株式会社kino cinémaは、11月16日(木)に新しい映画館「kino cinéma新宿」をオープンする。同社はこれまでも「神戸国際」(兵庫)、「天神」(福岡)、「立川高島屋S.C.館」(東京)、「横浜みなとみらい」(神奈川)といった劇場を運営している。今回は新宿三丁目交差点近くにふたつのスクリーンを備えた映画館としてオープンする。

 StereoSound ONLINEでは以前「kino cinéma横浜みなとみらい」について取材しており、“居心地のいいシアター” というコンセプトを実現するための様々な工夫も紹介させてもらった。そこでは天井の高さなどに制約がある空間でいい音を実現するために、フランス・トリノフのシネマプロセッサー「OVATION」を導入するなど、細かい配慮について語っていただいた。

 編集部は15日に開催された「kino cinéma新宿」のお披露目に参加、支配人の佐古和磨さんにお話をうかがうことができた。なお佐古さんは先月まで「kino cinéma横浜みなとみらい」の支配人を勤めており、上記のインタビュー取材にもご協力いただいた方だ。

 まず佐古支配人に、新宿にkino cinémaをオープンした狙いをうかがった。

 「新宿には既にたくさんの映画館があります。しかし弊社が配給する作品を上映するとなると、やはり直営の映画館の方が便利です。そのための施設として『kino cinéma新宿』をオープンしました」とのことで、通常の興行劇場とは一味違ったプログラムも期待できるのかもしれない。

 そこで「kino cinéma新宿」でどのような上映プログラムを考えているのかについてもうかがってみた。すると、「まだ具体的なことは決まっていませんが、これまで『kino cinéma横浜みなとみらい』で舞台挨拶などを行って、たくさんの方に来ていただきました。新宿は横浜以上に交通の便も優れていますので、もっと色々な方においでいただけるのではないでしょうか。またここでは映画作品に限定せず、ODS(Other Digital Stuff)上映にも取り組んでいきたいと考えています」との返事があった。

株式会社kino cinéma kino cinéma新宿 支配人の佐古和磨さん

 確かに最近の映画館では、ライブやスポーツといった様々なコンテンツが上映される機会も増えている。新宿という場所でこういった多彩な番組が楽しめるスペースが登場するのは、大画面ファンにとっては朗報だろう。

 では劇場としてのシステムはどうなっているのか。ご存知の方もいらしゃるかもしれないが、ここは今年8月まで「EJアニメシアター新宿」として営業しており、いわゆる居抜きでリニューアルしたことになる。

 といっても以前とまったく同じということではない。この点についても、今回のリニューアルを手掛けた株式会社ジーベックスのスタッフにお話を聞くことができた。

シアター1のフロントサイド。スクリーンはシネスコサイズで、ビスタ上映時は7×3.8m

サラウンドスピーカーは両サイドに各3基、サラウンドバックは4基という構成(その他に予備のサラウンドバックもあり)

 ふたつある劇場のうち4Fのシアター1は、座席数294(車椅子2席)という大型サイズとなる。スクリーンサイズは横9.1×縦3.8m(シネスコ時)で、そこにNECのデジタルプロジェクター「NC3240S-A」(光源はキセノンランプ)+GDCのシネマサーバー「SR-1000」で映像を投写している。ちなみにプロジェクター本体とスクリーンはEJアニメシアターの設備を継承しているが、プロジェクターの主要パーツ等は交換されており、映像自体も別物に生まれ変わっているという。

 サラウンドシステムはドルビーのシネマサウンドプロセッサー「CP950」を使った7.1ch仕様で、スピーカーはすべてJBLでまとめられている。具体的にはフロントL/C/Rが3ウェイシステムの「4732」で、サブウーファーには46cmダブルウーファーの「4642A」を2基使用。これらをQSCのステレオパワーアンプ「DCA2422」を4台使ってドライブしている(フロントL/C/Rはバイアンプで駆動)。

キセノン光源のデジタルプロジェクターは、3D上映にも対応している

シアター1の再生システム。一番上がドルビーのシネマプロセッサー

 なおフロントL/C/RスピーカーとQSCのアンプは新規導入されたもの。その他のサラウンド/サラウンドバックスピーカーは元々備わっていたJBL「9310」で、合計10本を使用。組み合わせるアンプもJBLの「DSi」シリーズ4chタイプをそのまま活かしているので、結果としてシアター1はJBLスピーカーで統一することになったそうだ。

 お披露目では近日公開作品のトレーラーが上映されていたが、いずれも発色が綺麗で、シルバースクリーンでも、ぎらついた印象はない。2K上映とのことだが、コントラストが高いことと相まって緻密に感じる映像を確認できた。サウンドもセリフの押し出しのいい、バランスの取れたまとまりで、46cmウーファー4基が再現する重低音も迫力充分だ。300席弱という空間にぴったりの映像と音という印象だった。

シアター2は座席数53とかなりコンパクト

スクリーン裏のスペースの関係から、フロントL/C/Rとサブウーファーはスクリーン下に収納されている

 5Fにあるシアター2は座席数53(車椅子2席)という小柄な空間で、スクリーンサイズは横2.7×縦1.5m(ビスタ時)。ここにレーザー光源のデジタルプロジェクターNEC「NC1402-L」+GDCのシネマサーバー「SR-1000」で映像を投写する。

 サラウンドシステムは7.1ch仕様で、フロントL/C/Rがエレクトロボイスの「TS992E」、サブウーファーは同じくエレクトロボイスの「TL181ES」で、サラウンドとサラウンドバックはJBLの「Control 25」が合計10基という構成だ。

プロジェクターは高めの位置から投写していた

不整形な室内やスピーカーの位置を考えて、トリノフのシネマプロセッサーを導入したとのこと

 シアター2で特徴的なのはシネマプロセッサーにトリノフ「OVATION2」を採用している点だろう。実はシアター2は壁面が左右非対称で、さらにスクリーン裏にスペースがないためフロントL/C/Rとサブウーファーはスクリーン下側に格納されている。こういった厳しい環境でもお客さんにバランスの取れたサウンドを楽しんでもらうためにトリノフが採用されたということだ。今回はQSCのパワーアンプとの組み合わせでスピーカーをドライブしている。

 シアター2の映像はスクリーンサイズが小さいこともあって、解像度的に不満は感じない。レーザー光源ということもあり、コントラスト、輝度再現とも充分だ。サウンドは重低音が印象的で、爆音などが力強く響いてきた。この音の傾向はトリノフの特長なのかもしれない。

 個性の異なるふたつのスクリーンを備えた「kino cinéma新宿」は、映画ファンにはぜひ体験してもらいたい劇場になるだろう。ぜひロードショウ館とは違う、個性的な上映プログラムも期待したい。(取材・文:泉 哲也)

kino cinéma新宿
東京都新宿区新宿三丁目13-3 新宿文化ビル4〜5階
https://kinocinema.jp