フランスでは、あっという間に動員130万人超えの大ヒット。カンヌ国際映画祭では最高賞パルムドールを受賞、ゴールデン・グローブ賞2部門受賞を果たし、アカデミー賞5部門ノミネート中の大作ミステリー『落下の解剖学』が2月23日より全国公開される。

 「冬の山荘で、作家の男が転落死した状態で発見された」、「疑いがかかったのは、やはり作家である妻」、「事件に関する唯一の証人と言えるのは、視力に障害を持つ11歳の息子」。この3つをメインテーマとして、実に丁寧に、地に足をしっかり付けた形で物語が描かれてゆく。「妻は作家だから、トリックのやり方もいろいろ知っているのではないか?」とか、「息子はどこまで目が見えているのだろう」などと考えながら、当初こそ、つい犯人捜しをしてしまったのは私だけではないはずだが、ストーリーの進行はまるで「もっと広い視野からこの映画を体験せよ」と呼び掛けてくるようでもあり、やがて、長時間続く迫真の裁判シーン、登場人物それぞれの発言の微妙な違い、作家の男(夫)の生前の行動を語る者たちの目の動きや声の抑揚に、いつしかこちらは「探偵気分」を忘れ、より映画そのものに引き込まれてゆく。言語はフランス語と英語でつづられるが、なぜ二つ出てくるのかも、物語の重要なファクターのひとつであると私は感じた。また、「スヌープ」という犬の快演についても触れておきたい。

 夫婦には、家族には、他人の及びもしない真実やつながりがあるものだ。intimateなものである「夫婦性/家族性」と、公的であることが求められる「裁判」、そのふたつに登場人物たちがどう折り合いをつけていくか、そこも大きな見どころである。監督・脚本:ジュスティーヌ・トリエ、脚本:アルチュール・アラリ、出演:ザンドラ・ヒュラー、スワン・アルロー、ミロ・マシャド・グラネール、アントワーヌ・レナルツほか。

映画『落下の解剖学』

2月23日(金・祝) TOHOシネマズ シャンテ他全国順次ロードショー

監督:ジュスティーヌ・トリエ 脚本:ジュスティーヌ・トリエ、アルチュール・アラリ
出演:ザンドラ・ヒュラー、スワン・アルロー、ミロ・マシャド・グラネール、アントワーヌ・レナルツ 
配給:ギャガ 原題:Anatomie d'une chute|2023年|フランス|カラー|ビスタ|5.1chデジタル|152分|字幕翻訳:松崎広幸|G
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