ヤマハから、2ウェイ・ブックシェルフスピーカーが2モデル発表された。ラインナップは以下の通りで、いずれも2月中旬の発売を予定している。2024年1月11日から予約受付を開始する。

●スピカーシステム
NS-600A ¥396,000(ペア、ピアノブラック、税込)
NS-800A ¥550,000(ペア、ピアノブラック、税込)
●スピーカースタンド
SPS-800A ¥132,000(ペア、ブラック、税込)

写真左の「NS-600A」は本体サイズはW207×H383×D329mm、右の「NS-800A」はW231×H420×D358mm

 両モデルとも、ヤマハオーディオ機器のコンセプトである「TRUE SOUND」を継承し、ユニットの振動板には独自の「ハーモニアスダイアフラム」を搭載、自然な音色と優れた空間表現力を目指している。

 ハーモニアスダイアフラムとは、上位モデルの「NS-5000」や「NS-3000」の振動板に採用されているZYLON(ザイロン)を細かく(1mmほどに)カットしたものと、ピアノスプルース材を繊維にしたものをベースに、麻や綿なども混ぜて熱処理を加えた上で、紙漉き処理した素材だ。音速と内部損失のバランスに優れ、スピーカーの振動板にも適した特性を備えている。

 ハーモニアスダイアフラムは今年の春に発売されたトールボーイスピーカー「NS-2000A」で採用され、好評を博した。今回もトゥイーターとウーファーの振動板に使われており、NS-600A、NS-800Aとも30mmドーム型トゥイーターは共通、ウーファーは前者が130mm、後者は160mmユニットが使われている。

NS-600AとNS-800Aで使われている主なパーツ。中央のトゥイーターは共通で、ウーファーやネットワーク基板、アコースティックアブソーバーのサイズなどはそれぞれ専用にチューニングされている

 トゥイーターのサイズや仕様はNS-2000Aと共通だが(ユニット背面の不要共振を打ち消すR.S.チャンバーも搭載)、今回は磁性流体を2ウェイ用に最適化している。さらにウーファーも中低域の歪みを抑えるために磁気回路にショートリングを採用し、さらに130mmと160mmではエッジ(サラウンド)部のゴムの強度をそれぞれに最適化(130mmの方が硬い)、スパイダーも見直すことでユニットの制動性を改善しているという。

 スピーカー端子は真鍮削り出しのオリジナルパーツで、シングルワイアリング仕様を採用。クロスオーバーネットワークにはドイツ、ムンドルフ社製のコンデンサー「MCap SUPREME Classic」を始めとした業務用機器でも実績のあるパーツを使うことで信号伝送ロスを排除している。内部配線にはすべてPC-Triple Cを使用。

 トゥイーターとウーファーのクロスオーバー周波数は両モデルとも2.6kHzで、フィルター特性はトゥイーターが-18dB/oct.、ウーファーは-12dB/oct.に設定されている(NS-2000Aはすべて-12dB/oct.)。

左がNS-800A、右がNS-600Aのネットワーク基板。基本的な構成は同じだが、コイルの巻数やコンデンサーの容量に違いがある

 エンクロージャーもNS-2000A同様にレーザー振動計とFEM(Finite Element Method)解析によるスピーカー設計技術を採用し、さらに同社が持つ長年の知識や経験を加えて、ブックシェルフ型ならではの音場表現を実現している。素材はMDF。

 その内部には独自技術の共鳴管である「アコースティックアブソーバー」を2個(天板側には大きいタイプ、底面側に小型のタイプ)取り付けることで内部定在波を解消、吸音材をほとんど使わないで済むので、音楽本来の持ち味を活き活きと再現してくれる。なおアコースティックアブソーバーは形状や取り付ける位置によって効果が変わってしまうので、NS-600AとNS-800Aでもユニットサイズに合わせて最適な形や場所を選んでいるそうだ。

 バスレフポートは、ポートの端に向かって拡がり型を変え、さらにひねりを加えることで風切り音を低減した「ツイステッドフレアポート」を継承。ポート内側の先端を斜めにカットして、特定の周波数に集中するピークを抑えることに成功した。シンプルな発想だが、これまでほとんど採用例がないそうで、その効果が期待できる。なおNS-600AとNS-800Aではポートの長さは同じで、違いはNS-800Aには制振用のパーツが追加されている点だけだそうだ。

SPS-800Aの天板部分には専用ネジを取り付けるスリットを準備。こうすることでスピーカー側のネジ穴の位置を探しやすくなるとのこと。現場をよく知る担当者のアイデアです

 同時発売されるSPS-800Aは、NS-600AとNS-800A用に新開発されたスピーカースタンド。高密度のMDFを張り合わせたベース部(厚さ42mm)とラウンド形状の支柱を備え、さらに底面にはスチール製の重りも内蔵されている。スピーカーを乗せる台にはスリットが設けられており、専用ネジでNS-600A、NS-800Aを簡単に固定できる。着脱式で、高さ調整も可能なスパイクも付属している。

 先般開催された説明会で、両モデルの音を聴かせてもらうことができた。通常サイズ違いの兄弟モデルの場合、音の傾向や鳴り方は同じで、搭載されたユニット(特にウーファー)や本体サイズの違いからくる低音のボリュウム感、迫力に差があるだけという場合が多い。しかしNS-600AとNS-800Aは少し違っていた。

 もちろんヴォーカルの再現性や優れた定位感といった基本的な印象は共通しているが、音場全体の印象がそれぞれ特徴的なのだ。

スピーカー端子は上位モデルのNS-2000Aと同じく真鍮削り出しを採用

 NS-600Aは高域、低域ともS/Nが高く、ヴォーカルの息遣いや楽器の細かい情報まで綺麗に描き出してくれる。すべての音の要素にフォーカスが合ってくる印象で、凝縮した音楽空間が描き出される。低域の量感はさすがに控えめでクラシックの大編成は厳しいが、小編成の楽曲の場合はかえって見通しのいい再現が楽しめる。

 NS-800Aは低音のゆとりが出てきて、眼前で展開されるサウンドステージが広大になり、音楽をゆったりと楽しむことができた。ヴォーカルの押し出しも力強く、一歩こちらに近づいてくれたような印象となる。若干低音が強めに感じられるソースもあったが、クラシックなどもまさに演奏会場ならこんな風に聴こえるだろうというイメージ通りのサウンドを鳴らしてくれる。

 ハイレゾの細かい情報まで聴き取りたい、あるいはボカロサウンドなどを中心に前のめりで聴くという方ならNS-600Aが、椅子の背もたれによりかかってゆったりとアコースティック楽器やライブを楽しみたいのであればNS-800Aがお似合い、そんな印象を受けた次第だ。

 自分の好みの音楽ジャンルやオーディオスタイルに合わせて選び分ける、今回の2モデルはそんな個性的な兄弟モデルといえるだろう。