アーティストの福山雅治さんが監督を務めた「FUKUYAMA MASAHARU LIVE FILM 言霊の幸(さち)わう夏 @NIPPON BUDOKAN 2023」が、1月19日に全国公開された。それを記念して公開初日に、東京・有楽町のピカデリー1で福山雅治さんと、劇中に登場する少年を演じた柊木陽太君を迎えて、舞台挨拶が開催された。

 本作は、福山さんが “究極のライブ体験” を劇場で再現することを目指した作品で、40台を超えるカメラに加え、武道館ライブで初めて観客を入れた状態でドローン撮影を実施、更にステージのみならず、2〜3階のアンビエントまで収録するなど、制作面でも多くのこだわりが詰められているのも特長だ。

 先に本作をドルビーシネマで視聴したインプレッションを紹介したが(関連リンク参照)、確かに監督としての福山さんの思いが充分に込められた仕上がりになっていた。そして今回の舞台挨拶では福山さん自身の口からその狙いが語られたので、以下で紹介したい。

福山さんは、本作の演出意図についても詳しく語ってくれた

 満員のお客さんの歓声の中登場した福山さんは、「たくさんの方に来ていただいて嬉しいです。今日は朝から舞台挨拶に回っていて、ここで5館目ですが、すべて超満員でありがとうございます。実は2日前に新宿の映画館に見にいったんですが、スカスカだったんです(笑)」と話して笑いを誘った。

 続いて柊木君から、「今日は少し緊張していますが、よろしくお願いします」という可愛らしい挨拶があり、ここから作品の内容紹介が始まった。

 まず福山さんから、「ここは5.1ch上映館ですが、お客さんの中に先行上映のドルビーシネマで見た方はいらっしゃいますか?」という質問が飛んだ。もちろん先行上映を見ているお客さんも多く、それを確認した上で「いかがでしたか? 見る前に想像していたものと違ったという方はどれくらいいらっしゃるでしょうか?」と改めて尋ねると、こちらも多くの方が手を上げていた。

 「違っていて欲しいんです。そういう風に作っていますので。武道館もいいけど、映画もよかったでしょう(笑)。実際のライブでは見えない、聴こえないけど、こういう風に見えていて欲しい、聴こえていて欲しいという、僕の脳内の理想の音、理想の映像を詰め込んでいます。映画でしか味わえない作品になって欲しいという、そういう思いで作りました。

 最初にライブフィルムのお話をいただいた時に、僕はライブを映画にすることに対して、ひじょうに消極的でした。ライブは客さんに会場に来ていただいて、そこで僕らが生演奏する、それで完成だと思っていたので、映画で見てもらうことにどういう意味があるんだ、というところから始まったんです。

 だけど、とにかく撮らせてください、最終的にやっぱりやめたってなってもいいです、というくらいの熱意を持っておっしゃってくださったので、わかりました、撮りましょうということになりました。

 そうは言いながらも、映画にする以上は物語があった方がいいと思っていたので、柊木君にはその物語を担って欲しいと思って出演していただきました。まず映像的表現で考えたのが、一人の少年が武道館に入っていって、席に座って、少年の頭の中でステージが始まる……。その少年の脳内をオープニングで紹介したかったのです。

 その少年はかつての僕で、音楽に憧れていた少年・福山が、現在53歳になった福山のステージを見に行く。そういう音楽ならではの、時空を超えた表現ができないかなという風に思って、柊木君に僕の少年時代を演じていただきました」(福山さん)

 これを聞いた柊木君は、「すごく嬉しいです」と即答。「いきなりスケジュール表に “福山さん” って入っていて、すごくびっくりしたんです。その後、福山さんご本人から声をかけていただいたと聞いて、さらにびっくりしました」とのことだった。

劇中に登場する少年を演じた柊木陽太君

 続いて武道館のライブを見た感想を聞かれ、「僕が母のお腹にいる時に1回福山さんのライブに行っているみたいで、だから12年ぶりにライブに参加したことになります(笑)。いつもかっこよくて優しい方なんですけど、ライブで歌っているところが本当にかっこよくて、すごく興奮しました」と素直な感想を話していた。映画版については、「ライブの映像なんですけど、別のところから見られたりするので、本当とも違う印象でした」と語ってくれた。

 これを受けて福山さんは、「今までも色々なライブツアーを収録して、見てもらったと思うんです。それら今までやってきたものは、ライブの追体験をするというものでした。つまりオーディエンスの皆さんの主観であり客観で、どちらかというとライブドキュメンタリーです。

 でも今回は、ライブを収録したものを映画館で見てもらうための “価値” を作らなければいけない。映画館でしか見られないもの、映画になったライブを見てもらう理由って何だろうっていうのが、編集をしている間もずっと僕の中のテーマでした。

 その作業をやってく中で、今まで作ってきたオーディンスの目線ではなく、ステージに立っている僕自身の主観、客観、それを作品にしようと気づいたんです。頭の中で鳴っている、こういう風に聴こえていて欲しい音、こういう風に見えて欲しい映像表現を追求していけばいいんじゃないかと思ったんですよ。

 なので、実際にはライブで起こっていないこともたくさん入っています。『妖』という楽曲では僕の目の色がCGで加工されていたり、左右から僕の声で合いの手が入って、さらにセンターでメインヴォーカルが鳴っている。またギターの音もぐるぐる回っています。

 曲が終わってからの歓声も、盛り上がりが足りなかったかなというところは “追いオーディンス” しています(笑)。本当はもっとこう来て欲しい! という風に歓声を足しています。ライトバングルの色も足りないなと思ったら足しているんですよ。

 今回は、現場で起こったことを素材・題材にした作品に仕上げています。とはいえ、あまり加工しすぎると違うものになってしまうので、同じだけど、違うものです」と、演出の狙いを詳しく解説してくれた。

 「音楽はタイムマシンだと思っています。あの時、あの人と恋をしていたな、その時に福山のあの曲が流れていたな。あの時にお父さんが亡くなって悲しかったけど、あそこでも福山の曲が流れていたな。今その曲を聞いてもその頃を思い出すーーそういう、音楽が持つ時空を超える力を映像で表現してみるとどうなるのかな、というトライもしています。

 体験型の映画という風に思っていただければいいですね。鑑賞するだけでなく、没入体験する。僕の目線でも見られるし、もう1つの違う目線でライブ全体を俯瞰的に見る。ある種、神の目線のような状態ですね」とのことだった。

柊木君は、「福山さんがとにかくかっこよくてびっくりしました」と語っていた

 そして最後に、「ライブフィルムというものは、未知なる挑戦でした。自分の脳内の主観を音源化、映像化してみましたが、同時にライブではもっとこうすればいいんだな、こういうパフォーマンスをするとこういう風になるんだなと、得るものばかりでした。

 僕も来年、2025年にデビュー35周年を迎えます。その時にこういった作品を作れたらいいなと思っているんです。そのためには、結果を残さなければいけません。ぜひお友達やご家族お誘い合わせの上、映画館に足を運んでいただけると、次の作品につなげられると思います。今日はありがとうございました」と次回作への意気込みも語って、舞台挨拶は終了となった。

 「FUKUYAMAMASAHARULIVE FILM 言霊の幸わう夏 @NIPPON BUDOKAN 2023」は、2月15日までの4週間限定で全国公開中だ。福山さんの脳内で鳴っている音、見えている映像に没入したい方は、今すぐ劇場に(ぜひドルビーシネマに)足を運んでいただきたい。(取材・文:泉 哲也)

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「FUKUYAMAMASAHARU LIVE FILM 言霊の幸わう夏 @NIPPON BUDOKAN 2023」
●1月19日(金)より、Dolby Cinema(ドルビーシネマ)他で4週間限定全国公開