CES2024のパナソニックのプレスカンファレンスでは、テレビやシェーバーといった具体的な新製品の発表が行われたことも話題となった。近年の同社はサステナブルやライフスタイルに関連した発表が多く、オーディオビジュアルファンとしては物足りなさを感じていただけに、これは大きな朗報だ。そのパナソニック新製品の中で、Stereo Sound ONLINE読者が気にしているであろう薄型テレビについて、直撃インタビューをお願いした。対応いただいたのはパナソニックエンターテインメント&コミュニケーション株式会社 代表取締役社長 チーフ・エグゼクティブ・オフィサー(CEO)豊嶋 明さんと同社ビジュアル・サウンドBUハード設計部ハード設計六課長の水野俊哉さんだ。

取材に対応いただいた、CXマーケティングセンターの河野 遥さん(左)とパナソニック エンターテインメント&コミュニケーションの豊嶋 明社長(右)

麻倉 今日は、お時間をいただきありがとうございます。近年のパナソニックのCES取材はなかなか難しく、ブースにもテレビは2台ぐらいしか展示していなかったりと、とても寂しい思いをしていました。

 しかし今年は予想に反し、プレスカンファレンスの後半では、家電製品が多く発表されました。CESの会場を見ても家電の展示がだんだん減っていく中で、これは画期的なことではないかと思っています。そういう意味では、本当に“Welcome back ,Panasonic”ですね。

 私は30年ほどCES取材を続けていますが、90年代後半のパナソニックのテレビ展示は、リアプロジェクターや大画面ブラウン管が並び、その後デジタル放送に対応しますといった内容でした。そこから、新しいデバイスとして液晶やプラズマが登場するなど、技術的な提案が続いていたのです。

 しかし2012年〜13年頃に突然、家電の展示が姿を消してしまって、サステナビリティ一色になってしまい、たいへん寂しい思いをしていたんです。まず、今回の展示でテレビや家電が帰ってきた理由からお聞かせください。

豊嶋 今日はよろしくお願いいたします。パナソニックグループ全体としては、環境に対する貢献というテーマは大切です。その点は当然進めていきながら、さらにどのようにお客様の役に立っていくか、われわれの商品やサービスを通じて豊かな生活を実現していくかを考えました。

 その場合、やはり商品を基軸にしたサービスやソリューションが重要だろうということで、今年のプレスカンファレンスでは、独自の作り込みやこだわりを持った、特徴ある商品を紹介して、パナソニックのアイデンティティとして、こういう価値をお届けするんだということをお伝えしました。

麻倉 その点について、社内でもディスカッションされたのでしょうか?

豊嶋 グループ全体では、家電以外にB to Bや製品以外のソリューションを担当している部門もたくさんありますが、トータルでは社会へのお役立ちがテーマになるので、特に暮らしに寄り添った製品というものは重要視しています。その中でも家電や、生活の中に溶け込んでいる製品について、それを通して暮らしがどんな風に豊かになるかという点をもう1回見直す必要があると考えています。

麻倉 いいですね、松下幸之助さんの水道哲学が戻って来た感じですね。

豊嶋 近年はライフスタイルも変化していますし、一人一人が異なる価値観をお持ちですので、どうやってみんなに寄り添っていくかということを考えた結果、色々なものが進化してきています。

 特にテレビなどのAV商品は進化が早い領域なので、技術のシーズをどう具現化するかというところと、お客様のニーズを組み合わせてきていました。メーカーからのプロダクトアウトではなく、お客様がどのような価値を欲しているのか、将来的に望まれているのかを考え、「感動と安らぎ」をお届けしたいというところを目指しています。今ある、もしくは今後手に入れる技術をどのようにそれにつなげていくかを、人基軸で考えているのです。

新製品はLGディスプレイのMETA2パネルを搭載、55、65、77型のラインナップ

麻倉 確かに、今回発表されたシェーバーや一眼レフカメラも、よく考えられたものでした。そういう意味では、CESの大舞台に出すに値する製品がでてきたという感じがしています。特に今の豊嶋さんのお話をうかがって、「感動と安らぎ」という個人の感覚を製品にしっかりつなげているのが素晴らしいと思いました。

 それに関連し、今回はテレビのOSにFire TVを搭載したのも注目ですね。基本的にはコンテンツファインディングからの発想だと思うんですが、山ほどあるコンテンツの中から、ユーザーに最適なものを選んでくれるということは、これまで日本のテレビメーカーはあまりやっていませんでした。そこで今回、なぜFire TVを採用したのかお聞かせください。

豊嶋 今言っていただいたところが、ひとつの大きなポイントだと思っています。そもそも、テレビ放送を見るためにチャンネルを選ぶだけの機械というのが、昔の“テレビ”でした。

 しかし今は、見たいコンテンツは人によってまったく違いますし、放送やネットなど、色々なコンテンツが選びきれないほどあります。加えて個人で録画した番組も含めると、お客様が自分の見たいものが探し出せない、もしくはたどり着けないといった悩みがあると感じていました。

麻倉 昔はテレビ放送しかないから、チャンネルを選ぶだけで簡単に目的の番組を見ることができたけど、今はそうはいかないと。

豊嶋 そんな中で、最適なコンテンツを自分の見たい時に探し出せるのはひじょうに重要だと考えました。そこでアマゾンと組んでFire TVのユーザビリティを取り入れることによって、その課題が解決できるんじゃないかと思ったのです。

 そこにわれわれが持っている放送とネットの融合技術を加えることで、お客様が気づいていない番組をお届けできる、コンテンツに対する新しい出会いを提供できる機能を充実させていきたいと考えています。

麻倉 コンテンツファインディング自体は、他にも色々なOSが存在します。今回Fire TVを選んだ理由は何だったのでしょう?

豊嶋 ネットと放送、お客様が持っているコンテンツをシームレスに融合できるという意味では、もっとも広がりがあるのがFire TVだと思います。今後の拡張性やわれわれがやりたいこととの親和性を考えた時に、FireTVが最適だったということです。

 今後テレビが、色々な情報のやり取りをするインターフェイス、窓口に進化していくと考えると、アマゾンが持っているプラットフォームやソリューションの広がりは、他よりも可能性が高いと思っています。

麻倉 なるほど。確かにFire TVなら、スマートホームやホームオートメーションとの連携もできます。

豊嶋 そういう意味でも、今回の協業によって、もはやテレビと呼べないくらいの進歩ができる可能性もあります。

麻倉 Fire TVを搭載したテレビは、昨年秋のベルリンのIFAでも展示されていましたが、その時は他のOSも検討していますといった印象が強かった気がします。

豊嶋 実はあの時既に、2024年からFire TVを全面的に採用することは決まっていたのですが、発表のタイミングをCESにすると決めていたので、「MX800」シリーズにFire TVを搭載しましたということだけに留めました(笑)。

「Amazon Fire TV」OSの画面。検索性に優れるという

麻倉 日本では今年の新製品からFire TV搭載モデルになるのでしょうが、気になるのはアメリカ市場です。パナソニックのテレビがアメリカ市場から撤退して10年ぐらい経っていますが、今回出展したということは、当然アメリカでもう一度テレビを売ります、というのが自然な論理だと思います。私が新聞記者だったら“再参入決定”と書いていますよ(笑)。

豊嶋 確かにアメリカはテレビ事業にとって魅力的な市場ですが、環境はひじょうに厳しく、大画面テレビであっても価格が落ちてきていますし、競合メーカーも多いのです。それを踏まえて、今後の検討のひとつとして、市場動向に注視していきたいと思っています。

麻倉 話を戻しますが、Fire TVのコンテンツファインディングの強さとは、どういうところにあるのでしょう?

豊嶋 実は今回、アマゾンのFire TV開発チームと、ここにいる水野を含めたパナソニックのスタッフと共同で開発を進めています。

麻倉 なるほど、カスタム開発のようなイメージですね。

豊嶋 Fire TVが持っている操作性にわれわれの独自機能を入れ込んで、お客様から見た時に一番選びやすい、使いやすいフォーマットを考えました。操作性のサクサク感にもこだわって、ストレスなく色々なことができる、放送なのか、ネットなのかを意識しないで好きなものを選べるように開発しています。

麻倉 ということは、今後パナソニックのテレビに搭載されるのは、今までのFire TVよりも進化したバージョンということですか?

水野 今回導入するFire TVは、弊社独自のアルゴリズムを組み合わせており、同様のOSに比べても魅力あるものに仕上がっています。

麻倉 その点はもう少しアピールした方がいいんじゃないですか? 「Fire TV Powered by Panasonic」とか。

水野 なるほど。通常版とは違う、もう一段素晴らしいOSですよということは、われわれとしてもアピールしていきたいですね。

麻倉 具体的な操作方法としては、音声入力で『ジェームズ・ボンドが見たい』と言ったら、関連するコンテンツが放送、ネットを横断して表示されるといったイメージなのでしょうか?

水野 そういった音声検索も実現していますし、Alexa機能はフルサポートしています。また、特にヨーロッパでは放送がややこしいんですが、そのあたりについても、弊社のテレビメーカーならではの強みを活かして対応しています。

麻倉 放送波のコンテンツファインディングはパナソニックに、ネットからのコンテンツはアマゾンに強みがあって、それを一緒にしたということですね。

水野 通常こういった検索機能を使うには、セッティングに時間がかかるんですが、そこについても、われわれは知見を持ち合わせているので、簡単に完了するよう工夫しました。

検索性を考慮した新リモコン

麻倉 レコメンドデーションとしては、視聴履歴やレーティングを使うといったやり方が一般的です。Fire TVではそのあたりに特別な方法があるのでしょうか?

水野 Fire TVも視聴履歴や操作ログを取っていますし、弊社でも色々な情報をログとして保存しています。それらを使って、テレビ視聴でのレコメンドもそうですし、今後の色々な提案、お客様にとっての価値としてお返しできる方法を考えています。

麻倉 そこでは、視聴者のプレファレンス(好意度)をどうやって盛り込むかがポイントだと思います。視聴時間は長いけど番組をちゃんと見たのか、気に入ったのかというところまでは、まだ判断できていませんよね?

豊嶋 そのためには、お客様の感情がわかるようなセンシングをしないと難しいと思います。現在はそのベースという意味で、お客様がどんな操作をしたかに注目しています。

 ただ、今まではどのチャンネルが選択されたかというログが中心でしたが、今回からは、誰が見ているか、どのアクセスを選択して入っているかも紐づけられます。

 将来的にはカメラなどを使って、感情センシングとか、どのような状態で視聴しているかをテレビ側が把握することで、このコンテンツは喜ばれている、これはそうでもなかったといったことを検出していきたいと考えています。そんな可能性も、アマゾンと組むことで広がっていきます。

麻倉 その他に、パナソニックのテレビとしてFire TVを使うメリットは何があるのでしょう?

水野 Fire TVは音声認識AIも優れており、音声操作に関しても高い技術を持っています。アレクサとの連携を進めることで、テレビ以外の家電や住宅設備との接続性も高まると思っています。

 今後は色々な製品がつながることで、暮らし全体についてお客様にレコメンドしたり、製品単体では提供できない価値をトータルでお届けすることが当たり前になってくるでしょう。われわれが持っているハードの接続性とアマゾンのサービスソリューションが組み合わさると、それが具現化しやすくなるのです。そこもFire TVを選んだ理由のひとつです。

麻倉 今回の展示を見ていると、すべてがAI、エッジAIになって、それがつながるという方向に進んでいますが、そこの技術はパナソニックが担当しているのですか?

豊嶋 そこについてはそれぞれ得意分野がありますので、上手に擦り合わせをしていくべきだと思っています。AIにも色々なタイプがありますので、お互いが持っているものを組み合わせれば、一番良い形でお客様に届けられるのではないでしょうか。

麻倉 ひとつ提案があります。ネットコンテンツはいつでも再生できますが、放送はオンエアが終わると基本的には消えてしまいます。そこでテレビに全録機能を入れてストレージしておくことで、ネットコンテンツも放送コンテンツも時間に関係なく見られるといいと思います。

豊嶋 そこについては、弊社の全録レコーダーを接続していただければ、過去の番組もお楽しみいただけるようになっています。最近はTVerなどの見逃し配信もありますが、1週間前までとか、1話だけ見られますというものが多いんです。でもそうなると、もっと前のエピソードが見たいという要望も増えているそうで、全録レコーダーが見直されているようです。

麻倉 それはわかりますが、テレビに加えて全録レコーダーを買ったり、つないだりするのを嫌がる人もいますので、最初からテレビにHDDを内蔵しておくといいと思うんです。ビエラに大容量のHDDを積んで、とにかく放送は全部録画しておく。そうすることで、テレビ自体がサーバーになって、放送コンテンツもネット化するというのが、これからの大事な要素です。

水野 お客様が、放送なのかネットなのか意識せずに、いつでも好きなものが楽しめるという形になったらいいですね。

新製品の有機ELテレビ、66インチ型の「Z95A」の画面。明瞭で、明確、精細だ

麻倉 ところで、今回の製品は、従来と違う型番になっています。この狙いは何だったのでしょう?

豊嶋 今回は品番の付け方を変えて、「Z95A」「Z93A」といった表記にしました。今まではインチ数が頭に来て、次に年度ごとのシリーズ名、その後にラインナップと並んでいたのですが、今回は頭の「Z」が有機EL、「W」が液晶という区分けで、その後ろの二桁の数字がラインナップを、最後のアルファベットが年代を示しています。ランナップの数字は90番台が上位モデルで、80番台も予定しています。数字が大きい方がハイエンド機と考えていただいていいと思います。

麻倉 Z95Aでは、有機ELパネルも新しくなったのですね?

水野 マイクロレンズアレイ(MLA)搭載は同じですが、制御アルゴリズムを進化させて、トータルの画質向上を図っています。

麻倉 前回はピーク輝度2100nitsだったと思いますが、今回のパネルはどれくらい明るくなったんですか?

豊嶋 具体的な数値はこれからですが、パネルの能力を最大限引き出すための制御を行って、昨年モデルよりは明るくできる予定です。放熱についても、独自のカスタム構造を踏襲しています。

麻倉 その他に画質的な進化ポイントはありますか?

水野 今回はプロセッサーを「HCX Professional AI MKⅡ」に更新しました。最大の変化点はAI超解像を入れたことです。アマゾンと協業する以上動画ストリーミングも重要なコンテンツになりますので、ここでの画質を改善するために、超解像処理を加えています。

麻倉 具体的には、S/N改善なのか、解像度的なものなのか、どちらになるのでしょう?

水野 解像度方向になります。しかもノイズは増えないような処理を行っています。今までのシャープネスとは違い、副作用がなく、綺麗に高解像度変換できるのが今年のポイントです。

 またゲーム系コンテンツの再生にも力を入れており、120Hz駆動に加えて、144Hz駆動を採用しました。今回のCESでもあちこちのメーカーがゲームに注力していますので、われわれも力を入れてやっていこうと思っています。

麻倉 サウンド面では、これまで同様ラインアレイスピーカーを搭載していますね。

水野 はい。ラインアレイを採用し、スピーカーの音質も改良しています。アマゾンにはAmazon Musicもありますし、ドルビーアトモスコンテンツも配信していますので、それらも充分お楽しみいただける製品になっています。

麻倉 今までもドルビーアトモスには対応していましたよね。

水野 そうですが、今回はAmazon Musicのアプリもインストールしており、これを使ったドルビーアトモスの再生も可能です。

麻倉 これまではPrime Videoだけだったのが、音楽配信も楽しめるようになったと。

豊嶋 音楽を楽しむ機器としても充分実力が発揮できるところまで、チューニングを追い込んでいます。また今回は、Spotify のアプリにも対応しました。

麻倉 今回の新製品は、日本では春モデルとして発売されるのでしょうか。

豊嶋 製品の発表時期は決まっていませんが、当然ながら主力機種としてリリースします。

麻倉 Fire TVの搭載を含めて、生まれ変わったビエラがどんな形で姿を表すか、楽しみにしています。今日はありがとうございました。

パナソニックエンターテインメント&コミュニケーション株式会社 ビジュアル・サウンドBUハード設計部ハード設計六課長の水野俊哉さん