大学の卒業を控えた田中美巳(上大迫祐希)は、卒業制作のテーマや卒業後の進路などに思い悩む日々を過ごしていたが、一向に解決の方策が見つからず、その悩みは増すばかり。劣等感に苛まれる中、ふとしたことから自分の外に広がる世界を体験したことで、その先へとつながる道程が、ぼんやりと浮かんできた。果たして彼女は、自分の殻を破ることができるのか? 昨年『神田川のふたり』で映画初主演を果たし、若手女優の中でも着々と地歩を固めている上大迫祐希に、出演の感想を聞いた。

――よろしくお願いします。冒頭の不思議な展開からいきなり面喰いましたが、同時に作品の世界にも引き込まれました。
 ありがとうございます。青春ファンタジーですから(笑)。それは私の演じた田中美巳の、地に足が着いていないというか、やりたいことがはっきり分かっていなくて、少しフワッとしている感情を表現した、と監督から伺っています。美巳の役柄としても、やはり本橋希良(もとはしきら:原愛音)とは対照的ですし、鹿児島というロケーションがあるからこそのシーンなのかなと感じています。

――まずは、本作への出演の経緯を教えてください。
 有り難いことに、オファーを頂いて出演が決まりました。地元・鹿児島で主演映画をやらせてもらえる機会なんて、なかなかあるものじゃないですから、本当に嬉しかったです。

――今関あきよし監督とは?
 最初にお会いしたのが2019年(短編『ザ・オーディション』に出演)ですから、3年ぶりでした。

――前回は短編、今回は長編で主演です。3年という月日も含めて、監督と関係性に何か変化はありましたか?
 特に変わった感覚はなかったですね。監督は、ご自身で細かい演出をつけるというより、こちらが出したものを受け入れてくださる方なので、3年前にご一緒させていただいたこともあって、安心して現場に臨むことができました。あと、撮影前に何度かお話しする時間を設けていただいたので、近況報告をしながら、作品についてもじっくりとお話しをすることができました。

――その話し合いは、役作りにも大いに活かせた?
 はい。まだ、脚本が完成する前でしたから、現在の私のことも汲み取って、本に反映していただきました。

 特に私から提案したのではなかったのですが、撮影がちょうど去年の11月ごろで、その時は私自身の大学の卒業制作と重なっていた時期だったんです。私が卒業制作として考えていたのが、フィルムカメラで写真を撮って、それを写真集にするっていうことでしたので、そういった部分は、美巳が父の形見のフィルムカメラで写真を撮っているという行動に活かされているのかなと感じています。

 そうした、卒業制作に追われているところは、自分自身の感情とリンクする部分が多かったので、役に反映させやすかったです。

――ところで、卒業は無事に?
 はい、なんとか卒業できました。

――撮影と時期が被っていた分、卒業制作は大変だったのでは?
 本当にドキドキでした。リアル(学校)な方だと、周りの友達がどんどん作品を仕上げていきますし、(私は私で人と)違うことをしていることもあって、やはり人の作品がよく見えてしまうんです。他人と比べてしまうところもありましたけど、私にはやりたいこと――写真集を作ることで、自分が今まで見てきた・過ごしてきた鹿児島の風景を今、もう一度改めて辿って、写真を撮って、本にする――が明確にあったので、焦りはそれほどではなく、順序よくやっていかなくちゃ! ぐらいの感じでした。

――実際の卒業制作で撮った写真や、作中で撮影したものは、どこかで見られたりするのですか?
 公開に合わせて、鹿児島と東京で、ちょっとした写真展をさせていただくことになっているので、皆さんに見てもらえたら嬉しいです。
(※詳細は下で紹介します。)

――さて、台本が完成した時点での美巳の感想について教えてください。
 さきほどお話にあった冒頭の展開も含めて、私も先を分からないまま台本を読み進めていきましたけど、美巳としての存在の仕方や心情的な部分が、結構、自分自身と重なると思うところが多くありました。一緒にいる友達の希良に、きっと憧れを抱いているのだろうし、彼女の決断の早さとか、意思の強さとか、そういったところは美巳にはなくて。でも、何かやりたいことはあるけれど、それが具体的に何なのか表現しきれていない部分とかを、台本を読みながら感じました。美巳と希良、どちらかと言えば断然、私は美巳寄りの人間なので、そうしたところにはすごく共感できました。

 また、美巳は唯一の肉親であった父を亡くしているので、すがったり頼ったりする相手がいなくて戸惑っているんだろうなっていう風にも感じましたし、そこを補ってくれているのが希良とかユタカ(肥後遼太郎)の存在なんだろうとも思いました。

――希良はお母さん的な存在にも見えました。
 本当にそう思います。お世話してもらっているような雰囲気で、(希良に対して)執着に近い愛情みたいなものを感じましたから、そこをていねい表現できたらいいなと思っていました。

――昨年『神田川のふたり』で演じられた舞は、ご自身に近いと仰っていましたが、本作の美巳は正反対で常に葛藤しているし、笑顔も見せないし。そういう面では、新たな上大迫さんを見られたように思いました。
 そうですね。普段暮らしている中では、(私は)割と楽しい人間ではあるんですけど(笑)、1人になった時に悩んだり、マイナス思考してしまうところとか、そういった内面的な部分は、似ていると思います。ただ、それを現実世界で行動として出すかと言われたら、出しませんけど、感じているもの、気持ちの面ではすごくリンクしていたと感じます。

 神田川の舞の、あの何にも考えていなさそうなところ――結構、私はのんきって言われがちなんですけどね(笑)――は実際にあって、でもふとした時に思い悩むことはあるので、多面的と言うか、どちらも私なんだなって感じます。神田川の時とは、毛色の違う役になったので、そうしたところも楽しんでいただけたら嬉しいです、

――ずっと笑顔がありませんでしたが、撮影中はいかがでしたか?
 どう撮られているのかを意識するのも大切だと思いますけど、その時は感情優先というか、自分(の表情)がどうなっているのかは、正直あまり意識していなくて。だけど、思い悩んでいるとか、心の中で渦巻いている悩みみたいなものを優先していましたから、笑顔も少ないですし、すっきりしていませんでした……。

――少しネタバレすると、最後には……。
 ようやく吹っ切れました!

――美巳については、ご自身とリンクする部分があるということでしたが、演じていくうちに、劇中での美巳の変化(成長)と合わせて、ご自身の変化、気づきみたいなものはありましたか?
 演じていく中で(美巳の)心情は理解できましたし、一番大きな影響を受けたのは、この作品に携わらせていただいたことですね。等身大の自分のままでいいんだよ、って言ってくれたような気がして! これまでずっと感じていた、人と比べての劣等感とか不甲斐なさみたいなものがなくなりました。今まで感じていた、人と比べて落ち込んでしまうという感情がなくなったというか、前を向けるように、今の私にできることをやっていけばいいんだ、背伸びしなくていいんだ、って思えるようになりましたので、そういう面では変化はありました。

――希良もそれをサポート(?)してくれて、ちょっとずつ大人の階段を登っていきます。
 そうですね。1つずつ問題を解決していく感じでした。やはり悩みを聞いてくれる希良がいたから心強くいられたと思います。お互いに執着している、というと言い過ぎかもしれませんけど、お互いに必要な存在なんだろうなっていうのは、あらかじめ分かっていたので、お互いに頼り頼られるという関係性でありつつ、まあ、希良の助言というか、促されることで、美巳も行動していくようになる。本当に徐々に徐々に大人になっていくところを、子供から大人になる狭間の時間を切り取ったような映画になっているのかなって思います。

――そんな美巳も、終盤では思いっきり弾けます。ネタバレになりにくい展望台の方の想い出を聞かせてください。
 展望台で叫ぶところは、それまでに走っているシーンを全部済ませた後に、最後の最後に展望台まで走っていって、そのまま感情を初めて出す、全ての本音をぶつけるようなシーンになっていて、美巳としての心情もそうですけど、やはりあのロケーションというか、ガジュマルの木があって、広い海と空が広がっている景色の前にして、ようやく感情を出せたというか、空に吸い込まれていくような形で、思い切って感情を出せたシーンになったんじゃないかなって思っています。撮影時は、自分がどう撮られているかも、正直あまり分かっていなかったし、実際に仕上がった映像を観て初めて、希良がそこで見守ってくれていたんだと気付いたりしました。

 美巳の中で初めて、言いたいことを全て、何かにぶつけられたシーンになっていて、すごく大事なところだったんだと感じています。

――弾けたシーンはもう一つありますね。
 ネタバレしないようにお話すると、肩の荷をおろしたというか、吹っ切れたという表現が一番多分しっくりくると思います。今までに悩んでいたものを全て一旦置いて、今、自分がするのはこれだ! っていう美巳の中のはっきりとした明確な行動を実行できているので、本当に思い切りがよくて、私も好きなシーンです。そこでまた1つ前に進めたような気がします。

――ネーミングのセンスもずば抜けていました。
 今までの美巳とは感覚が変わったというか、確実に変化があったのだなと思うようなもので、一歩、希良に近づいた気がします。

――読者へのメッセージをお願いします。
 子供から大人への境目になる年齢、そして成長していく中にある時間――人と比べて落ち込んでしまう時間――というのは、作品を御覧になる皆さんも経験されたことと思います。美巳はその時間の中で、自分の周りに広がる世界に気付いたり、いろいろな感じ方を経験することで、成長していきます。その姿を皆さんに観ていただいて、等身大のあなたのままでいいんだよ、あなたの選択は間違っていないよって、前向きになれるように、そっと背中を押してあげられる、支えてあげられるような映画になっていたら嬉しいです。ぜひ、劇場で観ていただきたいです。

――最後に、地元での撮影の感想をお願いします。
 撮影は、鹿児島市内と佐多岬で行ないました。鹿児島市内については、かつて暮らしていた土地でしたので、ある意味生活圏内だったこともあり、見慣れた景色と知っている土地、知っている空気、鹿児島弁でのお芝居も含めて、すごく身を任せられる場所での撮影になりました。

 佐多岬は、同じ県内と言っても、桜島を挟んで反対側にあるので(最南端)、なかなか行く機会がなくて、実は初めて行きました。現地では、壮大な自然を感じられましたし、その自然のパワーで生かされているんだと思えるような、すごく魅力的な映像になっていたので、鹿児島に住んでいる方々にも、鹿児島が初めての人にも、改めて鹿児島のよさを認識してもらうのに最適な映画になったんじゃないかと思っています。よろしくお願いします。

映画『青すぎる、青』

10月27日(金)より鹿児島先行公開
11月4日(土)より新宿K’s cinemaほか全国順次公開

<キャスト>
上大迫祐希
原愛音 肥後遼太郎
松元裕樹 まっぴーさくらじま 森優稀 三浦結愛 穂原康博 新名真郎 田中千枝子 逢澤みちる / 窪塚俊介 佐伯日菜子

<スタッフ>
監督・原案:今関あきよし 脚本:小林弘利 音楽・MA:種子田博邦 エグゼクティブ・プロデューサー:嶋田豪 肥後潮一郎 プロデューサー:星野晴美、西田建一 鹿児島弁監修:西田聖志郎 撮影・編集・VFX:三本木久城(JSC) 録音:寒川聖美 美術:塩津洋一 主題歌「palette」作詞・作曲・歌:よしむらさおり SPECIAL THANKS:小牧醸造株式会社 強力:鹿児島市、羽子田幸一 ロケ協力:鹿児島レディスカレッジヘアーアート学科、株式会社マツモト工芸ドローン事業部 制作協力:南大隅町開発、株式会社かごしまフィルムオフィス 制作・配給:アイエス・フィールド 製作:「青すぎる、青」製作委員会
2023年/日本/カラー/103分/アメリカンビスタ/ステレオ/G
(C)2023「青すぎる、青」製作委員会

上大迫祐希SNS
http://is-field.com/management/kamioosakoyuuki.html
https://www.instagram.com/y_kamioosako

●上大迫祐希写真展「夢の道しるべ」開催決定
入場料:無料

<鹿児島>
鹿児島市立天文図書館(住所:鹿児島市千日町1番1号 センテラス4階)
2023年10月21日(土)~11月5日(日) 10:00~20:00
https://lib.kagoshima-city.jp/tenmonkan/

<東京>
かごしま遊楽館3階 鹿児島ブランドショップ東京店 (住所:東京都千代田区有楽町1丁目6-4 千代田ビル3F)
2023年11月16日(木)~12月3日(日) 10:00~18:00
https://www.pref.kagoshima.jp/af10/yurakukan/ivent/20220405eigyoujikan.html