ディナウディオは去る12月2日(土)に、麻倉怜士さんと潮晴男さんが共同代表を勤めるUA(ウルトラアート)レコードの最新SACD/CDハイブリット盤『情家みえ/エトレーヌ』の体験試聴会を、東京・新富町のon and onで開催した。

 本SACD/CDについては、マスターに76cm/秒の24トラック、2インチアナログマスターからトラックダウンを行ったハーフインチのアナログテープを使用しており、UAレコードとしての音質へのこだわりが詰まった一枚だ。試聴会ではそのディスクをディナウディオの最新スピーカー「FOCUS」シリーズで再生したらどんなクォリティで楽しめるかが実演された。

『情家みえ/エトレーヌ』 SACD/CD ¥4,400(税込、写真手前右)、LP ¥7,700(税込、写真後ろ)

情家みえさんからのお知らせ
12月20日(水)に渋谷「Body & Soul」でのライブ出演が決定。観覧希望の方は同店サイトから申し込みを!

 まずディナウディオジャパン代表取締役の前田正人さんからイベントの紹介が行われた。今回試聴したFOCUSシリーズは、今秋発売したばかりのアクティブスピーカーで無線伝送技術のWiSAを搭載、左右のスピーカー間はケーブルレスで設置可能なこともポイントとなる。

 さらにWiFiでの音楽伝送にも対応しており、NASなどに格納した音源も再生できる。つまり環境さえ整えておけば、FOCUSスピーカーとアプリ操作用のタブレットだけで高音質を楽しめるわけだ。もちろんアナログ入力やLAN入力も搭載済みで、今回はラックスマンのSACD/CDプレーヤー「D-10X」でディスクを再生、アナログケーブルでFOCUS30に入力・再生している。

 イベントの第一部は、SACDの音質比較からスタートした。以前のリポートでも紹介しているが、麻倉さんと潮さんは今回のディスクを作る際にレーベル印刷によって音が違うかを検証している。最初に(1)赤色のレーベルを、次に(2)緑の下地に白い文字を印刷、そして最後が(3)白い下地に緑の抜き文字で印刷をした3種類での音の違いを確認したという。

on and onにセットされたディナウディオ「FOCUS30」(¥1,540,000、ペア、税込)。入力切り替えや音量調整はリモコンで行う

SACD/CDの再生にはラックスマン「D-10X」を準備し、アナログ出力をFOCUS30につないでいる

 1曲目の「CHEEK TO CHEEK」を使ってこの3枚を順番に再生したが、麻倉さんによると、ヴォーカルとピアノのかけあいや、ライブ収録らしいニュアンスが聴き所とのことで、来場者もわずかな違いも聴き逃すまいと耳を傾けていた。

 3枚を再生した後、麻倉さんがどのバージョンがよかったと思うかと尋ねたところ、来場者全員が(3)をチョイス、麻倉さんも「今日のお客さんは耳がいいですね。FOCUS30の音が優れているのもあるのかな」と驚いていた。実はディスク制作時にも潮さんは(2)、麻倉さんは(3)をチョイスするなど、ふたりの間でも意見が割れていたそうだ。そのわずかな違いを来場者が聴き分けたことに感心していたのだろう。

 ちなみに今回のイベントは最前列に女性のお客さんが3名並ぶという珍しい状況で(ホームシアター愛好家やピアノ演奏者といった方々)、潮さんも麻倉さんも普段以上にサービス精神満載でお届けしているように見受けられた(あくまで私見ですが)。

3種類のレーベル面の仕上げが異なるSACDを順番に再生し、音の違いを確認した

 続いて9曲目の「CAN’T TAKE MY EYES OFF YOU」と8曲目の「CARAVAN」を再生。ここでは情家みえさんも登場(潮さんに呼び出され)、「『CAN’T TAKE MY EYES OFF YOU』はこの録音でしか歌ったことがないんです。バンドメンバーとも収録の時にほぼ初めて演奏の打合せをしましたからね。後半では演奏が暴れているから、本当によく歌えたと思います」と話していた。

 ここから第二部に入り、まずFOCUSシリーズに搭載されているWiSA(Wireless Speaker and Audio)技術について、WiSA Japan Country Manager 竹原茂昭さんが解説してくれた。竹原さんによると、WiSAは独自方式により非圧縮で音楽信号を伝送できる点が重要だという。

 例えばWiSAでは96kHz/24ビットのリニアPCMを最大8チャンネルまで、しかも低遅延で伝送可能だ。今回試聴したFOCUSシリーズではL/R間の信号をWiSAを使って伝送しているが、その場合でも音のディレイは±2μs(1000分の2秒)と、人間が検知できないレベルに抑えているそうだ。

 WiSAはディナウディオだけでなく、KEFやJBL、B&0のワイヤレススピーカーでも採用されており、さらにコアと呼ばれる送信器を使えば、5.1chや5.1.4chといったサラウンドシステムもワイヤレスで構築できる。今後は音のいいアクティブスピーカーの必須機能として採用されていくのかもしれない。

WiSAの概要とシステム構築の方法について、WiSA Japan Country Manager 竹原茂昭さんが解説してくれた

 この説明を聞いた潮さんの「WiSAのような高品質なワイヤレス技術が普及していくとスピーカーケーブルがいらなくなってケーブルメーカーは困るよね」という言葉に、「そんなことはありませんよ」と答えたのがサエク コマース株式会社 代表取締役の北澤慶太さんだ。

 FOCUS30も電源ケーブルは必要だし、先述したようにSACDプレーヤーのD-10Xとはアナログケーブルでつないでいる。ここではその2種類のケーブルが再生音にどのような影響を与えるかも検証している。

 まずD-10XとFOCUS30間のRCAケーブルを、アマゾンで購入した一般的なケーブルからスープラ「Dual-RCA」に交換したらどうなるかをチェック。一般的なRCAケーブルでもそれなりにまとまったサウンドとして再現されているが、スープラに交換すると、情家さんのヴォーカルや、楽器のなまなましさがより向上してきた。

 北澤さんによるとDual-RCAは導線に錫メッキしたOFCを使い、さらにアルミ箔シールドでノイズ対策施しているとかで、プレーヤーとFOCUS30間の短い距離ではあるが、それでも信号の流れが良くなり、外来ノイズも抑えた結果が音に反映されているのでないかとのことだった。

FOCUS30にスープラのRCAケーブル「Dual-RCA」(¥16,500、3m、税込)と、サエクの電源ケーブル「PL-7500」¥115,500(1m、税込)を取り付けた様子。このふたつの音質への影響は予想以上です

RCAケーブルや電源ケーブルは試聴しながら、その場でつなぎかえている

 そしてもうひとつ、アプティブスピーカーで必要不可欠な電源ケーブルの比較試聴も行われた。こちらはFOCUS30の付属品と、サエク「PL-7500」でどんな違いがあるかという内容だ。なおPL-7500は導線にPC-Triple Cを採用した新製品となる。

 こちらの音の変化もひじょうにわかりやすく、再現されるステージ感が広くなり、さらにベースの弦の余韻、低域の力強さがはっきり増している。この変化には参加者の皆さんも驚いた様子だった。

 最後にもうひとつ北澤さんから仮想アース「SGS-042」を使った実験も提案された。SGS-042は内部に電気的な特性を備えた鉱石カーボン粉末の微粒子を加えることでマイナスイオンを最大限発揮させ、同時に内蔵されている高純度銅素材によりグラウンドの安定化を実現するものだ。

 今回はGSG-042をFOCUS30の親機(左チャンネル)の空き端子につないでみたが、GSG-042を加えると奥行感が変化して楽器の配置がさらにわかるようになり、低域の安定感、高域の伸びなどもより自然に感じ取れた。

サエクの仮想アース「SGS-042」¥198,000(税込)は、アンプなどの空き端子にケーブルをつなぐ仕組み

サエク コマース株式会社 代表取締役の北澤慶太さん。ケーブルなどのアクセサリーでチューニングを行うことで、さらにいい音で楽しめるようになりますと力説してくれた

 情家さんもこの音を体験し、「普通はわからないんですが、電源やアースを変えた状態だと音楽がクリアーになって、“あそこが1拍ずれているな” ということがありありとわかってきました。これにはちょっと、驚きました」とミュージシャンならではの観点から感想を語ってくれた。

 潮さんも、「付属している電源やラインケーブルは、必要最低限のクォリティを担保するものと考えてください。でも今日体験してもらったように、それらの周辺機器をグレードアップすることで各機器の実力をもっと引き出すことができるんです。その意味ではアクセサリーもとても重要ということを忘れないで下さい」と力説していた。

 なお第一部の試聴では、スープラのRCAケーブルとサエクの電源ケーブルをつないだ状態で再生していたことも説明された。第二部の前につなぎ変えていたとかで、SACDのレーベルによる比較は “音のいい状態” で行われていたということだ。

潮さんが持ってきてくれた、『エトレーヌ』の貴重なラッカー盤

ターンテーブルはテクニクス「SL-1200GR」で、フォノイコライザーはMOONの「110LP v2」

 最後の第三部では、アナログレコードの試聴を実施。『エトレーヌ』はアナログ盤も発売されており、こちらもマスターはSACDと同じアナログテープが使われている。イベントではターンテーブルのテクニクス「SL-1200GR」にMOONのフォノアンプ「110LP v2」という組み合わせでレコードを再生、110LP v2のアナログ出力をFOCUS30につないでいる。

 前田さん曰く、「FOCUSシリーズでアナログレコードを再生するのは初めてです」とのことだが、B面5曲目の「STILL CRAZY AFTER ALL THESE YEARS」もクリアーでかつ柔らかなニュアンスで再現されている。SACDとも一味違うなめらかなヴォーカル再現で、アナログレコードとFOCUS30の相性のよさが確認できた。

 続いて潮さんが準備した『エトレーヌ』のラッカー盤も特別に再生された。こちらは音の検証用に作ったものを大事に保管していたとかで、針を降ろすのも数回目となるそうだ。

潮さん自らディスク再生も

ラッカー盤の音の違いに情家さんも驚いたとのこと

 A面5曲目「YOU DO’T KNOW ME」を聴かせてくれたが、ヴォーカルの透明感、楽器などの音数、情報量の多さなどすべてがひと皮むけた印象で、ラッカー盤ではこれほど澄んだ音が楽しめるのかと参加者の皆さんも驚いている様子だった。「女の子に振られた男の子の悲しい気持ちが、情家さんの声からよく伝わってきます」とは麻倉さんの感想だ。

 最後にFOCUS30を弟機の「FOCUS10」と入れ替え、こちらのパフォーマンスも体験してもらった。FOCUS10はコンパクトな2ウェイ2スピーカーで、WiSAなどのネットワーク機能や接続端子などの仕様はFOCUS30と同様だ。

 市販品のアナログレコードからA面1曲目「CHEEK TO CHEEK」を再生すると、活発で切れのいいサウンドが飛び出してきた。FOCUS30よりも低音感は控えめだが、テンポがいいジャズヴォーカルとして再現されている。こちらも充分魅力的なサウンドだと感じた次第だ。

弟モデルの「FOCUS10」(¥990,000、ペア、税込、スタンド別売)

FOCUS10でアナログレコードの音を再生。みんな細かな違いも聴き逃すまいと集中!

 最後のまとめとして、「ディナウディオのFOCUSシリーズの音のよさは、皆さんにも充分わかってもらえたのではないでしょうか。オーディオを楽しむならやはりスピーカーの音のよさが重要です。いい音を聴くとそれが脳を活性化させてくれる、それは味覚なども同じですが、いいものに触れることが重要だと思います」と潮さんがオーディオの楽しみを紹介し、麻倉さんも「FOCUSシリーズではWiSAという新提案も重要です。今日は2chだけでしたが、この機能は映像付きのサラウンドにも展開できますから」とFOCUSシリーズの魅力も語ってくれた。

 そして潮さんから、「そうですね、次は映像付きソフトで、映画音響と音楽ライブをon and onで体験してもらいたいましょう。次回もぜひおいでください」と予告が飛び出して会は終了となった(ちなみに具体的な予定はないそうです)。

取材・文:泉哲也