HiVi視聴室のラック上段に置かれているのを見て、思わず「懐かしい……」とつぶやいたオーラのVA 40 rebirth。本機は来年創業35周年を迎えるオーラデザインの記念モデルとして企画されたプリメインアンプである。

 オリジナル機のVA 40は、英国のワーシングで1989年に誕生したオーラデザインのデビュー作。創業者はビルマ系英国人のマイケル・トゥー氏だ。同社は創業後まもなくB&Wの傘下に入り、その製品は7年間ブライトンで製造され、1996年に同ブランドはオーラデザイン・ジャパンに移管され、現在に至っている。

 バブル景気全盛期に日本市場にお目見えしたVA 40は、多くのオーディオマニア、音楽ファンをトリコにした。クロームメッキされた鏡面仕上げのシンプルで瀟洒な薄型パネル・フェイス。しかしながらその音は力強く俊敏で、インピーダンス変動が大きく感度が低い、鳴らすのが難しいと思われてきたスピーカーを気持ちよくドライブし、日本国内でも高い評価を得たのである。当時人気のあったアコースティックラボ(スイス)の小型2ウェイ機Boleroとの相性がすこぶる良いということで、本機とのセット売りを行なう販売店なども出てきた。VA 40は当時隆盛を極めていた「重厚長大ピュアオーディオ」に疲れたマニアの目に、清新な存在として光り輝いていたのである。

 当時30歳になったばかりのぼくも、このアンプがすごく欲しかったが、何を血迷ったか、無理してもっと高いマッキントッシュMA6800を買って、ハーベスのHL Compactを鳴らしたりしていた。最初の子どもが生れたばかりだというのに。ぼくの若き日の迷走時代……。

 

Integrated Amplifier
Aura VA 40 rebirth
¥275,000 税込 11月初旬出荷開始

●型式 : 2chステレオプリメインアンプ
●定格出力 : 50W+50W(8Ω)
●接続端子 : アナログ音声入力3系統(RCA)、フォノ入力1系統(MM)
●寸法/質量 : W430×H76×D350mm/7.2kg
●問合せ先 : (株)ユキム TEL.03(5743)6202

 

接続端子は左からフォノ入力(MM)、アナログ音声入力(アンバランス)、スピーカー端子、電源インレットのみと非常にシンプル。スピーカー端子はバナナプラグやYラグ端子などに対応している。オリジナル機との最大の違いは、がっしりとしたフットを備えているところ。本体高は55mmから76mmとなっているが、筐体サイズ自体はほとんど変わらない

 

 

安定動作のための工夫を盛り込みつつ外観と回路はオリジナル機を踏襲

 さてそんな戯言はともかく、VA 40 rebirthである。本機はrebirth(生まれ変わり)の名の如くそのコスメティックデザイン、回路思想ともにオリジナル機を踏襲している。RCAアンバランスの3系統のライン入力と1系統のフォノ入力のみのアナログアンプで、出力段はオリジナル機同様MOS FETのシングル・プッシュプル(FETがプラス/マイナス各1基、L/Rで計4基)。ただし、オリジナル機は日立製だったが、本機は英国のEXICON社のFETが採用されている。なおEXICON社のFETはゴールドムンドやナグラで採用実績があるという。

 オリジナル機と最も異なるのは内部構造。MOS FETを取り付けた大型ヒートシンクを上部に配し、その下にメイン基板を上下逆にしてロッドで支えている。オリジナル機は底板に鉄板を介してメイン基板を載せた構造で、そもそもヒートシンクはなくボディ全体をヒートシンク代わりにして発熱を抑えていた。

 そんなわけで、本機はMOS FETを最適な温度管理下で動作させることができるようになり、熱による特性劣化を引き起こすことなく安定して能力を発揮させることができるようになったという。200VAのトロイダルトランスはカスタムメイド、ボリュウム素子はアルプス製で、中低域に厚みがあり濃密な音がする比較的安価なタイプをあえて選んだという。

 本機は日本国内生産。フロントパネル、シャーシの金属加工は腕の良い職人がいる新潟県燕三条市の工場に委ねたそうだ。ちなみに本機はリモコンは付属していない。リスニングチェアの近いところに本機を置いて、入力切替えや音量はフロントパネルのノブを回して操作することになる。

MOS FET素子をチャンネルあたり2個しか使わないというシンプルな増幅回路構成はオリジナル機を継承。ただし、オリジナル機では発熱の問題が指摘されていたため、本機ではヒートシンクを天板側に向くように配置し、天板からの放熱用孔から効率的に排熱を行なう仕組みを採用している。電源トランスは、カスタムメイドの200VA容量のトロイダルトランスを採用

増幅回路基板。基板に丸穴が4つ開いているが、そこからMOS FET素子が顔をのぞかせている。ヴィシェイの金属被膜抵抗やニチコンMUSEシリーズなどの高品位パーツが多数用いられている

 

ふくよかで潤いのある声に感激。ベースの野太い響きも最高だ

 デノンのSACD/CDプレーヤーDCD-SX1 Limitedと接続してCDやSACDを聴いてみる。スピーカーはモニターオーディオPL300Ⅱだ。薄型の洒落た筐体からひねり出されているとは思えないホットで力感に満ちたサウンド。出音一発でぼくはこのアンプに夢中になった。

 ブラジル人ベテラン女性シンガー、マリア・ベターニアのアルバムをCDで聴いて、そのふくよかで潤いのあるヴォーカルにまず感激。ピアノの音色は太く強く、ステレオイメージは広く、深い。税抜25万円という価格が信じられない本格派のサウンドなのである。

 石川さゆりのSACD『Transcend』から「津軽海峡冬景色」を。さゆり姐さんのヴォーカルの浸透力が凄い。彼女はこのアルバムではあまりこぶしを効かせず軽く歌っているが、このアンプでPL300Ⅱを鳴らすと、ことのほかソウルフルで滋味深く聴こえるのである。ホーン・セクションの真に迫った吹けあがりのよさも出色で、金管楽器の音の粒子がキラキラと光り散る様子が目に見えるかのよう。ウッドベースの野太い響きも最高だ。

 ストリングスを従えた「朝花」のパフォーマンスもすばらしかった。冒頭の太鼓の響きには実在感が伴なっており、弦楽の重層的なハーモニーをほどよく塊として聴かせ、あまり細かく解像しないところも本機の魅力と思う。エネルギーバランスとしては低域から中低域優先で、聴覚として前景化させるのはチェロとコントラバスである。

 

本機の太くて熱いサウンドは、アナログレコード再生にもぴったりだ。今回はテクニクスSL-1500Cと組み合わせて、そのフォノ出力と、ライン出力を比較した

 

アナログ再生、そしてAV再生も極めて親和性が高い

 テクニクスのレコードプレーヤーSL-1500C(カートリッジはSL-1500C付属のMM型オルトフォン2M Red)で本機のフォノ入力の音もチェックしてみた。ぼくの愛聴盤であるハミングバードのセカンド・アルバム(1976年)をSL-1500C内蔵フォノアンプを用いて本機のライン入力に入れた音と比較してみたが、バーナード・パーディのドラミングの抑揚の表現はSL-1500C内蔵フォノが勝り、エネルギーバランスの整いの良さとスケール感で本機のフォノ入力が好ましかった。いずれにしろ本機のフォノ入力の音はヴァーサタイルな魅力があり、安心して使える良さがあると思う。

 最後にパナソニックのUHDブルーレイプレーヤーDP-UB9000(Japan Limited)のアナログ出力をつないで映画や音楽ライヴも観てみたが、中低域が充実した凝縮感のある本機のサウンドキャラクターはAVとの親和性が極めて高いことがわかった。

 

見事なプロポーションと輝くクロームメッキ。オリジナル機同様の、美意識の高さを想起させるエクステリアデザインだ。フロントパネル、シャーシは、金属加工の世界的メッカである新潟県燕三条で行なわれる

 HiVi 2023年秋号の特集記事でHDMI入力を持たせた多機能アンプをレビューしたが、一方で音質をひたすら磨いた、対極的にシンプルなアナログアンプの良さを再発見したVA 40 rebirthとの出会いだった。

 

視聴に使った機器
●有機ELテレビ : レグザ48X9400S
●UHDブルーレイプレーヤー : パナソニックDP-UB9000(Japan Limited)
●CD/SACDプレーヤー : デノンDCD-SX1 Limited
●ADプレーヤー : テクニクスSL-1500C
●スピーカーシステム : モニターオーディオPL300Ⅱ

 

本記事の掲載は『HiVi 2023年秋号』