いきなり自らの不明を告白してしまうが、アルヴァ・アアルトの名をここで初めて知った。映画鑑賞イコール「知を得ること」だと思っている私には、もう、これだけでも大きな収穫なのだが、彼の建築やデザインがまた、なんともクールでかっこいい。落ち着いた色合い、思いっきり背伸びしたくなるほど高い天井、いっぱいに広げられた窓枠。我々が住んでいる惑星の空が持っている広さと奥行きに深いリスペクトを捧げながらの名建築群であったのだろうなと、なんだかしみじみしてしまった。そして頭の中に、やはりフィンランド出身のドラム奏者エドワード・ヴェサラや、サックス奏者ユハニ・アールトネンの音楽が湧き出したのだった。

 監督を務めたのは、「幼い頃、アアルトが設計した図書館で過ごし、彼の建築の虜になった」と語る気鋭のヴィルピ・スータリ。アアルトは芸能人ではないので映像や録音テープの数もさぞ限られていたのではと思うが、それらを、建築物の映像、同世代を生きた面々の証言などと巧みにブレンドしてゆく。ル・コルビュジエとの関わりについても触れられている。アアルトの重要な伴侶となったふたりの女性(とくに最初の妻“アイノ”に対しては、監督自身も相当な思い入れがあるのではなかろうか)に関する描写もひじょうに興味深い。また「時代の最先端」であったはずのアアルトが、キャリアを積むとともに、後続世代に「保守的」「体制側」「古い感性」とみなされていくさまも、私の心を揺らした。

 この2023年は、アルヴァ・アアルトの生誕125周年にあたる。私のように、この映画で彼を知り、建築の雄大さにときめくファンも大いに増えることだろう。“フィンランドのアカデミー賞”と称されるユッシ賞にて音楽賞、編集賞を授賞した、実に小気味のいい一作だ。

映画『アアルト』

10月13日(金)~ヒューマントラストシネマ有楽町、UPLINK吉祥寺
10月28日(土)~東京都写真美術館ホール
 ほか 全国順次公開!

監督:ヴィルピ・スータリ
制作:2020年 配給:ドマ 宣伝:VALERIA 後援:フィンランド大使館、フィンランドセンター、公益社団法人日本建築家協会 協力:アルテック、イッタラ
2020年/フィンランド/103分
(C)Aalto Family (C)FI 2020 - Euphoria Film

https://aaltofilm.com/