フェルメールを彷彿とさせる高画質盤の鑑として重宝

 『デュエリスト/決闘者』(1977年)のLDがHiVi誌のディスクチェックに登場したのは1987年の4月号。トリミング版だったけれど、あまりに美しい映像だったので画質の採点はオール10点にしてしまった。少しのざらつきや甘さは感じていたはずだけれど、当時の私はこういう「フェルメールの室内画のよう」な絵を待っていたのだ。

 この美麗な映像はキューブリック監督の『バリー・リンドン』(1976年)を意識したのだろう。動く泰西名画の世界は観るたびに陶酔をさそう次第。リドリー・スコットはこの初の劇場用長編にてカンヌ映画祭の新人監督賞を受賞している。撮影はフランク・タイディ。『グレイフォックス』(1982年)にて、切れのいいシルエットで老紳士強盗を格調高く描いたことで記憶に残っている。

 ちなみにこの映像経験にて感じた私的な意義は、映像作品の撮影術や編集術に注目して<あるべき映像>のイメージを確かにできれば、映像機器の評価にも自信が持てるということだ。

 

『デュエリスト/決闘者』

●1977年作品
●101分
●劇場公開:イギリス・1977年2月2日、日本・1982年3月26日

【スタッフ】監督:リドリー・スコット、原作:ジョセフ・コンラッド、脚本:ジェラルド・ヴォーン・ヒューズ、撮影:フランク・タイディ、音楽:ハワード・ブレイク、美術:ブライアン・グレイヴス、編集:パメラ・パワー、衣装:トム・ランド
【キャスト】キース・キャラダイン、ハーヴェイ・カイテル、クリスティナ・レインズ、エドワード・フォックス、ロバート・スティーヴンス

DVDビデオ
『デュエリスト/決闘者 スペシャル・コレクターズ・エディション』

(パラマウント / NBCユニバーサルPHNE100832)¥1,572 税込

泣く子も黙る巨匠リドリー・スコットの長編初監督作品。1977年作品だが、スコット監督の『エイリアン』(1979年)公開後、『ブレードランナー』(1982年)公開直前の1982年3月に日本公開された。1987年に日本版LDが発売。その後、レターボックス収録のノートリミングワイド版LDが米国版でリリース。2003年に発売されたDVDビデオはスクイーズ収録のワイド映像と、ドルビーデジタル5.1ch音声と、監督自らによる音声解説を収録した。海外版BDはあるが、その後の国内版ビデオパッケージはなく、4K化はおろかHD化もされていない。今回はApple TVで購入版がリリースされているハイビジョン映像バージョンを使って、いかに高品位を獲得できるかを試した

 

Apple TVではHD映像+5.1ch音声バージョンがデジタル購入可能だ

 

 

三種の遠近法を駆使したリドリー・スコット監督の映画術

 ではこの作品の演出術について少し触れておきたい。映画の前説に1800年の話だと断りがあり、映像はまず田園地帯の小道を透視図遠近法の構図で受けている。農家の娘がガチョウを追い、少し軸を外した消失点から次第にカメラに近づくので遠近感が明瞭であり、そこに脇から突然軍装の男が現れて驚く。そして少女が怪訝な顔で見つめる先は、広い牧草地にて男二人が剣を交える決闘場面だ。このセリフなしのカットの積み重ねにより観客の視線は少女の目線を介してカメラのそれになる。「視線を盗む」という技にはまるのだ。

 草地の向こうにはもやがかかっていて、その向こうの稜線は遠雷を含んだ曇天に接して長大な距離感を示す。スフマート(ボケ)による空気遠近法だ。そして決闘者に肉迫する手持ちカメラは微妙に視点が揺れ、両方の人物の背後から相手を除く肩越しショットを含み、決闘者同士の間近に居合わせるような感覚、つまりは臨場感がひとしおとなる。

 こうして三種の遠近表現、空間構成の組合せの技に酔いしれてしまうのだが、おまけに決闘者の背後には馬や牛がいて、それも芝居の一部になっているのが素敵だ。馬のいななきや牛が歩き出す瞬間は決闘の場面転換と関係しているように見えるわけで、牛馬まで芝居に参加している! あるいは撮影現場での偶然かもしれないけれど、ならばこそ、その瞬間に<映画の神様が降りてきた>ということになる。

 そうした演出術に加えて、オランダ風俗画、静物画を模造したような精妙にして緻密な陰影と光彩のアンサンブル効果が随所に出現するのだから、繰り返し視聴に耐えるLDであった。

 この作品は後に輸入LD盤のワイドスクリーン仕様を入手したのだが、少々光の質が硬い印象がしてあまり視聴せずに終わった。それが国内盤DVDのノートリミングスクイーズ版では、LD以上の鮮度と高精細が伴なった高画質盤となり、いまでも画質チェック用ディスクファイルの中に収めている次第。しかし、BDなどの現行盤は見当たらない。

 

配信映像のパフォーマンスを図ることが今回の取材の主な目的だ。Apple TVを含めた再生システムは別掲の通り

主なシステム
●プロジェクター:JVC DLA-V9R
●スクリーン:キクチ グレースマット100(120インチ16:9)
●ストリーミング端末:Apple TV 4K(第3世代)
●AVセンター:デノンAVR-X1800H
●スピーカーシステム:モニターオーディオPL200II(L/R)、PLC150II(C)、PL100II(LS/RS)、イクリプスTD725SWMK2(LFE)

 

 

Apple TV配信映像の検証と高品位再生術の試み

 そこで今回は、Apple TVでデジタル販売されているハイビジョン解像度の配信映像にて画質を再検証し、ネットワーク再生用の高画質コンポーネンツの使いこなしを含めて報告することにした。

 まずは配信映像を当誌視聴室の標準システムにて評価。2KのSDR映像とはいえ美麗な映像なのは間違いない。チャプターの設定はDVDと同じだ。

 古いフィルム作品らしい粒状性や細部の不安定、場面によっては暗部の色成分が乏しかったり階調性が不足ということもある。しかし冒頭の決闘場面や11分45秒付近のテーブル上の静物画、また14分20秒付近、暗闇がロウソク照明にゆったりと破られていく場面など十分に魅力がある。<ツール1814年>の57分42秒以降の田舎暮らしとお見合い場面は、低い位置の外光と清涼な空気感が素晴らしい。ただし、もうひと回り鮮明緻密な映像が潜んでいるはずだ。

 視聴システムで画質改善を試したのは、ルーターからLANケーブル→HUB→LANケーブル→ストリーミング端末のApple TV 4Kの間だ。

 まずはEDISCREATION(エディスクリエーション)の高品位ネットワーク用機器を試す(接続①)。ハブのSILENT SWITCH OCXO JPSM(ジャパン・スタンダード・モデル)はOCXO=恒温槽で温度補償された高精度水晶発振器をはじめ各部品を吟味。またトロイダルトランスによるアナログ電源の採用など、配信ソフトの高品位化に傾注したものだ。

 

視聴室の常設システムをベースに、ハブをエディスクリエーションのSILENT SWITCH OCXO JPSMにチェンジ。その効果を試してみた。本機は、クロックを重視したオーディオ、AV用ハブで、ネットワークコンテンツのパフォーマンスアップに優れた品質改善効果があるモデルとして人気が高い。JPSMは「JAPAN STANDARD MODEL」の略で、ハイグレードなパーツを用いたJPEM(JAPAN EXCLUSIVE MODEL/¥396,000 税込)というこだわり仕様もラインナップしている

SILENT SWITCH OCXO JPSM
¥220,000 税込
●型式:ネットワークスイッチ
●接続端子:1Gbps対応LAN(RJ45)8系統(グラウンドアイソレーションスイッチ付き)
●寸法/質量:W270×H85×D220mm/2.9kg
●問合せ先:(株)タクトシュトック TEL. 03(5848)2239

SILENT SWITCH OCXO JPSMにLANケーブルを接続。LANケーブルは視聴室常設のエレコムCAT6の「やわらか」タイプを用いている

 

 

 その成果は精密感、細部や暗部の色彩の定着感に結実している。粒状性の粗さを感じた部分でも有意の情報が優勢になる印象だ。ちなみに、スイッチングハブで多数のLAN端子が並んでいる場合、私は両端の隣同士を一番重視する系統に使う。つまり8個の端子がある場合、1/2番か7/8番のコンビを用いる。信号のループが最小となる可能性を追求することが主たる理由だ。

 次にLAN接続の間に光結合を介在させて信号の純度を確保するFIBER BOX2 JPSMをスイッチングハブとApple TV 4Kの間に挿入してみた(接続②)。これは劇的という以上の改善効果となった。まずS/N感が段違いに向上。ランダムな粒状性ノイズは分をわきまえて後退し、優位な情報はますます微細で緻密な質を与えられて際立ってくるのだ。<ツール1814年>の場面など、並木を歩く人がそのままスクリーンから抜け出てきそうな立体感を現し、低い光線が虚空に槍を刺すように浸透する様子も克明。馬小屋内の工具の存在感やロウソクの前後感にも見とれる。

 

ネットワークではオーディオやAVで一般的に使われる帯域を大幅に超える高周波による信号が含まれており、そのノイズが再生品質に大きな影響を与えることがあるという。ネットワーク信号を電気信号から光信号に変換することで、そうしたノイズを遮断する手法が普及し始めているが、それをワンボックスで実現するのが、エディスクリエーションの光絶縁ツール、FIBER BOX2だ。SILENT SWITCH OCXO同様にJPSMとJPEMの2グレードがあるが、今回は通常グレードJPSMを試した。本文にあるように画質、そして音質にも大きな改善効果が得られた

FIBER BOX2 JPSM
¥231,000 税込

●型式:ネットワーク対応光絶縁ツール
●接続端子:1Gbps対応LAN(RJ45)入出力各1系統
●寸法/質量:W200×H85×D253mm/2.8kg
●備考:FIBER BOX2 JPEM(¥396,000 税込)あり

効果抜群の光絶縁ツールだが、接続/使い方は、LANケーブルをつなぐだけと、非常に簡単

 

 

 また静物画場面の果物やワインボトルは、手づかみできそうなほどの立像となって怖いほど。窓外の光が対象物に当たって跳ね返り拡散を繰り返す、という反射光のリバーブレーションが現認できるからだろう。それに音が実に生き生きとした表情を帯び、空間を高密度の音が飛び交うようになって感動ひとしお。今回の他の対策でも音質は向上するのだが、光結合の威力は格別だ。

ルーターの給電方法とLANケーブルも重要だ

 最後に、配信系統の源流に近いルーターのDC12V電源を低ノイズのアナログ電源であるエディスクリエーションのLPS JPSMから供給してみる(接続③)。これも稠密な質感に貢献していることが確認できた。

 

HiVi視聴室では、通常、壁面のLAN端子からバッファロー製無線LANルーターを介して視聴室内のオーディオ、AV機器にネットワーク信号を供給しているが、ルーターの電源を強化することも、パフォーマンス向上の肝になるという。今回はエディスクリエーション製リニア電源サプライLPSを用いてルーターに給電を行なった。LPSにはバッファロー製ルーターの大半で使用できるオリジナル専用DCケーブルが付属しているので、それを活用した格好だ

LPS JPSM
¥148,500 税込

●型式:電源ユニット
●出力:12V、10A(2系統合計)
●オリジナル専用DCケーブル1.5m(プラグ:外径5.5mm/内径2.1mm)×2/変換アダプター×2(プラグ:外径5.5mm/内径2.5mm)
●寸法/質量:W200×H95×D253mm/3.8kg

視聴室で使っているバッファロー製無線LANルーターWSR-1800AX4の電源をLPS JPSMから給電してみた。見落としがちな箇所だが、コンテンツ再生の大元になるという意味ではルーターは非常に重要性が高い

 

 

 ちなみに、LANケーブルはエイムのNA9を使用。これによる映像の透明化作用やフォーカス改善効果はすでに折り紙付きだ。

 というわけで、対策を積み重ねて、ついには別次元に到達してしまった。それなりの投資を伴なう改善策だが、その恩恵はすべての配信映像に及ぶのだから見返りは大きい。

 

LANケーブルも当然重要だろう、ということで、FIBER BOX2からApple TV 4Kの間に、エイムのLANケーブルNA9(¥126,500/1.5m税込)を試してみた。こちらの効果も抜群。輝度とコントラストが目に見えて向上した印象で、スコット監督らしい光と影の映像美がより引き出された