東アジア、東南アジアのオーディオ熱は高まるばかりのようだ。上海や香港、台北のオーディオショーに出かけた友人知人の話によると、日本のショーとは比べものにならないくらいの数の人々が押し寄せ、しかも若い人が断然多いという。

 ちなみにこの夏開催された台北のショーには4万人以上が訪れたそうだ。「東京インターナショナルオーディオショー(TIAS)」が7,000〜8,000人というから、その規模の大きさが想像できる。日本に追いつけ追い越せとばかり経済成長が続いていることがその背景にあるのは間違いないし、音楽をいい音で聴こうという文化が日本以上にしっかりと根付き始めているのだろう。

鳴りっぷりの良さが魅力の注目スピーカーシステム
Spoey 200 ¥698,000(ペア、税込)

●型式:2ウェイ2スピーカー、バスレフ型
●使用ユニット:20mmソフトドーム型トゥイーター、200mmコーン型ウーファー
●インピーダンス:8Ω
●出力音圧レベル:86.5dB
●寸法/質量:W262×H475×D308mm/16kg
※12月発売開始、当初は受注生産予定

Spoey 200のスピーカー端子部。同社の製品はネットワークもオリジナルで設計されており、すべてシングルワイアリングが採用されている

 さて11月某日、台湾のスピーカーメーカー「鹿港音響(ルーカンオーディオ)」を主宰するロックス・シーさんとStereoSound ONLINE試聴室でお会いすることができた。同社製品をこれから日本に輸出したいとの野心に燃えた御仁である。

 ロックスさんは現在41歳。幅広くオーディオ・ビジネスを手がけている。台北でセレッションやハーベスなどのディストリビューター(代理店)業とリテイラー(小売店)業を兼務しながら、2003年に鹿港音響を設立、スピーカーの設計、製造を行なっている。また自社でスピーカーケーブルや電源ケーブル、インシュレーター等も開発しているそうだ。ちなみに鹿港音響の鹿港(ルーカン)は、ロックスさんの出身地の名前から採られているのだとか。

 現在鹿港音響は4機種のスピーカーをラインナップしている。今回StereoSound ONLINE試聴室に持参されたのは、2ウェイ・バスレフ型ブックシェルフスピーカーの「Spoey200」(スポーイ200)である。なお、現在鹿港音響のスピーカーは、英国、オーストラリア、香港などに輸出され、好評を博しているという。

鹿港國際音響有限公司の代表 施政謙(ロックス・シー)さん(左)にインタビューをする山本さん(右)

 本機は20cm口径のポリプロピレン(PP)コーン・ウーファーと19mmソフト(シルク)ドームトゥイーターの組合せで、フロントのバスレフポートのチューニング周波数は60Hz。今回持ち込まれたのはブラックアッシュ仕上げだったが、他にもウォルナット、ローズウッドのフィニッシュがあるという。

 このSpoeyシリーズには、23cmPPコーン・ウーファーを用いたブックシェルフ型の「Spoey230」と、同一ウーファーのフロアスタンディング型「Spoey230FS」、15.5cmPPコーン・ウーファーの「Spoey155」がラインナップされている。3モデルともトゥイーターはSpoey200のシルクドーム・トゥイーターと同じもののようである。ちなみに同社製スピーカーの入力端子はすべてシングルワイアリング仕様。バイワイアリング入力にして接点が増えるのを嫌ったとロックスさんは言う。

 同シリーズのウーファーユニットの供給元はAudioTechnology社、トゥイーターのそれはHiquphon社で、ともにデンマークのユニット・サプライヤー。鹿港音響から細かな仕様書を提出して製造してもらったセミオーダー品だという。

 ネットワークは自社設計で、クロスオーバー周波数は2.3kHz。ウーファー側のローパスフィルター、トゥイーター側のハイパスフィルターともに−6dB/oct(オクターブ)という一次のシンプルな遮断特性を持たせている。

Spoeyシリーズのネットワークはひじょうにシンプルな構造で、ウーファーには写真奥のコイルを、トゥイーターには中央左側のコンデンサーをつないでいるだけとのこと。写真手前はインシュレーターの「LKA-IN」(¥10,980、6個セット、税込)

 鹿港音響の4モデルはウーファー・サイズこそ3種類あるが、すべて2ウェイ・バスレフ型である。なぜ2ウェイなのかをロックスさんに訊いてみた。

 「鹿港音響のスピーカーは、25平方メートル(約14帖)以下のリスニングルームで使われることを想定しています。そのくらいのエアボリュウムならば10インチ(25cm)以下のウーファーを積んだ2ウェイ機が最適と考えます」

 鹿港音響はハーベスやセレッションの台湾での輸入元ということですが、それら英国製2ウェイ機の影響を受けているのではないですか。

 「いや、そうでもないと思います。というのは、我が社のスピーカーは父と私の二人で設計しているのですが、当初はクロスオーバー・ネットワークを外に出した大型の3ウェイ機を開発したんですよ。しかし、これではあまりに大きすぎるとの声が各地のリテイラーから聞こえてきて、2ウェイのコンパクト・スピーカーの開発に舵を切ったんです。また、英国製小型スピーカーと同じような製品をつくっても意味がないですからね。鹿港音響ならではのダイナミックな表現力を持ったスピーカーを目指しています」

取材はStereoSound ONLINE試聴室で行い、Spoey 200は常設のスタンドに、鹿港音響製のインシュレーターを挟んで設置した。デノンのSACD/CDプレーヤーとプリメインアンプの組み合わせで、ディスクやハイレゾファイルを再生している

 Spoey200の音を聴いてみよう。専用スタンドも用意されているというが、まだ日本には持ち込まれておらず、試聴室に常備されている金属製スピーカースタンドに載せて聴くことにした(スタンドとスピーカーの間に同社製インシュレーター「LKA-IN」をセット)。SACD/CDプレーヤーはデノン「DCD-SX1 Limited」、プリメインアンプは「PMA-SX1 Limited」である。

 さまざまな音楽を聴いてみたが、まず好印象だったのは、その鳴りっぷりの良さだった。スペックを見ると、出力音圧レベルが86.5dBと記載されているが、聴感上の感度はもっと高い印象。音楽が闊達にイキイキと鳴る、これはぼくがスピーカーを評価するうえでもっとも重視するファクターだが、それについてはもう文句なしだった。

 またステレオイメージの描写も見事なもので、ポール・ルイスが弾いたベートーヴェンのピアノ・コンチェルト第5番『皇帝』で聴ける扇状に広がるオーケストラのプレゼンス感、L/Rスピーカーの間にシャープに結像するピアノの響きの美しさも極上だった。

鹿港音響のスピーカーは台湾の工場でひとつずつ手作りされており、ロックスさん自らユニットを取り付けているとのこと

 それから、ヴォーカルの生々しさも特筆モノ。今年もっとも感動したアルバムのひとつアノーニ&ザ・ジョンソンズの『MY BACK WAS A BRIDGE FOR YOU TO CROSS』で聴けるアノーニの哀切きわまりないヴォーカルの情感の豊かさに心を奪われたのだった。

 この声の艶やかさ、生々しさは映画ソフトでも類稀な魅力を発揮した。パナソニックのUHDブルーレイプレーヤー「DP-UB9000」のアナログ音声出力をPMA-SX1 Limitedに接続し、リドリー・スコット監督の『最後の決闘裁判』のUHDブルーレイを観たが、ヒロイン役を演じるジョディ・カマーの声に秘められた感情の起伏を見事に描写し、映画の世界にどんどん引き込まれていったのである。

 一般的なブックシェルフスピーカーのウーファー口径はロクハン(6インチ半)以下というケースが多いが、本機Spoey200は8インチ(20cm)。やはりこの鳴りっぷりの良さ、闊達にイキイキと音楽を奏でる能力は、この8インチ・ウーファーに因るところが大きいのだと思う。

 日本製スピーカーが台湾に輸出されるというケースは過去多かったと思うが、オーディオブームに沸く台湾から日本に上陸するスピーカーという事例はとても珍しい。鹿港音響の健闘を心から祈りたいと思う。

その他の製品ラインナップ

トールボーイタイプの「Spoey 230FS」(左)と、もっとも小型のブックシェルフ型「Spoey 155」(右)

Spoey 230FS ¥1,498,000(ペア、税込)
●型式:2ウェイ2スピーカー・バスレフ型
●使用ユニット:20mmソフトドーム型トゥイーター、230mmコーン型ウーファー
●インピーダンス:8Ω
●出力音圧レベル:86.5dB
●寸法/質量:W320×H1085×D330mm/42kg

Spoey 230 ¥848,000(ペア、税込)
●型式:2ウェイ2スピーカー・バスレフ型
●使用ユニット:20mmソフトドーム型トゥイーター、230mmコーン型ウーファー
●インピーダンス:8Ω
●出力音圧レベル:86.5dB
●寸法/質量:W322×H635×D302mm/23kg

Spoey 155 ¥598,000(ペア、税込)
●型式:2ウェイ2スピーカー・バスレフ型
●使用ユニット:20mmソフトドーム型トゥイーター、155mmコーン型ウーファー
●インピーダンス:8Ω
●出力音圧レベル:86dB
●寸法/質量:W232×H340×D310mm/11kg

※12月発売開始、当初は受注生産予定

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