昨今、家庭用テレビの大画面化が進み、最近では70インチを超えるような大画面テレビが手頃な価格で登場し、人気を集めている。反面、画質を重視すると、まだまだ一定の出費が強いられるし、搬入の制約で諦めざるを得ないケースも少なくない。

 そこでお勧めしたいのが、プロジェクターとスクリーンによる大画面鑑賞だ。映画に限らず、ドラマ、スポーツ、音楽ライヴと、等身大で描き出される映像は、まさにスクリーン再生の醍醐味。特に手軽に使える様々なタイプの4Kプロジェクターが各社から登場したことで、家族が集うリビングでも100インチクラスの大画面投影が考えやすくなった。

 ひとつ問題があるとすれば、それは部屋を暗くしなければならないこと。プロジェクターが明るくなったとはいえ、液晶、有機ELテレビ並の明るさを期待するのは無謀というもの。

 「照明を残したまま、プロジェクターの大画面が楽しみたい」。そんな声に応えて登場したのがキクチの超短焦点プロジェクター向け耐外光スクリーンの第1世代、SPA-UTだ。幕面に微細なレンズ(レンティキュラー)加工を施し、光の反射に特定の指向性を持たせて、上や横から差し込む外光の影響を大幅に低減。プロジェクターからの光を最優先して、視聴者へと届ける魔法のようなスクリーンといえるだろう。

 ここで取り上げるのはスリムベゼル化によって、よりスマートな設置が可能になった第2世代のSPB-UTだ。基本的な幕面の画面サイズを変えることなく、設置スペースのダウンサイジングが可能。同時にフレームの剛性が向上し、従来に比べ、組み立てやすくなった。

 

Ultra Short Throw Screen
Kikuchi
Stylist SPB-UT

¥297,000 税込(100インチ/16:9)

● 型式 : 超短焦点プロジェクター向け張り込み型スクリーン
● 寸法/質量 : W2,244×H1,275×D41mm/13.9kg
● ラインナップ : 120インチ(¥407,000税込)
● 備考 : 写真のスタンドは取材・撮影用で付属しません
● 問合せ先 : (株)キクチ科学研究所 TEL.03(3952)5131

 

 

耐外光性能の恩恵に驚く。完全暗室ではさらに画質が向上

 エプソンの超短焦点プロジェクターの新製品EH-LS650Bとの組合せで、その実力を試してみたが、耐外光スクリーンの恩恵の大きさに驚かされる。HiVi視聴室の天井光を灯した状態でも、コントラストへのダメージは少なく、明るく、色鮮やかで見通しのいい映像が映し出される。特に大画面鑑賞で重要になる人肌の色味が自然で、全体に暗い絵柄でも色調が極端に転んでしまうようなこともなかった。

 特別な指向性を持たず、プロジェクターからの光を受けて180度に拡散/反射させるホワイトマット系スクリーンを後方に配置して、両者の映像を比較すると、その違いは明らかだ。ダウンライトが点いた瞬間に、黒が浮いて、発色も大きく後退してしまうホワイトマットに対して、SPB-UTの映像は一定のコントラストが確保され、青空が鮮やか。映画のナイトシーンでも色再現が安定して、十分鑑賞に堪えうるクォリティが確認できる。

 耐外光スクリーンとは言え、画質的には完全暗室がベストだ。細部の描写が克明で、高コントラストの色濃い映像はなかなか見応えがある。もちろん照明が少し残った環境でも、特に上からのダウンライトなどの照明であれば、映像へのダメージは極めて少なく、色鮮やかな、メリハリの効いた映像が楽しめる。

 家族が集うリビングで、大きなテレビに近い感覚で楽しめる100インチの超大画面。普段見ている映画、ドラマが、また違う感動を呼び起こしてくれることだろう。

 

レンティキュラーと呼ばれる、のこぎり状の微細な加工を幕面に施し、反射光の方向性を制御、下側からの光を正面にしっかりと反射させるとともに、上側からの光をブロック。コントラストの高い映像を実現する仕組みだ。なお、本スクリーンは天吊りプロジェクターから投写は対応しない

 

幕面自体は先代モデルSPA-UTとほぼ同等、ベゼル(額縁)の幅を狭めることで設置性、デザイン性を高めた

 

取材は、HiVi視聴室で実施した。視聴室の照明設定を様々に変えながら画質をチェックした

 

[視聴ソフト]
●UHDブルーレイ : 『ジョーカー』『宮古島〜癒やしのビーチ〜』ほか
●デジタル放送 : 『The Covers』『NHK紅白歌合戦』ほか

 

結論
外光に強いだけでなく、視野角の広さにも注目したい

今回の取材で、新たな発見があった。それはSPB-UTが外光に強いだけでなく、水平方向への視野角が広く、スクリーン中央から外れても、コントラストが極端に落ちたり、人肌が不自然になったり、画質への影響が少ないことだ。昨今、70インチクラスの割安な液晶テレビも登場しているが、その多くはVAパネル。少しでも横にずれて観ると、黒が浮いて、色調が変化し、本来の画質は得られない。この視野角の広さ、安定感は実に魅力的だ。

 

 

「テレビを超える大画面の魅力を、生活の中でぜひ味わってください」
超短焦点プロジェクター向け耐外光スクリーンの第2世代SPB-UTを開発した、キクチ科学研究所のこだわりを聞く

(株)キクチ科学研究所 ビジュアルソリューション本部 営業部 営業課 課長代理 上野健一さん(写真右)

キクチが発売した超短焦点プロジェクター向けの張り込み型スクリーンSPB-UT。そのパフォーマンスや画質的メリットは前ページのテストリポート記事でご紹介した通り。ここでは、㈱キクチ科学研究所で家庭用スクリーンの製品企画を担当されている上野健一さんをHiVi視聴室にお招きして、開発の意図や製品のこだわりを聞いた。

藤原 この2、3年で世の中の生活様式が変わり、家の中で過ごす時間が少し増える傾向にあるようです。こうしたなかで多彩なコンテンツが手軽に楽しめるネット動画サービスが人気を集め、プロジェクターとスクリーンの組合せで等身大の大画面を楽しんでいる方も増えています。

上野 確かに大きな画面で映像を楽しみたいという要望は着実に高まっているように感じます。プロジェクターの4K化が進み、総合的なクォリティの高いモデルが多くなっていることもあって、その映像を映し出すスクリーンへの関心も高くなっています。

藤原 手軽に大画面、ということならテレビということになりますが、サイズも限界がありますし、我々のような映画ファンにとっては、やはりプロジェクターからの光を受けて、映像を映し出すスクリーンが魅力的です。

上野 ありがとうございます。ネット動画サービスの画質も良くなっていますが、Amazon Fire TVのようなストリーミングデバイスをプロジェクターのHDMI端子に接続して、そのまま楽しんでいる方も多いですね。

藤原 ということは、いわば、テレビ的にプロジェクターを使っていると。

上野 はい、我々も超短焦点プロジェクターの登場に合わせて、2020年に「テレビを超える大画面」というコンセプトでSPA-UTという耐外光スクリーン、明るい環境でも使えるスクリーンを製品化したところ、これも各方面から高く評価していただきました。

藤原 今回のSPB-UTはキクチの耐外光スクリーンということでは第2世代になりますが、基本的な幕面の設計は変わっていないようですね。

上野 スクリーン幕の表面に微細なレンズ(レンティキュラー)加工して、上や横から差し込む外光の影響を抑えるという考え方は同じです。

藤原 肉眼では確認できませんが、幕面にブラインドのような機能を持たせて、スクリーン下から投影されるプロジェクターからの映像を阻害する外光を抑えるわけですね。

上野 さすがに強い日差しが差し込むような部屋では厳しいですが、夜、ダウンライトなどの照明を灯した状態でも、大画面の迫力を堪能していただけます。

藤原 まさに「テレビを超える大画面」が明るいリビングで楽しめるというわけですね。

上野 我が家もそうなんですが、小さな子供がいると、なかなか暗室にはしづらいですし、軽く、お酒をのみながら映画を楽しむような場合も、灯は一部残しておきたいという声も少なくありません。SPB-UTの強みは生活の中のいろいろなシーンで実感していただけると思います。

藤原 そして今回、デザインも見違えるほど、スマートになりました。

上野 スクリーンを囲んでいるベゼルの幅が従来の70mmから15mmに圧縮され、まさに最新の液晶テレビのようなすっきりとしたデザインになりました。SPB-UTは、100インチと120インチのサイズ展開となりますが、両サイズともに、ベゼルのスリム化によって縦/横の外形はともに110mmずつ縮小しています。

藤原 このフレームは組み立て式ですね。

上野 はい。それは従来と同じですが、今回、基本的な構造やスクリーンの張り込み方が変わったことで、特別な工具は必要がなく、ドライバーひとつで組み立てられるようになりました。メーカーとしては2人で組み立てることを推奨していますが、生地を張るまでなら1人でも仕上げられると思います。

藤原 梱包の箱もだいぶ小さくなりました。

上野 狭ベゼル化に加えて、フレームの強度が上がり、分割できるようになったことで、梱包サイズを大幅に小さくすることができました。箱の長さは100インチモデルで1.8m、120インチでも2mに収まっていますから、一般的なエレベーターで問題なく搬入することができます。

藤原 フレームが組み立てやくなって、梱包サイズもこれだけ小さくなると、ネットで購入したとしても安心ですね。

上野 1人でも多くの人に「テレビを超える大画面」を体験していただきたいですね。

藤原 今日はお忙しいところ、貴重な時間をいただき、ありがとうございます。

 

本体背面。パネルタイプのスクリーンでアルミニウムフレームにしっかりと張り込むタイプだ。平面性が高く、スクリーンのしわに由来する映像の歪みなどは皆無だ

 

背面の中心部。長手側のフレームが2分割可能な構造となり、梱包時のサイズが大幅に縮小。100インチで180cm幅、120インチでも200cm幅となり、搬入が容易になった

 

SPB-UTの前世代モデルとなるSPA-UT。幕面構造はSPB-UTと同等だが、フレーム構造、デザインなどが異なる。ベゼルが太いのは一目瞭然だろう

 

 

暗くしなくてもハッキリ映像。キクチ科学研究所から登場した、超短焦点プロジェクター用スクリーンをレビュー HiVi Direct Review

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本記事の掲載は『HiVi 2024年冬号』