テレビの音を高音質化する方法は、AVセンターを使った本格的なAVシステム、あるいは設置のしやすいサウンドバーが主流ですが、ここに来てプリメインアンプを始めとしたオーディオ製品にHDMI端子を装備して、シンプルな接続かつ高品位なテレビ音響再生の実現を目指したHDMI対応オーディオコンポーネントが増えています。ここでは、HDMI接続に対応した注目の最新製品をピックアップ、オーディオ製品としての基礎体力はもちろん、テレビとHDMI接続した際の実力について細かくチェックしました。(編集部)

 2025年に創業100周年を迎える日本オーディオ界の老舗中の老舗ラックスマンから登場した初のネットワークトランスポート、それが本機NT-07だ。

 外部のお気に入りのUSB端子付D/AコンバーターやCDプレーヤーと組み合わせ、UPnP/OpenHomeプロトコル(純正アプリLUXMAN Streamあり)で操作することで、ネットワーク上にあるライブラリーの音源を聴いたり、Spotifyや日本でのサービス開始がアナウンスされたQobuz、TIDAL(これらは日本未上陸)などの各種音楽ストリーミングサービスを楽しむことができる。

 また本機はTIDALが採用しているMQAフォーマットのコアデコード機能も有している。なお総合音楽再生ソフトRoonの出力機器としての対応(=Roon Ready対応)がこれからのファームウェア・アップデートで予定されているという。対応レゾリューションの上限は、PCMで768kHz/32ビット、DSDが22.5MHzと万全の構えだ。

 HDMI端子は2系統用意されている。一つはHDMI ARCで、もう一つはUHDブルーレイプレーヤー等とダイレクトにつなげるHDMI入力だ。今回この特集で採り上げている製品で、ARCではないHDMI入力端子を装備しているのは本機だけだった。

 ここでは本機と組み合わせるUSB端子付のSACD/CDプレーヤーとしてD-07Xを、スピーカーのモニターオーディオPL300Ⅱを駆動するプリメインアンプとしてL-507Zを用意してもらい、フル・ラックスマン・システムでその音を聴いてみることにした。D-07Xにはフラッグシップ機のD-10Xに引き続いてローム社製のトップエンドDAC素子であるBD34301EKVが採用されているのも興味深い(デュアルモノーラル構成)。

Network Transport
LUXMAN NT-07
¥594,000 税込

●型式 : HDMI入出力対応ネットワークトランスポート
●接続端子 : USB3系統(USB Type A×3)、HDMI入力1系統、HDMI出力1系統(ARC対応)、デジタル音声出力2系統(同軸×1、光×1)、LAN1系統、ほか
●寸法/質量 : W440×H92×D398mm/10.3kg
●問合せ先 : ラックスマン(株) TEL.045(470)6991

 

 

見事なラックスマン・トーンに思わず聴き惚れてしまった

 高音質音楽配信サービスTIDALを用いて、いくつかの音源を聴いてみた。ドゥービー・ブラザーズの『Living on the Fault Line』(192kHz/24ビット/MQA)はNT-07でMQAコアデコードして聴いてみたが、これがすこぶるよい。歌舞伎役者が見得を切るかのような、これみよがしなHi-Fiトーンではなく、もっとナチュラルで大人っぽい音調なのである。ドラムズやパーカッションのアタックもきつさを感じさせない、とても耳馴染みのよい音だ。USB DACとして用いたSACDプレーヤーもプリメインアンプもラックスマン製品で揃えた再生なので、ラックスマン・トーンがひときわ鮮明に表現された音と言えるかもしれない。

 ブラジルのベテラン女性シンガー、マリア・ベターニアの楽曲をNT-07によるTIDAL再生(44.1kHz/16ビット/FLAC)とD-07XのCD再生を比較してみたが、これが興味深いことにどちらで再生しているのかわからないくらい同じ音調に感じられる。ともに声の生々しさをフレームアップするたおやかで柔らかいウォームなサウンドで、とても好ましい。TIDAL再生もCD再生も、このアルバムのほぼ理想的な演奏に思えるのである。

 この音調にふさわしい音楽を……と思ってTIDALで再生したのが、ジャズ・ピアニストのフレッド・ハーシュが弦楽四重奏団と共演した『Breath by Breath』(44.1kHz/16ビット/FLAC)。柔らかく粘るチェロとヴィオラ、切れ込みのよいヴァイオリン、コンサートグランドピアノの厚みのある表現などを楽しみながら、このラックスマン・システムの音のよさにうっとりと聴き惚れたのだった。

 ボニー・レイットの最新作『JUST LIKE THAT…』(96kHz/24ビット/MQA)のサウンドもすばらしかった。再生システムによっては、ヒステリックに響きがちな彼女のシャウトやスライドギターだが、このラックスマン・システムにそんな印象はまったくなく、色艶のよいヴォーカル、伸びやかなギター、実在感に満ちたベースをふっくらと柔らかく滋味豊かに描写し、ぼくを喜ばせた。

 また、フィダータのミュージックサーバーに収めていた11.2MHz/DSDのブリテン指揮のモーツァルトのシンフォニーやメジューエワのベートーヴェンのピアノ・ソナタなども聴いてみたが、DSDならではと思えるシルキーでナチュラルなサウンドが楽しめ、本システムの実力の高さに心を奪われたのだった。

その他のシステム
●有機ELディスプレイ : パナソニックTH-65MZ2500
●4Kレコーダー : パナソニックDMR-ZR1
●ストリーミング端末 : Apple TV 4K
●ミュージックサーバー : フィダータHFAS1-S10
●SACD/CDプレーヤー : ラックスマンD-07X
●プリメインアンプ : ラックスマンL-507Z
●スピーカーシステム : モニターオーディオPL300Ⅱ

NT-07は、HDMI入出力端子を備えているのが一大特徴となる。つまりブルーレイプレーヤーなどと、HDMI入力で接続し、、テレビ/プロジェクターへHDMI映像を出力できる。HDMI出力を、テレビのHDMI ARC(オーディオ・リターン・チャンネル)対応入力端子につなぐことでテレビの音声もNT-07に「戻せる」が、テレビ側の制約から一般的に上限が48kHz/16ビットとなることが多い。NT-07は、HDMI入力を備えることで、ブルーレイ/UHDブルーレイの音楽ソースなどで収録されていることの多い、96kHz/24ビットや192kHz/24ビットの2chリニアPCM音声がそのまま再生できるわけだ。これは音質面で大きなメリットとなる。なお、NT-07は、ネットワークトランスポートであり、信号連動機能(HDMI CEC)はあえて動作させない仕様になっている

 

NT-07は、DAC回路を搭載しない「ネットワークトランスポート」なので、何らかのデジタル入力を装備するコンポーネントと組み合わせることが前提となる機器だ。今回は、ラックスマンの最新世代SACD/CDプレーヤーD-07X(写真右上/¥825,000 税込)のUSB入力とNT-07を連携、HDMIからの信号再生だけでなく、ハイレゾストリーミングおよびサーバーからの音源を含むすべての信号を、D-07Xにてアナログ変換した。D-07Xとはラックスマンの最新世代のプリメインアンプL-507Z(写真右下/¥693,000 税込)にバランス接続。ミュージックサーバー、スピーカー以外のオーディオコンポーネントはすべてラックスマン製品を用いた

 

 

ARCに加えてHDMI入力装備に注目。192/24音源の生々しさも明確に描く

 先述のように本機にはHDMI入力とHDMI ARCの端子がそれぞれ用意されているので、その聴き比べをしてみよう。パナソニックの4KレコーダーDMR-ZR1とのダイレクトHDMI接続と、ZR1をパナソニックの有機ELテレビTH-65MZ2500につなぎ、そこからHDMI ARCで接続した状態との比較である。

 UHDブルーレイの映画『最後の決闘裁判』を再生する。ヒロインと侍女、姑の会話場面を観たが、さほど大きな音質差はない印象。しかし、再生される声の質にじっくり耳を傾けると、ZR1とのHDMIダイレクト接続のほうが響きの肌理が細かく、感情の起伏がいっそう生々しく伝わってくる印象だ。

 HDMI接続の優位性が断然大きかったのが、192kHz/24ビット/リニアPCM音声で収録されているブルーレイ『Ryuichi Sakamoto | Playing the Orchestra 2014』だった。HDMI ARC接続時は、192kHz/24ビットの音声データがテレビ内で48kHz/16ビットにダウンコンバートされてしまうことがその要因と思えるが、ZR1と本機のHDMIダイレクト接続のほうが、オーケストラのスケール感の表現が上回り、立体的なサウンドステージが生々しく実感できた。また、個々の楽器のリアリティが増し、テレビとのHDMI ARC接続時に気になったヴァイオリンのヒリつきも雲散霧消し、聴衆の拍手もより柔らかく熱気に満ちた音に変貌した。

 Apple TV 4Kのドルビーデジタルプラスの高圧縮ロッシー音声で観た『トップガン マーヴェリック』も予想以上にHDMIダイレクト接続時の音がよかった。オープニングのケニー・ロギンスの音楽の当たりが柔らかく、サウンドエフェクトもHDMI接続のほうが耳に優しく感じられる。駐機場で繰り広げられるセリフのやりとりも余韻が豊かで臨場感に満ちていた。

 いずれにしろ、ここで聴けたラックスマン・トーンで統一されたサウンドは説得力に満ちており、尖がったところのないノーブルでナチュラルなその音調は、映画再生でも独自の魅力を発揮することがよくわかった。日本的美学が横溢したサウンドと言っても大げさではないだろう。

 それからARCではないHDMI入力端子をオーディオ機器に持たせるメリットが明らかになったのも興味深い。UHDブルーレイプレーヤー(やレコーダー)をオーディオラックに置いて本機NT-07とダイレクト接続して2chオーディオシステムに組み込めば、プロジェクターを用いた大画面再生にもマッチするはず。音の良いソースプレーヤーにHDMI端子を設けるメリットを強く実感させられた有意義なテストだった。

ラックスマンらしく強力なリニア電源回路の搭載に注目。大型のカスタム電源トランス(写真左側)と、10,000μF×2の大容量電源コンデンサー(前方)で、ハイイナーシャ電源回路を構成している。中央の基板の、黒い四角い基板には、最新世代のプロセッサーモジュールを組み込んでいる

 

リアパネル(写真上)はシンプルな端子構成となっている。USB Type A端子は、前面にストレージ接続用が1系統、背面にストレージ接続用1系統と、USB DAC接続用1系統の、合計3系統備わる。ストレージ接続用端子は、専用のLUXMAN Streamアプリから、内部のデータが把握可能で、ハイレゾ音源も含めて再生できる。今回はフィダータのミュージックサーバーをLAN経由で組み合わせてハイレゾファイルを再生したが、ハイレゾ音源を格納したUSBメモリーやUSB HDDなどをストレージ用USB端子に接続しての簡便かつ高品位な再生も実用性が極めて高い

 

LUXMAN Streamアプリで、NT-07の設定から、ミュージックサーバー内の音源の選曲、各種音楽ストリーミングサービスの操作まで一元管理が可能だ。

 

本記事の掲載は『HiVi 2023年秋号』