では、DSオーディオの青栁さん、お願いします。もういろいろなところで訊かれていると思いますが、改めて光カートリッジを開発するに至った経緯を聞かせてください。

 「ぼくがデジタルストリーム社に入社したのが2012年、25歳のときでした。弊社は光学製品の開発を主軸としたビジネスを展開していますが、ぼくはあいつが生きていてよかったなと言ってもらえるような何か新しい製品を産み出すことをやりたいと思って入社したんです。それは必ずしもオーディオでなくてもよかった

 あるとき、弊社の顧問の家で東芝製の光カートリッジ「C100P」でマイケル・ジャクソンの『スリラー』のレコードを聴かせてもらったんですよ。そのとき初めてアナログレコードを聴いて、その音の良さに鳥肌たつくらい感激したわけです。ぼくはMDとかiPodの世代で、オーディオは最新のものがいちばん音がいいと思い込んでいた。

 それが50年近く前のカートリッジで40年前のレコードでびっくりするような音が出る不思議にヤラれて。顧問に<あなたたちは光の専門集団なんだから、今のパーツ、デバイスを使えばもっといい光電式カートリッジを作れるはず、やってみれば>と言われて、東芝製光カートリッジを1個もらってきたんです。

 で、会社に帰って顕微鏡で見てみたら、カンチレバーがゴムに刺さっていて、その前にはフィラメントのランプがあって、後ろにはフォトディテクターみたいのがあって……。あんなに感動したカートリッジがこんなラフなつくりなのか、今ならLEDが使えるし、完成度を上げた光カートリッジを出せば感動してくれる人がいるんじゃないかと思ったわけです。それは10人かもしれない、100人かもしれない。でもやろうと。数は少なくてもその音はその人の記憶に一生残るかもしれない。ぼくはそういうモノをつくりたかったんです」

山本さんは、青栁さんの熱い思いにオーディオの未来を感じた(?)様子

 なるほど、いい話です。

 「で、翌日秋葉原に行って、電圧値だけ見ていろいろなLEDと受光素子を買い集めて。使ったことのなかった半田ゴテでくっつけたら、かすかに音が出た。それで、いろいろやっているうちに取り付け位置が重要だとか、受光素子で音が違うとかわかってくるようになる。それがスタートなんです。

 顧問の家でレコードを聴いて感動しなかったら、またそれがMCカートリッジだったら、ぼくは光カートリッジ・ビジネスをやっていなかったと思います」

 そうか、面白いなあ。ところで、現在DSオーディオの光カートリッジは何モデル構成ですか。

 「全部で6モデルです。初代機のDS-001が2013年の発売で、現行モデルが第3世代になります。第1世代はゴムにカンチレバーを挿していましたが、第2世代になってワイヤーサスペンションに、第3世代もワイヤーサスペンションですが、遮光板が前にきてLEDがL/R個別の2基仕様になりました。

 今日お持ちしたフォノアンプは、昨年(2023年)発売したDS MASTER3イコライザーです。フラグシップのGRAND MASTERイコライザーは電源回路を分けた2筐体ですが、このモデルはワン・ボディでできることをとことんやろうと考えて企画しました。L/R独立基板で、電源回路は3系統。トランスから分けています。L/R用と光源供給用で計3基です」

 ところで、藤原さんや桑原さん、他社の手練れのベテラン・エンジニアが光カートリッジに特化したフォノアンプをつくっていることにたいして、どう思いますか。

今回の試聴会のためにシステムのチューニングを改めて追い込んでくれた、DVAS合同会社の桑原光孝さん

 「とてもうれしく思います。5年前に光カートリッジの詳細な回路図を公開したのも、DSオーディオだけで開発をやっていたら世界が広がらない、ぜひ多くのメーカーに参加してもらいたいと考えたからです。ぼくは光カートリッジをユニークな存在からポピュラーな存在にしたい。それが絶対的な価値判断基準なんです。儲かるとか儲からないなんて、どうでもいいんですよ。本音を言うと、光カートリッジを自社で開発してくれるメーカーが出てきてほしい位に思っています」

 30代の若き主宰者、青栁さんの男前な発言に聞き惚れるわしらおぢさん軍団。そろそろリスニング・タイムといこう。まずDS-W3とDVASのModel1Bの音を聴かせてもらった。演奏したレコードは、藤原さんが持参されたグレン・グールドの「バッハ:ゴールドベルク変奏曲」、青栁さんが持ってきたジャシンタの「Autumn Leaves」、そしてぼくの愛聴盤、バックハウスがベーム指揮ウィーン・フィルと共演した「ブラームス:ピアノ協奏曲第2番」(キングのスーパーアナログ盤)、それに桑原さんのチェック・ディスク、谷村新司の「JADE」とテレサ・テンの「再見我的愛人」だ。

 藤原さんいかがでしたか。

 「15インチ・ウーファーを積んだホーン型のマルチアンプ・システム、まずそこに親近感を覚えるわけですが、JBLの銘ユニットの底力を思い知らされる極上の音が聴けました。音楽がクレッシェンドしていくときのスリル、ハイレベル方向のリニアリティの高さに感心しましたね。それからハーモニーの豊潤さが見事だと思いました。比較すると、うちの音はもっとキリキリに締めた感じなのかな。ぼくはハーモニーを分析して解像していく傾向があるのかもしれない。桑原サウンドは王道を行く音だと思いました。音楽的なバランスがすごくいいんです。ぼくは機械の可能性を追いかけるタイプなんでしょうね、限界性能を見てみたいという」

上杉研究所 代表取締役社長の藤原伸夫さん。光カートリッジも使う人によって表情が変わりますね、とのこと

 たしかに昨日聴かせてもらった藤原さんの音は蛇口全開、豪放磊落、豪速球。桑原さんの音は、よく磨きこまれたバランスの良さに感動させられる音と言えるかもしれません。

 藤原さんは続ける。「うちのは煩悩のかたまりの音なんだな(笑)。だから、ときどきクォードESL63Proを聴いて気持ちを落ち着かせ、正気に戻る。ESLは煩悩のない清らかな音なの。ぼく、余命宣告を受けたら御殿場あたりに小屋を買ってESLで朝から晩までバッハを聴いていたいと思ってるんだ」

 ソレわかるなあ。ホーン・スピーカーでガンガンやっていると、コンデンサースピーカーの繊細で清らかな音で正気に戻りたいってぼくもときどき思います。でも、昨日藤原さんの音を聴かせてもらって、この人あと50年は生きるナって思いましたけど(笑)。

 いやいや、それは無理だよ〜と苦笑する藤原さん。青栁さんはいかがですか。

 「ぼくは会社でYGのHaily2.2を、家ではヴィヴィッドオーディオのスピーカーを使っているんですよ。ともにハイエンドオーディオの最先端を行くスピーカーと言ってもいいかもしれませんが、ふだんそんな音を聴いているぼくでも、まったく違和感のないサウンドでした。スピーカーをぱっと見て、古くさい音がするのかなと思ったんですが、めちゃくちゃワイドレンジだし、情報量も多くて解像度も高い。驚きました。アプローチは違っても目指している場所はぼくと同じなのかなと」

 「うわ、それはうれしいコメントですね。ぼくはヴィンテージでハイエンドの音を出すのを目標にしているんですよ」と桑原さん。

リビングとしても使えるように、天井や壁の素材にまでこだわった、DVASの試聴室

桑原さんの試聴室。18帖のスペース正面に5ウェイ・システムが設置され、その手前には4台のパワーアンプが置かれている。実は天井にはソニーの3管式プロジェクター「VPH-G70VRG」(!)も取り付けられており、シアター体験も可能とのこと

スピーカーに向かって左側にはオーディ機器が設置されている。防音用の厚みのある壁を活かして作り付けの棚も設けられており、Model1Bやプリアンプはここにセットされていた

桑原さんは、Muse3C にDS-W3とMC型カートリッジを取り付け、それぞれの違いも検証しているとのこと

<主な再生システム>
●ターンテーブル + 光カートリッジ + トーンアーム:
 リード Muse3C + DSオーディオ DS-W3 + リード Reed 5A
●フォノケーブル:DVAS Argent Phono
●フォノイコライザー:DVAS Model1B
●プリアンプ:マークレビンソン LNP2L
●チャンネルデバイダー:ソニー TA-D900(クロスオーバー500Hz、8kHz)
●パラメトリックイコライザー:クラークテクニック DN405×2(ウーファ系のみ挿入)
●パワーアンプ:マークレビンソン
 No20.5L×2(低域)、No27L×2(L/R中高域で左右モノーラル使用)
●スピーカーシステム:
 スーパートゥイーター ファウンテック NeoPro5iリボントゥイーター(13kHz以上)
 トゥイーター JBL 075(砲金ホーン換装)
 ミッドレンジ JBL 375+537-500
 ウーファー JBL LE15A+PR15C(オリンパスエンクロージャー)
 サブウーファー ヤマハ YST-SW1000×2(30Hz以下)

 次にDSオーディオのフォノアンプDS MASTER3イコライザーを聴いてみました。桑原さん、どうでしたか。

 「ぼくはこのモデル以外、すべてのDSオーディオの製品をこの部屋で聴いているんですよ。で、このフォノアンプは初めて聴きましたが、ビックリするくらい良かった。なんかDSオーディオの音が一段飛躍した感じがします。

 従来のアンプは豊かな低域再生を重視した音調ととらえていましたが、DS MASTER3イコライザーはエネルギーバランスがとてもフラットな印象を受けました。しかもスケールが大きい。物量投入型らしいゆとりがあるんですね。音色もとても艶っぽくて。DVASの設計者としては、だいぶイヤな感じです(笑)」

 ……笑。藤原さん、お願いします。

 「DVASとの比較をしゃべるのはとても難しいですが、どちらも水準をはるかに超えたすばらしい音でした。ジャシンタのヴォーカルは、DSオーディオで音決めに使っているだけあって、DS MASTER3がよかった。バランスが見事で、スケール感もあって。一方で、グールドやバックハウスのピアノ曲を聴くと、DVASのほうが音の掘りの深さがあって好きでした。ああ、ここにウエスギも持ってくればよかったな(笑)。同条件で聴き比べてみたい」

グレン・グールドの「バッハ:ゴールドベルク変奏曲」やジャシンタの「Autumn Leaves」、バックハウスがベーム指揮ウィーン・フィルと共演した「ブラームス:ピアノ協奏曲第2番」などのレコードも再生している

 鮮度感の高さ、フレッシュさ、もったいぶったところのないストレートな感じ、みなさんが言われる光カートリッジの魅力をどちらも十全に楽しませてくれたわけですが、音色、音のタッチが微妙に違うのが面白かった。テレサ・テンのヴォーカルで顕著だったんですが、DVASのほうが若やいだ声に聞こえ、DSオーディオは少し艶が乗って落ち着いた声に聞こえました。青栁さん、どうでしたか。

 「イコライザー回路を公開したことで、他社のエンジニアさんがいろいろ工夫してフォノアンプを開発してくださって、とても刺激になりますし、開発者が違うと、こんなに音も変わるんだということが改めてわかって、とても楽しかったです。また光カートリッジの場合、磁石やコイルと違って、LEDやフォトディテクター等のハードウェアの技術革新は日々進んでいるので、将来的にはもっともっと良い製品を創り出せると思っています」

 なるほどなるほど。頼もしいなあ、光カートリッジの今後にますます期待できますね。

 「夢があるよね、光カートリッジには。ヤマモトさんもやらないわけにいかないね。さて、そろそろ飲みに行きますか」と藤原さんの声に促されて、全員でわいわい夜の街に繰り出したのだった。(完)

提供:有限会社 上杉研究所、DVAS合同会社、株式会社デジタルストリーム

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