“人間の業”という言葉が何度も頭の中で点滅してしまった。濃厚かつスリリング、背筋をぞっとさせる一作だ。

 「仁祖(インジョ)実録」という記録物(1645年。“仁祖”は李氏朝鮮時代の第16代国王)に記されていた事件がモチーフになっているという。つまりこの映画で描かれていることと近いものが現実にも起こっていたと想像できる。恐ろしい。「仁祖実録」について、不勉強な私は初めて知ったが、韓国ではひじょうによく知られたストーリーなのであろう。が、この映画で描かれるヒリヒリするような愛憎、人間関係には、ある程度の年齢に達すれば、どの国の誰であろうと大なり小なり思い当たることがあるはずだ。

 主人公のギョンスは天才的な腕前を持つ鍼医で、宮廷で働いている。弟は病に侵されているが、彼を少しでも快方に向かわせるべく良い医療を受けさせたい、そのために高額で安定した収入を得たいという思いもあるはずだ。このギョンスと、「王様の息子の死」が結びついてから、手に汗握る展開が連続する。通常、クライマックスというのは後半に「どうだ」と訪れそうなものだが、この映画、クライマックスだらけである。加えて、各登場人物の迫真の表情、1600年代の宮廷の再現に徹底的にこだわったのであろう内装、電灯などない時代だったからこその「夜」の描写、すべてに私は唸り声をあげたくなった。この「夜」と、ギョンスの身体的特徴、王様の「欲望」、こうしたファクターがぶつかり、うねり、あれよあれよという間にエンディングだ。

 監督はアン・テジン、出演はリュ・ジュンヨル、ユ・ヘジンほか。2022年の韓国映画界で年間最長No.1記録に輝き、国内の映画賞では25冠を得た大ヒット力作の日本上陸を喜びたい。

映画『梟ーフクロウー』

2月9日(金)より新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町ほかにて全国ロードショー

監督:アン・テジン
出演:リュ・ジュンヨル、ユ・ヘジン
2022年/韓国/118分/英題:THE NIGHT OWL/日本語字幕:根本理恵/G/配給:ショウゲート
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