『繕い裁つ人』『幼な子われらに生まれ』『Red』など多くの作品を手掛け、国内外で高い評価を受ける三島有紀子監督の長編10作目となる最新作『一月の声に歓びを刻め』が、2月9日(金)に劇場公開される。
本作は、監督自身が47年間向き合い続けた「ある事件」をモチーフに自主映画からスタートしたオリジナル企画。「性暴力と心の傷」をテーマに、心の中に生まれる罪の意識を静かに、深く見つめる映画である。
八丈島の雄大な海と大地、大阪・堂島のエネルギッシュな街と人々、北海道・洞爺湖の幻想的な雪の世界を背景に、3つの罪と方舟をテーマに、人間たちの“生”を圧倒的な映像美で描いていく。
船でやってきた者を前田敦子、船を待つ者を哀川翔、そして船で向かう者をカルーセル麻紀が演じ、さらに、坂東龍汰や片岡礼子、宇野祥平、原田龍二、とよた真帆らが脇を固める。
いよいよ来月に公開となる『一月の声に歓びを刻め』。1月18日に完成披露上映会イベントが開催。俳優陣が全員顔を揃えるのはこの日が初でありながら、和やかな雰囲気で舞台挨拶は進行。前田敦子は「キャストの皆さんと今日初めてお会いすることが出来て凄く嬉しくて。楽屋でキャッキャしていました」と笑顔。それに対しカルーセル麻紀は、81歳にして13センチのヒールを履いて美しい脚線美を披露しつつ「入り口でこけたら偉いことになる」と自虐を飛ばした。哀川翔と坂東龍汰、三島監督とともに、始終和気あいあいとイベントは進行した。
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三島有紀子監督自身に起こった経験にインスパイアされた映画『一月の声に歓びを刻め』。その完成披露上映会が1月18日にテアトル新宿で行なわれ、前田敦子、カルーセル麻紀、哀川翔、坂東龍汰、そして三島有紀子監督が参加した。
自主制作スタイルで本作を製作した三島監督。「私を含めてたった二人で映画を作ろうと決めて、お金も集まってない、配給も公開も決まってない中でキャスト・スタッフの皆さんが一緒にこの映画を作ろうと言ってくださった。それが本当に嬉しくて、このように完成披露上映会を迎えることが出来て感慨深いです」とソールドアウトの会場を見まわして感激の言葉を紡いでいた。
3つの島を舞台に物語が構成される本作は、別々の話が一つの物語へと繋がっていくため、撮影自体も別々に敢行された。それゆえに俳優陣が全員顔を揃えるのはこの日が初。大阪編でれいこを演じた前田は「キャストの皆さんと今日初めてお会いすることが出来て凄く嬉しくて。楽屋でキャッキャしていました」と笑顔。洞爺湖編でマキを演じたカルーセルは、13センチのヒールを履いて登壇し「入り口でこけたら偉いことになる」と自虐を飛ばしつつ「今日はあっちゃんに会えて嬉しくて、楽屋であっちゃんとお喋りが弾みました」と語った。
三島監督からのオファーを一ヵ月悩んだ末に引き受けたという前田。「メッセージ性のある役をオファーしていただいたものの、こんなに真剣に悩んだのは初めて。でも三島監督は懐の深い方だったので待ってくださってくれて、私はその胸に飛び込ませてもらいました」と感謝。これに三島監督は「一ヵ月悩んで答えを出してくれたことに誠実さを感じました。役と真剣に向き合ってくださって、やりますと言ってくれた時は思わず台本を抱きしめました」と念願叶ったようだった。
一方、カルーセルは昨年1月に行なわれた洞爺湖ロケについて「空港に着いたらマイナス20度で大雪。スタッフが迎えに来られず、タクシーでホテルに行こうと思ったら高速道路も通れず、途中で降りて3時間半かけてホテルまで辿り着きました。撮影は早朝からなので焼酎を飲んでパックして寝たけれど全然寝れない。しかも化粧をして撮影現場に行ったら猛吹雪で何も撮ることが出来なかった」とヘビーすぎる状況回想。映画『八甲田山』を引き合いに出して「あの映画はマイナス16度の撮影らしいけれど、こっちはマイナス20度よ。座ったらおしりがやけどするくらい寒かった。わたし81歳ですよ!?」と過酷さを訴えていた。
そんな中、実家が洞爺湖町にある坂東が「僕の実家が近いので、映画の中には見慣れた景色が広がっていた」などと感想を述べると、すかさずカルーセルは「地獄でした」とバッサリ。「地元を地獄だなんて言われるとは…」と絶句する横でカルーセルは「でも楽しかった。殺されると思ったけれど」と饒舌で舞台挨拶を大いに盛り上げていた。
三島監督はカルーセルについて「テストまでは寒さで震えているのに、本番になると体の震えが止まる。カルーセルさんが雪原を歩くシーンがありますが、それを撮った時はスタッフ一同感動。命懸けで挑んでくださっている大女優の姿に感激しました」と感謝しきり。
八丈島編で誠を演じた哀川は「八丈島は行き慣れた場所なので、知り合いの島民もいて良くしてもらった。長いセリフもあったけれど、心情的にもスッといけた。画作りが監督の中で明確だったので俳優としてやりやすかった」と回想。大阪編でれいこ(前田)と出会うレンタル彼氏トト・モレッティ役の坂東は「撮影は2日間と短いものでしたが、濃い撮影で無駄のない時間を過ごしました。前田さんとも三島監督とも密に話し合いが出来たうえで撮影出来たのは嬉しかった」と手応えを得ていた。
カルーセルのサービス精神によって終始明るい雰囲気となった舞台挨拶も、終了の時間に。最後に三島監督は「劇中には何人かのれいこが出てきます。それは特定の人とは限らず、もしかしたら皆さんの中にもいるかもしれない。そんな気持ちで映画を観ていただき、それぞれのれいこを見つけてほしいです」とアピール。前田も「麻紀さんから始まり、哀川さんと私と繋がって。色々なものを受け取ってもらえる作品であり、三島監督の映画愛が詰まった気持ちのいい作品です。美しい世界が広がっているので、五感を使って最後まで堪能してください」と充実した表情で呼び掛けていた。
映画『一月の声に歓びを刻め』
2月9日(金)テアトル新宿 ほか全国公開
<STORY>
北海道・洞爺湖。お正月を迎え、一人暮らしのマキの家に家族が集まった。マキが丁寧に作った御節料理を囲んだ一家団欒のひとときに、どこはかとなく喪失の気が漂う。マキはかつて次女のれいこを亡くしていたのだった。一方、長女の美砂子は女性として生きるようになったマキに複雑な感情を抱えている。家族が帰り静まり返ると、マキの忘れ難い過去の記憶が蘇りはじめる……。
東京・八丈島。大昔に罪人が流されたという島に暮らす牛飼いの誠。妊娠した娘の海が、5年ぶりに帰省した。誠はかつて交通事故で妻を亡くしていた。海の結婚さえ知らずにいた誠は、何も話そうとしない海に心中穏やかでない。海のいない部屋に入った誠は、そこで手紙に同封された離婚届を発見してしまう。
大阪・堂島。れいこはほんの数日前まで電話で話していた元恋人の葬儀に駆け付けるため、故郷を訪れた。茫然自失のまま歩いていると、橋から飛び降り自殺しようとする女性と出くわす。そのとき、「トト・モレッティ」というレンタル彼氏をしている男がれいこに声をかけた。過去のトラウマから誰にも触れることができなかったれいこは、そんな自分を変えるため、その男と一晩過ごすことを決意する。やがてそれぞれの声なき声が呼応し交錯していくーー。
出演:前田敦子、カルーセル麻紀、哀川翔、坂東龍汰、片岡礼子、宇野祥平、原田龍二、松本妃代、長田詩音、とよた真帆
脚本・監督:三島有紀子
配給:東京テアトル
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