「リン・サラウンド体験記」の第7回は、神戸・芦屋にお住まいのTさん宅をご紹介したい。素晴らしい邸宅の一室に設けられたゲストリビングに、いわゆるホームシアターを構築。リンEXAKTシステムを核としたオーディオビジュアル再生を楽しまれている。130インチスクリーンと5.1ch構成サラウンドシステムが美しくインストールされた、このスペースに込められたTさんのこだわりを詳しくお聞きした。

 北に六甲山地、南に大阪湾を臨む豊かな自然を誇り、日本有数の高級住宅地として知られる兵庫県・芦屋。今回、お邪魔したリンユーザー、T氏宅は南に緩やかに傾斜する六甲山麓の一角に建てられた瀟洒な一軒家だ。

取材時は炎天下の日中であったが、縦巻きの長尺仕様のカーテンを降ろすと、ほぼ全暗環境が得られる。シアターインストールはホームシアターづくりの経験が豊富なサウンドクリエイトが、インテリア/照明デザインはdesign works sol(インスタグラムで本スペースの紹介ポストあり)が担当している

T邸の主な使用機器
●プロジェクター : JVC DLA-X750R
●スクリーン : キクチ ホワイトマットアドバンス(130インチ/17:9)
●UHDブルーレイプレーヤー : オッポデジタルUDP-203
●ネットワークプレーヤー+ヘッドユニット :リンKLIMAX SYSTEM HUB
●6chD/Aコンバーター : リンAKURATE EXAKTBOX 6(センタースピーカー、サブウーファー用として使用)
●6chパワーアンプ : リンMAJIK 6100(センタースピーカー駆動用として使用)
●スピーカーシステム : リンEXAKT AKUBARIK(L/R)、AKURATE 225(C)、530(LS/RS)、AKURATE 226(LFE)

 

 「もともと大阪の生まれで、中学、高校とこの近くに通っていたのですが、その頃からなんとなく、いつかは芦屋に住みたいという気持ちが芽生えていました」(Tさん)

 大学院ではコンピューターサイエンスを専攻し、卒業後、就職したのは国内電機大手メーカー。関西を離れ、東京勤務が続いたわけだが、いまから16年程前、家業を引き継ぐこととなり、関西にUターン。この機会に芦屋の物件を本気で探し、いまの住宅と出合い、購入したという。

 「1988年頃に建てられたRC構造の物件でしたが、設計士に見てもらったところ、造りが頑丈なので、耐久性は問題ないということでした。大きさも、ロケーションも、気に入っていましたし、母屋から独立したこのオーディオ&シアター向けにも使えるゲストリビング用スペースが確保できそうなのも好都合でした。すぐに契約して、リノベーションの検討に入りました」(Tさん)

 このゲストリビングのスペースは約40畳。部屋に入ると、真正面は全面ガラス、眼下には芦屋の街が拡がり、その先には大阪湾、関西空港が見える。視界を遮るものは一切ない絶好のロケーションだ。

 「拙宅全体のリノベーションやインテリア設計を担当していただいた、design works solのデザイナーさんには相当な無理なお願いをしましたが、巧くまとめてくれました。たとえば、母屋との連絡口となるドアですが、元々はガラス製。空間的に区切りたかったので、重厚で、壁になるようなドアとリクエストしました。その回答がエッジに鉄鋲を配置した、お城の扉のようなドアだったわけです。この他にも、天井に隠すように設置したプロジェクターや寄木風の床のアクセントと、実にいい感じに仕上げていただき感謝しています」(Tさん)

 

フロントL/Rスピーカーは、コンパクトなサイズながら、5ウェイユニット構成のワイドレンジモデルEXAKT AKUBARIKのブラックアッシュ仕上げをお使い。DAC回路やドライブアンプもスピーカー本体に組み込んだEXAKT仕様の「インテグレーテッドスピーカーシステム」だ

 

リンの最上位グレードKLIMAXでは、DACを内蔵してアナログ出力が可能で汎用システムに組み込めるタイプの「DSM」のほかに、EXAKTというロスレスデジタル伝送を前提とするDACレス設計の「SYSTEM HUB」という2タイプが用意されている(他のグレードもほぼ同じ発想でのラインナップを展開)。Tさんは、リンのEXAKTシステムの魅力を活かす発想で、「KLIMAX SYSTEM HUB」を導入。Tさん宅システムのまさに頭脳として活躍中だ

 

センタースピーカーAKURATE 225もフロントL/Rスピーカーと同じくリン製5ウェイ機を用いている。外部パワーアンプで駆動する「パッシブタイプ」であるが、AKURATE EXAKTBOX6とMAJIK 6100を用いて、バイアンプ駆動されている。

 

 

20年以上前にリン製品と出会う。音とデザインの良さにひかれる

 Tさんとリン製品との出合いは、いまから20年以上遡る。東京・秋葉原にお店を構えていたサウンドクリエイトに立ち寄り、当時、最高峰だったシステム、KOMRI(コムリ)スピーカー、KLIMAX KONTROL(クライマックス・コントロール)プリアンプ、KLIMAX TWIN(クライマックス・ツイン)パワーアンプなどのサウンドに触れ、リンの世界観に魅せられたという。

 「確か、和の空間でデモしていたと思いますが、その音の良さもさることながら、デザイン性と高い機能性が実にスマートで、無駄のないミニマルなシステムに強くひかれました。元々、映画とオーディオの両方が好きでしたので、リンのオーディオシステムに、ソニーのAVセンターを加えたAVシステムをサウンドクリエイトさんにインストールしてもらい、DVDビデオ『マトリックス』をPlayStaion2で再生して、楽しんでましたね。これがすべての始まりです」(Tさん)

 芦屋のゲストリビングにリンのシステムが導入されたのは、2016年の秋頃。ケーブル配管や電源、さらにはトップスピーカーとサラウンドバックスピーカーの計4基の天井埋め込みスピーカーと、音響的なことも考慮しつつ、インテリア的に邪魔にならないように、慎重にリノベーションが進み、サウンドクリエイトによるインストールが完了した。

 そして引越しを機に念願のリンEXAKTシステムを迎え入れることとなる。最良の状態で音源をスピーカーまで送り出し、歪みのない帯域分割と位相管理が行なわれ、ユニットの個体差まで補正する。さらに80Hz以下の低音のみに限定して定在波対策としての周波数補正を行ない、音質を整えるSpace Optimisationと、EXAKT化の恩恵は計り知れない。

 「初めはEXAKTシステムにAVセンターのプリ出力をユニティゲイン設定で加えて、7.1.2スピーカー構成でのドルビーアトモス再生を行なっていたのですが、音質的になかなか納得できなくて。いまはAVセンターを外して、リンのEXAKTシステムだけでシンプルな5.1ch再生を楽しんでいます。この方がトータルとしてのクォリティが上がり、使い勝手もいいですね」(Tさん)

 トップチャンネルとサラウンドバックの計4ch分のスピーカーを使用せずに、システムとしてはシンプルな方向のチェンジとなったわけだが、空間の静けさ、拡がり、あるいはチャンネル間のつながりなど、サラウンド再生時のパフォーマンスは逆に向上したという。

 スピーカーの数が増えると、それだけ調整の難易度が上がり、ちょっとしたことで、全体のバランスが崩れてしまうことが少なくない。TさんのシステムからAVセンターが取り除かれたことで、その負担が軽減されたということだろう。

 「5.1chシステムへの変更は大正解でしたが、システムとしてのクォリティが上がったことで、1つ気になることができてしまいました。センターチャンネルの問題です」(Tさん)

 すでにAKURATE EXAKTBOX6(サラウンド再生にも対応する6ch分EXAKT拡張ユニット)と6chパワーアンプMAJIK 6100は購入済のため、センターチャンネルのEXAKT化も可能のはず。ところがスピーカーケーブルの引き回しの問題(配線管口径の制約)で、それがまだできていない。なんとも歯がゆい状況だ。

 「通常のバイアンプ駆動で鳴らしているんですが、他チャンネルの表現力に比べると、どうしても見劣りして、これが全体のクォリティの足かせになってしまっているようです……。一度、ケーブルを仮設の状態でセンタースピーカーのEXAKT再生を試したことがあるんですが、特にセンタースピーカーの品質によってセリフ、ヴォーカルだけでなく、空間のスケールや生々しさなど、サラウンド再生時の迫力、臨場感が大きく変わりました。配線管の変更はなかなかたいへんなのですが、サラウンド全体への影響が大きいだけに、悩ましいんです……」(Tさん)

 最近はこの問題もあって、クラシックコンサートやライヴ作品など、サラウンド音声で収録された音楽作品がイマイチ楽しめず、シンプルなステレオ音声を選ぶことが多いのだそう。センタースピーカーがEXAKT化できれば、理想的な「フルEXAKT」再生になるため、間違いなく音質的には有利。正しく、いい音で再生できているのかどうか、疑う余地のない安定した状況も精神的に好ましいのだという。

サラウンドスピーカーはリンのEXAKT接続専用モデル530。コンパクトなDAC/アンプ内蔵の3ウェイスピーカーだ。美しいファブリックを身にまとっているが音は本格。能ある鷹は爪を隠す、を実践したスピーカーだ

 

サブウーファーもリンの密閉型モデル、AKURATE 226のブラックアッシュ仕上げ機を使用。25cmユニットと500Wアンプを搭載した強力モデルだ。なお、AKURATE 225と同226はいずれも生産完了品

 

プロジェクターはJVCのDLAプロジェクターDLA-X750R。天井の造作家具内にさり気なくインストールされている

 

リスニングポイントの右脇のラック内には、AKURATE EXAKTBOX6(下段左)やMAJIK 6100(下段右)のほかに、オッポデジタル製のビデオプレーヤーやテクニクスのADプレーヤーなどが納まる。このシアターで映画を鑑賞するのはもっぱらディスクメディアで、特にUHDブルーレイを積極的に購入していると話すTさん。「せっかくのシステムで楽しむのなら、最高品位のディスクを再生したいんです」とのこと。納得です

 

 

「リン以外のオーディオ機器は今後購入しないと思います」

 最後に「なぜそこまでリンが好きなのか」と率直に尋ねてみた。

 「音の良さはもちろんですが、デザイン性を含めたモノづくりから、ブレることのない明確なフィロソフィを感じることができます。たとえば本格ネットワークオーディオプレーヤーの先駆けとなったDSシリーズ。これはいけると判断したら、まだまだ現役のCDメディアを見切り、開発パワーをネットワーク再生に集中して、ラインナップを構築、システムの洗練に集中しましたよね。老舗オーディオメーカーで、ここまで先進的な考え方ができるなんて。日本メーカーにはなかなかできないことを、リンは早々にやっていたわけで、そういう意味での憧れがありました。今後、おそらく私はリン以外のオーディオ機器は購入しないと思います。そのくらいの信頼感があります」(Tさん)

 いまは仕事の関係で東京などへの出張が多く、なかなか自宅でゆっくり過ごす時間が持てないという。そこで1つ提案、たいへんかとは思いますが、ぜひセンタースピーカーのEXAKT化に挑戦してみてください。音楽を聴くこと、映画を見ることががぜん楽しくなって、もっと家に帰りたいと思うはずです。フルEXAKT化が達成したら、ぜひもう1度、お邪魔させていただきます。

 

取材にご協力いただいたインストーラー
●サウンドクリエイト 0120-62-8166

 

 

本記事の掲載は『HiVi 2023年秋号』