現実と虚構の間をゆらめくような描写に惹かれる。ざらざらした質感を持つビデオテープ映像の挿入、取材パートにおけるいささかぎこちない画面編集のつぎはぎやインタビュイーの口調や目線の硬さも印象に残る。が、これらは「現在を生きる映画のプロたち」が、「90年代に起きた事件の核に迫るドキュメンタリー映像を制作するというテイの作品」を作り込むにあたって、確信犯的に取り組んだパーツの数々なのである。

 大きなテーマとなるのは、1992年に釜山の旅館「トンソン荘」で起きたむごたらしい殺人。アルバイトの男が部屋に恋人を連れ込んで殺害、しかもその一部始終を映像に記録するという展開は、いかにも、ビデオ収録が俄然、身近となった90年代的だ。映像は当局によって封印され、男は無期懲役の判決を受けて仮釈放の1年前に命を絶つ。が、だからといって事件の謎が解決したわけではない。そのビデオに登場する部屋の鏡には、男と恋人以外の誰かが映り込んでいた。2019年、取材班は、その事件の謎に迫るべく、廃墟となった「トンソン荘」を訪れ、次々と封印をとき、事件の関連人物への取材を重ねていく。が、それは突如中断され、紆余曲折を経て、寺に放置された車の中から発見される。

 「1992」と「2019」がゆるやかに出会い、「2023」の空気の中で「おや、なんと、そうだったのか」的な結論へと鮮やかに着地してゆく。そのさまが実に歯切れ良いのだが、そこに至るまでにサスペンス的、ホラー的、ミステリー的、ドキュメンタリー的展開がたっぷりあり、スタッフの演出の冴えや、市井の人に徹しきったかのような役者陣の職人ぶりに、深く唸らされることになる。韓国での劇場公開時には、初登場5位にランクインし、スマッシュヒットを記録したというが、それも納得の、怖いんだけどキャッチーな仕上がりの一作だ。

映画『トンソン荘事件の記録』

10月27日(金)よりシネマート新宿・心斎橋ほか全国ロードショー

出演:ソ・ヒョヌ、チョ・ミンギョン
監督:ユン・ジュンヒョン
2023年/韓国映画/韓国語/87分/シネスコ/5.1ch/字幕:福留友子/映倫 G
提供:ニューセレクト 配給:アルバトロス・フィルム
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